4月・・・・・・高町恭也は、地元の海鳴大学へ進学していた。
海鳴大学は、マンモス大学なのだが、キャンパスは海鳴だけだ。
なので、全ての学部学科は海鳴キャンパスに存在していた。
恭也は、親友の赤星勇吾と共に講義を受けていた。
大学に入学して、恭也も居眠りだけはするまい、と必死に自分と戦っていた。
大学の授業というのは、高校のように甘くは無い。
出席が足りていれば合格、なんてそんなところでは無いのだ。
実習は別にしても、通常の授業など出席を取らないことさえある。
逆を言えば、誰かのノートさえあればいいのだが・・・・・・。
だが、恭也も自分で選んだ学部なだけに、講義内容には興味がある。
チャイムが鳴るまで、頑張って起きていることに成功したのだ。
教授が退出して、恭也は椅子にもたれて一息つく。
「おい高町・・・・・・いきなりそれじゃ先が思いやられるぞ」
赤星は、苦笑して恭也に言った。
次は昼休みなので、二人は食堂へ向かって歩いていた。
二人は同じ講義を受けてはいるのだが、実は専攻する学科が違っていた。
恭也は『体育学部 スポーツ科学科』・・・・・・つまり、運動をサポートする技術を学ぶところ。
赤星と藤代は『体育学部 体育科』なので、実習が中心だ。
三人の共通の親友である月村忍は、『工学部 機械工学学科』に所属。
そして、新たに親友として加わった・・・・・・
「やっほー、二人ともこれからご飯?」
後ろから恭也に飛び掛ってきたこの女性・・・・・・
『文学部 英米文学科』に所属する、『リリアン大』の学生である。
「聖・・・・・・また勝手に入ってきたのか」
恭也は聖をぶら下げたまま、ため息を吐いた。
「木曜日は私、講義取ってないから大丈夫だよ」
「そうじゃなくてだな・・・・・・」
「はは、まあいいじゃないか高町。聖も一緒に食べるか?」
「さっすが勇吾くん、話が早い!あれ?由紀と忍は?」
仲良し5人組(忍&聖命名)のうち、忍は学部が違うにしても、由紀がいないことに聖は疑問をもった。
「藤代は、この講義の抽選に漏れたからな・・・・・・そろそろ来ると思う」
恭也がそう言ったとき、藤代が忍と一緒にこっちへ向かっているのが見えた。
「お〜い、こっちこっち」
聖が声を上げて手を振ると
「聖、来てたんだ?」
そう言いながら、聖へ駆け寄った。
「聖・・・・・・さすがに他校の人が目立つのはどうかと思うが・・・・・・」
「高町君も気にするね。でも、聖なんだからそろそろ諦めないと」
「そうだな。聖のこの行動は今に始まったことじゃないな・・・・・・」
恭也の言葉に、藤代と赤星が聖の弁護をするが
「なんか弁護してるのか、けなしてるのか複雑なんだけど」
聖は、拗ねた顔で二人を見ていた。
昼食を取り終わってから、赤星と藤代は次の講義を受けるため分かれた。
恭也と忍は次の講義が休みなため、まだ食堂にいた。
食事を終えて一息つくと、恭也は眠気に襲われた。
あくびをすると、忍が「眠いの?」と尋ねた。
「ああ。今まで長い間授業中寝ていたせいでな・・・・・・。忍は平気なのか?」
「ん?私は授業が楽しければ寝なくても大丈夫だから」
そう言う忍は、大学の講義は結構意義あるものに映っているようで、
あまり眠くはならないようだ。
「眠いなら、四限まで寝てるといいんじゃない?聖はどうする?」
「ん〜、私は恭也に膝枕でも・・・・・・」
「いや、丁重にお断りする」
聖の言葉を一刀両断すると、聖はぶーぶー言うが
「忍・・・・・・恭也に振られたこの私を受け入れてくれる?」
「わかった。聖のために忍ちゃんが一肌脱いじゃおう」
「持つべきものは友達ね。それじゃ私の車でれっつごー!」
