第8話 激闘〜それぞれの想い〜

    *

 俺達はとある山のふもとにいた。

 ここにリーアがいる。

 他の者を寄せ付けないようにするためか結界が張ってあった。

 俺達は歩き出した。

 過去に決着を付ける為、リーアを運命から救う為に。

    *

 彼等は予想通りこの山にやってきた。

「どうされるのです?マスター」

「あなたは他の四人の監視をお願い。それでここの結界が消えたら四人をここに連れてきて」

「よろしいのですか?」

「ええ。そのころにはもう私は存在していないだろうからこれが最後の命令ね。あなたともお別れね人狼さん。今までありがとう」

「貴女にはいろいろとお世話になりましたからね。お役に立ててなによりです。それでは私は最後の任務につかせていただきます」

「お願いね」

 そう言ってシルフィスは木の陰に姿を消した。

「私の役目ももうすぐ終わりね。それにしてもずいぶんと長かったわ」

 私は感慨深げに溜息を吐いた。

「あら?何かしら」

 頬に何かがつたっていく。

 これは涙?

 何故?今までこんなことなかったのに。

「どうしてだろう?やっと役目を終えて静かに眠れるというのに」

 そこで私は気付いた。

 死を恐れている私、悲しんでいる私、そして楽しい思い出を求めている私がいることに。

 そう気付いた途端に今までに無かった感情が込み上げてきた。

 それは悲しみ、恐怖、そして恋しさ。

 もうこの感情を抑えることはできない。

 とめどなく涙は溢れてくる。

「……イヤッ!!死ぬのは……イヤ。もう辛いのはイヤ……誰か私を助けて……」

 あとはもう言葉にならない。

 私はその場で泣き崩れた。

 声が枯れるまで大声で泣き続けた。

    *

 あたし達はいつも通りの生活を送っていた。

 祐介がもう一人の自分に合いに行くと宣言してから2日が経った。

 あの時あたしはあいつを止めたかった。

 でもあたしにはそんな資格はない。

 そんなことは解っていた。解っていたのだが、それでも止めたかった。

 あたしは皆のことを兄弟のように思っていた。

 だから心配なのだ。

 祐介がちゃんと戻ってくるか。

「祐介さんと美優希さん大丈夫でしょうか?」

 物思いにふけっていると、隣から静香の呟きが聞こえてきた。

「そうね、きっと大丈夫よ。あの二人なら、ううん二人だからこそ大丈夫。一人でできないことも二人だったら簡単に乗り越えられるのよ」

「麗奈さん……」

 そうよ、あいつは一人じゃないんだ。

 美優希がいる。それにあたし達だって。

 あたし、何を心配してたんだろう?

 あたし達は信じて待ってればいい。

 祐介は必ず帰ってくる。

 そう納得したところで悲鳴が上がった。

    *

 校内は混乱していた。

「れっ麗奈さん。あれ………」

 窓の外を指差す静香の顔が青ざめていた。

 あたしは窓の方を見て眼を見張った。

「なっ、なんて数なの………」

 外には無数の魔獣がここに向かってきていた。

 遊園地の比ではない。

「真っ!」

 このまま襲われるわけにはいかない。

 時を止めておけば人目を気にせずにすむ。

「駄目だっ!誰かが干渉していて止められない」

「なんですって!仕方ない結界を張るわよ」

 そう言って皆で結界を張った。

 ここには世界のバランスを保っている柱の一つがある。

 それがやられればこの世界はバランスを崩し滅んでしまう。

 おそらく奴等の狙いは柱だろう。

 だがそんなことはさせない。

「皆っ!よく聞いて。奴等の狙いはおそらく柱よ」

 それを聞いて皆は戦慄した。

「なんだと!?それは本当か」

 零一が顔を青くして尋ねた。

「ええ、多分ね。でなきゃ奴等がここに来る理由がないわ」

「確かに。だがあの数は多すぎる」

「確かに並の奴なら対処しきれないでしょうね。でもあたし達は違うわ。力を合わせればなんとかならない相手じゃない」

 零一は苦笑しながら答える。

「そうだったな。よしっ、やろう」

 あたし達が決意を固めたところで後ろから声をかけられた。

「あのー、私達にも協力させてもらえませんか?」

 突然の申し出に驚いた。

「えっ?」

 振り返ってさらに皆が驚いた。

 彼女の後ろには野球部や柔道部、それに剣道部、弓道部の皆さんがいた。

「俺達の学校は俺達で守る。だから協力させてくれ」

 野球部の一人がそう言う。

 あたし達は戸惑っていた。

「でっ、でもあんた達これから何するか解ってるの?」

 できれば一般人は巻き込みたくない。

 だから今まで戦う時は時を止めていたのだ。

「解っています。それにあなた方が何者なのかも。この学校にはあなた方にまつわる文献が数多く存在します。それにこの学校はあらゆる危機に対処する為に作られたのです。それ故にこの学校に居る人たちは皆なんらかの秘密があります。それに私達が使う得物には力が込められています。魔獣にも有効です」

