志摩子を恭也に任せ、乃梨子は一人薔薇の館へ向かっていた。

 

だが、祥子と祐巳が館へ向かったのを思い出す。

 

「はぁ・・・・・・」

 

乃梨子はため息をひとつ吐くと、方向転換をした。

 

さっきまで晴れていたのに、空が少し暗くなってきた。

 

 

 

またここにきてしまった・・・・・・。

 

乃梨子は歩いているうちに、銀杏並木の桜の下に来ていた。

 

志摩子に会ったのもこの桜があったことを思い出して

 

(やっぱり志摩子さんがいないと駄目なんだな)

 

乃梨子から自嘲するかのような笑いが漏れた。

 

今頃志摩子は、恭也と仲良く話しているのだろうか。

 

志摩子の笑顔は乃梨子にとって一番好きな志摩子の顔だ。

 

たとえそれが、自分以外の人に向けられていたとしても・・・・・・

 

そして、あの人が・・・・・・

 

 

 

「乃梨子・・・・・・?」

 

突然志摩子の声が聞こえ、乃梨子ははっとして顔を上げた。

 

「えっ・・・・・・?志摩子さん!?」

 

目の前に志摩子がいるが・・・・・・恭也の姿は無い。

 

志摩子の心配そうな顔を見て、乃梨子はしまった、と思った。

 

どうやら恭也をおいて、自分を追いかけてきてしまったらしい。

 

こんな顔をさせたくはないのに・・・・・・

 

「ねえ乃梨子・・・・・・どうしたの?」

 

志摩子は乃梨子を見据えてたずねる。

 

「何でもないよ」

 

本当に何でも無いように答えるが、志摩子は悲しそうな顔をした。

 

乃梨子はそんな志摩子の顔を見て、心が痛んだ。

 

「私には言えないことなの?」

 

乃梨子はまずい、と思った。そんな顔で問い詰められたら・・・・・・

 

思わず目線をはずした乃梨子に、志摩子は手を伸ばした。

 

志摩子の手が、乃梨子の黒い髪に触れ・・・・・・

 

「だめっ!」

 

乃梨子は、自分に触れた志摩子の手を反射的に払ってしまった。

 

そして、志摩子の顔を見て・・・・・・絶句した。

 

「の・・・・・・りこ・・・・・・」

 

 

ドクンッ

 

 

「あ・・・・・・」

 

「乃梨子!?」

 

乃梨子はたまらずに、志摩子の前から駆け出した。

 

 

 

嫌われた

 

終わりだ

 

駄目・・・・・・

 

もう駄目・・・・・・

 

壊れた・・・・・・

 

壊してしまった・・・・・・

 

全部・・・・・・全部・・・・・・

 

 

 

 

 

雨が降り始めていた。

 

ぽつぽつ当たった雨はすぐに大雨になる。

 

志摩子の声が聞こえ、乃梨子が泣きながら飛び出してきた。

 

「乃梨子!?」

 

恭也は驚いて乃梨子の名前を呼ぶが、乃梨子はそのまま走り去っていった。

 

そして・・・・・・

 

「志摩子・・・・・・」

 

絶望の色が浮かんだ志摩子に恭也が声をかける。

 

「恭也さん・・・・・・」

 

志摩子は恭也の姿を認め、よろよろと歩いてくる。

 

そのまま恭也の胸に顔をうずめようとするが、恭也が顔を上げさせた。

 

「志摩子・・・・・・辛いことを言うようだが、今はやることがあるはずだ」

 

恭也はあえて厳しい言葉を志摩子にかけた。穏やかな口調で・・・・・・。

 

志摩子は、崩れかけていた心をなんとか立て直すと、涙をぬぐって恭也を見た。

 

「そうだ・・・・・・」

 

恭也は志摩子の頭をくしゃっと撫でると、乃梨子の走っていった方向へ目を向けた。

 

 

 

乃梨子は、降り出した雨もかまわず走り続けている。

 

とにかく一歩でもいいから、離れたかった。

 

志摩子の一番見たくない顔を、自分がさせてしまった。

 

そんな後悔と、自責の念で乃梨子はいっぱいだった。

 

 

 

走って走って・・・・・・

 

 

 

そして、目の前にあった扉を開いて中へ入った。

 

扉を閉めて、乃梨子はようやく足を止めた。

 

少し落ち着いて辺りを見回すと、ここが聖堂であることを認識した。

 

乃梨子から思わず笑いが漏れた。

 

自分は懺悔でもしようと言うのか。逆隠れキリシタンなのに・・・・・・。

 

それに懺悔したところで許されるようなことではない

 

「壊れちゃった・・・・・・全部、壊れちゃったよ」

 

だけどそれは自分のせい。

 

恭也を好きになってしまった自分

 

隠そうとして、余計に志摩子を傷つけてしまった自分

 

そして・・・・・・

 

 

「志摩子さん・・・・・・もう笑ってくれないよね」

 

 

反射的に手を払ったときの志摩子の顔が、頭から離れない。

 

今まで見たことが無いくらい、青ざめた顔をしていた。

 

 

『志摩子さんが卒業するまで、側にくっついて離れないから』

 

 

そう誓ったはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 

雨にぬれてだるくなった身体を、聖堂の長い椅子に横たえた。

 

(寒い・・・・・・)

 

だけど、暖かさを求めるつもりは無かった。

 

このまま死んでしまってもいい、そんな気持ちにさえなっている。

 

志摩子さんがいない世界なんて・・・・・・

 

 

乃梨子は目を閉じた。そのまま乃梨子は眠りに落ちた。

 

 

 

 

恭也と志摩子は、乃梨子が走っていった方へ向かった。

 

志摩子に活力を戻したまではよかったが、乃梨子がどこへ向かったかは見当がつかない。

 

恭也は気配を探るが、さすがにこの時間ではまだ人が居るために特定ができない。

 

それでも恭也は、なんとか探ろうとするが・・・・・・

 

「志摩子・・・・・・?」

 

志摩子が、ひとつの方向へ向かって歩き始めた。

 

恭也は黙って志摩子の後に続いた。

 

志摩子が、ひとつの建物の前で足を止めると・・・・・・

 

「ここは・・・・・・聖堂か?」

 

聖堂・・・・・・乃梨子のイメージとはどうもそぐわないのだが・・・・・・

 

だが志摩子は迷わず扉を開けた。

 

 

 

そしてそこには、椅子にもたれて眠るずぶぬれの乃梨子の姿があった。

 




志摩子と乃梨子はどうなってしまうのか!?
美姫 「いや〜ん、早く続き〜」
次回が気になる、気になるぅぅぅ。
美姫 「は・や・く〜」
果たして、どんな風になってしまうのか。
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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