そんなこんなで夜も10時を回ったのでパーティーはお開きになった。

 

さすが小笠原家。どこにいたのか使用人が会場を撤収していく。

 

「それでは、順番にお風呂にしましょうか。順番はどうします?」

 

祥子がみんなに問い掛けると

 

「私たちの部屋は最後でいいよん。志摩子も疲れてるみたいだったし」

 

「そう。それなら私たちから先にいただこうかしら」

 

その結果、黄→紅→男→白という順番になった。

 

「さっちゃん。この人数で一人ずつ入ると遅くなってしまうからある程度まとめていけるかな?」

 

「そうですわね。多分4〜5人くらいまでなら一緒に入れると思いますけど・・・・・・」

 

柏木と祥子の会話を聞いて、庶民たちの言葉

 

「世界が違うよな・・・・・・祐巳」

 

「言わないでよ・・・・・・」

 

「あたしたち、やっぱり場違いなところへ来たんじゃないかしら」

 

「だよなぁ・・・・・・。5人一緒に入れるってどれくらいなんだ・・・・・・」

 

「俺には、慣れた様子で聞いている他のメンバーがすごいと思う」

 

祐麒・祐巳・藤代・赤星・恭也は5人集まり、小市民団を形成していた。

 

 

 

「絶対嫌だ!」

 

部屋へ戻り、恭也たちはくつろいでいたのだが、柏木の発言に祐麒が反論した。

 

『時間短縮するために、2人ずつ一緒に入ろう』

 

自分を見ながら柏木にそう言われ、祐麒は身の危険を強く感じた。

 

「とは言っても、他の人は一緒に入っているのに僕たちだけ一人ずつでは悪いじゃないか」

 

柏木の正論に、祐麒は反論することが出来ない。

 

「う〜ん、じゃあ4人一緒に入ればいいんじゃないか?かまわないだろ、高町」

 

「む・・・・・・」

 

恭也は、自分の体にある無数の傷を見られるのが少々はばかられた。

 

「お願いします・・・・・・恭也さん、俺のために一肌脱いでください」

 

涙ながらにお願いする祐麒を見て、恭也は仕方ないとうなづいた。

 

 

 

 

浴室では、黄薔薇3姉妹が談笑していた。

 

「ふ〜ん、由乃ちゃんは令とよく一緒に入ってるんだ〜」

 

浴槽の中から江利子は、令の背中を流している由乃に言った。

 

「そうなんですけど・・・・・・最近は一緒に入らないですね」

 

「だって令ちゃん、最近帰ってくるのが遅いんだもん!」

 

「由紀さんと勇吾さんに稽古つけてもらってるから、仕方ないじゃない・・・・・・」

 

令は薔薇の館に顔を出した後、毎日欠かさず藤代と赤星に稽古をつけてもらっている。

 

赤星とはさすがに勝負にならないが、藤代には5本に1本取れるくらいまで上達した。

 

「それに、勇吾さんのアドバイスってすごく的確で・・・・・・おかげですごく自分の力がついているのがわかるんです・・・・・・」

 

「あらあら・・・・・・令、目があなたの好きな本に出てくる女の子みたいね」

 

江利子は目を細め、楽しそうにそう言った。

 

「い、いえ。私は勇吾さんにそんな気持ちは・・・・・・」

 

「無い、って断言できる?」

 

「・・・・・・できません」

 

「人を好きになることはいいことじゃない。男性に恋をしても当然のことだと思うわ」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「いい?仮に令が勇吾さんと付き合ったとしても、令が私の大事な妹ということには変わりないわ」

 

「お姉さま・・・・・・」

 

「それに、あまりそうやって二の足を踏んでいると由乃ちゃんに奪われちゃうわよ?」

 

ドコッバシャ・・・ガタッ・・・・・・カラッ・・・カランカラン・・・・・・・

 

令の背中を流そうと、風呂桶に入れたお湯をかけようとしたとき、突然話を振られた由乃は誤って、風呂桶ごと令に直撃をさせてしまった。

 

「黄薔薇さま!横取りなんて人聞きの悪いこと言わないでください!」

 

