第2話 誓い〜守りたいもの〜

 

 駅前のスーパーが見える公園。

 その男はそこにいた。

「ふっふっふっふ。やっと見つけましたよ祐介」

 いかにも怪しい格好をして、とある人物を追いかけていた。聞こえはいいが、それはいわゆるストーカーだった。

    *

 俺は買い物を済ませて帰路についていた。

 ちなみに俺の後を着けて来る気配にはとっくに気付いている。

俺は溜息をついて、後ろを振り向く。

「いい加減、出てきたらどうだ」

「ふっ、やはり気付かれていましたか」

 そう言って、何もない所から突然一人の男が現れた。

 俺はうんざりした表情で言った。

「またおまえかシルフィス、いったい何の用だ?」

 こいつも魔獣だが、とても有能な魔獣だ。

 だから俺に情報を提供したり、交渉してきたりする。

 いつもいいように使われているような気もするが、こいつとは付き合いが長いからもう慣れている。

 変な奴だが、実力は確かなものなのだから侮れない。

「ずいぶんなご挨拶ですねえ。今日は貴方に忠告しに来てあげたのに」

 シルフィスは肩をすくめて溜息をつく。

「何?どういう事だ」

 俺は怪訝な顔をしてシルフィスに問い詰める。

「もうじき貴方にも私にも都合の悪いものが復活します。それはかつて、闇を支配していた者」

 それを聞いて茫然と呟いた。

「ダークマスター」

 シルフィスは頷く。

「そう、ご存知のとうり貴方のご先祖達が戦った、龍人と闇の融合体」

 そう言いながらシルフィスは懐から一冊のファイルを取り出して何かを確認している。そんな物をどうやっていれているんだ?突っ込みたいが黙っておく。

「知ってたのか。まあ、おまえはあの頃からいたからな」

 それを聞いてシルフィスは、怪訝な顔をして祐介に尋ねる。

「おや?驚かないのですね。それに何故その当時、私が存在していたと解るのです?」

 俺は当然のように言った。

「物好きだからなおまえは、それで知名度が高くなってちょっとした名物だったんだぞ。それにあまえとは何度も戦ったからな。あの頃はまだおまえが闇のままだったし俺も一つだったからな」

