「志摩子・・・・・・なんで・・・・・・なんでっ・・・・・・!」
聖がベッドで眠る志摩子に泣きついている。
失態だった・・・・・・。
1週間、志摩子が襲われることの無いように下校時も背後から気づかれないように見ていた。
犯人に動きもなく、小笠原邸にいる間はほぼ完全に油断していた。
恭也は自分のうかつさを悔やんだ。自分の未熟さに涙が出そうだった。
「う・・・・・・ん・・・・・・」
ベッドに寝かされていた志摩子から声がした。
恭也が志摩子を見ると、なんと志摩子の目が開いてこちらをみた。
「志摩子さん・・・・・・」
「・・・・・・恭也さん・・・・・・?お姉さまも・・・・・・どうされたのですか?」
「志摩子さん・・・・・・大丈夫なのか!?」
「え?ええ。もう身体の調子はだいぶよくなりましたが・・・・・・」
話が・・・・・・かみ合わない。
「ぷっ・・・・・・くっ・・・・・・」
そのとき、ベッドに伏して泣いていたはずの聖から笑いをこらえる声が聞こえた。
「・・・・・・え?」
恭也は状況が飲み込めないでいると、笑いをこらえていた聖が大笑いした。
「あーーーーーっはっはっはっ・・・・・・!も〜駄目。くっ苦しいっ!」
「もう、聖・・・・・・あなたが笑ってしまったら台無しじゃない・・・・・・」
声に振り返ると、さっき血相を変えて恭也に駆けてきた蓉子がいたずらが成功したような顔をしていた。
部屋には、同じように笑いながら入ってくる面々・・・・・・それで恭也は自分がはめられたことを知った。
「・・・・・・いくらなんでも、冗談が過ぎるぞ」
「ごめんごめん・・・・・・ところで恭也くん。手にもっているのは一体何かな?」
恭也は、はっとした。自分の手には、左に一刀、右には落としてしまったが八景がある。
聖は深呼吸をすると、覚悟を決めて恭也に向き直り
「あのさ・・・・・・ごめん。私、恭也くんのかばんの中にある封筒・・・・・・みたんだ」
聖は、申し訳無さそうに恭也に告白した。
かばんに入った武器と、その護衛依頼書と、自分達の名簿。
聖が、困って蓉子に相談したこと(泣きついたとは死んでも言わない)。
そして、恭也の口から事情を説明してほしいこと。
「・・・・・・そうだったのか。すまない。迷惑をかけた・・・・・・」
恭也は謝ると、一人だけ状況を理解していない志摩子が
「あの・・・・・・一体どういうことなのでしょうか・・・・・・」
その言葉に恭也は、「一度、リビングに移動しよう」と言うと、皆を促した。
「隠していて申し訳なかった。俺は、赤星や藤代と違って、交換留学による留学じゃなかったんだ」
恭也は、依頼書と名簿。そして、脅迫状の写しをテーブルに広げる。
脅迫状の内容を見て、一同は顔がこわばった。
「今回、俺は脅迫状の内容から、狙われている人物とそれに深く関わる人間の護衛としてこの学校にきたんだ。赤星や藤代を一緒に指名したのは、それを疑われないためだと思う」
その言葉に、一同は神妙な面持ちで恭也の顔を見た。
「俺は、高校に通いながら護衛の仕事をしていて・・・・・・俺の一族は御神流という剣術を代々後世に伝えることによって、その仕事を生業にしてきました・・・・・・」
恭也はそこまでいうと、少し悲しい顔をして
「とは言っても、仕事の内容は護衛から暗殺まで・・・・・・一族は依頼を受けてきました。だけど、一族の結婚式が執り行われるときに、御神の一族は爆弾で全滅しました。生き残ったのは俺と父、それと叔母にその娘の4人だけでした・・・・・・」
恭也の凄惨な過去を聞いて、皆は顔をこわばらせた。
「うちの父は、それでも護衛の仕事を続けた。主に、自分の大事な友人を護る仕事を中心に・・・・・・。それが、自分の存在する理由だ、と言って・・・・・・そして、その父も爆弾から友と・・・・・・その娘を護って亡くなりました」
