「いやー、恭也に勇吾よ。ありがとう、これでペンも進む」

 

脂汗を流しながら真雪を見送ると、恭也たちも店を出た。

 

令は『草薙まゆこ』と話が出来たことに興奮覚めやらぬ様子である。

 

ちなみに、会計は『ネタの礼金』と言って真雪が払ってくれた。

 

少し薄暗くなってきた道を歩く。

 

「なあ・・・・・・真雪さんは一体何を聞いてたんだ?」

 

恭也は、気になって聖たちに聞くのだが

 

「それは秘密ですよ、恭也さん」

 

志摩子にほほえみながらそう返され、追求は不可能と悟る。

 

 

 

そうこうしているうちに家に着いてドアを開けて

 

「ただいま」

 

と、言うとトタトタ中から玄関に走ってくる音がした。

 

「おにーちゃんお帰り〜。それといらっしゃいませ」

 

なのはが、恭也たちを出迎えた。

 

「なのは・・・・・・家の中で走ってはいけない」

 

そう言って、なのはの頭を撫でると

 

「ただいま」

 

と、今度は笑顔でなのはに答えた。

 

「恭也さんの妹さんですか?」

 

祐巳の質問に、なのはが

 

「はい。高町なのは、小学2年です」

 

「私は福沢祐巳で高校1年だよ。そっか、なのはちゃんしっかりしてるんだね」

 

祐巳はなのはの頭を優しく撫でた。

 

「あ、あやや・・・・・・」

 

なのはは、祐巳に撫でられて照れるが、気持ちよさそうだった。

 

「あらあら、祐巳に妹が出来たみたいね」

 

祥子は、祐巳となのはをほほえましく見ていた。

 

 

 

一度、全員をリビングに通すと台所から声が聞こえた。

 

「あー、だから何でお前は人の剥いた材料を勝手に使うんだ!」

 

「ええやろ、別に減るものやないし」

 

「実際減ってるんだよ!」

 

「うっさいわ!晶やってさっきから人が油引いておいたフライパンで調理してるやんか!」

 

いつもの食事前の喧騒が聞こえてきた。

 

「あの・・・・・・何かケンカしているようなのですが・・・・・・」

 

祐巳が恭也に心配そうな顔をして話すが

 

「ああ、大丈夫だ。いつものことだ」

 

「だな。それにそろそろ・・・・・・」

 

恭也と赤星が台所の方に目をやると

 

「晶ちゃんもレンちゃんもケンカしないの!」

 

なのはが2人を叱る声が聞こえた。

 

「これで出てくる料理がおいしいのが不思議だよな」

 

赤星の言葉に恭也は苦笑した。

 

 

 

やがて鍛錬を終えた美由希が、仕事を終えた桃子と共に戻ってくると夕御飯になった。

 

恭也と赤星は、終始美由希とレン(赤星は晶)の視線が痛い気がした。

 

しかし、恭也が料理を誉めると美由希以外の視線はやわらかくなった。

 

「それにしても、二人は中学生なのにこんなに料理がうまいなんて・・・・・・」

 

祐巳はう〜ん、とうなっていると

 

「毎日作ってますから。このカメでさえ出来るんですから祐巳さんも出来ますよ」

 

「だ〜れがカメや、このおサル!でも、確かに言うとおりですわ。人間じゃなくても出来ますから」

 

晶をあごで指しながらそう言うと

 

「てんめぇ〜、俺にケンカ売ってんのか」

 

「よう言うわ。ケンカってのはある程度対等な相手と戦うときに言うんやで?」

 

「晶ちゃん!レンちゃん!」

 

『はいっ!』

 

なのはの声が響く。

 

「・・・・・・御飯食べ終わったら二人にお話があります」

 

「いや、なのはちゃん・・・・・・?」

 

「そうそう、これはいわゆるスキンシップっちゅーやつで・・・・・・」

 

二人はそろって弁解するが、なのはの視線は揺るがない。

 

「晶、レン・・・・・・。あきらめろ」

 

恭也の言葉に、二人はがっくり頭を垂れた。

 

 

 

楽しい夕食の時間が終わり、なのはは晶とレンを引きずっていこうとするが

 

「あー、なのは。少し待ってくれ。みんなに話したいことがあるんだが・・・・・・」

 

恭也の言葉になのはは素直に従うと、晶とレンは恭也に感謝した。

 

「彼女たちに泊まってもらうのだが、部屋をどうしようかと思っているんだ」

 

その言葉に

 

「あたしは家に帰るけど・・・・・・赤星君はどうするの?」

 