 シルフィスは俺の言っていることが解らないといった様子で、尋ねてきた。

「一つだった?それは、いったいどういうことですか?」

「知らないのか?」

 シルフィスは悔しそうな顔をして頷いた。

「ええ、貴方のことは調べ尽くしたはずなのに」

 それを聞いて俺は驚いた。

 こいつは何でも知っているように思っていたが、どうやら違うようだ。

 まあ知らないのも無理はないだろう。それはこいつが闇から魔獣と化す前の話だから。

 それにこれだけは知られたくはなかった。

 ということは、俺があの戦いで起こしたことや、その時戦っていた龍人であることを知らないということになる。

 それが解って嬉しくもあるが、こいつの趣味には呆れてしまう。

「おまえなあ」

 それは犯罪だぞって言おうとしたが、やめた。こいつに何を言っても無駄だ。

「それではぜひとも教えていただきたいですな」

 そう言って、シルフィスは懐からペンとメモ帳を取り出して、眼を輝かせている。

「何だそれは、言っとくが教えないからな。それじゃあ俺は帰る」

 そう言って俺は、早足で歩き出した。

 シルフィスは慌てて後からついてくる。

「待ってくださいよう。教えてくれるまでついていきますからね」

 俺はうんざりしたように、頭を掻いて振り返って怒鳴りつけた。

「教えないったら教えない!。とっとと帰れ」

「いいじゃないですかあ、教えてくれたって。減るもんじゃないし」

 そういってシルフィスはすりよってきた。

「えーい、気持ち悪い離れろ!」

「なら、教えてください」

「嫌だ」

 俺は即答してシルフィスを引き剥がして、歩き出した。

 その後をついて来る、シルフィス。

 立ち止まり、振り返った。

「ついて来るな!」

「貴方が教えてくれないからいけないんです」

 シルフィスは子供のように、いやいやをして俺から離れない。

 こいつの挙動にもつくづく、疲れる。

 こうした子供じみたことをして俺を振り回すこともあれば、興味本位で手を出した、実験に失敗してできた産物の後始末を押し付けられたりもした。

 こんな身勝手な奴だが、実力は確かなものなので釈然としない。

 俺はしつこく付きまとうシルフィスに我慢できなくなって、叫んだ。

「えーい、しぶとい!こうなったら最後の手段だ」

 そういって俺は急に走りだす。

「逃がしはしませんよ」

 シルフィスも俺の後を追ってくる。

 しかし、角を曲がった所で俺を見失ってしまった。

 シルフィスは肩をすくめて溜息をついた。

「やれやれ、逃げられてしまいました。でも次は逃がしませんよ」

 そう言ってシルフィスは電柱の影の中に溶け込んで消えた。

    *

 空間転移で出てきた所は自宅の玄関前だ。

 シルフィスから逃げてきたのだ。この敷地には魔除けの結界を張ってある。

 この結界は魔獣を浄化する力がある。だからどんなに強力な魔獣といえども、容易に中に入ることはできない。

 俺は安堵して脱力した。

 だがすぐに表情を引き締めて呟いた。

「ついにあいつが目覚めるんだな」

 そして何かの覚悟を決めたように小さく呟いた。

「”もう一人の俺“が………」

    *

 俺の街に伝わる伝承には、実は嘘と空白の部分があった。

 まずダークマスターを封印したというのは嘘である。

 ダークマスターは倒したのだ。この手で、ある少女を犠牲にして………

 そしてその先が空白の部分だ。

 俺は当時その少女と恋仲にあった。

 だから俺はその後悲しみに耐えきれず、あまりにもの強大すぎる力を制御することができず、暴走してしまった。

 それによって闇に形を与えてしまい、その結果魔獣が誕生した。

 そのとき俺の中に存在していた“もう一人の自分”ともいえる女性が全ての負の力、つまり悲しみ、怒り、憎しみ等といったものを全て引き受けることによってその暴走を(しず)めることに成功した。

 それ以来俺は決して一つに戻ることはなかった。

 そしてまた彼女が目覚めようとしている。

 ということは俺にとってとても重要なことが起きるということだ。

 なぜなら、彼女は俺の中に存在する全ての負の力を引き受ける存在。

 その彼女が目覚めるということは、俺にとって何か不吉なことが起きる予兆なのだ。

「このことにはちゃんとけりをつけなくちゃいけないな。あいつにばっかり嫌なこと押し付けてきたからな、あいつにも楽しい思い出を作ってやりたい、そして安らかに眠れるようにしてやりたいからな」

 あいつに対してせめてもの償いというか、安心させてやりたい。

 だからそのために証明したい。俺はもう負けない、今度こそあの少女を“光の巫女”だったレミを守ってみせる。

 そしてもとの俺に戻ることを。

 それがこの時代に覚醒した俺の誓いだった。

 


 あとがき

 

祐介「あれ?紀衣さんがいない。どこへ行ったんだろ」

美優希「さあ、食事でもしてるんじゃない?ちょうど夕飯時だし。私達も食べよう、今日は奮発してステーキよ」

祐介「それもそうだな。それじゃあいただき……」

シルフィス「待ってください!それを食べてはいけません」

祐介「うわっ!おまえはシルフィス。なぜここに?」

シルフィス「あなたのいる所ならどこへだって追いかけていきますよ。それよりもその肉を食べてはいけません」

祐介「何でだよ?」

シルフィス「何故ならその肉はき………」

美優希「はいは〜い。お邪魔虫は退散しましょうね〜(きら〜ん)」

シルフィス「ぎょええええぇぇぇ〜」

美優希「さっ、邪魔者はいなくなったから冷めないうちに食べましょ」

祐介「あっ、ああ。それじゃあ、こんどこそいただきま………」

紀衣「ゆ〜す〜け〜さ〜ん。わたしの体を食べないで〜」

祐介「うわっ!きっ、紀衣さん。どうしたんですか?なんか薄いですよ。それに体って、いったい……」

紀衣「ですから、それはわたしの体なんです」

祐介「ええ――――!!

美優希「……気付かれたか」

紀衣「美優希さん、ひどいですよ〜。気がついたら空に浮かんでるわ、わっかはあるは、おまけに薄くなってるし」

美優希「だってこの間、逃げたでしょ?」

紀衣「だからって、そこまでしなくてもいいじゃないですか。うう〜」

祐介「美優希、さすがにこれはやり過ぎだ」

美優希「そうね……さすがにやり過ぎだったみたい。ついついばたしすぎちゃった。解かりました、私が責任持って元に戻します。といっても私一人じゃどうにもならないからほかの皆にも協力してもらわないといけないけど」

祐介「その辺のことは俺も手伝うよ」

美優希「ありがよう。そういうわけで紀衣さん、もう少し我慢してくださいね」

紀衣「わかりました。でも、できるだけ早くお願いしますね。わたし、幽霊なのでこのままでいると、じきに死神さんに連れていかれちゃうので」

美優希「わかってます。そうなってもちゃんと連れ戻しますのでご心配なく」

紀衣「とりあえず一安心したところで、今回はこの辺で失礼します」

 




魔獣が誕生した秘密が明らかに!
美姫 「意外な事実よね」
うんうん。と、それはさておき、堀江さんが幽霊になっちゃったんだが……。
美姫 「無事に次回が届くのかしら」
続きが気になるので、美優希ちゃんには、一刻も早く元に戻してもらわないとね。
美姫 「相手がアンタなら、私は放っておくけれどね」
そう言うと思ったよ。
美姫 「だって、アンタ土産を持って戻ってきそうなんだもん」
さて、無事に元に戻って次回が届く事を祈るか。
美姫 「いや、そこは否定しないの、ねえ」
ああ〜、無事に次回も来ますように〜。
美姫 「ねえってば!」



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