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今日は土曜日。

 

朝の鍛錬を終えてシャワーを浴びる。

 

いつもならこのまま二度寝へと直行するところだが、リリアンに週休二日制は無い。

 

少しため息をついて制服に袖を通し、ネクタイを締める。

 

武器を無理なく携帯できるよう設計された特注の制服である。

 

今日は祥子の家でパーティーがある。泊まるための道具を揃え、普段の装備一式に予備の装備も加えて鞄に詰め込み家を出た。

 

初めての登校ではバスを利用したのだが、リリアンへ向かうバスは当然リリアン一色になる。

 

バスの視線・・・・・・まあ、9割は恭也を目の保養としてみているわけだが、それに気がつかない恭也としては、痴漢に間違われないか、とか男性がいるだけで嫌がられないか、と見当外れな理由でバス通学を止めたのだ。

 

道を覚えてしまった今では、軽いランニングくらいの気持ちで走って登校している。

 

それも、尋常ではない恭也の体力だからこそ出来ることだ。何せ汗一つかかない。

 

例え走る体力があっても、学校に着いたときには汗だくになっているのが一般人である。

 

 

 

今日も走って登校していると、後ろからクラクションを鳴らされて振り返った。

 

車を止めて、降りてきたのはなんと聖だった。

 

「おはよう、恭也くん。こんなところで何してるの?」

 

「学校に行くところなんだが・・・・・・それは見てわかるんじゃないか?」

 

「そりゃそうなんだけど・・・・・・なんで走ってるわけさ?」

 

「・・・・・・バスは、視線が痛い」

 

理由を聞いて納得したのか、聖は自分の顎に手を当ててふむふむ、と頷いた。

 

「ってことは、学校に向かってるわけだから、目的地は同じよね」

 

そういって、車の方へ行き助手席を開けて「どうぞお乗りください」のジェスチャーをした。

 

「あれ、聖さん・・・・・・誰が運転するんだ?」

 

見たところ、運転手はいないようだ。あれ?さっき・・・・・・聖は運転席のドアから降りてきたような気がしたのだがまさか・・・・・・

 

「私に決まってるでしょ。ほら、乗った乗った」

 

恭也の方へきて、無理やり助手席へ押し込む。

 

聖も運転席に乗り込み、シートベルトをする。恭也も諦めてベルトに手をかけると・・・・・・

 

「おめでとう、きみは2人目の同乗者だ」

 

れっつごー!と言ってハンドルを握る聖を見て恭也は、いつもなら登校時にかくことの無い汗をたっぷりとかくことになった。

 

 

 

 

学校近くのパーキングに車を停め、恭也はようやく開放された。

 

ジェットコースターのようだ、と思ったがジェットコースターは安全が確保されている。

 

聖の運転は御神の血が、何度も危機を警告するものだった。

 

しかし、運転していた聖はけろりとした様子で

 

「恭也くんは声をあげなかったね〜。えらいえらい」

 

と、頭を撫でてきた。その手から逃れるように歩き聖に質問した。

 

「ところで、犠牲者第一号は誰だったんだ・・・・・・?」

 

「犠牲者なんて人聞きが悪いな〜、初詣のときに祐巳ちゃんを乗っけたのが最初」

 

恭也は、聖の運転に絶叫を上げたであろう祐巳を想像し、深く同情した。

 

 

 

 

放課後、薔薇の館へ一度集合して祥子の家に向かう。

 

車は、祥子の家から来た車と・・・・・・聖の運転する車だった。

 

祐巳は、早くも祥子の車に乗り込んでいた。辛い過去を思い出したのだろう、肩が震えている。

 

なにやら、おじいちゃんが・・・・・・おじいちゃんが・・・・・・とつぶやいている。聞かなかったことにしよう。

 

「で、祥子の車と私の車に分かれて乗ることになるけど・・・・・・どうしようか?」

 

恭也は、赤星を連れて聖の車に乗ることにした。犠牲者は少ない方がいい。すまない赤星。

 

「ふむ、勇吾くんと恭也くんは私の車で・・・・・・みんなはどうする?」

 

聖の問いかけに、祥子の車から声が聞こえた。

 

「ああ・・・・・・白薔薇さま、信号赤、赤、あか〜〜〜」

 

祐巳はトラウマから抜け出せないでいる。それを見た面々の言葉。

 

蓉子

 

「・・・・・・聖の運転は、すごく嫌な予感がするわ。私は祥子の車に乗る」

 

由乃

 

「白薔薇さまの運転楽しそう!!私『たち』は白薔薇さまの車で・・・・・・むぐぐ、ふぁにふるふぉひょ・・・・・・へいひゃん」

 

 

「私と由乃は、祥子の車を希望します」

 

江利子

 

「聖の運転は退屈しないだろうけど、命を賭けてまではちょっとね」

 

 

 

 

 

散々な言われように聖は、隅っこで『の』の字を書き始めた。

 

「いいんだいいんだ・・・・・・みんな私のこと嫌いなんだ・・・・・・いじいじ」

 

「・・・・・・わかりました、お姉さま。私が同乗しますから機嫌直してください」

 

志摩子の言葉に、聖は顔を上げて志摩子に抱きついた。

 

「あ〜、志摩子。やっぱり私の妹だ〜〜〜。いい子いい子」

 

一瞬で機嫌を直す聖に、一同は苦笑した。

 

「じゃあ、せっかくだから私も聖の車に乗る。あまりやばいようだったら私が運転するわ」

 

藤代がそう言うと、聖は「お、由紀ちゃん免許持ってたんだ」と言うと鍵を藤代に投げた。

 

