「なによ!令ちゃんの馬鹿!」

 

館を出た由乃は、一人でもはや口癖となった言葉を言った。

 

 

 

志摩子と乃梨子が迎えに出ている間、祥子と令の話は続いていた。

 

『それで、真面目な話・・・・・・あなたはどちらを妹にするの?』

 

祥子は、さっきのように挑発するような口調ではなく、真剣な目で祐巳に聞いた。

 

『え?どちらって・・・・・・どちらさまですか?』

 

真面目な顔をしてそう言い返す祐巳に、祥子は開いた口がふさがらない。

 

『瞳子ちゃんと可南子ちゃんのことに決まっているでしょう』

 

ため息をついてそう言った。

 

『なんで、その二人が出てくるのでしょうか・・・・・・』

 

祐巳の顔からしてどうやら本気のようだ、と祥子は理解した。

 

頭を抱えている祥子に代わって、令が説明をした。

 

『あのね祐巳ちゃん。祥子から見たら、二人を連れてくるってことは祐巳ちゃんの妹候補として連れてきてる、って思うよ?』

 

それを聞いて祐巳はうーん、と首を傾げて

 

『でも、二人とも・・・・・・私の妹になりたくないと思いますよ・・・・・・?』

 

その発言に今度は三人同時に固まった。

 

『あ、あのね・・・・・・祐巳さん、どこをどうしたらそう思えるの?』

 

由乃がその言葉に突っ込みを入れた。

 

『まあいいわ・・・・・・。でもね、あの子たちはきっと祐巳のこと好きよ?』

 

祥子はそう言って紅茶をすすった。

 

そうなのかなぁ、と祐巳は考え込んだ。

 

『由乃も・・・・・・ちゃんと考えてよね』

 

令の言葉に由乃は

 

『ちゃんと考えてるわよ』

 

と反発した。もちろん、それで納得する令ではない。

 

『本当に考えてるの?由乃は祐巳ちゃんみたいに候補生すらいないじゃない』

 

『うるさーい!私は私で考えてるの!令ちゃんには関係ないじゃないの!』

 

『私は由乃を心配して・・・・・・』

 

『それがおせっかいだって言うの!かってに人の心配しないでよ!』

 

二人が・・・・・・というより、由乃がどんどんヒートアップしていく。

 

祐巳はオロオロして二人を見るが、祥子は止めようとする気配すらない。

 

『心配だってするわよ。そもそも、妹を作ろうとする気配すらないじゃない』

 

令は、今までの由乃を見てそう言った。

 

『それに、ここでは妹すら作れない半人前が、姉に意見する権利は無いわよ、由乃ちゃん』

 

祥子が横から、トドメの一言を口にした。

 

『判りました、妹を連れてくればいいんでしょ、連れてくれば!』

 

由乃は、バンッとテーブルと叩いて立ち上がると、館の扉に手をかけた。

 

『由乃さん!』

 

祐巳は、ちょうど一年前、全く同じ光景の当事者となったことを思い出して、由乃を止めようとするが・・・・・・

 

由乃はドアを開けて、そのまま出て行ってしまった。

 

祐巳は、二人を見ると・・・・・・

 

『妹の一つも作れない半人前が・・・・・・』の言葉を思い出し、慌てて口をつぐんだ。

 

 

 

 

さて、勢い良く館から出てきたのはいいが、由乃はいきなり途方に暮れた。

 

一瞬、ドアを開けたらそこに女の子が・・・・・・なんてことも考えたが、そんなことはやはりあるはずが無い。

 

だけど、啖呵を切って出てきて今更『ごめんなさい』は嫌だった。

 

かといって、妹候補なんているはずも無い。

 

何より、下級生はそもそも、乃梨子と瞳子、可南子以外知らないのだ。

 

令の言葉はあまりに図星で、本来なら反論すらも適わない。

 

だが、それを認めるのだけは嫌で、祥子の挑発にも乗ってしまい、ここに至る。

 

(もう・・・・・・何よ、二人して人のこと馬鹿にしてっ!)

 

由乃は、足元にあった石を蹴っ飛ばした。

 

すると、思った以上に勢い良く石が飛んでいく。

 

しかも、その先には一人の生徒がカバンを持って歩いていた。

 

(まずいっ!)

 

由乃はそう思ったのだが、そういう時に限って焦ってしまい、声が出ない。

 

(お願い、避けて!)

 

心の中でそう思うのだが、少女はこちらの方を見ない。

 

顔面直撃コースに飛んでいった石が、顔に当たろうか、と言う瞬間・・・・・・

 

その少女は、突然腰をかがめたおかげで、石は頭上を通過した。

 

由乃は、何事も無かったことにほっと胸をなでおろした。

 

すると少女はこちらに気がついたようで、「こんにちは」と声をかけた。

 

(こんにちは・・・・・・?)

 

由乃は強い違和感を感じた。リリアンの生徒で『こんにちは』という生徒はいない。

 

『ごきげんよう』というのが、ここでの挨拶である。

 

由乃がそんなことを考えていると、由乃の顔を見てその少女ははっとして

 

「あ、失礼しました。ごきげんよう、でした」

 

慌てて言い直したその少女に、由乃は少しおかしくなった。

 

少女は、腰まであるかも知れない漆黒の髪をそのままおろしている。

 

顔は、少し大人びた感じがした。それにさっき言い直したときも、

 

口調は慌てているようなのだが、顔はまるで変わってなかった。

 

そんな風に少女を観察していた由乃が、自分のことを訝しく感じたのかと思い

 

「申し訳ありません、転校したてでまだ慣れてないのです」

 

そう言葉を続けた。

 

その言葉に由乃は納得して、「気にしないでください」と声をかけた。

 

「その、私は1年ですので、敬語は使われなくても・・・・・・」

 

「そう?私は2年松組の島津由乃。あなたの名前は?」

 

「はい、私は1年椿組の三上月咲(つかさ)と申します」

 

「つかさ・・・・・・ちゃんね。その・・・・・・さっきはごめんね」

 

由乃の言葉に、月咲は首をかしげた。

 

「あ、気が付かなかったのなら別にいいの」

 

「そうですか?」

 

理解出来ないようだったが、納得はしたようだった。

 

そのとき、由乃の中に一つの考えが浮かんだ。

 

「ところで・・・・・・月咲ちゃん、今時間ある?」

 

「え?あ、はい。特に用事はないですが・・・・・・」

 

よしっ!由乃は、心の中でガッツポーズをした。

 

 

 

「それなら、ちょっとお願いがあるんだけど・・・・・・」

 

 

 

由乃は月咲の手を引いて、話しながら歩き出した。




三上月咲……。ミカミ?
美姫 「香港の事件……」
いや、まあ、それは置いておいて。
美姫 「飛び出した由乃ちゃんが出会った少女」
まさかとは思うけど、そのまま妹にしたりとか?
美姫 「幾ら由乃ちゃんでも、そんなに急ぐかな?」
分からんぞ。何せ、いけいけの青信号だし。
美姫 「うーん。果たして、どうなるのかしら。次回も気になるわね」
おう。次回も楽しみしてます〜。
美姫 「ではでは〜」



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