第5話 平和〜それは突然壊れるもの〜
*
日曜日、俺達は遊園地に来ていた。
さすがに休日だけあって、家族やカップルでごったがえしていた。
「さすがに人が多いな」
俺はその人の量に驚いていた。
ここはこの街唯一の遊園地だが、規模は大きくかなりの人気があった。
俺達はグループに分かれて、お昼頃に喫茶店に集合することにした。
「ねえ祐介、何処からまわる?」
美優希はとても嬉しそうだ。先輩の企みとはいえ来てよかったと思う。
「何処からといわれてもなあ、じゃあとりあえずあれでも乗るか?」
俺が指さしたのはジェットコースターである。
「そうね、じゃあ行きましょ」
俺達はジェットコースターに乗ることにした。
ここのジェットコースターは良く回ることで有名である。
なにしろこれでもかというくらい回るのだ。恐らくこれに乗って平気でいられる奴はいないだろう。
ジェットコースターに乗っている最中に魔獣の気配を感じた。
だがすぐに回りだしたので解らなくなった。
次に俺達はメリーゴーランドに乗って気分転換をした。
そしてお化け屋敷にやってきた。
予想どうり美優希がお化けを怖がって俺に抱きついてきた。
俺にとってはお化けより美優希が木箱を取り出したときや、先輩に自家製の薬を飲まされるほうがよっぽど怖い。
それから俺達はゴーカートに乗ったりアトラクションを見たりしていた。
*
「なかなかいいかんじじゃない」
麗奈達は少し離れた所から二人の様子を窺っていた。
「あんたも好きだな」
真が呆れたように言う。
「何言ってるのよ。提案したのはあんたでしょ」
「確かにあいつ等の仲を深めようと企んでたのは認めるけど、俺にはあんたみたいな趣味はないよ」
「だったら黙ってついてきなさい。あっ、二人が移動するわ。あたし達も行くわよ」
少し興奮ぎみの麗奈がせかす。
「はいはい」
真は肩をすくめてやれやれといった感じで後に続く。
すると後ろから零一が真に話しかけてきた。
「横鳥、さっき魔獣の気配を感じなかったか?」
やはりといったかんじで真は頷いた。
「ああ、確かにさっき一瞬だけだったけど感じた」
それを確認して零一は頷いた。
「少し警戒しておくべきだろう」
「そうだな」
そう言って真は前を歩いている、麗奈に話しかけた。
「先輩ちょっと話があるんだけど」
さっきまではしゃいでいた麗奈も今は辺りを警戒するように見回していた。
「解ってるわ、魔獣のことでしょ?私もさっき気配を感じたわ、しかもかなりの数をね」
静香も頷いた。
「私も感じました」
麗奈は皆に神妙な面持ちで指示を出した。
こういう時の指揮はいつも彼女の役目である。
「とりあえず被害を最小限に抑えるために遊園地全体に結界を張っておきましょう。それと真、魔獣が暴れだしたら時を止めて。一般人に戦っているとこを見られるのはマズイから」
「解った」
「それから静香には魔獣の数と居場所を探って欲しいんだけどいいかしら?」
「解りました」
「それじゃあ、1時間後に喫茶店で合流しましょう」
こうして麗奈と真、零一は結界を張りに、静香は魔獣の偵察にと駆け出した。
*
麗奈達が魔獣対策をしているころ、俺達はパークエリアで休憩していた。
俺も魔獣の気配は感じたので警戒している。
美優希はベンチに座って伸びをしていた。
「けっこう回ったわね。ちょっとはしゃぎすぎたかしら?」
「ああ。さすがに疲れたな。何か飲むか?」
「あっ、うん」
美優希も魔獣の気配を感じたのだろう。どことなくそわそわしている。
「じゃあちょっと待っててくれ。買ってくるから」
「待って、私も行くわ」
俺は美優希の手を引いて自動販売機までジュースを買いに行こうとしたとき、何処からか悲鳴が聞こえてきた。
「きゃ――――!!」
「な、何いまの悲鳴。女の人のみたいだけど」
美優希は怯えながら俺の腕にしがみついてきた。
俺は舌打ちしながら美優希に言った。
「ちっ、動きだしたか。美優希、絶対に俺から離れたら駄目だからな」
「う、うん、解ったわ。でもいったい何が起こっているの?」
「魔獣だ。この遊園地に魔獣が潜んでたんだ」
「えっ、じゃあ………」
「ああ、おそらく奴等の狙いは美優希だ」
「そっ、そんな………」
体が小刻みに震えている。
怖いのだろう。
「大丈夫。俺が守ってやる。だから安心して」
だが俺は次の美優希の言葉に耳を疑った。
「………許せない」
「え?」
「許せない。絶対に許さない。せっかくのデートを台無しにして………」
美優希の眼が怒りで燃え上がっている。
そういえば忘れていたが嫉妬深いところがあったんだっけ。
「絶対に許さないんだから――――?」
足元に転がっていた小石を茂みに向かって投げつけた。
石は眩い光に包まれていた。
あの光は!美優希の技の一つ“裁きの光”だ。
光の力で汚れを浄化する。
俺でもあれをくらったらただではすまない。
物にこめることもできる。
もっともかなり体力を消耗するのであまり使わない。
それにあれはあくまで攻撃ではなく浄化なのだ。
その石は運悪くやってきたイノシシの姿をした魔獣に直撃した。
魔獣は悲鳴を上げるまもなく消滅した。
「私達のデートを邪魔するからいけないのよ」
美優希は肩で息をしながら恨めしそうに言った。
「デートって……」
いつからそんなことになってたんだ?