「せっかくだから由紀ちゃん運転してってよ。大丈夫、ぶつけたって気にしないでいいよ」

 

藤代はうれしそうに鍵を受け取ると、よほど運転したいのか早く行こうよ、とみんなを促した。

 

 

 

祥子の家の車を前に走らせて、その後ろを藤代が運転する形でついていく。

 

席は、赤星が体が大きいということで助手席に。

 

後部座席には、恭也を真中にして挟むように聖が恭也の右、志摩子が左に座った。

 

「お姉さま・・・・・・まさかとは思いますが、このために由紀さんに運転をさせたのですか?」

 

「ん〜、なんのこと?」

 

聖は恭也の腕に自分の腕を絡ませ、恭也に寄りかかるようにして答える。

 

「・・・・・・聖さん、あまりくっつかれると困るのだが」

 

「えー、別に私は困らないけどなんで〜?」

 

聖はニヤニヤして恭也を見る。自分の胸を押し付けるように恭也にくっつく。

 

「いや・・・・・・もういい」

 

恭也が聖にあきれていると、今度は反対の腕からやわらかい感触がした。

 

「・・・・・・」

 

恐る恐る左を向くと、なんと志摩子が真っ赤になりながら自分の腕を抱きしめていた。

 

「し、し、し、し・・・・・・志摩子さん・・・・・・あの・・・・・・」

 

恭也は目に見えて慌て始めた。かといって、振りほどくこともできず、恭也も赤くなる。

 

「・・・・・・恭也くん、ずいぶん私のときと態度違う〜」

 

聖が拗ねたように言うと、運転していた藤代が

 

「聖〜、日ごろの行いの差よ〜」

 

笑いながら言葉を返した。赤星もそれを聞いて笑う。

 

「ぶ〜、どうせ私はセクハラばかりしてますよ〜だ」

 

その言葉に2人はさらに大笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

そのころ祥子が乗る車では、江利子が令と由乃を突っついていた。

 

「で、二人とも勇吾さんとはどうなの?」

 

興味深々です、といわんばかりの表情で問いただす江利子に2人が赤くなる。

 

「い、いえ。勇吾さんとはまだ何も『あたりまえでしょ!』・・・・・・由乃、ちょっと落ち着いて」

 

「落ち着いて!?勇吾さんに惚れてヘタレになっている令ちゃんを見て落ち着けって言うの!?そんなことできるわけないじゃない!」

 

由乃の指摘に小さくなっていく令。どっちが姉なのかわからない。

 

江利子はふーん、と言ってすごく輝いた目で由乃を見る。

 

「な、なんですか黄薔薇さま・・・・・・」

 

由乃は、江利子の目を見てものすごく嫌な予感がした。

 

「由乃ちゃん、最初勇吾さんのこと敵視してたけど・・・・・・最近、ずいぶんと勇吾さんを興味深く見ているみたいね〜。そこのところはどうなのかな〜?」

 

「そ・・・・・・それは・・・・・・私はただ、令ちゃんに悪い虫がつかないようにと思ってて・・・・・・」

 

「ふんふん、思ってて・・・・・・?」

 

「・・・・・・勇吾さんが・・・・・・その・・・・・・すごくかっこよくて・・・・・・笑顔が素敵で・・・・・・」

 

つまり、自分も惚れてしまった、と。ミイラ取りがミイラである。

 

「あ〜〜〜〜、もう、私のことはいいじゃないですか!祐巳さんも見てないで助けてよ!」

 

「へ!?」

 

突然矛先を向けられて、祐巳は情けない声を上げた。

 

「そうね〜、祐巳ちゃんもちょっと気になるわね」

 

蓉子が祐巳をしげしげと眺め始めた。

 

「え、ロ、紅薔薇さま・・・・・・私は勇吾さんは別に・・・・・・」

 

その言葉に令と由乃はほっと胸をなでおろすが、その様子をばっちり見ていた江利子に気が付かなかった。

 

「そうね、祐巳は勇吾さんより恭也さんに興味あるみたいでしたわね」

 

「お姉さままでそんな・・・・・・」

 

味方になってくれると思った祥子に、泥沼に引きずり込まれ祐巳は困った。

 

「祐巳さ〜ん、白状した方が身のためよ?」

 

ターゲット変更のきっかけを作った由乃は、いつのまにか問い詰める側に回っている。

 

江利子の目は相変わらず輝いたままだし、令は祐巳を見てごめん、と言っているようだった。

 

「恭也さんは・・・・・・どちらかというとお兄さんみたいな感じですよ」

 

そういう祐巳の顔に少し翳があったのを祥子は見逃さなかった。

 

「祐巳・・・・・・そんな顔で言っても誰も信じなくてよ?」

 

祥子は祐巳に諭すように言うと、祐巳が祥子に

 

「お姉さま、私の好きな人はお姉さまだけです」

 

そうはっきりと言うと、祥子は「そう、わかったわ」と言って祐巳の頭を撫でた。

 

ここまでか、と言う感じでこの会話を止めて別の話題へ話は転換した。

 

最後に祥子は、祐巳にだけ聞こえる声で言った。

 

 

 

 

 

 

「祐巳・・・・・・何があっても、あなたは私の妹よ。だから、自分に素直になりなさい」

 

 

 

 

 

 




聖の運転は、どうやら素晴らしいらしいな。
美姫 「祐巳ちゃんにトラウマを植え付けるぐらいだもんね」
最早、車と聞くだけで振るえるかも。
美姫 「さて、車内では色々と楽しい事が…」
本人にしてみれば、楽しくないかもしれないけどな。
美姫 「それはそれよ。さーて、次回はどんな展開を見せるかな〜」
次回も楽しみにしてます。



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