「ったく、なんで小娘一人ごときに俺まで連れてくんだよ!」

 

「仕方ないだろ。なんか男が一緒にいるらしいから一応警戒のためだ」

 

金髪に髪を染め上げて、顔面中にピアスをする男が黒髪オールバックの男にがなりたてていた。

 

チャラチャラした金髪の男に対してかっちりしたスーツを着込んだ男。

 

対照的だが、目的は同じだった。

 

「それより、あまり大きな声を出すな・・・・・・周りに聞かれていい話じゃないだろ」

 

「へいへい。それよりも、その志摩子って女を好きにしていいってのは本当だろうな?」

 

「ああ、お前の好きにしろ。だが、他のやつに手を出したり、変な騒ぎは起こすなよ?」

 

「・・・・・・てめぇ・・・・・・調子に乗るのもいいかげんにしろよ?俺に命令すんじゃねぇ」

 

「・・・・・・」

 

「まあいい。リリアンの女ってのを一度やってみたかったんだ・・・・・・へへへ」

 

男たちは、1Fのゲームセンターに入っていった。

 

 

 

その頃、5Fでは・・・・・・

 

「ふむ・・・・・・このボールを投げてピンを倒していけばいいんだな?」

 

「そうそう。で、あのラインの手前で投げないとファウルになってカウントされないから気をつけて」

 

「祐巳・・・・・・私はこの色のボールがいいの。そっちは色が気に入らないわ」

 

「・・・・・・お姉さま、それは16ポンドです。男の人でもそれを使うのは厳しいです」

 

「祥子さま、私達は8〜10ポンドが限界と思われますが・・・・・・」

 

「いいの!私がこれを使うって言ってるのだからおとなしく見てなさい!!」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「いいんじゃないの〜?16ポンド投げて、スッ転ぶ祥子ってのも見物だしね〜」

 

聖が祥子をみて、楽しそうに言った。

 

「・・・・・・わかりました。こんなところで失態を犯すわけにはいきませんですものね。祐巳、その8ポンドの弾とやらをよこしなさい」

 

祥子がいうと、聖は祐巳に「こうやって操縦するのよ」と言う顔をした。

 

「そんじゃ、とりあえず私から投げるね〜。それっ!」

 

聖の投げたボールは、少し右よりから真中へカーブしていった。

 

ガラガランっ!

 

小気味良い音を出して、ピンは右端の一本を残して全部倒れた。

 

「あちゃ〜、ちょっと真中に行き過ぎたか・・・・・・」

 

2投目を、しっかりと残ったピンに照準を合わせて倒すと、SPARE!の文字が画面に浮かぶ。

 

「おー、ロサ・・・・・・聖さま、ナイススペア!」

 

「祐巳、スペアとは2回目で倒したことを言うの?」

 

「はい。1回目で全部倒すとストライクで、次の番の時にボーナスがあります」

 

祐巳は祥子にボーリングのルールを講義している。

 

続いて志摩子がレーンに立った。

 

しずしずと助走をつけて、ボールを転がす。

 

よろよろと、だがしっかりと真中へ向かってボールは転がり、1本目が倒れると綺麗に全部のピンが将棋倒しになって倒れていった。

 

「志摩子、あんたついてるわね・・・・・・」

 

「日ごろの行いがいいからだろう」

 

恭也の言葉に志摩子は赤くなる。あきれた顔で聖を見る恭也に

 

「それってどういう意味よ、恭也」

 

「・・・・・・胸に手を当てて考えてくれ」

 

「それでは次は私ですね。お姉さま。私を良く見て参考にしてください」

 

祐巳は祥子にいいところを見せようと、レーンにたつ。

 

しかし、意気込んだのがまずかった。祐巳は助走をつけて腕を後ろに振ったのだが・・・・・・

 

スポッ

 

ボールがすっぽ抜け、後ろに飛んできた。

 

ドゴンっ、ゴトッ、ゴトッ、ゴロゴロ・・・・・・

 

