館では、恭也と祥子、祐巳、志摩子、乃梨子がまだ残っていた。

 

「そういえば、お聞きしたいことがあったんですけれど・・・・・・」

 

乃梨子が恭也に向かって伺いを立てた。

 

「『黒薔薇さま』って、言ってましたけど・・・・・・それって?」

 

恭也の顔に動揺が生まれ、周りの3人はそれを面白そうな顔で見た。

 

「あー、それは・・・・・・その、なんだ・・・・・・」

 

話しづらそうな恭也を見て、志摩子が

 

「恭也さんはね、2月に交換留学でリリアンに在学されてたの。そのときに、黒薔薇さまと呼ばれるようになったのよ」

 

他に、『青薔薇さま』と呼ばれた人もいたのだけれど、と付け加えた。

 

乃梨子はふ〜ん、とうなずいて・・・・・・

 

「・・・・・・って、ちょっと待ってください!なぜ女子校に交換留学で!?」

 

冷静に考えたらすごく変な話である。乃梨子は、すかさず突っ込んだ。

 

「それがな・・・・・・リリアンの学園長は、うちの校長と友人同士でな。さらに悪いことに、その共通の友人が、俺の知り合いなんだ」

 

ため息交じりに恭也がそう言った。

 

乃梨子には、なんとなく話が見えてきた。

 

「それで、3人が談合した結果・・・・・・俺と赤星、そして藤代が交換留学でここに来たんだ」

 

かなりの脚色が混じってはいるが、全部が全部嘘ではない。

 

乃梨子はその話を聞いて

 

「大変だったんですね・・・・・・」

 

と、心底哀れむ表情で恭也を見た。

 

「まあ、でもそのおかげでこうしてみんなと仲良くなれたんだし・・・・・・悪いことばかりでは無いな」

 

笑ってそう言った恭也に、志摩子と祐巳の顔が赤くなった。

 

乃梨子は、また胸に変なもやもやが浮かんできたので、話を打ち切った。

 

だが、乃梨子はふと思い出したことがあった。

 

「あの、もしかして・・・・・・バレンタインでカードか何かを書きました・・・・・・?」

 

乃梨子の質問に、えっ?と全員の視線が乃梨子に集まる。

 

「あ、ああ。確かにカードを書いたが・・・・・・」

 

「『St.Valentine 恭也』、そして裏に『よろしく』・・・・・・?」

 

みんなの顔に、驚愕の表情が浮かんだ。

 

「乃梨子、なんでそれを!?」

 

志摩子は、乃梨子に思わず問い詰めた。

 

「それがですね・・・・・・」

 

乃梨子はカバンをごそごそとあさって・・・・・・

 

 

『あっ!』

 

 

中から、志摩子や祐巳、そして先代白薔薇さまの聖までもが探して、結局見つけられなかった黒いカードが現れた。

 

「の、乃梨子ちゃん、どこでカードを見つけたの!?」

 

祐巳が身を乗り出して聞くと

 

「受験の日に、銀杏並木を歩いていたら、空から落ちてきたんです」

 

よろしく、と書かれていたのを見たとき、思わず脱力しましたよ。

 

乾いた笑いをする乃梨子を、志摩子と祐巳は唖然とした顔で見ていた。

 

「そう、乃梨子ちゃんが見つけたのね。それでしたら恭也さん、乃梨子ちゃんとよろしくしないとなりませんわね」

 

くすくす笑って恭也を見る。

 

その言葉に、志摩子と祐巳は何か言いたそうだったのだが・・・・・・

 

「う〜ん、逆に助けてもらっているので・・・・・・むしろお礼がしたいですね」

 

「あら、乃梨子ちゃん・・・・・・それってデートの誘い?」

 

祥子は面白そうに乃梨子を突っつく。

 

「祥子さん・・・・・・蓉子さんたちに似てきたな」

 

「もちろん。妹は姉に似るんですよ」

 

臆面も無くそう言った祥子。恭也はため息を吐くが

 

「い、いえ。別にデートとかそんなわけじゃ・・・・・・」

 

乃梨子はそっぽを向いて言った。

 

志摩子はそれを見てくすくす笑うと、祥子と同じようにからかって

 

「姉も、恋には勝てないわね」

 

「志摩子さん!!」

 

うー、と乃梨子が机に伏してうなった。

 

「何を言いたいのかよく判らないが・・・・・・しばらくこっちにいることになりそうだし、また遊びに行くか」

 

乃梨子だけでなく、全員を見回してそう言った恭也に、乃梨子はえっ?という顔をするが

 

 

((この人はそういう人なのよ))

 

 

全員がそんな顔を乃梨子に向けるのを見て、乃梨子はさらに脱力したのだった。

 




恭也のカードを拾った乃梨子。
美姫 「これは偶然なのか、必然なのか」
新たな二人の関係も楽しみにしつつ…。
美姫 「祐巳や志摩子の反応も楽しみよね♪」
ああ〜、次回が待ち遠しい。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
ではでは。
美姫 「ごきげんよう」



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