藤代が赤星に聞くと

 

「そうだな。さすがに全員泊まると厳しそうだしな・・・・・・。わかった。俺の家に誰か来るか?」

 

赤星の発言に、その部屋にいた恭也以外の全員が固まる。

 

「気にしないでいいよ。俺は一人暮らしだから広くは無いけど家族を気にする必要はないからね」

 

(いえ、その心配ではありません)

 

みんなそう思ったのだが・・・・・・

 

「それじゃ私、勇吾さんの家にお邪魔することにしますわ」

 

江利子はにっこりと微笑んで令達を見やり

 

「男性の部屋って、馬鹿兄貴の部屋くらいしか知らないから楽しみだわ」

 

勇吾を見て目を輝かせていると

 

「令ちゃん、私達も行くわよ。二人きりにすると危ない気がする」

 

「そうね。お姉さまよりも勇吾さんの方が心配だわ・・・・・・」

 

江利子は、蓉子にウィンクをする。蓉子も「やるわね」と言った表情を浮かべた。

 

「ふむ、じゃあ5人はうちに泊まるとして・・・・・・空いている部屋は1つだけあったか?」

 

「あ、はい。美沙斗さんが泊まったばかりなので今は空いてますね」

 

「ふむ・・・・・・だが、5人はさすがに厳しいな。さて、どうしたものか・・・・・・」

 

恭也が思案していると

 

「あの、おにーちゃん・・・・・・祐巳さんと一緒に寝てもいいかな?」

 

なのはが、恭也と祐巳を見てそう言った。

 

恭也は祐巳と祥子を見やるが

 

「私は構わないわ。祐巳、せっかくだからご一緒させてもらいなさい」

 

「いいんですか?よろしく、なのはちゃん」

 

「わーい、ありがとうございます・・・・・・。あの、「ゆみおねえちゃん」って呼んでもいいですか?」

 

祐巳は、上目遣いに見てくるなのはに腰をおろして視線をあわせると

 

「いいよ〜。それじゃあ、お姉ちゃんを部屋に案内してもらっていいかな?」

 

「はい、こっちです〜」

 

なのはは、祐巳の手をうれしそうに引いて自分の部屋へ向かっていった。

 

「う〜ん、祐巳ちゃんもすっかりお姉さんだねぇ」

 

聖がしみじみそう言って

 

「それじゃあ恭也、行こうか」

 

と、聖は恭也の手を引いて行こうとする。

 

「聖、どこへ行くんだ?」

 

当然の疑問を恭也が口にしたのだが

 

「だって、4人でも部屋狭いんじゃないの?だから私は恭也と同じ部屋でいいよ」

 

さあ行こう、と恭也を引きずろうとするが

 

「聖・・・・・・、それはいくらなんでも強引過ぎるんじゃなくて?」

 

「大丈夫だよ。恭也は人を襲うようなことはしないと思うし」

 

「私が心配してるのは、あなたが襲わないかなんだけど」

 

「いやだな〜蓉子、私のこと信用してないの?」

 

「その問いに対する明確な答えが欲しい?」

 

「・・・・・・」

 

「言うまでも無いようね」

 

「きょうや〜、蓉子がいぢめる〜」

 

「・・・・・・自業自得だ」

 

「・・・・・・いいもん」

 

聖はそう言うと、すねてしまった。

 

 

 

結局、蓉子と祥子が空き部屋に入り、晶がレンの部屋を合同で使うことになり(家長命令)、

その部屋に志摩子と聖が一緒に入ることとなった。

 

「うー、おさると一緒なのは気に食わんが仕方ない」

 

「俺だってカメと同じ部屋かと思うと・・・・・・」

 

「なんや?」

 

「なんだよ?」

 

中央でにらみ合うレンと晶。

 

その二人の頭を恭也はがっしり掴むと

 

「レン・・・・・・晶・・・・・・」

 

『は、はい!』

 

二人は恭也の声にビシッと背筋を整えて答える。

 

「恥ずかしいからやめてくれ」

 

『はい!』

 

恭也が手を離すと、二人は部屋を空けるべく二階へ走っていった。

 

 

 

各自荷物を部屋においてお風呂に入る。

 

あいにく高町家のお風呂は2人が限界なので、姉妹同士で入る者や一人で入る者とさまざま。

 

なのはは、祐巳と一緒にお風呂に入って今日は1日楽しそうだった。

 

「すみません、私達は先に失礼しますね。なのはちゃん、行こう」

 