弾の転がる音が無機質に響き・・・・・・

 

「祐巳・・・・・・参考になったわ。そうならないように気をつけるわね」

 

額に手を当てて、ため息をつきながらそう言う祥子に祐巳は

 

「・・・・・・お姉さまのいじわる」

 

聖の笑い声がホール中に響いた。

 

 

 

気を取り直して、祐巳はボールを投げると、綺麗に右の溝に弾が吸い込まれた。

 

今度こそ・・・・・・と、2投目を投げるも今度は左の溝へ一直線。

 

「祐巳さん・・・・・・大丈夫よ、そのうちいいことがあるわ」

 

言葉を選んで、祐巳を励ます志摩子の言葉に、余計にしょんぼりとする祐巳だった。

 

祐巳の失敗を見て学んだ祥子は、初めてながらもガーターにはならなかった。

 

真中には行かなかったが、1投目は右3本、2投目は左隅の1本を倒した。

 

最後に恭也の番になったときに

 

「ねえ、このゲームで最下位になった人は罰ゲームってのどう?」

 

聖がとんでも無いことを言い出す。

 

「聖さまっ!私の方を見て言わないでくださいっ!」

 

「大丈夫よ、祐巳ちゃん。だって初心者が2人もいるのよ?さすがに勝てるわよ」

 

「聖さま。それは私が敗れるということをおっしゃっておられるのですか?いいでしょう。勝負に参加いたしましてよ?」

 

「志摩子はどうする〜?」

 

「え・・・・・・私は別に構わないですけど・・・・・・」

 

そう言って祐巳の方を見る。

 

「志摩子さんまで・・・・・・いいですよ。やりますよ。やればいいんでしょ・・・・・・」

 

「よし、じゃあ決まりね。罰ゲームは・・・・・・そうね。みんなにジュースをおごる」

 

「おい、聖。俺の意見は聞かないのか・・・・・・」

 

「日ごろの『私に対する』行いの差じゃないのかな」

 

「・・・・・・わかった」

 

聖は、さっきの借りが返せてとても気分がよさそうだった。

 

恭也は気を取り直してピンを見据える。

 

(あそこにボールが行くようにして・・・・・・この角度で入れれば全部倒れるかな)

 

恭也は構えると、綺麗なフォームでボールを投げた。

 

ボールはものすごい速度でピンに向かい、手前で曲がるとピンとピンの間に滑り込む。

 

そのまま、ピンははじけ飛んで他のピンに連鎖する。

 

連鎖はすべてのピンに及び、ピンのあったところは綺麗に何もなかった。

 

「・・・・・・何あれ・・・・・・本当にあんなことできるの?」

 

聖は目を丸くして、恭也を見ていた。

 

 

 

その後、勝負は続いていき、トップはダントツで恭也が走る。

 

第5フレームを終えた段階で恭也はすべてストライクだった。

 

2位は聖と志摩子の争いだった。聖はスペアのあとストライクを取り、その後は1本を残す展開。

 

一方志摩子は、ストライクの後が振るわないものの、不思議とピンアクションに恵まれてストライクは1回おきに3回取っていた。

 

最下位争いは、祥子が4〜5本ずつ倒しているが、祐巳もかろうじて復活したために祥子とデットヒートを演じていた。

 

ここまでのスコアは恭也が3フレームで90、4・5でストライクの表示。

 

聖が66、志摩子は4フレーム目に46の表示で5フレームがストライク。

 

祐巳は26、祥子が23という結果だ。

 

「とりあえず、安全圏にはなったけど・・・・・・恭也には勝てそうもないなぁ」

 

「まだまだですわよ!みてらっしゃい。絶対に追いついて見せますわ!」

 

「うう・・・・・・負けたくないなぁ・・・・・・」

 

「恭也さん・・・・・・すごいですね」

 

「俺は、志摩子の幸運の方がすごいと思うのだが」

 