「あら、横取りという言葉に反応するんだ?てっきり私は勇吾さんとのこと自体に反論すると思ったんだけど・・・・・・ふ〜ん、そうなんだ〜」

 

「うっ・・・・・・そ、そういう黄薔薇さまはどうなんですか!」

 

由乃もからかわれてばかりでは面白くない。一矢報いようと江利子に反撃をしてみた。

 

「私?う〜ん、そうね。見ている方が楽しいけれど、勇吾さん確かにかっこいいわね〜」

 

「あはは・・・・・・」

 

「ちょっ、由乃!・・・・・・お姉さまも変なこと言わないでください!」

 

「あら?私は勇吾さんのこと好きよ?」

 

ピシッ・・・・・・彫刻が2体完成した。

 

(もっとも、私の方は親愛の情だけどね)

 

固まっている2人が面白いので、それは口に出さない江利子だった。

 

 

 

 

江利子が妹たちで遊んでいるとき、蓉子は様子のおかしかった聖を連れてテラスへ出ていた。

 

「・・・・・・どうしたのよ、蓉子」

 

「・・・・・・わかってるんでしょう。何で呼ばれたのかくらい」

 

「・・・・・・」

 

「さっきから様子がおかしかったわね。何があったの?」

 

「・・・・・・」

 

「パーティーの前くらいかしら?あなた恭也さんたちの部屋に行ったわよね?」

 

何もかもお見通し、と言わんばかりに言葉を並べる。

 

「ねえ、何があったの?・・・・・・どうしたのよ、聖・・・・・・」

 

蓉子は、言葉を失った。聖が震えていた。そう、まるで久保栞を失ったときのように・・・・・・

 

「わかんないよ・・・・・・私・・・・・・わからないよ・・・・・・」

 

「聖・・・・・・恭也さんと何かあったの?」

 

キョウヤ・・・・・・その言葉を聞いて聖がビクっと反応した。

 

「やっぱり恭也さんと何かあったのね・・・・・・ねえ、何があったの!?」

 

蓉子は、肩を揺さぶって聖を問い詰める。

 

聖はその手を乱暴に振り払うと

 

「なんでもないったら!お願いだから・・・・・・そっとしておいて・・・・・・私にかまわないでよ!」

 

「嫌よ!・・・・・・言ったでしょう。私はあなたの泣くところなんて・・・・・・苦しむ姿なんてみたくないの!」

 

蓉子は聖が逃げないように、力いっぱい抱きしめた。

 

「私は、聖の力になりたいの。だから、お願い。何があったか教えて・・・・・・」

 

蓉子の言葉が聖の心を揺さぶる。

 

優しく・・・・・・冷え切った心を暖かく包んでくれる。

 

「蓉子・・・・・・蓉子っ!!」

 

聖も力いっぱい蓉子を抱きしめた。

 

それから、聖は泣いた。

 

溢れ出した心の分まで、聖を包んでいる蓉子の胸の中で泣きつづけた。

 

 

 

 

 

「実はね・・・・・・恭也くんのかばんを漁ったときに・・・・・・封筒を見つけたの」

 

落ち着きを取り戻した聖は、蓉子にぽつり、ぽつりと話し始めた。

 

「最初は、恭也くんが変なもの持っていたら、からかおうと思ってたんだけど・・・・・・封筒の中身に私たちの名簿と・・・・・・護衛依頼書って書かれた用紙が入ってたの」

 

「護衛・・・・・・依頼書?」

 

蓉子は、聞きなれない言葉に一瞬戸惑い、護衛依頼書という言葉を頭の中で反芻した。

 

「そこには、学園長の名前でサインがあって・・・・・・護衛対象者に、志摩子の名前があったの。他にも何か入ってたみたいだったけど、かばんの中に武器みたいなもの入ってて・・・・・・」

 

蓉子は、聖の言葉にただただ驚いた。

 

そのような話は、ドラマの中だけの世界だと思っていて、聖の話を聞いても現実味が無かった。

 

だが、聖がこれだけ取り乱していることを考えても信じるしかなかった。

 

