――2001年1月29日、午前5時48分。

 

 

 

あれほど激しかった嵐のような雨も上がって、和人と信一は痛む体に鞭打ってマンションの屋上から、彼方の相模灘……否、広大な太平洋を眺めていた。

未だ暗い海は、一向に日の出の気配を見せないでいる。

「……そういえば」

穴だらけのコートを着込んだ和人が、不意に、何か思い出したように口を開く。

「俺のベレッタは壊れてしまったけど、お前の『刃月』はどうなったんだ?」

まともに秒速1200メートル以上で飛来する弾丸を受けたのである。乱暴に計算しても、1平方メートル辺りに架せられた衝撃は551.8キログラム。ベレッタに装填されている通常の9mmルガー弾の、約10倍の威力である。

並みの刀では当然ヘシ折れているだろうし、どう考えても、『刃月』が無事だとは思えない。

もし使い物にならなくなっていたら…………『刃月』ほどの名刀である。和人は、一生涯、身を粉にして弁償に尽力しなければならないであろう。

「ああ。それなら…ほら」

そう言って、信一は自分の右側に置いていた(刀を右側に置いておくのは敵意のない証明)白鞘を手に取ると、鯉口を切って『刃月』の無事な姿を和人に見せる。

ほっと安堵の息をつく和人。

「しかし凄いな、その刀は。すでに何人もの血を吸って、あまつさえあのベレッタの銃弾を受けて健在とは……流石は備前の名刀、といったところか」

感心した様子で刀身をしげしげと眺めながら言う。

そんな和人に、信一は苦笑しながら、

「……実はこれ、備前の物じゃねぇんだ」

――と、何気に驚愕の台詞を言った。

「なに!? ……しかし、銘は備前長船となっているぞ? まさか贋作?」

「贋作と言えば贋作なんだが……ほら、大神一族は古来より栄華を誇ってきた名門・藤原一族の守護者だろ? 表に出ない、陰の連中とはいえ、やっぱ藤原を守る以上、それ相応の刀じゃねぇと世間様に――といっても、上流社会のさらに裏の方だが――示しがつかねぇんだ。だから、自分達の使う刀を作刀の聖地である備前の……それも最高クラスの備前長船としたんだよ。その風習が現在も続いているんだが……俺は大神の人間じゃねぇけど、大神の剣士だから、必然、そういう刀を使う羽目になったってわけ」

信一の説明に、なるほどと頷く和人。

確かに、古き時代には自分の名声を轟かせるため、己を奮い立たせるため、己を戒めるために、自分の使う刀に『備前』だとか、『正宗』だとか、偽りの銘を刻んだ剣士達もいた。

商売として刀を取り扱っていた者などは、『備前長船』の銘を刻んだ贋作などは、日常茶飯事で取り引きしていたし、むしろそうして目利きのない侍に破格の値段で買わせることは当時の常識であった。

それを考えれば、古い歴史を持つ大神一族がそうして自分達の刀を偽ってきたのも頷ける。

「……なるほど。しかし、贋作にしては素晴らしい刀だ。これは一体何処の誰が……?」

和人は、おそらくは一般には知られぬ、俗世間とは一線を隔した凄腕の刀工が作刀した物だろうと、予想を立てながら信一に訊ねた。

しかし、信一から返ってきた答えは、和人の予想を大きく上回るものだった。

「…………俺」

信一は困ったような笑いを浮かべながら、人差し指で自分を示した。

和人は、両目を大きく見開いて絶句した。

三浦半島に、“ひゅ〜”と、冷たい風が吹き込む。

夜明けはまだ、遠いようだった。

 

 

 

古代種

第十七章「それぞれの夜明け」

 

 

 

――2001年1月29日、午前0時30分

 

 

 

「―――そうですか。では、総理に伝えておきます」

携帯のフリップを閉じて、財務大臣・国林和秀はゆったりとソファに腰掛けた海棠総理に向き直った。

両サイドを黒木と、軍服の男に守られる形でいる海棠は、「深町君から?」と、視線だけで問うてくる。

国林は頷くと、簡潔に、「叶和人と吉田信一の戦いが終わりました」と、言った。

「そう……」と、返答した海棠は、しばらく眼を閉じて思案すると、おもむろに口を開いた。

「四十万市で生じた戦闘の被害は?」

「部隊の展開が早かったので迅速に対処できたため、人的被害は皆無です。現在、工作部隊が四十万市に向かって、建物や道路の破損の修復を開始しております」

「それは住民に投与した薬物の効果が切れるまでに終わるのかね?」

「充分、可能だとのことです」

「そうか……」

海棠は国林の報告に安堵の溜め息を漏らした。

その様子を見て、それまで立っていた国林が、海棠と向かい合う形でソファに座る。

「北朝鮮に対してはどのような行動をとるおつもりで?」

不意に、海棠を守るように立っていた軍服の男が、海棠に言った。

「全ての処理が終わった後、『国家安全委員会』で相談して正式に決めるが、私個人の意見としては、何もしないことにするよ。国籍不明のMiG−23二機については、抗議するにあたってあちらに潜入させたG2要員の存在をばらさなければならないし、なにより、まだ『ノーデンス』や『国家安全委員会』の存在を、一般大衆に知られるわけにはいかないからね」

