「二人ともずいぶんと大胆だね〜。聖はともかくとして志摩子さんまでね〜〜〜」
藤代の言葉に笑う聖と、恥ずかしそうに顔を赤く染める志摩子。
「志摩子は結構言うことは言うよ。普段おとなしいからあまりそう見えないだけなんだけどね」
聖の説明にふ〜ん、と志摩子を見ると
「それにしても・・・・・・はぁ、あたしってば自信無くしちゃうな」
2人の身体に目をやってから自分の身体を見て、藤代はため息をついた。
「な〜に言ってるの。私はそうでもないよ。でも、確かに志摩子は・・・・・・ふむ、ちょっと失礼」
そういうと、聖は後ろからいきなり志摩子の胸をつかんだ。
「お姉さまっ!!!」
聖のあんまりと言えばあんまりの行動に志摩子は湯船の中に避難した。
「う〜ん、やっぱり最初に触るのは恭也くんの方がよかったか・・・・・・」
「もう・・・・・・知りません!」
志摩子は真っ赤な顔をし口を尖らせてぷいっと横を向いた。
「あ〜あ、怒らせちゃった。聖、ちょっとやりすぎよ」
「志摩子〜、ごめんね〜。お姉さまが悪かったわ〜」
まるで反省してないような口調で言うが、志摩子は振り返ると
「・・・・・・仕方ないですね」
と、少し機嫌を直した。
「で、由紀ちゃんはどうなの?」
「ん?」
「ん?じゃないでしょ。祐麒くんとはどうなの?」
突然話を振られた藤代は、祐麒との関係にん〜、と考えるしぐさをすると
「そうね、なんだか可愛いな、って感じがしたんだけど、思ったよりかっこいいかもしれない」
うんうん、と自画自賛していると
「で、好きなの?それともそうじゃないの?」
「そんなのわからないわよ・・・・・・だって会ったのは今日が初めてなのよ?」
「その割にはずいぶんといい感じだったじゃない〜?柏木の魔の手から救ってたり・・・・・・なんか頼りになるお姉さんみたいだったよ?」
「そうなのよね〜。なんか祐麒くんって母性本能をくすぐるのよね」
「でも、祐麒さんは祐巳さんと違って落ち着いている方でしたね」
志摩子がいうと、藤代も「そうなのよね〜」と言った。
「それはそうでしょう。祐巳ちゃんがあんな感じだから祐麒くんはしっかりしてないと収集着かないでしょ」
そういうと、3人は祐巳の珍プレーを思い浮かべて楽しそうに笑った。
「クシュンッ」
「どうしたの、祐巳。湯冷めしたのかしら・・・・・・?」
「違うわよ。どうせ聖が祐巳ちゃんの話でもしてるんでしょう」
さすが蓉子。
そのころ、恭也たちの部屋では・・・・・・
「さあ、4人で川の字になって寝ようではないか。ユキチ、おいで〜」
さわやかに両手を広げている青年がいた。年頃の乙女ならば迷わず胸に飛び込むだろう。
だが、誘われているのは年頃の男性である。性別が違うだけで一気に怪しくなる。
「恭也さん・・・・・・勇吾さん・・・・・・俺をはさんで寝てください・・・・・・」
ともすればこちらも怪しい発言なのだが状況が状況、背に腹は変えられない。
恭也と赤星は顔を見合わせて苦笑した。
「う〜ん、勇吾君と一緒に寝るというのもありだな・・・・・・」
真面目な顔で勇吾を見た柏木に、赤星は3秒で祐麒を差し出し
「お代官様、どうぞお納めください」
「ゆ、勇吾さん・・・・・・裏切り者ーーー!」
勇吾の裏切りに、恭也に助けを求めるのだが
「ふむ、少し身体を動かしてくるか」
そう言って、武器を手にとって部屋を後にした。
恭也が部屋を出るときに見たものは、目を輝かせている柏木と、出て行こうとする恭也に最後まですがろうとする友と祐麒の姿だった。
「ふぅ・・・・・・」
1時間ほど身体を動かしてから家の中に戻ると、志摩子と聖がリビングにいた。
「どうしたんだ、2人とも・・・・・・」
「それがねぇ・・・・・・」
聖の話はこう言うことだった。
恭也が外で鍛錬をしている間、いったんは柏木も落ち着いたのだが、赤星が寝たあとに柏木は、隣で寝ていた祐麒を抱き枕のように抱いたところ、祐麒が絶叫を上げたために、隣の部屋にいた聖と藤代が部屋に殴りこんだのである。
「で、由紀ちゃんが廊下で柏木を正座させてお説教してるのよね〜」
「なるほど・・・・・・ところで赤星は?」