「私、恭也くんが何者だろうとかまわないの・・・・・・・。だけど、恭也くんはもしかしたら、仕事でいるだけで私達のことなんかなんとも思ってないかも、って思ったら・・・・・・急に怖くなって・・・・・・でも、恭也くんに聞いたら、それっきり彼が目の前から消えてしまうような気がして・・・・・私、怖くなって・・・・・・たとえ夢でも嘘でもいいから、恭也くんと一緒にいたくて・・・・・・」

 

「・・・・・・聖」

 

蓉子は、聖の頭をなでてから、頬に手を添えて

 

「聖。たとえ恭也さんが仕事で来ていたとしても、恭也さんの今まであなたを惹きつけたことに嘘があると思う?聖だってそれはわかっているでしょう。第一、恭也さんはあなたを見捨てたりなんかしないわ」

 

「・・・・・・うん」

 

「それに・・・・・・志摩子を助けるために来たのだったら、やっぱり恭也さんは恭也さんじゃない?」

 

「・・・・・・うん」

 

「恭也さんにはきっと事情があると思うけど、少なくとも聖の中にある恭也さんへの想いは本物だから・・・・・・。自分を信じてみて」

 

「・・・・・うんっ!」

 

「ふふふ、聖は最近子供みたいね・・・・・・」

 

「蓉子、一言多いよ・・・・・・」

 

顔を上げてむくれる聖の目には、もう涙は無かった。

 

「でも、ずっと私達に隠している恭也さんには少し頭に来るわね」

 

蓉子が、怒ったような言葉を言うが、顔はいたずらっぽく笑っていた。

 

「そうね・・・・・・私達に言ってくれればいいのに・・・・・・」

 

聖は、蓉子の言葉にうなづいた。

 

「ちょっとお仕置きが必要だと思いませんこと?白薔薇さま」

 

「奇遇ですわね、私もそう思いましてよ?紅薔薇さま」

 

「あなた・・・・・・その口調が絶望的に似合わないわね・・・・・・」

 

「・・・・・・ほっといてよ」

 

拗ねた顔をする聖。

 

元気を取り戻した聖を見て、蓉子はうれしそうに笑った。

 

 

 

 

蓉子と聖は部屋に戻ると、自分の部屋のメンバーに恭也たちがお風呂に入っているときに集まるよう、伝令をだした。

 

程なくして、お風呂から上がった黄薔薇ファミリーにもその旨を伝え、紅薔薇ファミリーもお風呂に入った。

 

「ふふふふふ・・・・・・楽しみだわ・・・・・・」

 

「お、お姉さま・・・・・・紅薔薇さまが怖いのですけど・・・・・・」

 

「祐巳・・・・・・見なかったことにしましょう」

 

お風呂で終始楽しそうに笑う蓉子を見て、祥子と祐巳は暖かい湯船に浸かっているのにも関わらず、背筋が冷たかった。

 

 

 

 

コンコン

 

「祐麒ー、お風呂開いたわよ。入ってらっしゃい」

 

「了解ー」

 

ドア越しに姉弟が言葉を交わすと、恭也たちもお風呂の準備をした。

 

「いやー、ユキチと一緒に入れるなんて幸せだなぁ〜」

 

「気持ち悪いこといわないでくれ・・・・・・」

 

祐麒は、うんざりした顔でそう言うと恭也たちに

 

「まあ・・・・・・見てのとおりなので、お二人ともお気をつけください・・・・・・」

 

「祐麒さん・・・・・・大丈夫だと思う。柏木さんだって相手を選ぶ・・・・・・と言いたい所だが、選んだら祐麒さんと赤星は・・・・・・まずいかもしれないな」

 

「ははは、僕はこんなにいい男と一緒に入れるなんてなんて幸せなんだ」

 

柏木の言葉は、3人を果てしなく警戒させた・・・・・・。

 

脱衣所に入ると、恭也たちは服を脱ぎ始めた。

 

恭也が服を脱ぎきると、祐麒と柏木は恭也の体をみて驚いた。

 

「かなり鍛え上げているね・・・・・・それと、傷がすごいが・・・・・・」

 

柏木の言葉に恭也は

 

「ああ・・・・・・。事情があって・・・・・・。やはり不快だったか?」

 

「いえ。なんていったらいいかわからないんですが・・・・・・立派だと思いますよ。傷は男の勲章、って言うじゃないですか」

 

