こえがきこえる

 

 

やみのなかで、だれががないている

 

 

なかないで

 

 

ぼくがまもってあげるから

 

 

 

 

 

光が差し込んでくる。

 

身体が重い・・・・・・

 

今何時だろうか・・・・・・

 

俺は何をしていたのだろう

 

俺は・・・・・・

 

 

 

 

目を開けると、蛍光灯の光が入ってきた。

 

まぶしさに目を細めて顔を顰めると、声が聞こえた。

 

「気が付いたみたいですね、恭也君」

 

「あれ・・・・・・?フィリス・・・・・・せんせい?」

 

「はい。そうですよ」

 

「ここは・・・・・・?」

 

「ここは、見てのとおり病院ですよ。もっとも、海鳴大付属病院ではないですけどね」

 

「・・・・・・」

 

頭を少し整理する。俺が病院で寝ているってことは・・・・・・

 

「あっ!」

 

そうだ、俺はチンピラと戦って・・・・・・車でさらわれそうだった志摩子を・・・・・・

 

「っ!!志摩子、志摩子はどうなった!?」

 

「きょ、恭也君。少し落ち着いてください!」

 

「くそっ、助けに、助けに行かないと・・・・・・」

 

「恭也君、駄目です、動かないでください!」

 

「でも、俺は・・・・・・」

 

ガチャッ・・・・・・

 

そのとき、病室の扉が開いた。

 

聖が、恭也を見て駆け寄ってくると

 

「恭也・・・・・・恭也・・・・・・っ」

 

聖は、恭也の胸に顔をうずめて泣き出した。

 

「よかった・・・・・・もう目がさめないんじゃないかって・・・・・・心配で・・・・・・」

 

泣いている聖の頭を撫でて、恭也は一緒に入ってきた祐巳の方を見た。

 

「祐巳・・・・・・志摩子は・・・・・・?」

 

その言葉に、祐巳はビクっとして、説明しづらそうに聖の方を見た。

 

それを見た聖は、祐巳を手で制すると

 

 

 

 

「恭也・・・・・・落ち着いて聞いて・・・・・・」

 

 

 

心臓が跳ね上がった。

 

 

 

「志摩子はね・・・・・・」

 

 

 

暑いわけでもないのに汗が止まらない

 

 

 

「白薔薇さま!」

 

 

 

祐巳が叫んだ。

 

 

 

恭也は、そのあとの言葉を聞きたくなかった。

 

 

 

最悪の結果が頭をよぎる。

 

 

 

「し、志摩子さんが・・・・・・」

 

 

 

祐巳の声が遠くに聞こえる。

 

 

 

「お姉さま・・・・・・恭也さんに抱きついて何をされているのですか?」

 

 

 

静かな声だが、少々怒気をはらんでいる。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「いやね・・・・・・感動のごたいめ〜ん・・・・・・って、ね?」

 

 

 

「もしかして、また恭也さんに悪いいたずらをして困らせよう、なんてして考えてませんでした?」

 

 

 

「あはは・・・・・・いやねぇ。そんなに怒らないでよ。軽い冗談じゃない。ねぇ、きょうや・・・・・・?」

 

 

 

「恭也さん・・・・・・?」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

恭也の両目から、涙が流れていた。

 

とーさんが亡くなってから・・・・・・涙は流さなかった。

 

どんなに辛くても・・・・・・どんなに苦しくても・・・・・・

 

決して頬を伝うことの無かった涙が・・・・・・

 

 

 

「うぐっ・・・・・・お、俺・・・・・・ごめん。へん・・・・・・だよな。男が・・・・・・ひっぐ・・・・・・泣くのって・・・・・・」

 

そういいながらも、恭也の目から溢れ出した涙は止まらない。

 

聖は、祐巳と志摩子を両脇に寄せて、三人で恭也を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、恭也が病院に運ばれているころ・・・・・・

 

 

 

「ちっ・・・・・・あの男どうやって俺達を妨害したんだ・・・・・・」

 

憎々しげに舌打ちをすると、スキンヘッドの男は恭也に切りつけられた腕を見る。

 

既に、止血はしたものの手首から先は動かない。

 

「仕方ない。代わりに依頼主だった女を売り飛ばしてツメるぞ」

 

車を走らせて、待ち合わせ場所へ移動した。

 

 

 

待ち合わせ場所には、リリアンの制服を来た女が立っていた。

 

「藤堂志摩子は連れてきたのか?」

 

そういう女の声は、少し電話の声と違う気がした。

 

月の明かりが差し込み・・・・・・ロングヘアの、冷たい目をした女が浮かび上がる。

 