9時になってなのはの目がとろん、としてきたので、祐巳はなのはと一緒に部屋へ行ってしまった。

 

美由希は夜の鍛錬に行ってしまった。

 

こうして目の前で美由希が鍛錬をしにいくところを見てしまうと、身体がうずいてしまう。

 

その気持ちを抑えるべく、庭に出て盆栽を眺める。

 

暗いので、剪定はしない。切り間違えたら困るからだ。

 

恭也は、桜が植えてある鉢を持って光の届くところへ置く。

 

じっくりと眺め・・・・・・

 

「ふむ、問題はないか」

 

無事を確認し、もう一度じっくりと全方位から見回す。

 

「恭也さん、それが桜の盆栽ですか?」

 

志摩子がお風呂から上がったばかりなのか、少しぬれた髪が月の光を受けて光る。

 

恭也は思わず一瞬見とれてしまうが

 

「あー、恭也。そんなに志摩子を見たら志摩子が困っちゃうよ?」

 

恭也ははっとすると、志摩子の顔は暗くても分かるくらい真っ赤になっていた。

 

「まあでも、恭也に見られるのだったら志摩子もうれしいだろうけど」

 

「お、お姉さま・・・・・・」

 

そういって、聖は恭也の隣へ来て桜の盆栽を眺める。

 

聖の髪から、シャンプーのいい匂いがした。

 

「ふ〜ん・・・・・・これが盆栽か〜。なかなか立派なんだね」

 

ふむふむ、と興味深げに見回す。

 

「恭也さんは、この盆栽とかみんなご自分で買われたのですか?」

 

「ああ。この桜以外は全部買ったものなんだが、これはもらってきた、って言うのかな」

 

恭也の説明にハテナマークを浮かべていると

 

「実はこの桜、公園を作るときに切り倒された桜でな。そのとき枝を一振りいただいたんだ」

 

結構綺麗な桜だったんだ、と恭也は目を細めて言うと

 

「例え本体は切られて無くなってしまっても、こうすればその桜はまた咲くことが出来ると思ったんだ」

 

恭也は、桜の盆栽を愛でながら語った。

 

志摩子と聖は、その恭也の姿に深く感銘を受けた。

 

「きっと、咲きますよ」

 

志摩子の言葉に聖も

 

「そうそう。この子も恭也の気持ちに答えてくれるよ」

 

ねー、と聖は盆栽に同意を求めた。

 

「・・・・・・そうだな。まあ、せっかくだから明日手入れしたら向こうへ持っていくか」

 

恭也は桜の鉢を元へ戻すと

 

「二人とも湯冷めするとまずいし、そろそろ中へ戻ろう」

 

「ん〜、恭也に暖めてもらうおうかな」

 

「ちょ、ちょっとお姉さま!」

 

「ん?志摩子も一緒に暖まりたいの?」

 

「そう言うことでは・・・・・・・無いわけでもないのですが・・・・・・・」

 

志摩子が言葉に困ってると

 

「聖、いい加減志摩子をからかうのはやめておけ。本当に湯冷めしてしまうだろう」

 

二人を促して中へ戻ると、恭也は雨戸を閉めて戸締りをした。

 

 

 

 

 

一方、赤星の家

 

「ふぅん、勇吾さんって実家は海の方にあるんですね」

 

「ああ。一応そこからでも通えるんだけど、道場から遠くなるからこっちに住んでいるんだよ」

 

「でも、勇吾さんの家は男一人で住んでいるのにずいぶん綺麗ね」

 

江利子の言葉は、赤星の家に来た三人が最初に思ったことだった。

 

赤星は元来綺麗好きで性格もすごくまめなので、部屋が散らかることはない。

 

恭也も同じく、性格上散らかっているのは好まない。

 

赤星の家に出入りするのは基本的に2人とあとは藤代や晶くらいなので、

 

藤代が来た後で無い限り部屋が散らかることはまずない。

 

「勇吾さん・・・・・・なぜお酒が家にあるんですか?」

 

令が苦笑しながら台所の一升瓶を見て言った。

 

「ああ。俺の家は酒盛りに使われることがあるから・・・・・・。お酒は用意してあるんだ」

 

笑いながらそう言う赤星に、令は「だめですよ?」とたしなめた。

 

「あ、これアルバムですか?」

 

由乃が机の上にあったアルバムを手にとり、早速中を見た。

 

「うわー、勇吾さん可愛いー♪」

 

「え、どれどれ由乃・・・・・・うわぁー♪」

 

由乃と令が、小学生のころの赤星の写真に黄色い声を出している。

 