「あ、聖・・・・・・もちろん私が運転するからね?」
やいのやいの言いながら二人は、キャンパスの駐車場へ向かって行った。
恭也も席を立ち、外へ出た。
キャンパスの外れ・・・・・・
ここを通る道の先には校舎が一棟あるのだが、現在は使われていない。
なのでこの辺は必然的に人通りも少なく、静かに過ごすにはもってこいの場所だ。
だが、恭也は校舎に向かう道で足を止めた。
一本の桜が目の前に咲き誇っていた。
周りには何も無く、人通りもまるで無いところに咲く桜。
桜の下には、植えられているのだろうか、芝が生い茂っている。
恭也はこの桜の木の下で昼寝をしようと足を進める。
すると、木の下に先客がいるのに気が付いた。
先客は女性で、髪は綺麗な黒で肩より少し長めか。
首のあたりで外に少しハネているようだ。
桜の幹に手を当てて、桜を下から眺めていた。
恭也が昼寝の場所を移そうと、歩き出そうとしたときに強い風が吹いた。
風で桜の花びらが舞い、女性がゆっくりとこちらに振り返った。
「あら、桜を見にきたの?」
桜の花びらの向こうから、その女性は恭也に声をかけた。
恭也は、周りに美人ばかりそろっていてその辺のことにとても疎いのだが、その恭也にもその女性は美人だと思えた。
桜吹雪と相まって、恭也は言葉を忘れて固まっていると
「どうしたの?言葉を忘れてしまったかしら?」
そういわれて、ようやく恭也は言葉を発することができた。
「いえ、あまりに綺麗だったので・・・・・・」
「そうね。綺麗な桜ね・・・・・・」
本当は、桜だけでなく女性にも見とれていたのだが、それは言葉に出さなかった。
「ええ。ここにあるのが少しもったいないくらいですね」
恭也のその言葉に、その女性はゆっくりと首を振った。
「いいえ、ここにあるからいいのよ。桜に呼ばれた人だけがここに来るから」
多分、あなたもね。そう女性は恭也に微笑んだ。
「あなたは、新入生?」
「あ、はい。今年ここに入学した、『体育学部 スポーツ科学科』の高町恭也です」
「私は『文学部 英米文学科』二年の涼森樹。恭也さんは体育学部だったのね」
「やっぱり、見えませんか?」
「ええ。歴史や古典を学んでいそうに見えるわ」
ふふっ、と樹は笑った。
「でも、珍しいわ。今私、うっかりあなたのこと下の名前で呼んだのに・・・・・・」
「あ、そういえば・・・・・・。でも、少しある事情で慣れてますから」
まさか、女子高に通ってました、とは言えない。
「そう・・・・・・。恭也さんはもてるのね」
楽しそうにコロコロ笑う樹に、恭也は赤面する。
「そんなことは・・・・・・無いと思う」
「そう?綺麗な顔をしてるのにね」
そのとき、予鈴が鳴り響いた。
「あ、ごめんなさい。私次の講義あるから失礼するわね」
樹は、恭也の肩に乗った桜を指で摘み上げた。
「ごきげんよう、恭也さん」
その言葉に恭也は思わず振り返るが、樹は歩いて行ってしまった。
「ごきげんよう・・・・・・か」
まさかな、と恭也は思うが、ここに来た目的を思い出して桜の木に寄りかかる。
だが、先ほどまでの睡魔はいつのまにか消えてしまっていた。
桜から舞い落ちる花びらを、恭也は三限が終わるまでゆっくりと眺めていた。
ふむふむ。今回は出会いといった所だね。
美姫 「そうね。果たして、二人は再会するのかしら」
どんな形でするのか。
美姫 「どんな展開が待っているのか」
非常に楽しみです。
美姫 「本当に楽しみね」
ああ。次回も楽しみに待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」