秋に入り、美沙斗は休暇をもらっていた。
かなり思いつめていた美沙斗に、啓吾が
『しばらく、日本でゆっくりしてくるといい』
そう言って、半ば強引に美沙斗を飛行機に乗せたのだ。
警防隊で最大の懸案であった『龍』の消滅により、警防隊にも余裕が生まれていた。
しかし、美沙斗には今、休暇を楽しむ余裕は無かった。
『龍』を消し去った人物のことが、頭から離れないのだ。
先日のこと・・・・・・
唯一生き残っていた構成員の男が目を覚まし、情報を得ようとした。
だが、頭を抱えてガタガタと震え、とても話せる状況には無かった。
しかし・・・・・・美沙斗が病室を訪れたとき、男の様子が一変した。
男は、美沙斗の姿を確認すると一瞬呆けて・・・・・・
『あ、あ、あ・・・・・・あんた・・・・・・』
顔に戦慄が走り、もはや恐怖を通り越していた。
『何があったのか話せ』
美沙斗は用件だけを簡潔に述べ、男を見る。
だが次に男が発した言葉は、誰もが驚きを禁じえない内容だった。
『・・・・・・一人だ』
『は・・・・・・?』
啓吾は意味がわからず生返事を返した。
『だから・・・・・・一人だったんだ・・・・・・あいつは・・・・・・』
『一人って・・・・・・あれを一人がやったって言うのか?』
『そうだよ!声を上げる暇すらなかった!隣のヤツが声を上げた途端、そいつと俺の反対側にいたヤツがバラバラになってたんだ!』
『そのあいつ、って言うのはお前、見たのか?』
『いや。顔までははっきり見えなかったが・・・・・・両手に刀みたいな武器を持っていて・・・・・・』
それから、美沙斗の方を見て・・・・・・
『それだ・・・・・・あんたみたいなやつだ!そんな武器を持ってやがった!』
(どういうことだ・・・・・・!?)
退出した美沙斗は、頭の中で男の言葉が回っていた。
美沙斗に焦燥が募っているのを啓吾は感じ取り、肩に手を置く。
それから、啓吾は部下に指示をした。
『すまんが、テレパスが得意な人間を呼んでくれ・・・・・・。あまりやりたくは無いが、仕方ないだろう』
その指示を受けて、部下が駆けていった。
そしてそれと入れ替わりに、別の部下がやってきて
『隊長、頼まれていた件を調べて参りました』
分厚い、封筒に入った資料を差し出した。
啓吾はそれを受け取り、美沙斗を連れて諜報部の部署に行く。
ドアを開けて、弓華を見つけると
『弓華、どうだ?』
パソコンに向き合っている弓華に声をかけた。
『隊長、どうやら隊長の考えていた通りですネ』
『そうか・・・・・・』
啓吾と弓華は、互いに顔を見合わせている。
美沙斗が、二人に説明を求めるような顔をすると、
『ああ、すまない美沙斗。まずはこれを見てくれないか』
啓吾は、先ほど部下から受け取った封筒を美沙斗に渡す。
美沙斗は封を開けると、中からなにやらリストと思われるものが現れた。
そのリストにある名前を確認していくと・・・・・・
『これは・・・・・・テロや犯罪組織のリスト・・・・・・?』
『そうだ。うちらが殲滅したことになっているグループのリストだ』
その言葉に美沙斗は顔を上げた。
資料の内容はともかく、『したことになっている』という言葉が気になったのだ。
『美沙斗・・・・・・そのリストを見て、おかしいと思ったことはないか?』
啓吾の言葉に、美沙斗は再びリストに視線を落とした。
リストには、組織の名前、構成員の人数、組織の戦闘レベル、主な犯罪歴、そして壊滅した日付などが乗っていた。
小規模の犯罪組織から、大規模なマフィアの類まで・・・・・・。
そして、その全てが『龍』に関わっていた組織であった。
その上、何よりおかしいのが日付である。
組織の数で言えば15。それがたったの1ヶ月でつぶれていたのだ。
中には、美沙斗クラスの人間が出なければ厳しいと思われる組織すらあるのだ。
もちろん、『龍』もそのうちの一つだ。
『で、今弓華に調べてもらった情報から・・・・・・全て同一人物だと思われることが確認できた』
弓華の話によると・・・・・・
壊滅した組織には、何人か生き残りが存在していて、それが政府なりその国の警察機構なりに捕らえられていた。
そこから情報をもらって整理したところ、やはり犯人像が一致したとのことだった。
だが、謎な部分も多い。
まず、武器が美沙斗と同じである、と言う点である。
少なくとも、御神流でないことはわかる。
生き残っているのは美沙斗と恭也、そして美由希の三人だけだ。
だが、それで無いのなら、一体誰が・・・・・・。
そして、生き残りが存在している点もおかしい。
あの惨状から言って、『龍』に対し、尋常ではない怒りを持っていたと考えられる。
それが何故、故意に生かしているのだろうか。
何か釈然としない。いずれにしても、判らないことが多すぎる。
だが、それとは逆に啓吾は
『だが状況から鑑みるに、『龍』にかかわりのあるところだけが狙われたわけだから、俺達にとっては願ったり適ったりだな』
それを受けた弓華も
『そうですネ、犯罪組織だけを潰しテますかラ、敵でハ無いと思われまス』
二人に弛緩した空気が流ていた。
だが、美沙斗だけはその言葉に緊張が走った。
なぜなら、だまされていたとはいえ・・・・・・
確かに美沙斗は、1年前まで『龍』の手先となっていたからだ・・・・・・。
日本へ向かう飛行機の中で考えていた。
(私を・・・・・・断罪する者がついに現れたのかもしれないな)
果たして、そういう事態になったとき、自分はどうすればいいのだろうか。
答えの出ないまま、飛行機は自分の帰る場所となった海鳴へ近づいていくのだった。
果たして、その謎の人物は美沙斗さえもその手に…。
美姫 「もしくは、美沙斗こそがその人物の目的なのかも…」
復讐?
美姫 「それもまた、一つの可能性…」
果たして、その真実は。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。