「そんな言われると、恥ずかしいな・・・・・・」

 

はは、と照れながら赤星も写真を見る。

 

10歳・11歳・12歳・・・・・・ページをめくるごとに成長していく勇吾の写真。

 

勇吾のファンにはたまらないだろう。

 

「あ、由紀さんだ。この頃由紀さんと会ったんですか?」

 

「ああ。藤代に出会ったのは中1の時だね。剣道部で知り合ったんだ」

 

「この頃の由紀さんはショートカットだったのね」

 

江利子の言うとおり、写真にはバンソウコウをつけて男の子のように笑う藤代が写っていた。

 

「あいつは今でこそ女らしくなったけど、この頃は男みたいだったな・・・・・・」

 

いつの間にか変わったんだよな・・・・・・、そう言う赤星の疑問は次第に氷解していった。

 

2年・・・・・・3年・・・・・・。

 

学年を追うごとに赤星の顔はりりしくなっていき、写真には必ず藤代が写っていた。

 

この頃からようやく恭也も登場しだした。

 

藤代は、必ずと言っていいほど赤星の袖口を掴んで赤い顔をして写っていた。

 

「赤星さん・・・・・・もしかして昔由紀さんと付き合ってました?」

 

令は、写真を見て感じた疑問を赤星にぶつけたのだが

 

「いや・・・・・・むしろ藤代にしょっちゅう蹴られたりしてたぞ。『お前、少しは女らしくしろよ』と言った記憶があるくらいだよ。・・・・・・そういえば、この頃から急におとなしくなったんだよな」

 

次のページに写った写真は高校のものらしく、藤代はかわいらしくなっていた。

 

(由紀さん・・・・・・苦労したんですね)

 

由乃と令は、藤代の気持ちを考えると同情の念が沸いたのだった。

 

「でもさ・・・・・・ちょっと思ったんだけど、この頃の恭也さんって何か怖い感じがするわ」

 

江利子は、中学時代から高校の頃の数少ない恭也の写真を見てそう言った。

 

「その頃、高町は強くなるのに必死だったからな。誰とも付き合いを持とうとしなかったんだ」

 

 

 

 

赤星が中学2年になったとき。

 

恭也は、クラスでも浮いた存在だった。

 

1つ年上なのもあるのだが、何よりも恭也をまとっている雰囲気が『構わないでくれ』と言っているようだった。

 

当時、赤星は学級委員となっていて、中学というのはとかく団体行動をさせようとする。

 

しかも、生徒の自主性を重んじるという名目の元、学級長にその責任を押し付ける。

 

教師はふんぞり返って威張っているだけだ。

 

恭也も、そういう教師は気に入りはしないが、団体行動を乱すと迷惑をかけてしまうので目立たないようにしたがっていた。

 

しかし、教師というのは欠点も無く目立たないようにしている生徒を気に入らないものだ。

 

欠点が無いことが欠点だ、という難癖をつけて恭也に指導をしようとしたが、

 

恭也は涼しい顔をして教師の言葉を聞き、その指導に従う。

 

自分の威厳を見せつけたかった教師はその態度が余計に気に入らなかったのか、ついに無理難題を吹っかけた。

 

それは土曜日、3時間目が体育の時間で、担任であるその教師は恭也が息ひとつ乱してないことに文句をつけ

 

『お前、真面目にやってないから汗ひとつかかないんだ』

 

そう言うと、とんでもないことを言い出した。

 

 

 

『いいか、俺がいいと言うまで走ってろ!』

 

 

 

恭也はそれを言われたままに実行した。

 

3時間目が終わっても教師は恭也を残したままホームルーム開始した。

 

これに疑問を感じた赤星は、担任に抗議するのだがまったく聞く耳を持たない。

 

周りの生徒も薄情なもので、自分にとばっちりが来るのを恐れ、誰も意見をしない。

 

仕方なく赤星は、恭也が走っている校庭へ出ると、恭也はまだ走っていた。

 

赤星を迎えに来た藤代は、恭也が走っている理由を聞くと怒り出し

 

『何考えてるの、あの先生!いくらなんでも横暴よ!』

 

職員室に怒鳴り込んでいくのだが30分後、藤代が泣きながら戻ってきた。

 

藤代が恭也を走らせる明確な理由を問い詰めると、

 

『お前らがそんなことを知る理由なんてないだろ!』

 

と、逆に散々説教されたとのことだった。

 

今思えば校長とか上の権力を持つ人間に言えばよかったのだが、中学時代の赤星には

 