「それから、俺は父が遺した剣を取り、父が護りたかったものを護るために剣を振るい、美由希・・・・・・叔母の残した娘と共に自分達を鍛えました」
「俺のこの剣は、決して人に誇れるような綺麗なものではないです・・・・・・この剣は本来、人を救う剣ではなく人を殺すための殺人剣です・・・・・・。だから、出来ることなら自分のことを知られずに仕事をまっとうしていきたいと思い、今まで隠してました」
「だから・・・・・・私にあのことを言わないでほしい、と言ったんですね・・・・・・」
志摩子が、夜に鍛錬を見たときに恭也が言ったことを思い出して言う。
「はい・・・・・・」
「なんで・・・・・・隠してたのよ」
それまでうつむいていた聖が口を開いた。
「それは・・・・・・仕事上の守秘義務もありますが・・・・・・知られたくなかったんです。みなさんが、俺のことを知ったら、きっと怖くなって今までのようにやっていくことが出来なくなってしまうと思いました。例え仮初だとしても、それが壊れてしまうのがつらくて・・・・・・」
恭也の言葉に驚いた。
今まで恭也は年齢よりずっと大人で落ち着いた雰囲気を持っていた。
だが、心の中にそんな悩みを抱えていたなんて・・・・・・。
それを聞いて、聖は自分と同じことを思っていた恭也を見て苦笑した。なんだ。そうだったのか、と。
蓉子が、聖の方を向いて「よかったわね」と言っているような顔をしていた。
リビングに、一瞬やわらかい空気が流れた。
だが、パシンッ・・・・・・という音に一同は音の方向を見た・・・・・・。
志摩子が涙を浮かべて、恭也の頬を叩いていた。
「恭也さん・・・・・・あなたは何もわかってない・・・・・・そうやって人を護って・・・・・・何も言わないで去っていくつもりだったんですね・・・・・・」
恭也は何も答えない。きっと、無意識のうちにそうするつもりだったのだろうか。
「そのとき、残された人のことを考えたことがありますか?あなたが助けたこと・・・・・・あなたに優しくされたことを忘れられると思いますか!?」
志摩子が、感情を剥き出しにしている。こんな志摩子を誰も見たことがなかった。
「・・・・・・俺は、護ることしか出来ないから・・・・・・自分が存在できる理由はそれだけなんです」
「違います!例え恭也さんが剣を持ってなくても恭也さんは恭也さんです!」
その言葉に恭也も、自分で言っている志摩子も驚いた。
それは、自分が今まで悩んできたことでもあった。
『コンナワタシデモ ヒツヨウトシテクレルバショガアルノナラ・・・・・・』
聖に対して言った言葉だった。
−白い羊の群れにいる黒い羊のような自分−
今だからわかる。思い込んでいたのは自分だけだった。
恭也もそう。そして、群れというのは恭也にとってすべての人間・・・・・・
志摩子は、自分がお寺の娘であること。
それを隠しつづけて、知られたらここを去ろうとしていたこと。
大事なものを手に入れて、自分が変われたこと・・・・・・
志摩子は、自分が隠しつづけてきたことをすべて恭也に話した。
「だから・・・・・・」
存在意義がない、なんてありえない
だって、私はこんなにもあなたが・・・・・・
「あの〜、志摩子?ひょっとして私達のこと忘れてない?」
聖の言葉にはっ、としてわれに返ると、みんなが志摩子を見ていた。
そこでやっと、自分がとんでもないことをしていたことを思い出して
「えっ、そ・・・・・・その、あの・・・・・・」
顔に火がついたように真っ赤になり、頭の中がパニックになった。
(わ、私・・・・・・どうしよう・・・・・・)
どうしたらいいかわからないでオロオロしていると、恭也が志摩子の頭をなでて
「ありがとう・・・・・・俺は、ここにいていいんだよな?」
「あったりまえじゃない〜」
そう言って、聖が恭也に抱きつく。
「あ〜〜〜〜〜!」
祐巳がそれを見て大声をあげると、今度は視線が祐巳に集中した。
