――2001年1月29日、午前0時26分

 

 

 

……2匹の獣が、そこにはいた。

叶和人と吉田信一。

2人の『古代種』は、互いにボロボロの体を奮起して、拳を振り上げ、脚を動かして、互いの体を、我武者羅に打ち合う。

構えも何もない闘いは、いつしか拳と拳だけの殴り合いになっていた。

和人が信一を殴る。

『蒼炎』の火の粉が宙に散り、信一の巨体が一瞬、よろめく。

信一が和人を殴る。

『略奪』の光輝が煌き、和人の体が一瞬、よろめく。

その光景は遠目に、『蒼』と『灰色』の光の激突のようであった。

「おおおおおお――――――ッ!!」

咆哮と同時に、信一は和人に跳びかかった。

力強い跳躍だ。しかし、直線的で単純な動きである。

和人は、余裕で躱した。

……躱した、はずだった。

だが、現実は違った。

信一は和人の使い物にならなくなった右肩を掴み、開いた右の拳で、力任せに彼の鳩尾を打った。壁に叩きつけられる和人。

血がべっとりと張り付いたコンクリートは、すでに亀裂が走り、今にも砕けそうな状態である。

その亀裂に指を滑り入れ、なんとか立ち上がる和人。

自分が思うように、もう体は動いてはくれなかった。

信一の方は……まだ、余裕があるように見える。

狙うなら、短期決戦。

―――次の一撃に、命をかける!

「ふぅぅぅぅぅ…………!」

今の今まで、この瞬間まで、奪ってきた『蒼炎』の熱エネルギー……そのすべてを、左腕に籠める。変換するのは運動エネルギーでも、電気エネルギーでもなんでもない、純粋な、破壊のエネルギー。

信一も和人のやろうとしていることに気が付いたのだろう。

彼もまた、和人を迎え撃つべく己が最強の拳を打つべく、右の拳を腰溜めに、両脚を肩幅まで開いて、大きく構えをとる。

睨み合う2羽の鳥。

己が最強の拳を、最高のタイミングで放つ瞬間を、狙っているのだ。

1分…2分……と静寂が続き、雨の降る音だけが、激しくなっていく。

―――やがて、不意にその瞬間は訪れた。

2人の眼がカッと大きく見開かれ、和人が、信一が、同時に動き出す。

純然たる破壊のエネルギーを孕んだ和人の拳が、地を這うようにスィングし、信一の顎へと迫る。

捻りこむように回転を加えて放たれた信一の正拳が、一直線に和人の心臓を狙って伸びる。

“バキィ……!”

“ゴォ……!”

そんな、むごたらしい鈍い音が交互に鳴り響き、1つの影が、宙を舞った。

 

 

 

古代種

第十六章「一つの決着」

 

 

 

勝敗を分けたのは2人の繰り出したパンチの違いだった。

和人が、『略奪』した熱エネルギーを純然たる破壊のエネルギーに変えて、拳に纏わせて繰り出したのは地を這うようなアッパーカット。

これに対して、信一が繰り出したのは目標に向かって真っ直ぐに突き進む、ライト・ストレート・パンチ……それも、回転を加えて威力を増強させた、コークスクリュー。

ただでさえリーチの短い和人は、この、繰り出したパンチの違いによって、先に信一の拳を喰らわざる終えなかった。

この一撃によって、和人の繰り出したアッパーカットはその威力のほとんどを失って信一に命中し、心臓を打たれた和人は、何メートルも後ろに吹っ飛ぶこととなった。

一般に心臓は、人体の最も弱い急所である。鳩尾や、股間などは、たしかに打たれれば痛烈な痛みを伴うものの、心臓よりは回復は早く、致命傷になることはあまりない。

その心臓に、『古代種』の――それも身長190センチ以上の、堂々たる体躯を持つ、信一の一撃が、極まったのだ。

地面に激突した和人は、急速に意識が遠のいていくのを感じていた。

(……くくく、ベレッタ一丁駄目にして、この様か。7万円が、パァだ)

薄れゆく意識の中、和人が最後に考えたのは、そんなことだった。

 

 

 

窓のない、暗い、コンクリートで囲まれたその部屋の片隅で、少年は震えていた。

部屋の壁に取り付けられた時計は、すでに壊れていた。時計なしで時間を計る訓練は一応してきたが、その技術を身につけるには、少年はまだ若く、幼すぎた。

だから、最初の爆発音があってからどれほどの時間が経過したなどは、わからなかった。

確かなのは、自分の姉が部屋から連れ出されて、まだ1時間は経っていないということだけだ。

姉は彼にとっての拠り所だった。幼い彼は、まだ10歳にも至っていない姉に依存していた。だから、姉が部屋を出ていってからの今までの時間は、地獄のように長く感じられた。

彼は、早口で百までを数えた。もう、我慢の限界だった。

彼は姉を探し出すべく、部屋の扉のドアノブに手をかけた。おどおどとドアノブを回すと、鍵は掛けられていなかった。

扉を少しだけ開けて、隙間から外を覗き見る。

すると、いくらかもせぬうちに、彼の鼓膜を、聞き慣れた、けれども嫌な音が打ってきた。

“バタバタ”と近付いてくるその音は、軍靴の音だ。

少年は慌てて扉を閉じると、先ほどと同じように部屋の隅の方に逃げた。

しかし、逃げたからといって、どうなるものでもない。

窓のない部屋から脱出する方法は軍靴の音が近付いてくる扉ひとつしかなかったし、殺風景な部屋には幼い少年が隠れるほどの隠蔽物もない。

彼は、自らを抱き締め、ガタガタと震えることしかできなかった。

―――と、自らを抱き締めたとき、彼の掌に、固い何かが触れた。

「……?」

どうして今の今まで気付かなかったのだろう?