「勇吾さんでしたら・・・・・・あの騒ぎの中ぐっすり眠っていらっしゃいました・・・・・・」
「赤星、お前は地震の少ないところに住まないと命に関わるかもな・・・・・・」
恭也が顔を顰めてそう言うと、廊下で説教しているならここに何でいるのか疑問になった。
「でも、それなら部屋にいればよかったんじゃないか?」
恭也が疑問を口にすると、聖はニヤっと笑って説明を始めた。
「うふふ・・・・・・それがね、志摩子ったらね〜」
「お、お姉さま・・・・・・いったい何を」
「部屋に恭也くんがいないもんだから、恭也さんをどこにやったんですか!?って柏木の肩を揺らして問い詰めたのよ〜。あのときの顔は怖かったなぁ・・・・・・」
「お姉さま!そ、それを言うならお姉さまだって、外へ出て行ったって柏木さんが言った時、真っ先に家の外に飛び出そうとしてたではないですか!」
「・・・・・・恭也くん、乾いたでしょう。何か持ってきてあげるね」
志摩子に痛いところを突かれたが、いなし方はさすがに聖が上手だった。
恭也は心配した2人に素直に謝った。
「すまない。毎日朝と夜に欠かさずやらないと、変な感じがするんだ」
「い、いえ。別に恭也さんが悪いわけでは無いので、お気になさらないで下さい・・・・・・」
「そうか・・・・・・。まあ、柏木さんもあまり人をからかい過ぎるのも良くないな」
「・・・・・・あれはからかっているで済むのでしょうか」
「ん〜、アイツにとってはスキンシップ程度でしょ。はい、恭也くん。冷たい緑茶だよん」
そう言って戻ってきた聖は、恭也にアイス緑茶を。志摩子と自分には暖かい紅茶を持ってきた。
「ありがとう・・・・・・。でも、よく飲みたいものがわかったな」
「んー、そうね。アイスかホットに関わらず、お茶が好きだと思ったし、身体動かしたあとだから冷たいほうがよかったでしょ」
ウィンクをしてそういうと、さらに聖は
「それにね〜。恭也くんは縁側に座って日向ぼっこをしながら渋いお茶をすすっているようなイメージがあるのよね」
「・・・・・・聖さん、俺の家にカメラを仕掛けてないか?」
ずばり言い当てられて恭也は驚くが、志摩子や聖にとっては簡単に想像がついた。
「それよりさ・・・・・・恭也くん。そろそろさんづけはやめない?私達ってそんなに浅い仲じゃないでしょ〜?」
恭也のあごに手を当ててそう言うと、聖は自分の顔を近づけて行こうとする。
「ちょっ・・・・・・志摩子さん、聖を何とかしてくれ・・・・・・」
聖のおでこに手を当てて抑えながら助けを求めるのだが、志摩子は恭也に問い掛けられてもそっぽを向いてしまう。
「志摩子さん・・・・・・?」
もう一度言うと、志摩子は口を尖らせて、恭也を横目で睨んだ。
「・・・・・・志摩子が拗ねちゃったよ。恭也くん、どうしたらいいかな?」
聖は、恭也にいたずらな笑みを浮かべて問い掛けた。
「どうしたらといわれても・・・・・・あっ」
恭也は、ようやく気が付いた。
「・・・・・・志摩子」
恭也が呼び捨てで呼ぶと、「はい・・・・・・」と振り向いた志摩子の顔は赤くなっていた。
「ああ、そうだ恭也。私も呼び捨てで呼ぶからね。それとね・・・・・・」
聖は、恭也にアドバイス、と言って耳打ちした。恭也はふむ・・・・・・と頷いたが、志摩子には見えていた。
聖に悪魔の角と尻尾、さらには翼まで生えていたことを・・・・・・。
翌朝
朝食の時間になり、各自席に着く。
そこで、恭也と赤星、藤代は思わず目を疑った。
祥子が寝癖の着いた状態で、ほけーっとした状態で現れた。
祐巳が必死に祥子の髪を梳かし、席に促す。
そんな祥子に3人は驚いていると
「ああ、祥子はすごく朝に弱いのよ」
と、蓉子が説明した。でも、一生懸命祥子のために動く祐巳はほほえましかった。
祥子もようやく目覚めて、朝食を食べ始めた。
朝食を食べていると、今度は目覚めた祥子が祐巳の世話を焼いている。
その光景を、皆は暖かく見ていた。
「さて、みなさんこのあとは何か予定はございますか?」
「あ、祥子。私は勇吾さんと由紀さんを自宅の道場に招くように言われてるの」
「わかったわ。勇吾さんと由紀さんは一回家に戻ってから行かれますか?」