「私もそれが良いと思います」

「ところで―――」

国林が賛成の意見を言い終えたところで、それまで沈黙を保っていた黒木が、不意に口を開いた。

「叶和人と吉田信一の、どちらが勝ったのですか?」

「そういえば肝心な部分を言い忘れていましたね」

「国林君、報告漏れは困るよ」

「すみません。失念していました」

「うん。以後、気をつけてください。……それで、どちらが勝ったのかね?」

「あ、はい。……吉田信一本人の報告によると、彼自身が勝ったとのことです。叶和人は、重症を負いましたが、命に別状はないそうです」

「そうですか」

「さすがは、()()息子(・・)だね」

海棠の視線が、軍服の男に向けられる。

軍服の男は、表情ひとつ変えることなく、首を横に振った。海棠を見るその視線は、厳しい。

「まだまだですよ、あれ(・・)は。……それに、私とあれ(・・)は、もうとうの昔に親子の縁を切っています」

軍服の男は『親子の縁を切った』の部分をやや強調して言った。その言葉には、まるで今言ったことを再度、自分に言い聞かせているような、そんな悲しい響きを孕んでいた。

軍服の男を見る3人の視線が、悲しげなものへと変わる。

男はその視線に気づくと、「大丈夫です」と、苦笑して言った。

そして、黒木に向かって目配せをする。

黒木は、軍服の男と視線だけでの会話を終えると、おもむろに部屋の扉のほうへ足を進めた。

「? 黒木さん、どこへ?」

その場から立ち去ろうとする黒木に、国林が声をかける。

黒木は立ち止まって、首だけ振り返ると、

「『鷹』と連絡をとります。叶和人の現状を聞いて、適切な治療方法を伝えてやらねば」

と言い、国林の返事も聞かずに部屋を後にした。

部屋から出ていく黒木の背中を、海棠の複雑な視線が見送った。

……夜はまだ、長そうである。

 

 

 

――2001年1月29日、午前1時07分

 

 

 

「……うん……そう……わかった。……うん……うん……おやすみなさい……」

 “ピッ”と、通話終了のボタンを押して、受話器を置く。

自分の兄と、その親友の無事を電話越しに確認した加菜は、少し間を置いてから、ほっと安堵の息をついた。

――と同時に、キッチンで火にかけた薬缶が激しく蒸気を噴き上げ、彼女は慌ててキッチンへと向かう。幸いにして、彼女はお湯が吹き零れる前に火を止めることが出来た。

ほっと、二度目の安堵の息をつき、その直後、お湯の沸いた薬缶を見て、彼女は苦笑する。

和人と信一の戦いが終わるまでは――――――と、眠気覚ましにコーヒーを煎れるべく沸かした湯だが、どうやら無駄になってしまったらしい。

「……でも……折角だから…………」

食器棚からカップを、戸棚からインスタントコーヒーのパックを取り出す。

――せめて、兄達が帰ってくるまで頑張ってみよう。

小さな決意を胸にして、彼女はゆっくりとコーヒーを煎れていった。

はたして、彼女が睡魔に意識を奪われる前に彼らは帰ってくるだろうか?

夜はまだまだ続く……

 

 

 

――2001年1月29日、午前0時38分

 

 

 

戦いを終えた鋼鉄の荒鷲は、その翼を休めるために航空自衛隊百利基地へと帰還していた。

いかなる理由があってのことなのか、格納庫ではなく滑走路にそのまま停められたF−15は、自慢の双発エンジンを沈黙させ、じっとその身で雨の滴を受けている。

灼熱にまで温められた機体は、未だ勢いを増し続けている雨に打ちひしがれ、朦々と蒸気を上げていた。

基地内の僅かな照明に照らされたその様は、まるで一枚の絵画を思わせるほど、幻想的である。

「…………」

その様子を、百利基地の執務室の窓際からじっと見つめる、1対の視線があった。

件のF−15で、今しがた2機のMiG−23と熾烈な空中戦を繰り広げ、ヴィクターVを撃沈した男……闇舞北斗の視線である。

彼の背後では、高級そうなソファに腰掛けた藤原国務大臣が、何やら携帯電話で話しこんでいた。薄い唇から紡ぎ出される言葉は日本語ではない。日本語の文法に沿って紡がれた、英語だった。明らかに、第三者からの盗聴を憂慮しての、話し方である。

ややしわがれた藤原国務大臣の言葉をBGMに、北斗はきつい眼差しでF−15を見つめ続けた。

西洋人を思わせる、彫り深い精悍なマスクは冷ややかなままだったが、鋭い視線には何か熱気のようなものまで感じられる。

彼は舐めるように何度もF−15の頭頂から尾翼までを見回し、やがて、ぽつりと一言……

「あと5年……」

と、低く呟いた。

ちょうど通話を終えた藤原国務大臣が、「なんだって?」と、聞き返す。

北斗は藤原国務大臣を振り返った。

「あのF−15ですが、よく整備してあと5年…約30回程度のフライトで、寿命を迎えるでしょう」

「……それは君の目で見て、判断した結果?」

「はい。……分子レベルですが、機体各部――特にエンジン周辺とレーダーアンテナの部分に、若干の損傷が見られます。……さして気にするほどでもありませんが、F−15を長期間運用し続けるとなれば、延命処置を行うべきでしょう」

