翌日、祥子と令は困惑していた。
今日も花寺のメンバーは来れないので、祥子たちは館の外で軽く動きを交えつつ、
劇の練習をしていた。
だが、今日は今までと打って変わって、演技に精彩が無かった。
志摩子の表情は暗く、祐巳もそうだった。
身が入っていない、と言うのだろうか。
しかし、それ以上に重症なのが瞳子だった。
今まで完璧だったものが、突然崩れたかのように大根役者に成り下がっている。
むしろ大根役者どころではない。役にすらなりきれていない。
乃梨子は、隠し味だった部分が消えて、『普通』に役をこなしていた。
この状況に、祥子や令ではなく、由乃が声を上げた。
「なんなのよ、一体どうしたって言うのよ!?」
何度も中断が入り、イライラが募っていた由乃の堪忍袋が切れた。
「由乃、少し落ち着いて・・・・・・。でも、今回ばかりは由乃が正しいかも」
令も三人を見て、同じ感想を持っていた。
その中で、いつも最初に不満を口にするはずの祥子は
「・・・・・・毎日やって、少し疲れてるのかもしれないわ。今日はここまでにしましょう」
場をそのまま治め、祥子は祐巳に小声で一言つぶやくとそのまま館へ行った。
「あ、あの・・・・・・」
瞳子は、祐巳に声をかけようとするが、祐巳はそちらを見ずに館へ向かった。
志摩子は、乃梨子を見ると・・・・・・
「どうしたのですか、お姉さま」
乃梨子は、志摩子の顔を見て首をかしげる。
志摩子はそんな乃梨子を痛々しそうに見ていると・・・・・・
「もう、みんなどうなっているのよ!」
由乃が声を上げた。
「白も・・・・・・紅も・・・・・・。なんか変だよ!」
何か、歯車が狂っている。
それも、とても悪い方向へ向かって・・・・・・崩壊の予兆すらある。
そんなところへ、今日は少しバスの遅れのために、到着が遅れていた恭也が姿を見せた。
恭也も、場のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか・・・・・・
「・・・・・・何かあったのか?」
全体を少し離れたところで見ていた令と、顔を見合わせた。
月咲は、いきり立った由乃に引っ張られて銀杏並木の一角にいた。
「ごめんね、見苦しいところを見せちゃって・・・・・・」
歩いているうちに、少し落ち着いたのか由乃は頭を下げた。
「いいえ。謝ることではありません・・・・・・」
月咲は、由乃に対しそう答える。
「人に対して、親身になれている証でもありますから」
その言葉に、由乃は少し恥ずかしそうな顔をしながら
「ん〜、私の場合、ああいう状況がむず痒くて仕方ないだけなんだけれどね」
あはは、と笑いながら答えた。
「お互い、言いたいことあるならはっきり言い合えばいいのに・・・・・・。私は黙っているってことが我慢できないから、余計にそう思うのよ」
そう言って、月咲の顔を見て
「月咲ちゃんも、何かいいこと・・・・・・なのかな。なんかあった?」
「そう見えましたか?」
月咲は、曖昧に微笑んだ。
「そうね・・・・・・。なんだかそわそわしている感じがする」
「そわそわ、・・・・・・そうかも知れないですね・・・・・・って、何をされているのですか?」
月咲は目を閉じて言うと、由乃のおかしな気配に気が付きすぐに目を開けた。
すると、由乃が自分のロザリオを月咲にかけようとしているところだった。
「いや、ね。そろそろいいかなー、なんて」
「はあ・・・・・・」
「ね、月咲ちゃんも私の妹になりたくなったでしょ?」
「妹・・・・・・ですか」
月咲は、少し遠い目をしていると、再びチャラっ・・・・・・と言う音がした。
すると、自分の首にロザリオがかけられていたのだ。
「あの・・・・・・?由乃さま、本気ですか?」
「なに?月咲ちゃんは、私じゃ都合悪いの?」
「・・・・・・都合が悪いわけではないのですが」
「じゃ、いいじゃない。あなたは私の妹。これからはお姉さま、と呼びなさい」
お姉さま・・・・・・か。
「それに・・・・・・月咲、なんだかいつも寂しそうだったし」
寂しそう・・・・・・。確かにそうだったかも知れない。
だって・・・・・・だって、私は・・・・・・
「・・・・・・私は引越しが多いですから、転校するかもしれないですよ?」
それでもいいのですか?と、月咲は聞いた。
「転校してもしなくても、あなたは私の妹よ?」
「でも・・・・・・そうしたら、黄薔薇さまの後継者が・・・・・・」
「んー、それはそれで何とかなるんじゃないの?」
黄薔薇さまの代わりなんていくらでもいるわよ、と由乃は言った。
「別に、月咲が黄薔薇さまにならなくてもいいし、転校することになったとしても・・・・・・う〜ん、転校するとさすがに寂しいわね」
由乃は、自分の言葉に自分で考え込んでしまった。
だが、すぐに顔を上げて月咲を見ると
「とにかく・・・・・・そんな事情はどうでもいいから。あなたは私の妹。私はあなたのお姉さま。ね?」
言いたいことだけ言って、由乃は立ち上がった。
「う〜ん、なんかすっきりした。さ、館へ帰りましょう」
由乃が手を差し出した。
『帰る』という言葉が、なんだか少しうれしくて・・・・・・
「はい・・・・・・。お姉さま」
月咲は自分で気が付かないうちに笑みを浮かべて、由乃の手を取った。
白と紅が何やら抱え込んでいる中…。
美姫 「黄はしっかりと妹をゲット!」
これが周りにどんな影響をもたらすのか。
美姫 「次回以降も、益々楽しみね」
うんうん。非常に楽しみだよ。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待ってます〜。