まあ二人っきりだったからそうなのかもしれないけど。
まあいいか。
それよりも今は魔獣を倒さないと。
さっきのが合図のようにぞろぞろとあちこちから魔獣が出てきた。
狼の姿をしている。
何処かに本体がいるはずだ。
それにしてもこれだけの数がいったいどうやって作ったんだ?
並みの魔獣なら1匹あたり分身を作れるのは10匹程度だ。
だが俺達を取り囲んでるのだけでも30はいるだろう。
となると何者かが魔獣に力を与えたということか。
まあ、なまった体を動かすにはちょうどいいだろう。
「俺とやりあおうとでもいうのか?」
「ぐるるる………」
どうやら本体らしき狼の魔獣が威嚇してきた。
他の奴等よりも体が大きい。
俺は美優希のほうを見る。
さっき裁きの光を使ったためか少し疲れているようだ。
「大丈夫か美優希?」
「私は大丈夫。それよりごめんね、私のせいで魔獣を集めちゃったみたいで」
少し顔色がよくないがとり合えず大丈夫だろう。
「気にするな。約束したろ、君を守るって。それにこいつ等は俺の敵でもあるんだ」
俺は龍王剣を召喚した。
「こいつ等を片付ける間すこし我慢しててくれ」
「うん、こんな奴さっさと片付けてね。そしたらデートの続きよ」
「ああ。任せてくれ」
するとさっきの魔獣が咆哮した。来る!
魔獣達が一斉に襲い掛かってきた。
俺は美優希を抱えて空高く飛び上がった。
そこに龍王剣を振るう。
衝撃波が魔獣達を襲う。
次々と消滅していく。
だがすぐに本体が陣営を立て直させる。
やはりあの狼を倒さないと駄目か。
俺は木の枝に着地して美優希をそこに下ろして周囲に結界を張った。
美優希は不安げに尋ねてきた。
「どうするの?」
「俺は奴等とけりをつけてくる。美優希は少しここで待っててくれ。すぐ戻ってくるから」
「無茶しないでね」
「ああ。解ってる」
俺はそう言うと、木から飛び降りて魔獣の群えと切りかかっていった。
「てやっ!」
気合とともに衝撃波を放った。
魔獣の群は拡散して回避した。
さすがに同じ手はくわないか。ならば!
動きを止めて静かに眼を閉じた。敵が襲ってくるのを待つ。
すると横の茂みからが5匹が襲いかかってきた。
俺はカッと眼を見開いてその方向めがけて衝撃波を放った。
「そこだっ!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉー!」
悲鳴を上げて消滅した。
だが続いて後ろから襲い掛かってきた。
振り向きながら衝撃波を放ち撃退した。
すぐに次がくる。これじゃあきりが無い。
俺は本体の狼を探した。
いたっ!
だが、その前にはいくつかの編成を組んだ魔獣達がいる。
そう簡単にはやらせてくれないということか。
ならば!