なんとも微妙な祐麒の誉め言葉だが、そんな祐麒の気遣いはうれしかった。

 

「祐麒さん、やっぱり祐巳さんに似てるな」

 

「恭也さん・・・・・・誉められてるのかけなされてるのか複雑なんですけど・・・・・・」

 

う〜ん、とあごに手を当ててうなる祐麒を見て、やっぱりそっくりだと思う3人だった。

 

 

 

「それにしてもお二人とも立派な体つきですね・・・・・・」

 

体を洗っていると、祐麒が恭也と赤星を見てそう言った。

 

「そうだねぇ。花寺の人間でもそこまで鍛えている人はいないな。しかも、筋肉に無駄が無い」

 

モデルのようにスラっとした身体を湯船に沈めて柏木が言う。

 

「なんだか、自分の身体が情けなく思えてきた・・・・・・」

 

哀れ、狸の家に生まれた祐麒は一般人の身体しか持ち合わせていなかった。

 

祐巳も、祥子と自分の違いに頭を悩ませていたことを思い出し、ため息をついた。

 

「そんなことないさ。それが祐麒の味だと思うぞ」

 

「・・・・・・あんたに言われると、何だかいやらしく聞こえるよ」

 

赤星はそれを聞いて笑う。

 

「しっかし、高町。お前のような筋肉がうらやましいよ」

 

「何をいう。俺だってお前のようなパワーがあったらと思うぞ」

 

2人の会話を聞いて、高田が見たらさぞかし楽しそうに会話に加わるんだろうな、と思ったところで祐麒は家でのことを思い出した。

 

「恭也さんと勇吾さんって、リリアンでものすごい人気あるみたいですね」

 

『え!?』

 

二人は、祐麒の言葉を聞いて思わず耳を疑った。

 

「祐巳が言ってたんですが・・・・・・クラスで恭也派と勇吾派があるとかで・・・・・・」

 

そうだったのか・・・・・・と、2人は顔を見合わせた。

 

「ま、まさか・・・・・・2人とも気がついてなかったんですか?」

 

「いや、俺は赤星がモテるんだと思ってたのだが・・・・・・」

 

「高町がモテてるんじゃなかったのか?」

 

真面目な顔をしてお互いにそう言う2人に、柏木と祐麒は、互いに話しに聞いたとおりだ、と納得した。

 

 

 

 

お風呂から上がり、恭也たちが部屋に向かって歩いていると、蓉子が恭也たちを見つけると血相を変えて走ってきた。

 

「恭也さん、恭也さんっ!」

 

「ど、どうしたんですか、蓉子さん・・・・・・?」

 

いつも冷静な蓉子が取り乱しているのを見て、4人は慌てた。

 

「・・・・・・志摩子が・・・・・・志摩子が・・・・・・」

 

蓉子が顔を伏せてそう言うと、恭也はものすごい勢いで走っていった。

 

「あ、おい!高町!!」

 

赤星の言葉に目もくれず、恭也は一目散に駆け出していた。

 

 

 

 

油断した・・・・・・。まさか、こんなところで襲ってくるとは!

 

恭也は後悔した。1週間、何の音沙汰も無く、外部の敵では無いと思い込んでいたため、すっかり意識が薄れていた。

 

(間に合ってくれ・・・・・・!)

 

恭也は小太刀握って、志摩子のいる部屋のドアを開けた。

 

「志摩子さん!!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・嘘だ」

 

 

 

恭也が、部屋に飛び込むと

 

 

 

「・・・・・・なんで」

 

 

 

 

ベッドに泣き崩れている聖

 

 

 

 

「・・・・・・俺は・・・・・・俺は!」

 

 

 

 

手に持っていた八景が床に落ちた。

 

 

 

 

 

そして・・・・・・ベッドに横たわる、志摩子の姿があった・・・・・・




うわー、凄い悪戯だな。
美姫 「これは、恭也にとってはかなりきついわね」
果たして、次回はどうなるのだろうか…。
美姫 「う〜〜ん、早く続きが読みたいぃぃ」
うんうん。続きが待ち遠しいぃ。
美姫 「それじゃあ、次回を楽しみに待ってますね」
ではでは。



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