ホテルの通路を歩いている。

 

ああ、またこの夢か・・・・・・。

 

美沙斗は、夢の中でそう思った。

 

警防隊に入ってからは、しばらく見なかったんだが。

 

そんなことを美沙斗は考えるのだが、夢の中の美沙斗はそのまま足を進める。

 

 

 

ある一室の前で足を止め、鍵を扉ごと斬って中に踏み込む。

 

中にいる一組の夫婦に向かって、美沙斗は言い放つ。

 

『警告はした。悪く思うな』

 

そのまま、悲鳴をあげた女を一突きして命を刈り取った。

 

男は、それをやりきれない顔で見たのち

 

『君は・・・・・・何のためにこんなことを?』

 

恐怖はあるだろうが、それでも美沙斗を見据えて訊いた。

 

『殺された一族の・・・・・・復讐のため・・・・・・』

 

答える義務など無かったが、彼の最期の質問に答えた。

 

静かに、刀を構えて狙いを定め・・・・・・

 

 

 

 

『ーーーーーーーー!!』

 

 

 

 

 

 

バンッ!

 

美沙斗は、はじかれたように飛び起きた。

 

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・!」

 

背中はじっとりと、気持ち悪いくらい汗でぬれていた。

 

『どうしたの、おかあさん?』

 

部屋の外から、美由希の声がした。

 

きっと、飛び起きた時の音で不審に思ったのだろう。

 

美沙斗は一息つくと、「大丈夫だよ」と言葉を返した。

 

『そう・・・・・・?うん、わかったよ』

 

美由希の足音が遠ざかって行くのを聞きながら、着替えとタオルを用意した。

 

 

 

 

 

6時間目は、担当の先生が出張中とのことで自習となっていた。

 

月咲は、課題などが出ていないことを確認すると、席を立った。

 

そのまま教室を出て、昇降口へ向かい、靴を履いて外へ出る。

 

外へ出ると、秋風とともに木の葉が舞う。

 

木の葉が目に入らぬよう、目を細めてそのまま中庭へ歩いていった。

 

少し広めの芝生を見つけて、月咲は中に入ると横になった。

 

校庭の方から体育の授業だろうか、笛の音が聞こえた。

 

そんな喧騒を耳にしながら、月咲は目を閉じる。

 

(気持ちいい・・・・・・)

 

秋の穏やかな気候。そして、心地よい風。

 

このまま、風が自分を運び去ってくれるような感覚。

 

月咲は、その中に自分の意識を落としていった・・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・ちゃん

 

・・・・いちゃん

 

おにいちゃん

 

 

 

『お、どうした?・・・・・・』

 

 

 

『あのね、聞いて聞いて。今日ね、学校でね・・・・・・』

 

 

 

『そっか、よかったな、・・・・さ』

 

 

 

『おにいちゃん、・・かさのこと、好き?』

 

 

 

『ああ、大好きだぞ』

 

 

 

『ほんとうに、ほんとう?』

 

 

 

『本当に本当だぞ。お兄ちゃんはつかさが、誰よりも好きだ』

 

 

 

『わ〜い、おにいちゃん、大好き!』

 

 

 

『だから月咲、笑っててくれ・・・・・・いつまでも・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

夢・・・・・・わたしの小さいころの夢・・・・・・。

 

お父さんとお母さんは、仕事が忙しくていつもいなかったけれど・・・・・・

 

いつも、大好きなお兄ちゃんが一緒にいてくれた・・・・・・

 

私よりも5歳離れて、すごくかっこよくて優しいお兄ちゃん・・・・・・

 

そんなお兄ちゃんが、私は・・・・・・

 

 

 

 

 

「う、ん・・・・・・」

 

風が少し冷たくなって、月咲の意識が急速に浮上した。

 

(あれ・・・・・・寝ちゃったのかな・・・・・・)

 

目を開けると、青い空が広がっていた。

 

そこでようやく、自分が中庭で寝ていたことに気が付いて

 

「あっ・・・・・・!」

 

がばっと身体を起こして、左腕につけた時計を確認しようとすると、何か布のようなものが腕に絡みつく。

 

(あれ・・・・・・?)

 

よく見ると、その布はどうやら服のようで・・・・・・

 

「ん、目が覚めたみたいだな」

 

不意に声をかけられて、月咲はそっちの方を向くと

 

「えっ!?」

 

(おにいちゃん・・・・・・!?)

 

そこには、さっき夢に出てきた自分の兄が・・・・・・

 

「・・・・・・どうした?」

 

ではなく、えっとこの人は・・・・・・

 

「高町・・・・・・恭也さま?」

 

「ああ、俺は恭也だが・・・・・・」

 

そう、山百合会のお手伝いとして、外から来てくれている高町恭也さまだ。

 

少し、頭の中が整理されてくると、恭也の格好に違和感があった。

 

何故彼はTシャツだけなのだろうか・・・・・・

 

でも待てよ、もしかしてさっき自分にかかっていた服は・・・・・・

 

月咲は、自分にかけられた服と恭也の姿を見比べると・・・・・・

 

「ご、ごめんなさい。寒くなかったですか!?」

 

慌てて、恭也の上着についた芝を払い、恭也に返した。

 

「いや。寒さには強いからな」

 

苦笑して恭也は、受け取った服を羽織った。

 

こうしてみると、確かに高町恭也であった。

 

でも、それなら何故彼を、一瞬とはいえ兄と勘違いしたのだろうか。

 

顔は兄と似ても似つかないどころか、どちらかというと・・・・・・

 

「月咲さん、だっけか。どうかしたのか?」

 

恭也は、月咲の様子がおかしいことを心配して、月咲の顔をのぞき込む。

 

 

 

(あ・・・・・・)

 

 

 

月咲は思わず、恭也のその目に吸い込まれそうになった。

 

 

 

 

 

 

『月咲、どうした?』

 

 

 

『つかさ?』

 

 

 

つ・・・・・・か・・・・・・さ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「月咲さん、大丈夫か・・・・・・?具合悪いのか!?」

 

恭也は、突然涙を流し始めた月咲を見てうろたえた。

 

「ちが・・・・・・違うの・・・・・・。大丈夫・・・・・・だから」

 

月咲は後ろを向いて、自分の袖で涙をぬぐった。

 

「きょうやさ〜ん!?あなた、私の月咲ちゃんを泣かすなんて・・・・・・いい度胸してらっしゃいますね・・・・・・!」

 

恐ろしくドスの聞いた声に、思わず恭也が後ろを振り返ると・・・・・・

 

そこには、烈火のごとく怒りをにじませている島津由乃がいた。

 

「い、いや、由乃さん。これは違うんだ。俺はけっして・・・・・・」

 

「言い訳は無用です。恭也さん、天罰ってご存知ですか?」

 

そして・・・・・・思わず恭也ですら身のすくみ上がるような・・・・・・圧倒的恐怖感。

 

とても静かに。そして、どこまでも美しい微笑みを称えた藤堂志摩子。

 

「お、落ち着け。由乃さんはわかるが、何故志摩子まで怒ってるんだ!?」

 

恭也のその言葉に・・・・・・志摩子は・・・・・・

 

 

 

教訓:志摩子を怒らせてはいけない

 

怒り狂い、炎猛っていたはずの由乃ですら、思わず凍りつきそうになったとか。

 

その直後、月咲の弁解によって誤解は解け、心から安堵する恭也だった。

 




月咲の兄とは…。
美姫 「意外と怖いという志摩子の新しい一面も…」
次回も益々楽しみね〜。
美姫 「本当に。次回はどんな事がまっているのかしらね〜」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