「ふむ……」

僅かな照明のみを頼りに、人間の眼では到底視認不可能な分子レベルの損傷について話す北斗。

ふざけているとしか思えない言動だったが、北斗の声は真剣だった。

そして、それに応じる藤原国務大臣の対応もまた、真剣そのものだった。

「……F−2導入に関する問題は、君も知っているね?」

「……確か、様々なトラブルの結果、当初導入する予定だった130機という数字を、大幅に削減するのでしたね」

「うむ。そこで現在防衛庁内では、老朽化したF−4ファントムUに代わる新たな戦闘機の導入を検討しているのだが……」

「選定期間や配備期間を考えると、まだまだF−15には頑張ってもらわないといけない?」

「うむ」

ほのかにブランデーの香りが漂う紅茶を口にし、藤原国務大臣は静かに頷いた。

北斗は、窓際からそっと離れると、狙撃を恐れてか分厚いカーテンを閉め、藤原国務大臣と向かい合わせの形でソファに座った。

藤原国務大臣の前には紅茶の注がれたカップとソーサーが置かれていたが、何故か、北斗の目の前にはカクテルを作るときに使うシェーカーと、その材料が並べられていた。

おそらく、北斗が頼んだものなのだろう。シェーカーに材料を入れていく彼の眼差しは、どこか優しげだった。

ドライ・ジンを45ミリ、ライム・ジュースを15ミリリットル入れ、鮮やかな手つきでシェークを開始する。

「……ところで、深町国防長官は、なんと?」

不意に、シェーカーを振りながら北斗が言った。

「――聞こえなかったのかい? 君の耳で?」

「眼の方に意識を集中させていたもので……それで、なんとおっしゃいたのです?」

藤原国務大臣はカップをソーサーの上に置くと、静かに口を開いた。

「……叶和人と吉田信一の戦いが終わったそうだ」

「ああ、そのことでしたか。――それならば、俺も見ていました」

「見ていた?」

「はい。F−15を動かしながら。吉田信一が勝ったのでしょう?」

「その通りだよ。……いやあ、相変わらず君の身体(・・)()()脱帽する。羨ましい限りだ」

「…………そんなに良いものじゃありませんよ」

キレのある手つきでシェーカーを止め、北斗はカクテル・グラスへと完成した液体を注いだ。磨き抜かれたグラスに、ジン・をベースにした純白のアルコールが映える。

「呪われた身体です。死にたくても死ねず、本人が望む望まざる関係なしに、闘争へと駆り立てていく……厄介な代物です」

「……そうだったな。すまない。君の気持ちも考えずに……」

「いえ……」

北斗はカクテル・グラスを手に取ると、自らの目の前でゆっくりとくゆらせた。

純白のカクテルの水面が揺れ動き、彼はふっと微笑を浮かべる。

「……そう言っていただけるだけで、幸いです」

彼はバリトンの効いた声で囁くように言って、グラスを傾けた。

純白のカクテル……ギムレットの濃厚な味と香りが口内に広がり、飲み干した北斗は、ニヤリと唇を歪めた。

「美味い……」

窓越しに見える空はまだ暗く、ギムレットを楽しむ()()()から見える太平洋もまた、暗い。

夜はその帳を深めたばかり……

 

 

 

――2001年1月29日、2時44分。

 

 

 

高層分譲マンション『サニー』の一室……世渡良介の部屋では、異常な光景が展開していた。

無限の大宇宙である。

神秘的と表現すれば、あまりにも神秘的過ぎる異次元の宇宙……それを背景に、世渡良介と男は向かい合っていた。

惑星の配置1つ見ても、明らかに我々の住む太陽系とは異なると分かる別の宇宙、別の銀河。その遥か彼方に、その美しい惑星はあった。

地球同様、青く、緑に富んだ惑星。高い知性を持つ生物が繁栄し、素晴らしい文化と、高度な文明を築き上げている理想郷。

その惑星に、無明の宇宙にあってなお暗いと認識出来る影が迫っていた。

影は、その惑星を象徴する“美”や“知”を憎悪するかの如く身悶えし、ついには一条の矢を惑星へと放った。

暗黒の矢がその惑星に突き刺さったとき、宇宙をつんざく叫びを上げて、星は粉々の岩くれになり散っていった。

「……ふむ。どうやらすべてのショーは幕を降ろしたようだな」

周囲の空間を巨大なスクリーンにして繰り広げられる異様な光景には目もくれず、男――古き高貴な血を引くファラオの如き人物――は、芝居の掛かった口調で言った。

「終わりましたか?」

大仰な仕草の男とは対称的に、良介は淡々としており、どこか冷めている。

しかし、男は良介の態度さえ目に入らないのか、役者さながらの身振り手振りを交え、なおも尊大な口調で続けた。

「ああ。叶和人と吉田信一の闘いは『蒼炎』の剣士が勝ち、神聖なる決闘の場に足を踏み入れようとした不逞な輩は誇り高き戦士達が討った。その戦士達も、もはやその場に留まる意味をなくしたのか、次々と守りの役目を癒し(・・)()()()へと託し、帰還していく。……見たまえ」

男は、まるで魔法のように何かの機械をテーブルに置いた。

洗練されたガラス細工のようにも見えるソレは映写機で、スクリーンは無明の宇宙だった。

機械が作動し、それまで彼らを取り巻いていた壮大な宇宙が霧散し、場面が一転する。

「戦士達の凱旋だ」

映し出されたのは、先刻まで四十万市に展開していた、本郷少尉ら謎の武装集団の姿だった。

彼らはどこかモダンな感じのバーにおり、皆表情を緩ませていた。先刻まで銃が握られていた手には、今は一杯の杯が握られている。次なる出撃に備えてか、中身はアルコールではないようだったが、彼らは満足気だった。

