音も無く足場の悪い夜の林の中を疾走する。

 

戦闘においてなんの障害もない道場のような場所で闘うことは皆無に等しい。

 

大抵は夜、視界が悪かったり障害物が多かったり。そういうところこそ戦闘に適している。

 

少なくとも闇に生きる御神流の恭也にとっては、そうだった。

 

「・・・ふっ!」

 

普段は美由希と鍛錬をしているため、より実践的な戦闘ができる。

 

だが、今は住み慣れた家から電車でも1時間半はかかる。

 

そのため、こうして場所を見つけて一人で鍛錬をしているのだ。

 

今住んでいる仮の家は、なんとリリアン側から提供されたアパートだった。

 

恭也と赤星は隣同士で、藤代は1つ上の階に用意された。

 

バスで通学することにはなるが、それでもありがたい配慮であった。

 

「・・・ふぅ」

 

今日のメニュー終え一息つくと、林の奥に人の気配がした。

 

恭也は、一瞬警戒してそこを凝視するが、次の瞬間別の意味で驚いた。

 

「・・・え、恭也・・・さま?」

 

「志摩子さん・・・」

 

 

 

 

 

志摩子は本屋に立ち寄っていたため、帰りが遅くなったとのことだった。

 

家がこの林を抜けたところにあり、道を歩いていたところに恭也を見かけたのだった。

 

「あの・・・、驚かせてしまったようですみません」

 

恭也が口を開くと、志摩子は慌てた様子で

 

「いえ、大丈夫です・・・。恭也さんは、剣術をやられているのですか?」

 

「はい。・・・それであの、できれば・・・」

 

「安心してください。他の方には話しませんわ」

 

志摩子は、恭也の言わんことを察すると、静かに微笑んでそう答えた。

 

「ありがとうございます・・・。よろしければ、夜道も危険ですので家までお送りします」

 

表情の変化の乏しい恭也に浮かぶ優しい顔に、一瞬どきっとしながらも

 

「は、はい。それでは、お願いいたします」

 

と、そう答えて歩き始める。恭也は、武器などを入れた荷物をまとめて、志摩子と並んで歩き始めた。

 

「恭也さんはこの近くにお住まいなのですか?」

 

「はい、ここから5分くらいのアパートを用意してもらってます。」

 

「もしかして一人で住んでいるのですか?」

 

恭也がうなずくと、志摩子は少々驚いた顔をした。

 

「リリアンでは、寮か親類の家からでないと通えない校則がありまして・・・。留学された場合は免除されるのでしょうかね」

 

「そうですか、だから驚いていたのですね」

 

「ええ・・・。あ、あの・・・普段お食事とかってご自分で・・・?」

 

「そうですね・・・。自分で作ることもありますが、簡単なものだけですね。」

 

恭也の家では、プロ級の腕を持つ妹分がいるため、台所にあがる機会は少ないのが現状だ。

 

決して料理が出来ないわけではないのだが、レパートリーが多くないために最近栄養をバランスよく摂取できないのは悩みの種である。

 

志摩子はそれを聞いて、少しうつむくと、勇気を振り絞って

 

「もしご迷惑でなければ・・・お弁当作らせてくれませんか?」

 

後半は消え入りそうな声になったが、志摩子にしたら大冒険だった。

 

元々感情表現が得意ではない上、相手は殿方。リリアンで生活してきた志摩子には大変なことだ。

 

「やっぱり・・・困りますよね、ごめんなさい。いきなり・・・こんなこと・・・」

 

「いいんですか?」

 

「・・・え?」

 

「実はお恥ずかしながら、志摩子さんのお弁当を昼に見たとき、すごくおいしそうだな、と思って・・・

それで・・・」

 

そこまで言うと、恭也も恥ずかしくなって赤くなってしまう。

 

志摩子は少し驚いた顔をしたが、その言葉を聞いて

 

「うれしいです・・・。それとあの・・・、もう一つお願いしてもいいですか?」

 

少し上目遣いに恭也を見る。

 

思わず恭也もどきっとしてしまうような、そんな可愛い仕草に思わずうなずいてしまう。

 

「私の方が年下なので・・・普通に話してもらえますか?その・・・お姉さまに話しているように・・・」

 

お姉さまとは聖のことだ。志摩子の場合、堅苦しいのが苦手、という感じはしないのだが・・・

 

「いいのか?俺は言葉遣いは良くないんだが」

 

「・・・はい。その方が・・・(素敵です・・・)」

 

最後は恭也に聞こえないような声だったが、志摩子がそれでいいと言うなら恭也も構わないと思った。

 

 

 

 

「恭也さん、ここで大丈夫です。送っていただいてありがとうございました。」

 

坂を少しあがったところに、光が差し込んでいた。恐らく家から漏れる灯りだろう

 

恭也も、女性の家の前までついていくなんて無粋なことはしない。

 

志摩子の言葉にうなずくと、また明日、と言って家に向かって歩き出した。

 

 

 

恭也が見えなくなるまで、志摩子は恭也の背中を見送っていた。

 

「ごめんなさい・・・恭也さん。私も隠し事があるんです・・・」

 

そうつぶやいて・・・志摩子は家に向かって歩き出した。

 

 

 

『→小寓寺 この先50M』


志摩子が歩いた先に、そう表示された案内板が立っていた。



 

 




志摩子との遭遇。
美姫 「お互いに秘密を抱えている二人だけに、今後も気になるわね」
うんうん。
美姫 「ああ〜、本当に読んでて面白いわ。誰かさんも見習って欲しいわね〜」
あ、あはははは〜。さ、さあ、次だ、次〜。
美姫 「誤魔化したわね」



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