高町家に掛かってきた一本の電話で恭也は、再び武蔵野の地を踏んでいた。
この時期は、文系であれば大学の講義が再開され、理系であっても準備が始まる時期である。
だが、恭也の所属する体育学部スポーツ科学学科は、レスキューの実習が8月末まであるために、10月中旬までは夏休みになっていた。
赤星と藤代は、体育学部の体育学科に所属するため、夏休みは半分有って無いような状態だと嘆いていた。
なので、祥子から掛かってきた電話の用件にも快く応じた。
『もしもし、高町さまのお宅でしょうか。私はリリアン女学園3年松組の小笠原祥子と申しますが、恭也さまはご在宅でしょうか?』
この電話を取った晶は、一瞬石化してしまうが
『は、はい。師匠でございましたら、ただいま庭の方へおいででございまするので、
お呼びいたします』
晶の、人生最初のお嬢様からの電話への応対に、レンはお腹を抱えて大笑いしていた。
後で殺す!そう心に誓うが、まずは恭也を呼ぶことが先決。
庭の恭也に取り次ぐと、二人のバトルは開始した。
そんな二人を尻目に恭也は電話に出た。
『電話代わりました。祥子さん、久しぶりだな』
『はい、突然のお電話申し訳ありません。身体の方はもう大丈夫でしょうか?』
『ああ、もう大丈夫だ』
恭也の身体は、フィリスの強制的入院という集中治療によって回復した。
入学式までみっちりと整体や治療をした結果、膝もかなり具合がよくなった。
あまりに調子が良くなり、恭也が喜んでいると
『恭也君、治ったとはいっても無理はしないでください。あくまで良くなっただけなんですからね!』
指を立てて恭也に注意をする。
『それと、神速を使った場合は必ず病院へ来てください。いいですね、絶対ですよ!?』
恭也としても、また強制入院になるのだけは避けたい。
フィリスの言葉に同意をして、ようやく退院を許されたのだった。
『そうですか。それでしたら、もしよろしければこちらにいらっしゃいませんか?』
『こちら・・・・・・というと、祥子さんの家に?』
『そうですね。それでもいいのですが、出来ればリリアンにいらしてくださると』
『リリアンって・・・・・・俺はもう部外者だからまずくないか?』
『大丈夫です。校門まで迎えに行きますから。どちらかというと、一目見たい、という人の方が多いですから』
恭也は少し考えたが、せっかく呼んでくれるのだから行こうかな、と思った。
『わかった。それじゃあ・・・・・・いつ頃行けばいいかな』
『そうですわね、せっかくですから・・・・・・』
恭也は、土曜日から小笠原邸に招待されていた。
車をよこしてくれるということで、M駅で待っていたのだが、不測の事態によって待ち合わせ時間を過ぎてしまっていた。
とりあえずは、女の子も大事に至らず良かったとは言える。
だが、警察に自分を見られるのはなるべく避けておきたい。
女の子には悪かったが、気づかれないようにその場を離れていた。
駅には既に小笠原家の車が待機していたので、一言謝ると車に乗り込んだ。
小笠原家に到着すると、玄関前で祥子が恭也を出迎えた。
「いらっしゃい、恭也さん。はるばる来ていただいてありがとうございます」
恭しく頭を下げる祥子に恭也も
「いや、招待してくれてうれしかった。みんなの顔も見たかったしな」
笑顔でそう言うと、祥子も顔をほころばせて恭也を中へ通した。
「なあ・・・・・・こんなこと言うと誤解されるかも知れないんだが・・・・・・」
恭也が少し難しい顔をして祥子を見ながら口を開いた。
祥子もそれに首を傾げながら、『どうぞ』と促す。
「祥子さん・・・・・・なんか痩せてないか?」
一瞬、祥子は頭にハテナを浮かべるが、意味をやはり取り違えたようで顔を顰めた。
「い、いや。そういう意味ではない。そうじゃなくて・・・・・・」
狼狽する恭也に、祥子はくすくす笑った。
「わかってます。実はですね、祐巳が修学旅行でいなくて食欲が無かったんです」
祥子の言葉に納得して、恭也も理解した。
「でも、恭也さんが来てくれたおかげで、少しお腹が空きましたわ」
そう言うと、執事と思われる使用人の人に
「悪いけど、お茶と和菓子をお願い。甘さは・・・・・・控えたものでいいわ」
祥子の言葉に返事をして、一礼して退出していった。
「恭也さん、しばらくここを家と思ってくつろいでくださいね」
笑顔でいう祥子に、恭也はふと疑問が沸いた。
だが、お茶と和菓子が出てきて別の話題を振られてしまい、
恭也はその疑問が抜け落ちてしまった。
このときの疑問をもっとよく考えておけばよかったと思った。
だがしかし、この時の恭也は、お茶と和菓子のあまりのおいしさに舌鼓を打っていたのだった。
恭也が呼ばれた理由。それは、一体…。
美姫 「いつ明らかになるのかしらね」
その辺も非常に楽しみだが、なんと言っても、乃梨子との対面だな。
美姫 「確かに、それも楽しみね。一体、どんな風になるのかしらね」
次回も楽しみにしてます。