しまった!と思うがもう遅い。時間は巻き戻すことは出来ないのだ。
祐巳の行動と、そのあとの百面相で、自分が恭也に惚れてしまっていることを察した『恭也以外の』人々だった。
「大丈夫よ〜、恭也くん。おねーさんがずーーーっと一緒にいてあげるからね〜」
恭也に抱きついたままそう言う。
それに赤くなった恭也を見て、志摩子は恭也のわき腹をつねり上げる。
恭也が痛がって飛び上がるのをみて、リビングは笑いの渦に包まれた。
ああ、そうか・・・・・・こんなにも暖かいんだな・・・・・・
恭也は、久しぶりに心の安らぎを覚えた。
「それで、だ。志摩子さんが狙われているようなんだ」
ひとしきり笑ったあと、恭也は今回の依頼内容を話し始めた。
「どうやら、外部による宗教団体の仕業ではないだろう、ということまではわかったのだが、そうなると犯人がリリアン内部の人間ということになりそうなんだ」
「内部・・・・・・って、リリアンの生徒だってこと?」
令が驚きのあまり恭也に聞き返す。
「脅迫状の内容から見て、この文をみた学園長がなんらかのことを志摩子さんに告げると思ったんだろう。志摩子は、自分のことでリリアンに迷惑がかかると知ったらきっとここを去ると思ったんだろうな」
「なぜそんなことをするのか理解に苦しむわ」
祥子は吐き捨てるようにそう言ったが
「きっと、志摩子さんが1年生で白薔薇さまとなるのに気に入らない人間がいるのね。かといって、選挙の結果を見ても多くの人間が志摩子さんを推しているのは明白。それで、志摩子さんを学園そのものから追い出そうとしたんじゃないかしら?」
由乃が推理するようにそう言うと、それに江利子が疑問を投げた。
「でも、それなら何でそのうわさを広めようとしないのかしら?普通、志摩子がそれを気にしているのがわるのなら、噂を広めるだけで十分志摩子を追い立てられるはずよね・・・・・・?それをしないっていうのは少々解せないわ」
確かに。脅迫状なんていう手段を取らずとも志摩子に危害を加えることは出来るはずだ。
その疑問に、藤代は口を開いた。
「ねえ・・・・・・みんながこの噂を耳にしたら・・・・・・どうすると思う?当然その噂の元凶を探るんじゃないかしら?」
一同はうなづく。その噂を持ち出した人間を許さないだろう。
「その人ってきっと、志摩子さんに何かしらの恨みを持ってるけど、志摩子さんを大事にする人が近くにいるから・・・・・・噂を流せないんじゃないかしら?」
なるほど、と思った。確かに、その友人の耳に入ったりしたら、今度は自分に返ってくる。
「でも、問題は志摩子さんが恨まれるような人じゃないことですね・・・・・・」
それなのだ。志摩子は、間違っても人に恨まれるようなことはしていない。
10人に聞けば10人が志摩子さんの人柄をたたえるであろう。
「そうすると、信心深い敬虔なクリスチャンの仕業・・・・・・ということになるのかしら?」
志摩子の家柄を何かの理由で知って、異教徒なのが気に入らない。そういうことなのだろうか。
「まあ、何にしても志摩子さんを狙う理由にはならないがな・・・・・・」
恭也の言葉に、皆はそのとおりだと思った。
「あっ!」
聖が突然声をあげた。
「聖、何か思い当たることがあったの!?」
蓉子がみんなの言葉を代表する形で聖に詰め寄る。
「・・・・・・お風呂入ってなかった」
しまった、という顔で言う聖に全員がっくりと力が抜けていった。
遂にばれてしまった恭也の正体。
美姫 「だけど、皆の態度は変わらなかった」
良かった、良かった。
美姫 「後は、事件の犯人を探し出す!」
次回はどんなお話になるのか。
美姫 「入浴シーンかしら?」
おお、読者サービス?
美姫 「さあ、どうかしらね」
兎も角、次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」