「あー、そうね。道具とか持ってこなきゃだし」
「わかりました。それでは一度勇吾さんと由紀さんの家に寄ってから令の家に送るよう、伝えておきます」
「悪いね、祥子。助かるよ」
令がそう言うと、別に気にしなくていいわ、とそっぽを向いた。天邪鬼だが、みんなそれが祥子の照れ隠しと言うことはわかっている。
「僕はユキチを家に届けてくるよ。・・・・・・紅薔薇さまに黄薔薇さま、どうかしたのかい?」
「ええ。どうかしましたわ。あなたが素直に祐麒さんを送り届けると思えないので」
江利子がそう言うと、蓉子も
「祐麒くんに何かあったら祐巳ちゃんが泣いてしまいますから。とても不本意ではあるけれどあなたの車に同乗させてもらうわ」
そう言って、祐麒をはさんで柏木に触れさせないようにする。
祐麒は、紅薔薇さまと黄薔薇さまを見て、手をすり合わせて拝んでいる。
リリアンを代表する薔薇様を仏像のように拝むのをみて、祐巳はものすごく恥ずかしくなった。
「ん〜、残りの人は今日空いてるのよね〜。そんじゃ、せっかくだし遊びに行こうか」
聖はそう言って、残った4人を見回す。
4人とも特に用は無かったので、聖の提案に賛成すると
「恭也。どこがいいかな?」
「む・・・・・・俺はここの娯楽施設は良くわからないな・・・・・・。志摩子はどうだ?」
「私もあまり知らないんですけど・・・・・・」
その3人のやり取りに、祥子が
「お二人はいつの間にかずいぶんと恭也さんと親しくなられたようですね」
と言うと、恭也は祐巳に向かって
「祐巳はこの辺でいい場所知ってるか?」
恭也は何気なく祐巳に話を振ったのだが・・・・・・
祐巳は、彫刻のように固まっている。
「祐巳・・・・・・?どうしたんだ?」
そういって祐巳の顔を覗き込む。
彫刻の顔が真っ赤に染まり、湯気が出てくるくらいに熱くなっている。
ちなみに、祐巳の頭の中はパニックで、パンク寸前である。
「ふぇ・・・・・・えっえっえーーーーー!!?」
ドアップで瞳に映った恭也の顔に、石化が解けると、町中に響くのではないかと言うような大声をあげた。
「祐巳・・・・・・落ち着きなさい。恭也さんもいきなり名前で呼んだら祐巳もびっくりしますわ」
祥子は困り顔で恭也にそう言うと、恭也は聖の方を見て
「む・・・・・・祐巳は呼び捨てで呼んで欲しがっていると・・・・・・ぐむむっ」
聖は慌てて恭也の口をふさぐのだが、時既に遅し。
恭也の発言に、祥子と祐巳は聖を見て
「白薔薇さまは少々お戯れが過ぎるようですね・・・・・・せっかくですからもう一泊されませんこと?私の部屋にお通しいたしますわよ?」
「お姉さまもこう言われていますし、いかがですか?紅薔薇さまもきっと来てくださいます」
二人とも、貼り付けたような笑顔を見せ、聖を威嚇する。
「あ、あはは・・・・・・。さ、さあ、そろそろ行こうか。みんなの荷物も一度降ろさないとだし」
そのまま、車の方へ逃げていってしまう。4人は聖がいなくなるとため息をついた。
「祐巳・・・・・・大丈夫だから。私がついてるわ」
「お、お姉さま・・・・・・天国に行っても私を妹にしてくださいますよね・・・・・・」
「もちろんよ。私の妹は祐巳だけよ・・・・・・」
聖の車にいざ乗ろうとしたところ、祐巳が震えてしまったので、祥子は祐巳をなだめながら車に乗り込んだ。なだめる、と言うよりは覚悟をして、だが。
恭也は、助手席を選んで乗り込むと聖は、どんでもないことを抜かした。
「恭也。助手席って一番死亡率が高いんだよ」
「頼むから、事故が起こったときのことを考えず起こさないことを考えてくれ・・・・・・」
「恭也さん。大丈夫です。きっとマリア様が守ってくださいますわ」
そういう志摩子の目は・・・・・・はるか遠い空を見ていた。
「はーい、みなさん到着〜・・・・・・って、どったのみんな?」
「・・・・・・」
無言で聖を見る4人・・・・・・。
運転中、祥子は聖の運転に少し酔ってしまった。祐巳はおびえていたのだが、お姉さまの一大事とあってはトラウマも何のその。必死に祥子を気遣っていた。
