香港警防隊は、困惑に包まれていた。
「『龍』が壊滅したとはどういうことだ!?」
偵察隊の報告に、待機していた本隊のメンバーが声を荒げた。
「落ち着け!とにかく、少し詳しく話してくれないか?」
啓吾は、まずこの空気を落ち着かせようと間に割って入った。
その甲斐もあり、幾分か落ち着きを取り戻して、偵察隊の一人は報告を始めた。
セミの声が静まり返える内部にまで響いている。
「ぐっ・・・・・・これはひどい・・・・・・」
慎重に気配を探りながら、啓吾と美沙斗は内部に潜入した。
報告によると、外にいた見張りが全て切り刻まれて倒れており、
異常を感じて中をのぞいたところ、部屋一つが血の海になっていたそうだった。
そのあまりの異常事態に、偵察していた方が困惑したとのことだった。
内部から、まるで人の気配がしないことから、何者かによって壊滅させられた、という見方が正しいだろう。
報告を受けて、啓吾と美沙斗を含めた本隊で実態を把握すべく内部に突入していた。
中に入ると、想像以上の惨劇に思わず目をそむけそうになった。
斬り傷に刺し傷・・・・・・ありとあらゆる斬撃を受けてバラバラになっていた。
誰一人として、生存している可能性のありそうな者は無く、原型すら留めていないものすら存在していた。
だが、ある部屋の前で弱いが人の気配がし、二人に緊張が走る。
いつでも動ける体勢でドアを蹴破ると、中には腕と足の腱を断たれた『龍』の構成員と見られる男がまだ生きていた。
「う・・・・・・た、助けてくれ・・・・・・」
その男がもはや抵抗できる状況に無いことを把握し、隊員に彼を手当てするよう命じて再び奥に進んだ。
それからは全く人の気配がなく、ついに頭目の部屋と思われるところまでたどり着いた。
中は案の定、同じように惨殺されている、側近と思われる連中の死体があった。
さらに血の足跡が、机の下の隠し階段へ延びていた。
警戒しながら階段を降りていくと、そこはもう長年戦いに身を置いて来た二人ですら直視できない、頭目の死体が転がっていた。
これ以上、もう斬る部分が存在しないと言うくらいに刻まれていて、
壁に貼り付けて十字に切り裂かれた、頭目の背中の刺青ごと貼り付けられた皮が無ければ、身元が分からないくらいだった。
状況に言葉を失っていると、各部隊からの報告が届いた。
どうやら、この場をこれ以上捜索しても得るものは無いように思えた。
啓吾は、無線で部隊に引き上げるよう指示を送り、撤退した。
警防隊の本拠地へ戻って美沙斗は一人、状況を整理した。
『龍』は、壊滅していた。
頭目は死亡。生存者は1名のみ。
意図的に殺されていないその男は、命に別状は無いものの現在は眠っている。
とりあえず、現時点で分かっていることは、『龍』が終わったと言うことだけだ。
それも、誰かもわからない連中の手によって。
美沙斗は、やるせない気持ちでいっぱいになっていた。
別に、頭目を自分が殺したかったわけではない。
復讐したい、とは思ったが、潰すのはあくまで『龍』だ。
だから、『龍』が壊滅したことはむしろ喜ぶべき状況だ。
だが、何故だか腑に落ちない。
理由は判っていた。
あの惨状を見たときに感じていた、執行者たちの心理。
おそらく、自分と同類・・・・・・しかも、ここへ流れ着く前の自分と。
殺すだけでは足りず、殺すこと以上を望んでいる。
全ての負の感情が混ざり合った憎悪を撒き散らしているかのように。
「くそっ!」
美沙斗は壁を強く叩いた。
まるで、自分を突きつけられているようなこの感じ。
目をそらしたいのに逸らせない。
復讐のためとはいえ、多くの命を奪ってきた自分を断罪しているようだ。
がちゃっ・・・・・・
ドアが開いて、美沙斗は思わず身構えた。
すると、両手を挙げた啓吾が焦った顔をして立っていた。
「み、美沙斗、俺はちゃんとノックしたぞ!?いくら叩いても反応が無かったから勝手に鍵を開けて入ったわけで・・・・・・」
普通に聞いたら、結局打ち首獄門になりかねない言い訳を聞いて、美沙斗からようやく殺気が消えた。
息を大きく吐いて啓吾は両手を下ろした。
「隊長・・・・・・何か私に用ですか?」
少し頭に昇った血が降りはじめて、美沙斗はようやく冷静になることが出来た。
「ああ・・・・・・。実は今、連中の死体を調べてもらっているんだがな・・・・・・」
傷が、刀のようなもので斬られている、と言うのは美沙斗にも理解が出来た。
だが、次の啓吾の言葉は美沙斗に深く刻み込まれた。
『形状から言って・・・・・・小太刀。しかも、美沙斗と同じ二刀によるものらしい』
セミの鳴き声が、部屋にうるさいくらいに響いている。
夏の終わり・・・・・・美沙斗は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
龍を滅ぼしたものは、小太刀、しかも、ニ刀の使い手」
美姫 「果たして、それは一体、何者なのか」
非常に気になる展開〜!
美姫 「ああー、早く続きが…」
そんなこんなで、また次回!
美姫 「それじゃ〜ね〜」