構えをといて眼を閉じ精神を集中させる。
腕を前に突き出して呪文をとなえる。
「闇に灯る聖なる炎よ、我が意に従い汚れた者を無に返せっ!」
呪文を唱え終わると魔獣達が一斉に燃え上がり消滅した。
汚れた闇だけを焼き尽くす炎“破邪聖炎波”(はじゃせいえんは)
跡には何も残らない。
「すごいわね。皆跡形もなく消えちゃった。怪我はない?」
いつのまにか美優希が隣に来ていた。
「ああ、大丈夫だ。それより速く皆と合流したほうがよさそうだ」
「そうね、急ぎましょう」
美優希は体力を消耗しすぎているので俺がおぶっている。先輩達にはどう説明しよう。そんなことを考えながら俺は遊園地を疾走する。
はるか上空にシルフィスがいたことも知らずに。
*
麗奈達は喫茶店に集まっていた。
「静香どうだった?」
彼女には魔獣の偵察を頼んでいた。
「はい。まず居場所ですが、休憩エリアを除いた全てのエリアにいました」
「ちっ、ということはこの遊園地全体というわけね。数は?」
麗奈は舌打ちしながら先を促した。
すると静香がすこし戸惑いながら答えた。
「それが……解らないんです。数が多すぎて……ごめんなさい」
しょんぼりして謝っていると、麗奈が優しく励ましてくれた。
「いいのよ静香。敵の居場所が解っただけでも充分な成果よ。これで有効な策が立てられるわ」
敵が遊園地全体に潜んでいるのなら罠を張る必要もない。
見つけだして片っ端から潰していけばいい。
そうと決まればさっそく実行しよう。
善は急げである。
麗奈が皆に指示を出そうとしたとき、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「ちっ、むこうから火蓋を切ってきたか。真、時を止めて」
「解った」
そう言って真は呪文を唱え始めた。
ほどなくして時が止まった。
「よし、皆。手分けして魔獣供を潰していくよ。あたしはこの辺りをやるから皆は他の所をおねがい」
こうして魔獣狩りが始まった。
あとがき
美優希「今回はせっかくのデートが台無しになっちゃって、残念」
紀衣「まあ、次の機会のお楽しみということで、いいじゃないですか。ところでわたしは何故、メイド服を着ているのでしょうか?」
静香「似合ってますよ」
紀衣「いや、だからそういう問題じゃなくて」
麗奈「どこぞの誰かさんの願望じゃない?」
紀衣「それよりも、いつになったらわたしは元に戻れるのでしょうか?」
麗奈「いいじゃない、そんなこと。ところであんた、家事は好き」
紀衣「両親が家をよく空けるので、家事全般とりあえずこなせますよ。それに綺麗なのは好きですよ」
麗奈「よし、うちのメイドになりなさい」
紀衣「なっ、なんでですか」
麗奈「うちって、物が多くて困ってるの。片付けるのも面倒だからわやになってるってわけ」
紀衣「(ひょこっ)いやですよ!自分でしてください」
静香「まあ、可愛らしい。猫さんの耳です」
紀衣「えっ」
麗奈「本当だわ。ちょっとそれ本物なの?」
麗奈、猫耳をひっぱる。
紀衣「いたたたた、やめてください。痛いじゃないですか。って本物だっ!なんでこんなものが」
静香「猫耳のメイドさん。可愛いです」
紀衣「だから、メイドになると決めたわけじゃ」
麗奈「いいえ、決まりよ。これは抗えない心理なのよ。大丈夫、悪いようにはしないから」
紀衣「やだ―、そんなのはいやです」
シルフィス「貴方はまだマシですよ。わたしなんか、わたしなんか………」
紀衣「わー、こんどはデストロイアです。しかもなんか周りに火の玉みたいなのもさまよってます」
麗奈「あんた、ひょっとして巫女さんの素質もあるんじゃない?」
祐介「とりあえず、デストロイアは処分しておきましょう」
シルフィス「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁあぁ〜」
真「シルフィスはともかく、堀江さんはご愁傷様だな」
零一「まったくだ」
ブラボ〜! クッジョブ!
メイドだけでなく、ネコ耳付き(しかも本物)とは。
うんうん。いい仕事してます。いや、本当に!
美姫 「だぁー! 最初から何をとち狂った事を!」
い、痛い……。で、でも、メイドだぞ。しかも、ネコ耳だぞ。
美姫 「何か、アンタの欲望のせいで、ああなったような気がしてきたわ」
馬鹿な! 俺だけではないはずだ。
そう、これは全世界数千万人の願望が具現した力だ、きっと。
美姫 「いや、それはないない」
まあ、そんな事はどうでも良い。とりあえず、素晴らしい〜。
美姫 「はぁ〜。たま〜に、この馬鹿が分からない……」
ふー。さて、とりあえずは落ち着いて。
美姫 「本編では、魔獣が大量発生ね」
うんうん。果たして、どうなるのか。
美姫 「次回が楽しみね」
おう! 次回も楽しみにしてます。