「なっ、それどういうこと」

 初耳だった。

 ここには柱があることは知っていたけど、あたし達についての文献があるなんて知らなかった。

 他の三人も同じようだ。

 その疑問については突然入ってきた老人が答えた。

「それはわしの種族が大事に守ってきた“時の羅針盤”の写本じゃ。お主等の文献はここにしか納められなかったからのう。しかもそれを知る者は我が一族のほんの一部にすぎん、お主等が驚くのも無理はない」

「こっ校長先生!あなたはいったい何者なんですか?」

 驚いた。

 あたし達についての文献など存在しないとおもっていたからだ。

 何故なら祐介は例外だがあたし達は種族を作ることがなかったからだ。

 だから昔の出来事は記録に残っていないのだ。もっとも神界の記録保管室に存在する“時の羅針盤”に記録されているのだが。噂でしか聞いたことがなかったが“時の羅針盤”の写本が実在していたとは。

「わしはただのじじいじゃ。まあ、強いて言うなら龍人族の端くれと言ったところかのぅ。お主等の記録は、わしのご先祖様が偉大なる神からさずかったものじゃ。それ以来ずっと守り続けておる」

「じゃあ、この子達が言っていることは」

「本当じゃ。だからわしからも頼む。この子達にも手伝わせてやってくれんかの?」

 あたしは困惑していた。

 いきなりこんなことを言われても困る。

 確かに戦力は多いほうが助かる。

「あんた達はいいの?」

 部活メンバーは頷いた。

「はい、私達は構いません」

 彼女等の意思は揺るぎようがなかった。

 あたしは溜息を吐いた。

「解かったわ。皆で学校を守りましょう」

「おいっ、いいのかよ」

 珍しく真が反発した。

「ええ、この際戦力は多いほうがいいわ。数が数なんだから」

「まあ、先輩がいいって言うんなら別に構わないけど」

 真は渋々と引き下がった。

 彼は“神邪戦争”で沢山の仲間を失った。だから皆を巻き込みたくないのだろう。

 部活メンバーの皆はそれぞれに得物を持っていた。バットにグローブ、木刀に弓。

 皆やる気満々である。

 あたしはその集団に声をかけた。

「皆よく聞いて。あんた達は部ごとに分かれて集団で行動すること。身の危険を感じたらすぐに逃げること、校舎には結界が張ってあってあんた達は入れるけど魔獣は入れない。いざとなったらそこに逃げ込みなさい、いいわね」

「はいっ!」

 皆が口を揃えて返事をした。

「よし!それじゃあ皆で魔獣狩りといくわよ」

「おーっ!」

 気合を入れて皆は外に出いく。

 あたし達も一緒に出る。

 歩きながらあたしは最初に声をかけてきた少女に声をかける。

「ねえ、ちょっといいかしら。歩きながらでいいから」

「はい、構いませんよ。何ですか?」

 並んで歩く。

「あんたはいつから知っていたの?あたし達のこと」

 それを聞いて彼女はすまなそうな顔をして答えた。

「実はさっき校長先生に聞かされてはじめて知りました。他の皆もそうです」

「いきなりそんな話聞かされてよく信じたわね」

 呆れたような感心したような口調で言う。

「私の身の回りにも似たような人がいますから。それにこの学校は好きですから」

「あんた達って変わってるわね」

「それはどうも」

「ほめてないって。ふふふ……」

 自然と笑みがこぼれた。

「そうでした。えへへ……」

 とても不思議な感じだった。まるで昔から親しかったかのような感覚である。

「あんたとは友達になれそうね。どう?今度一緒にゆっくりとお茶でもしない?」

 いつのまにかそんなことを言っていた。彼女のほうも笑って言った。

「私もそう思います。お茶の方は喜んで」

 二人でしきりに笑ってからあたしは言った。

「そうだ、自己紹介がまだだったわね。あたしは蛇坂麗奈よろしく」

 そうしてあたしは手を差し出した。

「私は斉藤由衣(さいとうゆい)です。よろしくおねがいします麗奈さん」

 どこかで聞いたことのある苗字だがまあいいか。由衣も手を出して握手をした。

 それからあたし達は玄関前までやってきた。

「ここから先は戦場よ。覚悟はいい、由衣」

「はいっ」

「それじゃあ行くわよ」

「お――っ!」

 掛け声とともに外へと駆け出した。

 