「生死の境に立って行う仕事を終えたせいか、皆楽しそうだ。生きていることの幸せを噛み締め、歓びに満ちている。…………観ているこっちが、憎らしくなるほどに」

男は、無表情で“パチンッ”と指を鳴らした。

機械が唸るような駆動音を鳴らし、戦士達の急速の映像を映すのを止める。

代わって映し出されたのは、また一転して“シン……”と静まり返った四十万市の様子だった。人々が深い眠りに就いている間に刻まれた破壊の爪跡はすっかり修繕され、街は静かな夜の平穏を取り戻しているように見える。

「―――だが、街は未だに糜爛な眠りに囚われている。彼らは建物の外壁に穿たれた穴を埋める事は出来ても、それを隠すために、自らもたらした睡魔は除去するにはいたっていない……」

「……結局、何がおっしゃりたいのです?」

男の言葉の途切れ目を縫って、良介が質問をぶつける。

男は、ニヤリと口元を歪めた。

「人間とは、観ていて飽きんな」

「……誉められたのか、けなされたのか判断に窮するお言葉ですね」

「人間は不思議だ。一方で平和を希求しながら、一方では戦乱を望んでいる。片方が唯一神を崇拝すれば、もう片方は多神はおろか何の神も信じようとしない。同じ生物だというのに、行動に統一性がなく、パターンがない。しかも、それが分かっていながら、心理学などという学問を発展させようとしている。……時に我々が敷いたレールの上を走っているかと思えば、時に我々に対してさえ牙を剥こうとする。人間を観察することには常にスリルが付き纏い、毎日が新しい発見の連続だ。――飽きなど、くるはずがない。鈴風(・・)――否、()()世渡良介であったな。人間として喜ぶがいい。やはりお前達は第一級の見世物だ」

「……やはり、素直に喜べません」

「ククク、まあ、そうであろうな」

男は出したときと同じように、まるで魔法かなにかのごとく映写機を掻き消した。

四十万市の映像が消え、あの大宇宙の光景すら消失する。2人は、元の良介の部屋をバックにしていた。

「――ところで、今夜、この部屋はこんなにも明るく、我々は室内を動き回っているが、大丈夫なのか?」

突如として真顔になった男が、良介に問う。

慣れたことなのか、男の態度の急変には触れず、良介は曖昧に首を横に振った。

「大丈夫……では、ないでしょうね。――ですが、どのみちあの(・・)組織(・・)にかかっては、いつかはバレることでしたよ。仮に今夜電気を落とし、室内でじっとしていたとしても、24時間体制で、それも広範囲にわたって行われている監視の網を抜け出す事は不可能です。()()ここ(・・)()居る(・・)()は、遅かれ早かれ彼らの知るものとなったでしょう。…………いえ、それ以前から私がここに居ることは、すべてお見通しだったのかもしれません。あの吉田信一が、叶和人に会うためだけにここまで来たとは、思えませんから」

()のこともありますし」と、小さく付け加えて、良介は自嘲するかのような冷笑を浮かべた。

男が、難しい顔で訊ねる。

「出てきそうなのか? ()が」

良介は首を縦に振って言った。

「最後に()が出てきたのが1月21日ですから、あと4日といったところでしょうか? 次第に()の声が大きくなってきました。…………以前は、1ヶ月に1度程度だったのですが」

最後の部分だけは、良介は伏せ目がちに言った。

男が、今までの態度からは考えられないほど態度を豹変させ、良介の肩をそっと抱く。

「安心しろ。お前は、お前だ。私が側にいる限り、お前の心は誰にも渡さん」

「……ありがとうございます」

這い寄る混沌たる私に例を言っても、救われはしないぞ」

「……そうでしたね!」

男の真顔で言った冗談に、良介は苦笑した。

そんな良介を見て、男はふっと微笑むと、窓の外に広がる夜空に向かって、呟いた。

「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン」

男の言葉は、窓ガラスを通過して遥か彼方の太平洋まで飛んでいく。

やがてその太平洋より昇り出でるであろう朝日を待って、夜は静かに更けていく……

 

 

 

――2001年1月29日、6時21分

 

 

 

冬の日の出は遅い。

そんなことは百も承知であったが、極端に体力が消耗し、全身泥だらけ、傷だらけという状態の和人と信一は、迂闊にその場を動くことが出来なかった。

麻酔が切れたため、ちょっとでも動けば全身に痛烈な痛みが走り、体力の回復を待ってじっとしていても、濡れた服と冬の冷気がむしろ体力を奪っていく。

――せめて暖かくなってから、と考えたものの、壮絶な戦闘の後で判断力が鈍っていたのだろう、当の暖かさをもたらしてくれる太陽は、まだ水平線の向こう側にあった。

「なあ、信一……」

「なんだ?」

「日の出はまだか?」

「……まだみたいだな」

2人は、どこか遠い目で広大な太平洋を眺めながら、焚き火を囲んでいた。『略奪』で濡れそぼった木から水のエネルギーを奪って乾燥させ、『蒼炎』で木を燃やして焚いた焚き火である。