そういう考えは浮かんでこなかった。

 

赤星は、恭也が走りつづけるのをただ見守るしかなかった。

 

 

恭也はただ校庭を走りつづけた。

 

1時間・・・・・・2時間・・・・・・。

 

恭也の走るペースは一向に衰えることは無い上、やはり息ひとつ乱してない。

 

普段、走りこむことのある赤星や藤代から見ても、恭也の走るペースは決して遅いものではなく、

 

赤星ですら30分も走ったら限界を迎えるような速度だった。

 

4時間が経過し、赤星も藤代も平然と走っている恭也に驚愕していると・・・・・・

 

校門前のロータリーから車が出て行くのが見えた。

 

あれは・・・・・・担任の愛車のベンツだ。赤星は、担任の行動に怒りを覚えた。

 

(人を走らせておいて、自分はのうのうと帰るのか!)

 

こうなっては恭也がこれ以上走りつづける理由など無い。

 

急いで校庭に走っていき、恭也に走ることをやめさせようとするのだが・・・・・・

 

 

『必要ない。いいと言うまで俺は走りつづける』

 

 

そう赤星に告げて、そのまま休むことなく走りつづけた。

 

今は春でうららかな気候ではあるのだが、いくらなんでも走り始めてから6時間経つと健康上の心配がある。

 

藤代が赤星に『ねえ、なんとかできないの?』と、泣きながら聞くが赤星にはどうすることも出来ない。

 

力尽きたときに、すぐ動けるように心の準備をすることだけだ。

 

午後7時。辺りがもう真っ暗になた。

 

走り始めてから8時間が既に経過した。恭也はまだ走りつづけている。

 

そのとき、校内から一人の教師が出てきて

 

『赤星か、お前こんな時間まで一体何をやってるんだ』

 

学年主任であるその教師が赤星に問い詰めるが、走っている高町を確認してもらい、事情を説明すると

 

『さっき、高町の母親から息子が帰ってこないと連絡があったんだが・・・・・・そう言うことか、分かった』

 

学年主任の教師は恭也の方へ走っていき二、三話すとようやく恭也は歩き始めた。

 

赤星と藤代は恭也の元へ走っていったのだが

 

『大事無い』

 

そう言って柔軟体操を始めたのだった。

 

恭也は大きく息を吐くと少し乱れていた息を整え、何事も無かったかのように

 

「待っててくれたのか。遅くまですまなかったな」

 

と、聞いている方があきれるくらい冷静な顔をしてカバンを受け取った。

 

次の日、担任は校長室に呼び出されてそのまま休職した。

 

それから新しい教師が来ると共に、その教師は学校から離れていったのだった。

 

 

 

「・・・・・・ってことがあってな」

 

赤星の昔話を聞いた面々は、口をあんぐり開けてその話を聞いていた。

 

「え・・・・・・じゃあ、恭也さんはそのころからそんなにすごかったんですか?」

 

「ああ。あの後、あいつの剣ダコを見て勝負を挑んだんだが・・・・・・」

 

赤星は、机の引出しを開けて1枚の写真を持ってくると

 

「こうなったんだ・・・・・・」

 

見ると、頭はたんこぶ顔は傷だらけ、腕や足には無数のアザがついた赤星と、恭也を睨みつける藤代、バツが悪そうな顔をした恭也が写っていた。

 

「この頃から、俺はあいつをいつか越えてやる、と思って励んできたんだけど・・・・・・差が開く一方だ」

 

頭をかきながらそういう赤星だが

 

「あの頃は、あいつも自分と関わると不意に危険なことに巻き込まれると思って人を避けてたんだろうな」

 

だが、赤星はそれを乗り越え友情を築いていった。

 

それから恭也も成長をして『親友』と呼べる人間を得ることが出来たのだった。

 

 

 

 

由乃は、机の上にあった写真立てに気が付いた。

 

互いに肩を組む恭也と赤星。その後ろで恭也の首に腕を回して抱きつく忍。

 

忍の隣で赤星の両肩に手を置いて写っている藤代。

 

 

 

4人の笑顔が、とてもまぶしかった。

 

 




ええ話やね〜。
美姫 「恭也と赤星のお話。たまには、アンタもこれぐらい良い話を書きなさいよ。って、アンタには無理か」
すぐさま否定しますか!?
美姫 「当たり前じゃない」
うわー、ひでー。
美姫 「はいはい。それにしても、良いお話だったわ」
うんうん。次回も早く読みたいよな。
美姫 「本当に。次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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