「・・・・・・!?お前・・・・・・誰だ!?」

 

そういうと、オールバックの男は胸元から拳銃を出そうとするが、その腕は拳銃をつかんだまま下にドサッ、という音を立てて落ちていった。

 

懐に手を入れて拳銃を握る間に、美沙斗は刀を取り出し男の腕を切り落としたのだ。

 

「うげっ!?び、びやぁぁぁぁ!!」

 

声にならない声をあげて、オールバックの男はもんどりうつ。

 

「・・・・・・お前らにすべてを奪われた人食い鴉だよ」

 

驚愕の表情を一瞬浮かべた2人の顔は、次の瞬間戦慄が走った。

 

「ひっ・・・・・・ひぃ!!こ、殺されちまう!」

 

一目散に逃げようとするスキンヘッドの男の足に飛針を投げつけ

 

「ぐわっ!」

 

スキンヘッドの男も地面でのた打ち回る。

 

「命だけは助けてやる。だが、すべてを吐いてもらうぞ・・・・・・!」

 

美沙斗は、強い目で男たちを睨むと、携帯を取り出していた。

 

 

 

 

 

恭也はひとしきり泣くと、いつのまにかリスティがそばにいることに気が付いた。

 

「ハイ、恭也。気分はすっきりしたかい?」

 

「・・・・・・リスティさん、いつからいたんですか」

 

恭也は、泣いているところを見られたのが恥ずかしく、憮然としていた。

 

「いやいや、今来たところだよ」

 

「あの、犯人は・・・・・・?」

 

「捕まえたよ・・・・・・。ちょっとすまない。これからは機密事項になるから少し席をはずしてもらえないか?」

 

志摩子たちにそういうと、聖は志摩子と祐巳を連れて部屋を出た。

 

そこで、やっと部屋の片隅に美沙斗がいることに気が付いた。

 

「気づかれてしまったか・・・・・・」

 

「ボクが来る前から美沙斗はいたよ。多分、じっくり見られたんじゃないか?」

 

「う・・・・・・」

 

「いいじゃないか恭也。涙を流すことは悪いことではない。私も恭也のおかげでそれを知ったからね・・・・・・。それに、私の泣くところを見たんだからお互い様だよ」

 

返す言葉もなく、ただ拗ねていると

 

「ふふふ・・・・・・恭也も兄さんに似てきたね」

 

「それは・・・・・・誉められているように聞こえないのですが」

 

「いえてるね・・・・・・まあ、それはそれとして、だ」

 

美沙斗を包む空気が変わった。恭也もリスティも真面目な顔になる。

 

「『龍』のやつらは確保したよ。今回の依頼主と接触しようとしてたところを捕まえた」

 

美沙斗の言葉にリスティも

 

「依頼主だった生徒は今、取り調べ中。誘拐事件とは直接関係無かったけど、脅迫状の件と藤堂志摩子を狙ったことは間違いないね」

 

その言葉に恭也はうなづくと、リスティは思い出したように言う。

 

「それで、今回は依頼主の生徒を捕まえたあと、囮を使って『龍』のやつらを捕まえたんだ。いや〜、リリアンの制服を来た美沙斗は良かったな〜」

 

チャキ・・・・・・美沙斗は小太刀を出してリスティの首元に突きつける。

 

「あ、あはは・・・・・・悪かった美沙斗・・・・・・。でも、まんざらでもなかっただろ?」

 

その言葉に「うっ・・・・・・」と言葉を詰まらせた。

 

美沙斗のリリアンの制服を来た姿・・・・・・美人の美沙斗には確かに似合うだろう、と恭也は想像するが

 

「恭也も・・・・・・あまり想像しないでくれ。恥ずかしいよ」

 

顔を赤くして美沙斗は言った。

 

「まあ、何にしても今回の依頼は終了だね・・・・・・。お疲れ様、恭也」

 

リスティはそう言うと、外にいたフィリスや山百合メンバーを中に入れた。

 

「・・・・・・それで、恭也君。私は聞きたいことがあります」

 

フィリスが、笑顔で迫ってきた。いや、これは決して笑顔なんかではない。

 

「神速・・・・・・使いましたね?」

 

その言葉に、恭也は気が付いた。

 

「そうだ!俺は二段がけまでして神速を使ったんだが・・・・・・どう考えても間に合わなかったはずだ・・・・・・。リスティさんか赤星が助けたのか?」

 

その言葉に一同は「え!?」という顔をすると、赤星が

 

「お前・・・・・・何も覚えてないのか?」

 