青色の焚き火に照らされる彼らは、やはり寒そうだった。

和人はよしとして、信一の巨体をカバーするには、目の前の焚き火では小さすぎるのだ。

それならば、もっと大きな火を起こせばいいじゃないかと、批評が出るかもしれない。

しかし――――

「あんま大きいの作っても、バレるしなぁ」

考えてもみてほしい。辺りはまだ暗く、四十万市の住人達に投与した薬物の効き目はとうに切れている。いつ誰が起きて、この青い炎を目撃されるか分からないのだ。

そのため、2人は泣く泣く小さな焚き火を前に身を寄せ合って、互いの熱を分け合っていた(この際、和人の瞳が灰色に輝いていたが、気にしないでおこう)。

和人は、焚き火の前に濡れたベレッタM3032トムキャットを置いて、せめて木製のパーツだけでもと乾かしていた。

彼はぼんやりとした視線でトムキャットを見つめながら、「どうするか……」と、呟く。

「ん? どうした?」

聞き返す信一に、和人は乾いた笑みを浮かべながら、

「……いやベレッタは壊れた。ナイフも2本砕けた。これからGRUの刺客が襲ってきたら、どう戦おうかなって」

「あ〜……それはまた……なんだ……」

ベレッタを壊し、ナイフを2本砕いた張本人は、困り顔で夜空を見上げる。

和人の皮肉交じりの呪詛はなおも続いた。

「4年も使ってたからな……ベレッタには特に愛着があった。何度もパーツ交換して寿命延ばして、色々な弾薬使ってクセつけて……」

「す、スマン……」

「ナイフは確かに拳銃より安かったけど、この国で買うと2・3万とかザラだった……」

「だからすまなかったって!」

「挙句、密輸入で取り寄せたトムキャットはこんなに冷たくなって……」

「あ、あの和人さ〜ん?」

言っているうちに、段々とテンションが下がっていく和人。

もし、自由に動ける身だったら信一から20メートルぐらい離れて、のの字書きをはじめていたかもしれない。

どんどんテンションの下がっていく和人の対応に、どうしたものかと信一が困り果てたその時、

「…………朝日だ」

遥か彼方に広がる広大な太平洋。

その水平線の向こうから、僅かずつ光が昇っていく。

冬の朝の透きとおるような空気が光を通し、見る見るうちに彼らの姿が照らされていった。日に照らされた2人の影が、細長く伸びる。

「…………」

「…………」

2人とも、声を発することはなかった。

食い入るような真剣な眼差しで日の出の瞬間を見、そして満足気に笑った。

「ありがとう……」

不意に、和人が視線は太陽に向けたまま、言った。

突然の礼に、信一が首を動かし、怪訝な顔で和人を見る。

「美しい光景だ。――お前達が守ってくれなかったら、もしかして俺は今頃GRUに捕まって、この日の出を見れなかったかもしれない」

「…………」

信一は一瞬辛そうに表情を歪めると、再び視線を太陽に戻した。

そして数分間、何かを熟考して、彼は口を開いた。

「和人……」

「ん?」

「……実は、俺はまだお前に言ってなかった事がある。俺がこの街に来た理由は、確かにお前に会うためだが、実はもう1つ別に理由があるんだ」

「それは一体?」

「……すまねぇ。今は言えない」

「そうか。……仕方ないな」

「ただ、一言だけ言わせてくれ」

「なんだ?」

「……世渡先生に気をつけろ」

「世渡先生? 倫理の?」

「ああ」

「それは一体――と、すまん。質問は許されていなかったな」

「すまねぇな。勝手なことばかり言って……」

「いや、いいさ」

和人は日の出の瞬間を見つめたまま、信一に言った。

「…………色々と、ありがとうな」

4年間――決して長くもないが、短くもない時。

和人の言った『色々』に籠められた思いが分かったからこそ、彼は静かに涙を流した。

自分と和人の間にあった、4年の空白……それがゆっくりと埋まっていくのを、信一は感じていた。

 

 


〜章末設定解説〜

 

――悪魔とは?――

 

悪魔3位階3階級

位階

名称

堕天以前

上級3位階

サタン

熾天使

ベルゼブブ

智天使

レヴィアタン

座天使

中級3位階

アスモデウス

主天使

バルべリス

力天使

アスタロト

能天使

下級3位階

ヴェリエーヌ

権天使

グレシール

大天使

ソネイロン

天使

 

 

 

悪魔とは?

タハ乱暴「さて、今回の章末解説の前に聞きたいことがある。子供達よ、悪魔とは何ぞや?」

かおる「そりゃ、タハ乱暴のことでしょ?」

タハ乱暴「ち、違う! 断じて違う!!!」

西川「嘘付け。中学時代、あんた何て呼ばれてたよ?」

タハ乱暴「うぐッ!」

北斗「たしか……現在のペンネームであるタハ乱暴の他に、『デビル』だったか?」

かおる「そうそう。たしか『デビルマン』から由来するんだったよね」

タハ乱暴「ま、まぁそうでしたけど……って、違う! 今回の章末解説は『古代種』という物語には欠かすことの出来ない存在・『悪魔』について!!! はい西川! 悪魔とは何かについて答えなさい」

西川「な、なんで俺?」

タハ乱暴「フー、フー、フー、フー…いいから、フー、フー、フー、フー……答えなさい」

西川「(そんな息切れするまで怒鳴らなくてもいいだろ)……え〜、悪魔っていうのは、要するにキリスト教で言うところの『堕天使』だよな?」

タハ乱暴「まぁ、そうだな。堕天使ルシフェルの反乱についてはあまりにも有名だからあえて説明は省くが、じゃあ、かおる、堕天使の目的はなんだ?」

かおる「こ、今度は私!? ……えっと、人間を堕落させること、かな?」

タハ乱暴「うむうむ、良いとこまできたな。……だが、ここまでの話はあくまでキリスト教(・・・・・)()悪魔(・・)についての話だ。『古代種』に登場する『悪魔』達は、概ねキリスト教の連中に則するが、所々タハ乱暴が手を加えている。よってここからは、『古代種』の世界における『悪魔』の解説をしよう。……ちなみに北斗」