志摩子は手を胸の前で組んで必死に祈っていたが、恭也が「大丈夫だ」というと、落ち着きを取り戻して前の座席から伸ばした恭也の手を握った。
そんな様子にまるで気がつかず、聖は楽しそうに運転をしていた。
「お姉さま・・・・・・帰りはバスで帰らせていただきます」
志摩子の言葉に、被害者一同は強く同意した。
「さてと・・・・・・それじゃあどこに行こっかー」
祥子の具合が回復したところで、祐巳は辺りを見回して
「そうですね・・・・・・。この辺りですと、ボーリング場がすぐ近くにありますね・・・・・・」
「ボーリング・・・・・・?祐巳、なんなのそれは」
祥子の言葉に全員が固まる。
「あの・・・・・・お姉さま。ボーリングをされたことがないんですか?」
「・・・・・・それは普通無いと思うが」
意外なところからの返事に、祐巳が驚くと
「普通、この若さでボーリング作業をやる人がいるわけないだろう。重機の免許だって取れないだろうしな」
その言葉に今度は聖と志摩子が固まる。
「ボーリングて・・・・・・祐巳、アルバイトするつもりなの!?」
祥子が恭也の言わんとすることを理解して祐巳に問い詰める。
祐巳は、恭也の言った『ボーリング作業』の意味が理解できないのだが、祥子の言葉には反応できた。
「いえ、私達は遊ぶ方です。それと、ボーリングって家族とかで行ったりしませんか?」
祥子と恭也にそれぞれ言葉を返すが、まるで3人の会話がかみ合っていない。
聖はお腹を抱えて大笑いし、志摩子はどうしたものかと戸惑っている。
その2人の様子を見た恭也たちは、自分達の置かれている立場がどうなっているのか整理してみた。
(つまり・・・・・・祐巳はアルバイトでなくボーリング作業で遊ぶ・・・・・・と言っていた。それに家族と行ったりするってことは・・・・・・)
「ふむ、つまり俺達は温泉でも掘るのか・・・・・・?」
恭也の言葉に、志摩子までもが笑い始め、聖が「お願い、それ以上笑ったら死んじゃう」と、恭也の肩に手を置いて説明を始めた
「・・・・・・それならそうと最初に言ってください!」
聖が、「ボーリング」について説明すると、祥子はそう言って逆ギレした。
「でもさ〜、まさかボーリングといってボーリング工事の方を思い浮かべるとは思わなかった」
「・・・・・・あまりそういうところに行った事無かったんだ」
恭也も拗ねた感じで言うと、聖はまだ収まらないのか再び笑い出した。
「そして、祐巳ちゃんはもっと勉強したほうがいいね、と」
「・・・・・・それを言わないでください」
一人だけ『ボーリング作業』の意味がわからなかった祐巳。父親は設計事務所の社長である。
きっと、このことを知ったら父は嘆くだろうと祐巳はがっくり肩を落とした。
「お姉さま・・・・・・そろそろ行きませんか?その・・・・・・周りの目が少々・・・・・・」
聖は、周りを見回すと「おー、ねーちゃん達面白かったぞー」とか「アンコール!」とか言う声と共に、人だかりが出来ていた。
どうやら自分達を、路上漫才師とでも思っているようだ。
恭也達は顔を真っ赤にして、囲んでいる人から逃げるように足早にボーリング場へ向かっていった。
その人だかりの中で、一人だけ笑ってなかった人物がいたことに誰も気がつかなかった。
pi pi po pa po pi pi・・・・・・
携帯のボタンをプッシュして耳に当てると、コール音が響く。
5回コールがした後、相手側が電話に応答した。
「もしもし・・・・・・M駅から5分くらいのボーリング場にいたわ。・・・・・・ええ。なるべく人のいないところでお願いね・・・・・・主の名において祝福がありますように」
電話を切ると、女はポケットの中でロザリオを握り締めた。
(私の・・・・・・私だけのマリア様・・・・・・あなたこそが薔薇にふさわしい)
目を閉じ、想い人の顔を浮かべ・・・・・・その場を後にした・・・・・・。
サービスシーンあったな!
美姫 「何を嬉しそうに!」
いてててっ! 頬を引っ張るな。
美姫 「まったく、この馬鹿は」
つ〜。
美姫 「さて、最後に出てきた携帯電話の主は…」
果たして、どんな事が起こるのか!?
美姫 「次回も待ってます」