その後、第6フレームに祐巳はガーターを出してしまった。

 

一度崩れると、ボーリングではドツボにはまることがある。

 

フォームが崩れ、立て直そうと余計な力がはいるのだ。

 

それが祐巳となると・・・・・・そのダメージは倍増された。

 

なんと、第9フレームまでピンに一度もかすることなく、敗北者は決定した。

 

恭也は、第9フレームでストライクを逃してしまうがそれでもスペアを確保し、終わってみれば

 

279という、驚異的な数字を残していた。

 

「・・・・・・恭也、今からでも遅くない。ボーリングのプロになれるわ」

 

「・・・・・・遠慮しておく」

 

2位はなんと志摩子だった。

 

志摩子が圧巻だったのは、投げる方向をミスしても、かってにボールがピンに引き寄せられることだった。

 

そのため、惜しいところでスペアを逃したりしていた聖を追い抜いて137というスコアだった。

 

聖はその1本が響き、136。祥子は初心者にしては善戦の58。

 

そして祐巳は31という、悲惨な成績を残してしまった。

 

 

 

「は〜い、祐巳ちゃん。私はコーラをお願いね〜」

 

敗者に情けは無い。みんなは頼むものを決めると祐巳にいってらっしゃい〜と言って見送った。

 

祥子が、全員分のジュース代をひそかに祐巳に持たせていたのは見逃してあげた。

 

祐巳は、5人分の缶ジュースを抱えて立ち上がると、横から来た男とぶつかった。

 

ぶつかった衝撃で、手元の缶は落ちてしまい、金髪の男のつま先に直撃した。

 

「あ、ご、ごめんなさい・・・・・・!」

 

祐巳が頭を下げて謝るが、その男は「あ?」と言うと、祐巳の髪をつかんだ。

 

「ごめんなさいで済めば警察はいらねぇんだよ・・・・・・どうしてくれんだよ、お前の落とした缶で足の指折れたかもしんねーだろ?」

 

そんなはずは・・・・・・と祐巳は思うが、男が怖くて反抗できない。

 

震えていると、男はいやらしい笑みを浮かべて

 

「よく見れば、結構可愛い顔してんじゃねぇか。俺様にいいことしてくれたら許してやるぜ?へへへ」

 

その言葉に身をこわばらせた。怖くて声も出せない。

 

(怖いよ・・・・・・助けて・・・・・・お姉さま・・・・・・恭也さんっ!)

 

突然、髪をつかんでいた手が離れ、うめき声が聞こえた。

 

恐る恐る前を見ると、男の腕が恭也に捕まれていた。

 

「いってぇな、何しやがる!」

 

男は手を振り解くと、すばやく後ろに下がって恭也を睨みつけた。

 

恭也は鋭い眼光で男を見やると

 

「何があったか知らないが、お前の行動は許せるものじゃないな」

 

「うるせぇ!気取ってやがるとぶん殴るぞ!」

 

そういいながら、男は指輪をしたこぶしを恭也に振るった。

 

恭也はそれを交わし、男の足を払う。

 

バランスを完全に失って顔から床に倒れると、男は鼻血を出しながら叫んだ。

 

「この野郎・・・・・・ぶっ殺してやる・・・・・・」

 

金髪の男が懐に手を入れようとすると、横に来たオールバックの男がその手をつかんだ。

 

「何やってるんだ!騒ぎを起こすなといっただろ!」

 

そう言って、金髪の男を引きずっていく。

 

オールバックの男は、恭也を見やり、後ろから駆けつけてきた志摩子たちを一瞥すると

 

そのままわめく男を連れてその場を後にした。

 

絡んできた連中がいなくなると、恭也は一息ついて祐巳を見る。

 

「もう大丈夫だ」

 

恭也は、優しい目で祐巳を見る。

 

祐巳は、恐怖が去ったことで緊張の糸が切れ、しゃくりあげた。

 

「う・・・・・・っく・・・・・・ひっく・・・・・・」

 