北斗「なんだ?」

タハ乱暴「悪魔のことを英語で言うと?」

北斗「『 devil 』だ。無論、古代イスラエル人は悪魔をこうは呼んでいない。彼らがいう悪魔とは『 satan (敵対する者)』であり、デビルというのは、元を辿ればギリシア語にまで起源を遡ることが出来る。

周知の事実だが、旧約聖書はヘブライ語で記されている。一部はアラム語を使用してはいたが、モーセの出エジプト以来、イスラエル人の公用語はヘブライ語であり、ヘブライ語はイスラエル人達にとってある種のアイデンティティですらあったわけだ。

だが、紀元前4世紀頃、ギリシアにアレクサンドロス大王のマケドニア王国が勃興。次々と領土を拡大し、各地の都市にギリシア人を入植させた。これによって、地中海沿岸から西アジアに至る一帯はギリシア文化が一気に伝播することとなり、人々の間にはコイネー・ギリシア語が広まって、共通語となった。それはイスラエル人=ユダヤ人(厳密に言えばユダヤ人という人種は存在しないが)も例外ではなく、紀元3世紀頃にはヘブライ語を話せないユダヤ人が多くなり、ついには旧約聖書すら読めない者が続出してしまった。

これを重く見たのが、ユダヤ人の長老72人だ。彼らは旧約聖書をギリシア語訳することを決意し、『モーセ五書(トーラー)』を72人全員が別々に翻訳した。その結果、一字一句違わないものが出来たことから、ギリシア語訳の旧約聖書は、切りのいい70という数字にちなんで、『70人訳聖書(セプタギュンタ)』と呼ばれるようになった。

このギリシア語訳の際、サタンのギリシア語候補として選ばれたのが『ディアボロス』、すなわち『中傷する者』、『敵対する証人』という言葉で、これが最終的に『デビル』の語源となるわけだ」

タハ乱暴「変貌としては『サタン→ディアボロス→ディアボロ→デビル』だな。ちなみに悪魔を表す言葉として『デーモン』があるけど、これは元々ギリシア語の『ダイモン』からきていて、意味は『精霊』。だから語源から悪魔の正体を辿っていくと、『デビル=堕天使』、『デーモン=精霊』という見方も出来るわけだな」

 

地底大戦

タハ乱暴「悪魔は堕天使だ。『古代種』においても、基本的にその部分は変わらない。では、堕天使とは何か? 堕天使を知るためには天使を知らなければならないけど、紙幅の都合上あまり長々と語ってられない」

かおる「だから今回はあんまり突っ込んだところの話はせずに、魔界における悪魔という生物と、その生態、社会についておおまかな話をしていきたいな〜って、思ってます」

西川「そこそこマニアックだから、ついていけない人も安心してくれよな! それが普通なんだ」

タハ乱暴「『古代種』の世界において、天使は元々クトゥルフとの戦いにおいて、地球の制空権を確保するために天帝が創り出した兵隊だった。彼らと人間の活躍によってクトゥルフは地下世界に封印されることになるのだが、これは後にルシファーが反乱を起こした際、少し困った事態を起こしている」

かおる「『古代種』でもルシファー達の反乱は失敗するんだけど、この後ルシファー達反乱軍は魔界――当時の地下世界――に、自分達の王国を作ろうとするの。けど地下世界にはクトゥルフの邪神達が封印されていて……」

西川「堕天使達は、自分達の居住権をかけて、クトゥルフと戦わないといけなくなっちまったわけだな。互いの生存を賭けた、低劣だけど最も純粋な思いからくる戦争……」

タハ乱暴「この戦いを、便宜的に『地底大戦』と呼ぶことにしよう。さて、互いの生き残りを賭けた戦いは熾烈を極めた。

敵は、かつて旧神達の中で最も強力な天帝が、天使や人間を創って質と量の両方で攻めて、ようやく封印(・・)出来た(つまり、倒すことは出来なかった)強大な力を持った邪神達だ。対して、ルシファー達堕天使軍の戦力は、クーデターを起こした時に募った全天使の3分1。自らも含めて、ベルゼブブ、バエル、レヴィアタンなど、天使の中でも強力な猛者達が揃っている堕天使軍だったが、戦況は戦う前から明らかだった」

北斗「だが、堕天使軍は2つの幸運に恵まれていた。

1つは、前の大戦で受けたクトゥルフ達の傷がまだ癒えていなかったこと」

西川「そしてもう1つは、長年クトゥルフ達が過ごしてきた地下世界の、劣悪な環境にあったんだ」

 

変貌する者達

タハ乱暴「……宗教絵画なんかを見ると、大概悪魔は醜い姿で描かれている。それに対して、悪魔(=堕天使)の本来の姿である天使は、過剰なまでに美化されて描かれることが多い。

天使と悪魔は本来同じものなのだから、個性として容姿に多少の特徴があったとしても、個体としてこれほどの違いがあるのはおかしい。最も論理的な考え方としては、堕天した時に姿形が変わったんだろう。……さてかおる、動物が別の姿へ変貌することを、生物学的に何と言う?」

かおる「『変態』……だよね? それから『進化』、かな?」

タハ乱暴「そう、それだ!!!」

かおる「え! どれ?」

タハ乱暴「堕天使達は地下世界の劣悪な環境に適応するために、『進化』したんだ!」

西川「ま、まさかそれが『古代種』でいうところの『悪魔』?」

タハ乱暴「その通り! 考えてみてほしい。堕天使達が地下世界へ降りる以前、そこは強大な『悪』たるクトゥルフが住む、いわば城だった。その城の空気は、クトゥルフのあまりにも強大すぎる『負の波動』に汚染されていたんだぞ?」