 あとがき

麗奈「ついに魔獣との本格的な戦いが始まって輪ね。祐介達は自分とのケリをつけるために遠出してるし、これからどうなるか楽しみね」

由衣「そうですね。ところで隅のほうで泣いているのは誰ですか?」

紀衣「うう……わたしもうお嫁にいけません。しくしく」

麗奈「ああ、ここの管理人よ。大丈夫、気にしないで」

由衣「仕草がとても可愛らしいのですが、あの人泣いてますよ?」

零一「とても人には言えないことがあったんだろう。そっとしておいてやれ」

由衣「は、はあー」

麗奈「でもいつまでも、泣かれてるわけにもいかないから。……ほら、そんなに落込まなくてもちゃんとあたしが嫁にもらってあげるから」

紀衣「そんなは嫌だああぁぁぁぁ―――――!!

 紀衣、脱兎のごとく走り去ろうとする。それを麗奈引き止める。

麗奈「どこ行くの、まだまだこれからだっていうのに」

紀衣「放してください。わたしはもう、あんなのは嫌です」

麗奈「じゃあ、どんなのがいいの?百合とか看護婦とかのほうがよかったの」

紀衣「そういう問題じゃありません!とにかくもうたくさんです」

由衣「あの、なんだかよく解かりませんが、辛いことがあったのなら話してくれませんか?少しは楽になれると思いますから。それにあなたのような方には、笑顔のほうがお似合いですよ(ポッ)」

 由衣、なぜか顔を赤らめている。

紀衣「ありがとうございます。そう言っていただけるだけでも、救われます」

由衣「そんな、私たいしたことしてません」

 由衣、うつむいて真っ赤になる。

麗奈「さっ、落ち着いたところで行きましょう。今度は紀衣さんの希望でナース服っと。あっ、そうだ。なんかいい感じになってて、面白そうだから由衣も連れて行こう」

由衣「え?」

紀衣「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 由衣と紀衣は麗奈に連れ去られた。

零一「行ってしまったな」

祐介「ああ……」

美優希「あああ、私の妹が〜」

祐介「えっ?美優希に妹っていたんだ」

美優希「うん、離れて暮らしてたから。とにかく取り返してくる」

 美優希、麗奈の後を追う。

零一「それにしても、だいぶ女が板についてきたなあの人も」

祐介「それ、絶対本人の前で言うなよ。落ち込むから」

零一「わかっている。ところでこの棺桶はなんだ?」

祐介「シルフィスが入ってたやつだろ?」

シルフィス「その通り。そしてわたしは今回、ドラキュラとして復活したのですよ」

静香「あら?まだいたのですか。ドラキュラさんは土にかえってもらいます」

シルフィス「ひっ、見つかった」

静香「それではさようなら(サクッ)」

 シルフィス、地面に崩れ落ちる。

静香「汚物は排除しました。これでまた少し空気が綺麗になります」

祐介「……なあ、零一。静香ちゃんってこんなキャラだったか?」

零一「高橋、世の中には知らないほうが身のためになることもあるのだ」

真「まあ、それは置いといて。由衣ちゃん、もしかしてアレなんじゃないだろうか?」

零一「可能性はあるな」

祐介「ところでさ、紀衣さん元に戻さなくていいんだろうか?」

零一「それもまた、気にするな」

祐介「なんだか、紀衣さんが可哀想になってきた」

 

 




学校には、意外な秘密が!
美姫 「校長が、一番驚きよね」
うんうん。まさか、校長が龍人族の端くれだったなんてな。
美姫 「いよいよ魔獣との対決が始まるのね」
果たして、どうなるのか。
そして、祐介と美優希は。
美姫 「ワクワクしながら、次回を待て!」
それでは、次回を待ってます。
美姫 「じゃ〜ね〜」



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