恭也は髪をなでると、祥子の方を見た。

 

祥子は恭也を見てうなづくと、捕まれたせいで乱れてしまった祐巳の髪を梳かし、トレードマークのツインテールを結いなおした。

 

そのまま、祐巳に祥子の方を向かせてぽん、と背中を押すと

 

祐巳は、祥子の胸の中で泣いた。

 

祥子は泣きじゃくる祐巳を、優しく抱きしめた。

 

 

 

「お姉さま・・・・・・ご迷惑かけて申し訳ございませんでした」

 

祐巳は落ち着くと、涙でぬれてしまった祥子の上着を見て頭を下げた。

 

「いいのよ・・・・・・。それより、恭也さんにお礼を言わないとだめよ?」

 

母親のように祐巳を諭すと、祐巳は助けてもらった礼を言ってなかったことに気が付いて

 

「ありがとうございました」

 

と、少し恥ずかしそうに恭也にお礼を言った。

 

恭也は「ああいうやつから護るために、俺の力はある。だから気にするな」と言って、歩き出した。

 

聖はその恭也の背中を見て「あらあら、照れちゃってまぁ」と茶化すと、恭也は少し早足になった。

 

 

 

その夜・・・・・・

 

金髪の男はオールバックの男と別れたあと、いらだっていた。

 

「ちきしょう、あのやろう・・・・・・ふざけやがって!」

 

憎々しげに、ごみ箱を蹴り飛ばした。ごみ箱は倒れ、中の空き缶が散らばった。

 

それでも一向に収まらず、乱暴に携帯電話をプッシュすると、電話かかけ始めた。

 

「くそっ・・・・・・こうなったらあの男の目の前で全員ひん剥いてやるか」

 

数回のコール音のあと、電話がつながった。

 

「おい・・・・・・俺だ。お前ら明日集まれるか?・・・・・・ああ。・・・・・・ついでにビデオカメラも用意しておけ・・・・・・ああ、いくらでもやっていいぞ」

 

電話を切ると男はタバコを取り出し、一気に吸い込むと一息ついた。

 

「こうなったらあの女の依頼なんぞ知ったこっちゃねぇ。あの男の周りの女、アイツの前で全部マワしてやるぜ・・・・・・」

 

その様子を、物陰に隠れながら見ていたオールバックの男。

 

ちっ・・・・・・と舌打ちをするが、電話を取り出すと暗記していた番号をプッシュする。

 

「・・・・・・俺だ。そっちの方はもう捌けたっていってたな。次にいい獲物を見つけたんだが・・・・・・そう。リリアンのお嬢様だ。上玉だから高値で捌けるはずだ。あれを捌けばおそらくノルマ達成するだろう。・・・・・・明日、乱闘騒ぎに乗じてさらうつもりだ。それと、あいつが警察に捕まりそうになったら始末を頼む。・・・・・・俺のことはほとんど知らないが念のためだ。それじゃ頼んだぞ」

 

通話を切ると、自分の手の甲をみた。

 

「ちっ・・・・・・ボスも人使いが荒いぜ」

 

オールバックの男は、女からの依頼書を取り出すとそれに火をつけ、燃え尽きるのを待たずしてその場を後にした。

 

「ガキの依頼に付き合ってるひまは無くなったんでな。悪く思うなよ」

 

炎の明かりによって一瞬、男の手の甲に彫られた刺青が浮かび上がっていた。

 

 

 




いやー、恭也は運動神経が良いからな〜。
美姫 「志摩子は、運よね」
うんうん。
美姫 「……」
ち、違うぞ、今のは、別にしゃれのつもりで言ったんじゃなくて。
美姫 「はいはい」
と、所で、怪しい男の登場〜。
美姫 「こっちが黒幕かしら」
さあ、どなんだろうね。
どっちにしろ、次回もまた楽しみ〜。
美姫 「そうよね」
次回も待ってますね〜。



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