北斗「その場にじっと留まっているだけで、本来『善』である堕天使達は甚大なダメージを受けてしまう。強力な防御壁の張れる上級の堕天使はまだいいが、防御壁の弱い中級堕天使や、障壁を張ることすら出来ない下級堕天使などはバタバタと死んでいくしかない。堕天使達に残された方法は、ただ1つだけだったんだ」

タハ乱暴「大気を汚染する『負の波動』を取り込み、劣悪な環境に適応出来る存在へと、進化するしかなかった。……ただこの時、堕天使達やクトゥルフはおろか、成り行きを見守っていた天帝すら予期せぬ現象が起こった。

『負の波動』を取り込んだ堕天使達の多くは、すぐに自らの体内に宿っていた『善』の力を『悪』へと変えて、進化していった。しかし、強力な上級の堕天使は、体内に宿っている『善』の力があまりにも大きすぎたため、『悪』の力を用いた進化に時間がかかってしまったんだ」

北斗「体内でせめぎあう『善』と『悪』。時間をかけてゆっくりと溶け合っていった背反する力は、彼らに進化をもたらした時、他の悪魔とはまったく別の存在へと彼らを昇華した。

つまり、ただでさえ強力だった上級の堕天使達は、さらに強力な力を手に入れたんだ」

かおる「なるほど…。そのパワーアップした力と、傷付いたクトゥルフ達っていういくつかの条件が重なって、『地底大戦』は…………どっちが勝ったのよ?」

北斗「悪魔=堕天使達だ」

西川「地下世界を自分達のものとした悪魔は、その後地下世界の名前を『魔界』って呼ぶようになった。追いやられたクトゥルフ達は魔界のさらに地下……『辺土界』に住むようになったんだ」

 

三位一体

タハ乱暴「悪魔とは何か、そしてその歴史が分かったところで、次はちょっと特殊な悪魔達の生態について解説しよう。悪魔達の目的は基本的に人間を堕落させて、少しでも人間の魂を自分達のものとすることだ。だから悪魔の仕事というのは、『人間を堕落させること』ということになる。この辺りはキリスト教と変わらない」

西川「人間を堕落……ねぇ。でも、宗教画とか観てると、あんな醜い連中に誘われても、何の魅力も感じないな」

タハ乱暴「ところがどっこい、『古代種』の悪魔は、必要に応じてその姿を変えることが出来るんだ。ちなみにその数、3種類」

北斗「1つは、人間を堕落=誘惑するための姿だ。便宜上、この姿を誘惑態って呼ぶことにしよう。なあ、西川君。今、君の目の前にスタイル抜群、完璧なプロポーション、白く透き通るような肌の、ブロンドの女性が現れて、『あなたの魂をくれたら何でも言うことを聞くわ……』などと言われたらどうする?」

西川「う〜〜〜〜〜〜む…………」

かおる「そこで悩まない! ……それで、あとの2種類は?」

タハ乱暴「自分達の本来の姿……つまり、天使だった頃の姿。最後の1つは地下世界の環境に適応して進化した、悪魔の姿。それぞれ『天使態』、『悪魔態』と呼ぼう」

北斗「誘惑態は人間を堕落させるときに用いる姿。天使態は普段過ごすときの姿。悪魔態は100%の力を発揮するときの姿、とでも覚えてくれ」

 

悪魔の社会

タハ乱暴「悪魔の社会というと、無秩序なイメージがあるけど、『古代種』においてはちょっと違う。実は悪魔にもちゃんとした序列があり、階級があるのだ! 最初の図を見てくれ」

 

“サタン”

最高位の悪魔。魔界の実質的な政治を取り仕切っている者達で、直接魔界の王たるルシファーに拝謁できる唯一の存在。

 

“ベルゼブブ”

サタンを補佐する悪魔。智に優れ、有事の際には悪魔軍団の参謀役となる者達。

 

“レヴィアタン”

ベルゼブブ同様、サタンを補佐する悪魔。ベルゼブブが智の面でサタンを補佐するのに対し、彼らは実際に行動をする際の補佐をする。

 

“アスモデウス”

悪魔の中間管理職。ベルゼブブの召命を受け、下位の悪魔達に指示を下す行政官。

 

“バルベリス”

アスモデウスの統制の下、魔界の秩序と摂理を守る警察官。

 

“アスタロト”

魔界の軍隊。天使との戦いの際、実際に戦い、率先して戦うのが彼ら。

 

“ヴェリエーヌ”

実際に人間を堕落させるために動く悪魔。主に権力者の下へ行く。

 

“グレシール”

ヴェリエーヌの部下で、彼らの指揮の下人間を堕落させるため奔走する実働部隊。

 

“ソネイロン”

最も人間に接することの多い悪魔。大抵はヴェリエーヌの指揮の下動いているが、個人プレーの者も多い。

 

タハ乱暴「―――ま、ざっとこんな感じだな」

北斗「これらの3位階3階級は実際のキリスト教にもあるものだが、細部が若干異なっているな」

かおる「ちなみに欄外だけど、魔界にはデーモンっていう種類の悪魔もいるらしいわよ」

西川「負の波動を取り込んだ際に進化はしたものの、元あった知性を失った、いわば悪魔のなり損ないだな。デーモンは魔界の貴重な労働力として重宝されているらしいぜ」

北斗「人間でいうところの、奴隷みたいなものか……いや、奴隷よりは幸せだな。知性がないから、自分達が一体何をやらされているか、分からないんだから……」

 

