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『春眠 暁を 覚えず』
春のうららかな陽気というのは、どうしても睡魔を誘う。
古人はそれを趣とし、言葉として後世に伝えたのだろう。
だが、現代の学生にとっては最早、居眠りするための免罪符に成り下がっていた。
それが勉強嫌いの人間にとっては殊更だろう。
「おい高町・・・、もう昼休みだぞ。いい加減目を覚ませ」
そういって恭也を起こすのは、後ろの席に座る赤星勇吾だった。
「・・・いつもすまん。どうもあの先生の授業は眠くなってな」
「高町君、きみがまじめに聞いている授業があったら教えて欲しいな」
弁解をする恭也に、いつのまにか隣にきていた藤代由紀が突っ込みを入れる。
「そうだよ恭也、寝てたら先生に失礼だよ〜」
「・・・今の今まで寝ていた忍にだけは言われたくないのだが」
恭也は忍の突っ込みには憮然とした顔で答える。
「由紀〜、恭也がいじめる〜」
「はぁ・・・」
恭也は突っ込みを入れるのも疲れたのか、ため息をつく。
赤星も藤代も、いつものことなので苦笑しつつも昼休みだということを思い出し、
「そろそろお昼にしたいんだけど・・・早く行かないと食堂の席無くなるぞ」
赤星の一言で、4人は昼食を取るべく食堂へと移動した。
なんとか席を取って食事をしていると
『え〜、3−Gの高町君 赤星君 藤代さん。至急校長室まで来てください。繰り返します・・・』
校内放送で自分たちの名前が呼ばれ、忍を除く3人は思わずスピーカーを見やる。
「赤星君と由紀はわかるけど、恭也が呼ばれるなんて珍しいね」
忍の言うとおり、赤星や藤代は剣道部の男女部長なので校内放送で呼ばれることがある。
だが、恭也は部活はおろか特別目立ったことをしていない。まあ、居眠りが目立たないかどうかはまた別なのだが・・・。
「まあ、なんで呼ばれたのかはわからないが、とにかく行って来る。忍は先に戻っててくれ」
恭也の言葉に、私だけ仲間外れ〜、とぼやく忍を背に、3人は校長室へと向かうのだった。
「交換留学・・・ですか?」
校長から発せられた言葉は、3人を大いに驚かせる言葉だった。
恭也も知っていることだったが、毎年3年生は何人か他校の学校と交換留学をしている。
毎回別々の高校と行っているようで、昨年は白陵大付属柊学園という名前のところだった。
水泳部の連中がえらく騒いでいたのが記憶にある。最も、恭也は誰が来ていたのかまるで興味を持っていなかったのだが・・・。
「あの、校長先生。よろしいでしょうか?」
藤代が校長に伺いを立てると、校長は笑顔のままうなづいた。
「私たちが留学生に選ばれたのは光栄なのですが・・・、なぜ私たちだったのですか?」
恭也は最もな質問だと思った。赤星と藤代は、インターハイで優勝という実績を持ち、
藤代に至っては成績優秀である。
それに比べ、恭也は授業の半分以上を睡眠に当てるという、学校の代表にふさわしくないありさまだ。
その問いに対して校長は
「今回の人選は、実は相手校からのご指名なのだよ。あちらからこの3人を是非に、と。
だから詳しいことは向こうの学園長に話を聞いてみてくれ。」
3人はその答えに納得はいかなかったが、その口調から決定事項であることを悟ると諦めたように
校長の説明を聞くことにする。
話によると、留学は来週の月曜日から始まり2月末まで、住む場所は相手校側が用意してくれるということだった。
色々な説明を聞く中で、恭也は校長の様子がおかしいことに気がついた。
なぜか、最初に言うべきはずの高校名をまるで隠すかのように出さないのだ。
疑問に思った恭也が校長に質問をするも、行けばわかる、と答えるだけだった。
結局高校名を聞けないまま説明を終え、5時間目の予鈴が鳴る少し前に教室に戻った。
忍は、自分も行きたいと駄々をこねるのだが、こればかりはどうにもならないとわかっているのか、
お土産よろしく、という言葉と共にまた机に伏していた。
それにしても・・・この時期に交換留学、そして突然というのが腑に落ちない。
落ちないのだが・・・それをやがてやってきた睡魔によって消されてしまうのだった。
校長の目・・・、どこかで覚えがあるような目をしてたな・・・。
しかも、悪い意味で覚えがある目だったな、と考えつつ、恭也もまた眠りに落ちていくのであった。
なかなかお茶目な校長だ〜。
美姫 「果たして、恭也たちはどこへと留学させられるのかしら」
いや〜、楽しみだな〜。
北国の学校へと留学して、奇跡を目の当たりにするのか!?
美姫 「それとも、夏を思わせる田舎町での学校で、遥かな昔より繰り返されてきた呪いを打ち破るのか!?」
はたまた、開発が進む町で、愉快な連中と過ごすのか?
美姫 「だんご、だんご♪」
さあ、一体、どこに行く事になるのか!?
美姫 「……って、わざとらし過ぎるわね」
まあ、それは言わない約束という事で。
美姫 「ともあれ、また次回〜」