「ごきげんよう」

 

さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。

 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。

 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。

 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。 もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。

 私立リリアン女学園。

 明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校である。

 東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。

 時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通い続ければ温室育ちの純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貴重な学園である。

 

 

 

 

その培養お嬢様の中で一際目を引く存在である、三薔薇と呼ばれる生徒会長の一人、紅薔薇さまこと小笠原祥子は、薔薇の館にて放課後一人で紅茶を飲んでいた。

 

今日は、学園祭にて山百合会によるイベントの案を考えるために来ていた。

 

とはいえ、今日来るのは同じく黄薔薇さまという称号を持つミスター・リリアンこと支倉令だけなのだ。

 

山百合会では、毎年3年生がイベント内容を決めて2年生に押し付ける慣習がある。

 

なので、2年生が修学旅行へ行っている今が絶好の機会だ。

 

よって、本日は祥子と令の2人だけで話し合いが持たれる予定だった。

 

しかし、その肝心の相方である令はまだこない。

 

紅茶ももうすぐ飲み終えようとしているとき、階段を早足で音を立てて昇る音が聞こえた。

 

勢い良くドアが開かれると、令が入ってくるなりまくし立てた。

 

「祥子、遅れてごめん。ちょっと面白いことがあって、時間くった」

 

「まあいいわ。それより、何があったの?」

 

由乃がいないのに令がずいぶんと慌てていることが祥子には珍しく感じ、令の話に興味を持った。

 

「ちょっとこれを見てくれない?だまされたと思ってさ」

 

そう言って令は、かばんから一冊の本を取り出した。祥子が受け取って中を開くと少し顔を顰め

 

「令・・・・・・私は漫画は読まない主義なの。そんなことより今日の議題を話さない?」

 

興味なさげに本を机に置くと、令は祥子に机から身を乗り出して言った。

 

「実は、その議題を解決するかもしれないことが、その本にあるのよね」

 

令がそう言うと、祥子はふぅん、と言って本に目をやった。

 

最初はつまらなさそうに本を見ていたのだが、読むにつれて祥子の顔がだんだん本に集中していくのがわかる。

 

15分、本に集中して読み終えると、祥子は楽しそうに顔を上げた。

 

「これは確かに面白そうね・・・・・・ところで、あなたはどう思って?」

 

「多分、紅薔薇さまが思っていることと同じだと思いますわ」

 

「そうすると、当然協力者が必要になるわね、黄薔薇さま?」

 

 

 

 

『ふふふふふ・・・・・・・ふふふふふ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはその半月前・・・・・・香港でのこと


ついに・・・・・・追い詰めた。

 

やっと終わる。

 

このときのために、今まで生きてきた・・・・・・。

 

「美沙斗、あまり気を入れすぎると良くないぞ」

 

隊長が、視界の狭まった美沙斗に声をかけた。

 

「はい・・・・・・すみません」

 

ついに、『龍』の本拠地を突き止め、これから総攻撃を仕掛けるのだ。

 

美沙斗の感情が高ぶるのも納得がいく。

 

だがそれを諌め、万全を喫するのが隊長としての役目である。

 

陣内啓吾は、『龍』の本拠地を偵察に行った部隊の報告を待っていた。

 

「た、隊長!」

 

バンッ!とドアが勢い良く開いて、偵察部隊のリーダーが血相を変えて飛び込んできた。

 

「どうした!?」

 

偵察という任務の性質上、基本的に冷静な判断の出来る人間が、この部隊には集中する。

 

そのリーダーである彼は、その中でも一際落ち着いている男だった。

 

だが、その彼がこれほどまでに取り乱しているのに、啓吾は動揺を隠せない。

 

しかし、次のリーダーの言葉に美沙斗も啓吾も絶句した。

 

 

 

 

 

 

「『龍』が・・・・・・壊滅していました・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

黒き花びら〜Next story〜

 

 

 

 

かつてリリアンに在籍した男子生徒。

 

黒薔薇さまと呼ばれ、ロサ・シュヴァリエとしてその名の通り、薔薇たちを護った騎士。

 

彼女たちに慕われたが、結局彼は選ぶことが出来なかった。

 

これは、彼が海鳴へ戻ってから半年後のお話。

 

物語は再び動き出し、その成り行きをマリア様はそっと見守っていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 




遂に、黒き花びらの続編がスタート!
美姫 「あれから半年後という事で、蓉子たちは卒業し…」
新たな顔ぶれが揃った状況。
美姫 「果たして、どんな物語が始まるのか!?」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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