伝説と謳われたボディーガードがいた。
ただ一刀の剣で、その背中に全てを護っていった男・・・・・・。
これは、彼がまだ少年の頃のお話。
早くに父を亡くし、妹と共に二人で剣の修行をしながら生活を送っていた。
それに忍び寄る、いくつもの魔の手・・・・・・
時には師として・・・・・・
時には兄として・・・・・・
時には剣士として・・・・・・
そして、時には男として・・・・・・彼は成長していく。
家族を、友人を・・・・・・
そして、大事な人を護る少年の姿を描いた、笑いと涙のストーリー
『護りたいもの、ありますか?』
恭也は、台本に読みふけっていた。
彼は見かけによらず、とても涙腺が弱い。
以前にも忍と映画を見たときに、一人涙を流していたのだ。
この話は、そういう意味ではものすごく感動する話だった。
だが、恭也は今回は涙を流していなかった。
それはそうだろう。これは似たようなものを一度、見たことがあるからだ。
そう、現実の中で・・・・・・
「あの・・・・・・一つ聞いていいか?」
恭也は、ニコニコとこちらを見ている祥子と令に言った。
「ええ、どうぞ」
一つと言わずいくらでも、と言う祥子に、恭也はまず質問した。
「聞くまでもないのだが、これは何を元に作ったんだ?」
令は、あらかじめ用意していた一冊のコミックを取り出した。
恭也は、内容を見ずとも作者を見て全てを理解した。
『草薙まゆこ』
本の作者は予想通り、さざなみ寮の悪魔であった。
配役も既に決定事項のように配置されていた。
恭也は当然・・・・・・自分の分身の役になっていた。
抗ったところで、きっとこの決定が覆ることはないだろう。
恭也は学習能力がとても高いのだ。
伊達に、一ヶ月間リリアンに在籍していた訳ではない。
『郷に入っては郷に従え』
先人にきっと、こんな体験をした不幸な人物がいたに違いない。
恭也は諦めて、自分のセリフに目を通していた。
大体のストーリーを把握して、今日は解散となった。
花寺のメンバーは見送りをやんわりと辞退し、そのまま退出していった。
残されたのは、山百合メンバーとそのお手伝い、そして恭也だった。
花寺のメンバーがいなくなったところで、令は「さて・・・・・・」と、由乃を見る。
「とりあえず、どういういきさつでそうなったか説明もらえるかな?」
「べ、別にいきさつなんてどうでもいいじゃない・・・・・・」
由乃は、いきさつがいきさつなだけに、うまく返せない。
なにより令の目が、嘘をついたところで見透かしてしまうようだった。
しかし、思わぬところから助け舟が現れた。
「実は、転校初日に学校で迷っていたところを由乃さまに助けられまして・・・・・・。それがきっかけで親しくさせていただいてます」
「つ、月咲ちゃん、それは言わないでって言ったじゃない」
とりあえず、その助け舟に乗ることにした。
「照れること無いですわ。それに、今まであまり人前で会わなかったのは私のためですよね」
そう言って
「他の人に見られると、転校生である私が黄薔薇のつぼみと親しくしていると余計に注目を集めます。お気遣い、感謝していますわ」
臆面も無く、嘘八百を並べた月咲に由乃は内心驚くが、令の方へ向き直ると
「そういうことなの。だから令ちゃんには話せなかったんだ」
説明を聞いて、令はおろか他のメンバーも納得した。
「わかた・・・・・・。ごめんね由乃。さっきは疑って」
令は由乃に『妹候補なんていないでしょ!』と言ったことを素直にわびた。
「あ、いいの。黙ってたのは私も悪かったし。だから令ちゃん、謝らなくていいよ」
いつになく素直な由乃に令は少し驚くが、別に素直に越したことは無い。
だが由乃から見たら、自分は令をだましているわけなので、謝られると心苦しい。
こちらの話題も一段落ついたことで、本日は解散となった。
「ごめんね、月咲ちゃん。助かったわ」
由乃は、月咲を連れ出してお礼を言った。
「いいえ。お礼を言われるようなことはしてません」
月咲は無表情で答える。
「う〜ん、月咲ちゃんさ、せっかくそんなに綺麗な顔をしてるんだから・・・・・・笑ったら可愛いんじゃない?」
「申し訳ないですが・・・・・・笑うことは苦手なんです」
由乃はそう言った月咲の顔が、寂しそうなことに気が付いた。
「ねえ、月咲ちゃん・・・・・・。毎日じゃなくていいから、時々館に遊びに来て」
「え・・・・・・?」
「ほ、ほら。私もああ言っちゃった手前、1回限り、っていうのもまずいし」
だが月咲は、自分を見る由乃から目を逸らし
「ですが・・・・・・」
そう言って、煮え切らないような返事をする月咲に
「あー、もう!月咲ちゃん、暇だったら館に来なさい!いいわね!?」
由乃は首を縦に振らせると、満足したように笑顔になった。
「由乃さまは強引です・・・・・・」
月咲が少し拗ねたような顔をすると
「お、新しい月咲ちゃん発見」
余計に楽しそうにする由乃に、月咲はため息を吐いた。
同時に、そんな由乃に好感を持っている自分がいたのだった。
もっとも、月咲自身はまだ、それに気が付いていないのだが・・・・・・。
これから由乃と月咲は、どんな関係に変わって行くのか。
美姫 「ほんの些細な切っ掛けで繋がった糸」
今はまだ細く弱いけれど、それがどうなるのかは二人次第…。
美姫 「果たして、何者にも切れない太い糸に変わるのか」
それとも、このまま終るのか。
美姫 「二人の関係も楽しみ〜」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」