恭也は部屋で一人考えていた。
2月14日のこと。
バレンタインイベント・・・・・・これはそんな簡単なものでは無くなっている。
スール・・・・・・ロザリオを受け取る人によっては、何かが変わってしまう。
恭也は鈍感だ。
今まで、海鳴でも乙女たちの想いに気が付かずに過ごしてきた。
・・・・・・いや。薄々今考えると、それの兆候はあった。
だが、それを押し殺して気が付かないようにしていた。
自分は人に愛されてはいけない。
自分は生涯この御神の剣を振るいつづけるだろう。
最愛の人を危険に巻き込みたくは無いんだ。
もし自分が命を落としたときに、誰も悲しまないように・・・・・・
でも・・・・・・俺は・・・・・・
コンコン・・・・・・
玄関のドアをノックする音が聞こえ、赤星が入ってきた。
「高町、今いいか?」
「ああ・・・・・・どうしたんだ赤星」
「いやな・・・・・・イベントのことでちょっとな」
「そうか・・・・・・」
恭也は、赤星に座布団を出し互いにあぐらをかいて向き合う。
互いに見つめ合うと、赤星は写真を取り出した。
「俺は・・・・・・決めたんだ。この人にロザリオを受け取ってもらう」
その写真には、赤星の隣で笑う女性が写っていた。
「そうか・・・・・・お前は・・・・・・」
「ああ。お前だけには先に報告したくてな」
赤星は顔を掻きながら恥ずかしそうにそう言った。
そして、真剣な面持ちになり恭也を見る。
「お前はどうするんだ・・・・・・?」
「わからない・・・・・・どうしたらいいかわからないんだ」
「そうか・・・・・・。まだ少しは時間があるしゆっくりと考えるといいかもしれないな。お前がどんな選択をしても、相手はきっとわかってくれるはずさ」
「・・・・・・」
「明日、ロザリオを買いに行かないとな・・・・・・。高町、一緒に行くか?」
「いや・・・・・・。俺は自分で探してみる」
「そうか。・・・・・・わかった。邪魔したな」
「構わん・・・・・・。それと、ありがとうな」
恭也の言葉に赤星はふっと顔を緩める。
「みずくさいぞ高町・・・・・・俺たちは親友だろ?」
「だな・・・・・・」
「とりあえず・・・・・・後悔だけはするなよ」
「ああ」
「聞いてくれてありがとうな。それじゃ」
赤星はドアを閉めて出て行った。
「う〜」
同じ頃藤代は、一足早く買ってきたロザリオを見ながら自室でうなっていた。
「どうしてこうなっちゃったんだろ・・・・・・」
ロザリオを見て首にかけたり、はずしてみたり・・・・・・
そして下に置くと、ベッドにダイブした。
「はぁ・・・・・・」
今日既に何度目か、わからないため息を吐く。
そして、テーブルの上の緑色のカードを見て
「・・・・・・考えるのはやめっ!寝よ寝よ!」
電気を消してそのままベッドにもぐりこんだ。
恭也は実家に帰ったときに1時間だけ出かけたことを思い出した。
恭也は父親に仕事の成功を報告すべく士郎の墓に来ていたのだ。
『ただいまとーさん・・・・・・。今度も無事護りきることが出来たよ』
『それと・・・・・・『閃』の先の境地が一瞬だけ見えたんだ・・・・・・』
代わりに身体はボロボロなんだがな、と笑みをもらしながらそう言って
『なあ・・・・・・とーさんはかーさんを愛したとき、何を思っていたんだ?』
恭也は士郎の墓に語りかけた。
『俺もとーさんのように・・・・・・』
その先は言えなかった。背後に誰かの気配がして振り返った。
『恭也・・・・・・やっぱりここにいたのね』
『かーさん・・・・・・』
桃子は恭也の隣にきて恭也と同じようにしゃがむと、士郎の墓を愛しそうに見つめ
『士郎さんね・・・・・・そんなことは考えてなかったと思うわ』
『え・・・・・・?』
『士郎さんはただ、『あなたの作るシュークリームを食べたい』って言ってたのよ』
それが、どういうことかわかる?
桃子の言葉を、恭也は理解し切れなかった。
『士郎さんは幸せになりたかったのよ。私もそう。だから、士郎さんのプロポーズを受けたの・・・・・・』
桃子は、自分の指にはめられた指輪を恭也に見せた。
『それにね、恭也。幸せに出来るかじゃないの。幸せになれるか、よ』
「出来るか」、ではなく「なれるか」
『幸せはね、一人で作るものじゃなく二人で・・・・・・そしてみんなで作るものなのよ。だから私は今幸せ・・・・・・』
『かーさん・・・・・・』
『士郎さんは眠ってしまったけど、士郎さんの大事な人がいる。それだけで十分』
『・・・・・・』
『あとは、恭也が考えなさい。あせらないで・・・・・ゆっくりと』
『・・・・・・かーさん』
『なに?』
『・・・・・・ありがとう』
『ふふふ、普段からそうやって素直だと可愛いのに』
『そういうこと言うから困るのだが?』
『はいはい、そういうことにしてあげる。恭也も早く帰ってきなさいね』
桃子はもう一度士郎の墓に手を合わせると、スクーターで戻っていった。
恭也も父の眠る墓に一言語りかけると、その場を後にした。
カバンからカードを取り出した。
黒いカード。白い文字で『St.Valentine
恭也』と書かれている。
「妹・・・・・・か」
リリアンでの姉妹は、通常の先輩後輩とは違いとても深い。
心の中で結びついている、本物の姉妹・・・・・・または恋人同士に近いと言ってもいいだろう。
もちろん単純な仲良しのつながりもあるだろうが、恭也にとってこのスールはとても強いものに感じた。
だから、もしロザリオを受け取ってくれるのなら・・・・・・。
恭也の頭に、まぶしい笑顔が浮かんだ。
そして2日後・・・・・・。
それぞれ想いを胸に、2月14日を迎えた。
いよいよ物語りは終局へと動き出す。
美姫 「果たして、恭也の脳裏に浮ぶ子は…」
次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」