乃梨子は館へ戻ると、由乃がいなくなっていて、代わりに瞳子と可南子が来ていた。
「お帰り。志摩子は大丈夫だった?」
令が楽しそうな顔をして乃梨子に聞いた。
「あんまり大丈夫ではないです。お姉さまが溶けてますし・・・・・・」
乃梨子が面白く無さそうな顔を浮かべる。
その言葉に、祐巳は首をかしげた。
「え、乃梨子ちゃん・・・・・・外暑かったの?」
「ええ。ある意味暑いです」
祐巳の言葉になぞかけのように答えると、乃梨子は瞳子の飲み物の注文に
「コーヒーお願い。ブラックで」
と答えると、椅子に腰掛けた。
「そう、それで乃梨子ちゃんはごきげん斜めなのね」
祥子が楽しそうにそう言った。
そんな祥子に、乃梨子は少し恨みがましく思ったが
階段を昇るたくさんの足音が聞こえたため、ドアの方に目を向けた。
「ただいま戻りました。みなさん、お入りください」
志摩子が花寺のメンバーと恭也を中に招き入れた。
祐巳は、恭也を見て固まっている。
「どうした、祐巳」
恭也は、その祐巳の反応が楽しくて笑いながら祐巳に顔を近づけた。
「え、あ、う・・・・・・きょ、恭也さん、ど、どどど」
祐巳が真っ赤になってうろたえた。
それに、一同は笑いをこらえて見ていたのだが・・・・・・
「祐巳さまに近づかないでください!」
可南子は、祐巳と恭也の間に割って入り、恭也を睨みつけた。
「か、可南子ちゃん。どうしたの!?」
それまで真っ赤になっていた祐巳は、可南子の反応に驚いて我に返った。
「いや、俺がからかい過ぎたみたいだ。すまん」
恭也が代わりに答えて、謝罪を口にする。
恭也の態度にきつい視線は外さないものの、可南子も席についた。
祐巳は、可南子の様子が気がかりではあるが、祥子の咳払いで前を向いた。
「皆さま、リリアン女学園までお越しいただきありがとうございます。本日は、かねてからの懸案でありました、学園祭の演目について発表したいと思います」
恭也はそれを聞いて、首をかしげた。
「あ、俺がいるとまずくないか?内容が部外者に漏れるのは避けた方がいい」
そう言って周りを見回したのだが、一様に何か含みのある顔をしていた。
「そう思っているのは恭也さんだけですわ」
祥子が一同を代表して答えた。
それでもまだ判らない、という顔をするのだが、そこに令が・・・・・・
「恭也さん、何故この日を選んで呼んだか、考えればわかることですよ?」
とっても楽しそうな・・・・・・そして、恭也には嫌な汗が流れる。
「まあ、そろそろ由乃も帰ってくるでしょうから少しお待ちになられてください」
令がちょうどそう言ったころ、階段をギシギシ昇る音がした。
噂をすれば・・・・・・と思ったのだが、音が二人分聞こえたような・・・・・・?
「ただいま戻りました。遅れて申し訳ございません」
優雅にお辞儀をした由乃。やはり勘違いだったようで、由乃一人だ。
「それじゃ、演目を発表しましょうか・・・・・・」
それに由乃が、「少しお待ちになってください、お姉さま」と一度話を止めた。
「申し訳ないのですが、外にお客を待たせてあるのです。その人を入れてからでもよろしいですか?」
祥子と令にお伺いを立てて、二人は頷いた。
すると、由乃はドアを開けて一人の少女を招きいれた。
「ご紹介しますわ、私のアシスタントとして仕事を手伝ってくれる・・・・・・」
「三上月咲です。みなさま、よろしくお願いいたします」
凛とした声でそう言うと・・・・・・
「えっ・・・・・・ちょ、ちょっと・・・・・・」
令は、いきなりの急展開に思考がついて来れない。
「そういうことですから・・・・・・。ところで、演目の発表はいいのですか?」
由乃が話を促すと、祥子が気を取り直して
「そうね・・・・・・。それでは、今回の演目を発表いたします・・・・・・」
そう言って、台本を全員に配った。
そのとき、月咲は恭也をじっと見ていた。
「どうしたの、月咲ちゃん・・・・・・恭也さんに惚れた?」
少しにやっとしながら、由乃は月咲にいった。
だが、月咲は首を振ると
「いえ。知っている人に少し似ていただけです」
そう、似ていただけ。雰囲気も違うし・・・・・・断じてあの人ではない。
月咲は、そう結論付けて自分の台本に目を移した。
意味深な月咲の言葉…。
美姫 「それは、何を意味するものなのか…」
いやいや、謎が謎を呼ぶ展開。
美姫 「次回も非常に楽しみね♪」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」