魔界の名士達

タハ乱暴「さて、ここからは一般的によく知られている一部の悪魔の、大雑把な紹介をしよう」

 

“ルシファー”

言わずと知れた魔界の統治者で、最強の堕天使。

全ての悪魔を統括し、最上流階級たる「サタン」に唯一命令を下せる至高の存在。

 

“ベルゼブブ”

魔界のナンバー2にして、悪魔軍団の参謀長。元「智天使」だったが、その実力と政治手腕、ルシファーへの忠誠心から「サタン」に昇格した。

「ベルゼブブ」の管理者。ルシファーが唯一心を許すことの出来る親友。

 

“バアル”

「悪魔の弁護人」の異名を持つ魔界のナンバー3。「サタン」。

実力のみならばベルゼブブを凌駕するが、ルシファーに対して野心を抱いており、彼から不穏分子扱いされているためナンバー3止まり。

 

“ビヒモス”

過去・現在・未来を含めて、天帝が創造した最高傑作。大地の支配者。

パワーだけならばルシファーをも上回るが、気性が荒く、支配者には向かなかったため「サタン」となった。

 

“レヴィアタン”

ビヒモスの雌型。海の支配者で、深遠なる海の叡智を手にしている。

「レヴィアタン」の管理者。

 

“72人の魔王”

3位階3階級のいずれにも属さぬ例外中の例外。ルシファー秘蔵の虎の子・特殊部隊で、全員が揃えばバアルやベヒモスですら迂闊に手の出せない最強の悪魔集団。

 

北斗「他にも多数いるんだが、これも紙幅の都合上、これぐらいにしておこう」

西川「紙幅ってあんた……」

 

悪魔人間

タハ乱暴「……さて、長らく悪魔について話してきましたが、そろそろ終わりにしたいと思います。では、最後に3位階3階級にも、デーモンにも属さない、72人の魔王以上の例外、『悪魔人間』について解説しましょう」

西川「あ、悪魔人間……」

かおる「それってデビルマン……」

タハ乱暴「ち、違う! ……さすがに俺も永井豪を敵に回す気はない!!!」

北斗「ということは、クトゥルフを出している時点でラウグトフに喧嘩を……」

タハ乱暴「売ってない!!!

……コホンッ。悪魔人間の解説の前に、『古代種』の世界における魔術師についての説明を少しだけしましょう。『古代種』における魔術とは、この世界の人間が言うところの古代種能力を模倣したものです。人間達は古代種を恐れながら、なんだかんだでその力に羨望していたわけですね。

魔術師には2種類あります。白魔術師と、黒魔術師です」

北斗「今回注目するのは、この黒魔術師だ。黒魔術師にもいくつかの種類があるが、その大半は、魂と引き換えに悪魔の能力の一部を得た――つまり堕落した一部の人間のことなんだ」

タハ乱暴「しかし、やっぱり世の中には例外というものがあり、魂と引き換えに悪魔の能力を得ながら、黒魔術師と呼ばれない人達もいる」

西川「それが悪魔人間かよ?」

タハ乱暴「そうだ。……そして、その正体は」

かおる(ゴクリ……)

タハ乱暴「堕落した『古代種』だぁッ!!!」(ババーン!と効果音)

かおる&西川「な、なんてこったぁぁぁぁぁぁあああ!?」

北斗「……君達、キャラが変わっているぞ」

 

ところで……

タハ乱暴「――さて、ここでちょっとお知らせしたい事があります」

かおる「なに?」

タハ乱暴「次回から『古代種』は第2部に突入します。……まぁ、正確には閑章を1本挟んでから、ですが」

西川「……は?」

かおる「第2部って……このお話って、そういう構成だったの!?」

タハ乱暴「そうだぞ? 知らなかったのか?」

信一「そりゃ、教えられてないからな」

タハ乱暴「うおぅっ! 信一!?」

和人「ちゃんと俺もいるぞ」

タハ乱暴「か、和人まで……お、おひさ〜」

信一「ホント久しぶり」

和人「そして、スプラッタも久しぶり」

タハ乱暴「ま、待て! 今回はスプラッタされる理由がないぞ!?」

北斗「理由ならあるぞ」

タハ乱暴「な、なに!?」

北斗「本編における俺の描写。なんだあれは? あれじゃまるで俺は不審者じゃないか」

タハ乱暴「いや、まるでもなにもあんたは元から不審者って……うぎゃ〜〜〜〜!!!」

 

 

 

 

 

かおる「――ところで、今回なんで突然悪魔の解説なんてしたんだろ?」

西川「さあ?」

タハ乱暴「そ、それはだな……」

かおる「再生早ッ!」

タハ乱暴「(かおるの発言を無視して)そ、それは……今、お前が言った『突然』というところに注目すれば、おのずと答えは……ガクッ」

西川「(タハ乱暴を無視して)『突然』に注目?」

かおる「突然……何の前フリもなくってことよね……」

西川「…………」

かおる「…………」

西川「…………」

2人「ま、まさか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信一「出るんだよな〜……これが」




一部完!
美姫 「おめでとうございます〜」
あとがきでもあるように、第二部からは、出るんだな。
美姫 「また、とんでもないものが出てくるわね」
果たして、敵か味方か?
美姫 「そして、どう物語に関わってくるのかしら」
二部も非常に楽しみ。
美姫 「その前に閑章を挟むらしいけれどね」
うん、そっちも楽しみだぞ。
美姫 「一体、どんなお話が出てくるのかしらね」
楽しみに待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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