赤星の言葉に、そういえば二段がけをしたあとに間に合わないと思った後の記憶が無い。

 

赤星の説明だと、恭也が瞬間移動したかのように志摩子をつかんでいた手を切りつけると、

そのままその男に追い討ちをかけようとした瞬間倒れ、車はそのまま逃走していったとのことだった。

 

恭也は、二段がけをしたあとに、そういえば・・・・・・と思い出したことをつぶやいた。

 

「光・・・・・・光がみえた」

 

恭也の言葉に、思わず一同は首を捻る。

 

「恭也さん・・・・・・大丈夫ですか?」

 

祐巳はそういって、恭也の額に手を当てた。

 

「祐巳・・・・・・すまない、祐巳にそれを言われるとなぜだか無性に悲しくなる・・・・・・」

 

「恭也、その気持ちはわかるけど・・・・・・」

 

聖の言葉に祐巳はそんな!という顔をするが、全員の顔を見回して・・・・・・

 

「みんな・・・・・・酷いよ」

 

祐巳は床に『の』の字を書き始めてしまった。

 

しかし、一人だけ光、と言う言葉を真剣に聞いていた美沙斗は

 

「恭也・・・・・・まさか、『無想』を使えたのかい!?」

 

「美沙斗さん・・・・・・『無想』って?」

 

「恭也は知らないか・・・・・・。恭也、神速の定義はわかるかい?」

 

神速は、集中力を極限まで高めた状態で発動する。

 

時々、プロ野球の選手が「ボールがとまってみえた」という瞬間が、それに当たる。

 

御神の剣士は、それを集中を高めることによって意識的に発動することが出来る。

 

それは、『貫』という相手の視覚や心理の盲点をつく技を極めて初めて使えるようになる。

 

これを使うと、時間が引き伸ばされたようになり、その中を進むことによって通常では考えられない速度で動くことが可能になるのだ。

 

ちなみに、二重かけをすると、今度はその世界に筋肉が矛盾を解決しようとしてリミットを開放し、神速の世界のなかで通常の速度のように動くことが可能になる。

 

「そう。神速はそういう技だったよね・・・・・・。それじゃあ、それを上回る速度を出すにはどうしたらいいと思う?」

 

神速を上回る速度・・・・・・?

 

それを自分は出したと言うのか?

 

しかし、実際に自分はそれをやった。でも、それを覚えていない・・・・・・まてよ、覚えていない?

 

「まさか・・・・・・」

 

「そう。神速は、脳のスイッチ切り替えて身体のリミットを開放する・・・・・・。『無想』というのは、身体の動きに、脳・・・・・・つまり、意識すらついてこれない技だよ」

 

「そんな技を・・・・・・俺が?」

 

「本来、『無想』というのは、『閃』を極めたものが使える技。だから、『閃』にたどり着いた人間がほとんどいないのだがら、それを知るものも少ない。『閃』というものが、そういう意識を超えたものだからね」

 

「そうですか・・・・・・。『閃』にたどり着いてもまだ先はあるんですね」

 

「そうだね。こうなったら私もうかうかしてられないな・・・・・・。こっちにいる間に少し美由希を鍛えておくよ」

 

美沙斗はそう言って微笑むと、お先に、と言って病室を後にした。

 

「俺も・・・・・・もっと鍛錬を積まないと『駄目です!』・・・・・・」

 

フィリスの怒鳴り声が病室に響いた。

 

「恭也君、あなたはその技のおかげで今、ボロボロな状態です!しばらく剣を振るうことは許可しません!」

 

「いや・・・・・・でも1日休むと取り戻すのに・・・・・・」

 

恭也はたじたじになって答えるが、フィリスはにっこり微笑むと

 

「恭也君。あなたはこっちに来る前の定期検診をサボりましたよね?私はすごーーーーーく傷ついたんですよ?信用されてないのかなー、と思ったんですよ?ですから、信用してもらえるよう、身をもって感じていただくつもりです」

 

そう言って、手をワキワキして恭也を見る。

 

天使のような顔をしたフィリスだったが、その瞬間は悪魔よりも恐ろしかった。

 




恐怖、女医のマッサージ地獄!
美姫 「恭也は無事、生還する事が出来るのか!?」
御神の剣士、最大の敵は女医だった!
美姫 「とまあ、冗談はこれぐらいにして…」
うんうん。志摩子もどうやら無事だったみたいで、良かった、良かった。
美姫 「とりあえず、龍の構成員も捕まえて、とりあえずは一件落着」
果たして、次回はどんなお話が待っているのか。
美姫 「楽しみにしてます」



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