彼のズボンのベルトには、1丁の拳銃ホルスターと、それに収められた自動拳銃があった。部屋を出て行く前に彼の姉が、お守りにとくれた物だ。

彼は、その自動拳銃をゆっくりとホルスターから引き抜き、しげしげと眺めた。

無駄のないデザインの拳銃は少年の手には大きかったが、意外とすんなりと、掌に馴染んだ。

軍靴の音は、すぐそこまで近付きつつあった。

少年ははっとすると、手にした拳銃を扉の方へ構えた。

(もしかしたら次に入ってくるのは姉かもしれない……)という考えは、すでに頭の中から消え去っていた。

今の彼は、とにかく、部屋に入ってきた人間に、弾丸をぶちこむことしか考えていなかった。

やがて、扉が少しだけ開いた。

彼は、まだ撃たなかった。

しばらくすると、その隙間から、“カラカラ”と音を立てて、部屋の中に何かが転がってきた。

部屋の照明はすでに使い物にならなくなっていたので、少年にはそれがなんなのか分からない。彼は、もっとよく確かめようと眼を凝らし、転がってきたそれに、近付いていった。

直後、それは爆発した。

耳をつんざくような痛烈な音と、目の前を真っ白にする眩い光……転がってきたそれが、スタングレネードと呼ばれる代物であることを少年が知ったのは、随分後のことだった。

少年は、目の前で何が起きたのかも理解できず、ただうろたえた。

数秒もすると、徐々に視力を取り戻し、耳も正常な機能を取り戻していった。

……気が付くと、彼は周りを囲まれていた。

自分に向けられているいくつもの銃口。強い意志を秘めた視線。

迷彩の施された戦闘服に、不思議なマスクとゴーグルをした彼らは、10人はいた。

少年は茫然となって、持っていた拳銃を落とした。

乾いた音が、部屋中を反響する。

周りを取り囲む男達が、聞いたこともない言葉で話しかけてきた。

言葉が通じないことに気が付くと、今度は、英語で話しかけてきた。今度は、何を言っているか理解できた。

「きみの名前は……?」

英語で訊かれたので、少年はたどたどしい英語で答えた。

「――君か。きみは、ずっとここにいたのかい?」

今度は喋るまでもないと思ったので、ただ頷いた。

「きみ以外の子は、ここには?」

少年は先ほど外に出ていったきり帰ってこない、姉のことを話した。

「っ! ……そうか。それじゃ、きみはずっと独りでお姉さんを待っていたんだね」

「偉いぞ……」なんて言って、男は彼の頭を優しく撫でた。

「きみのことをもっと訊きたいんだけど……生憎、おじさん達には時間がない。きみがよければ、おじさん達と来るかい?」

少年は、ちょっとだけ戸惑った。

姉のことは気がかりだったが、独りで外に出るのは怖い。

かといって、目の前のおじさん達が悪い人でないとも、限らない。

『悪い人の言う事を聞いたら駄目よ』

姉がよく言っていたことだ。破ったら、きっと姉に叱られてしまうだろう。それどころか、姉に嫌われてしまうかもしれない。それだけは、避けなければならない。

―――けれども、それ以上に姉のことが心配で仕方なかった。

少しの間、けれども長い間考えて、少年はおじさんの服の裾を掴んだ。

「行く……」

それだけ言うと、おじさんは「うん」と、頷いて、銃を持っていないほうの手で、彼をヒョイと、抱き上げた。力強い、丸太みたいに太い、頼もしい腕だ。

外に出ると、見慣れた景色は紅蓮に染められていた。

「これからどこに行くの?」

おじさんに聞く。

「おじさんの生まれた国……日本っていう国だよ」

おじさんは答えると、ゆっくりと歩き出した。

その後ろに、同じような恰好の何人もが続く。

遠い地平線を眩しげに眺めながら、少年は「自分で歩く」と、言って、おじさんの腕から離れた。

 

 

 

――2001年1月29日、午前2時36分

 

 

 

気が付くと、雨はすでに上がっていた。

重い体をゆっくりと動かし、やはり重い頭をゆっくりと振る。

――と、次第に覚醒しつつあるおぼろげな意識の中、和人は自分の体に、妙なものがついているのに気付いた。

「これは……」

かなり手馴れた人間のものと思われる、応急処置の跡。

折れた右腕に施された処置も完璧で、モルヒネを投与されたのか、痛みは薄い。

「お、気が付いたか」

振り向くと、コーヒーの入ったマグカップを2つ持った信一が、ほっとしたような表情で立っていた。

そこまできて、ようやく自分が寝転がっていた場所が野外ではなく、マンションの一室であることに気が付いた。

「ほら……」と、差し出されたカップの1つを受け取り、和人は無言でそれを口にする。

1度だけ喉を鳴らして、表情を顰めると、彼は苦虫を噛み殺したように言う。

「……これは、お前が?」

「そうだが……」

「……不味いな、これは」

「…………」

渋い顔になった信一は、自分でも一口飲んでみた。

「……なるほど。こりゃ、不味い」

顔を見合わせて、2人は笑った。

「だけどよ、和人。こいつはインスタントだぜ? 元々、そうそう美味いもんじゃねぇ」

苦笑しながらの信一の言い訳に、和人は厳しい表情で、

「インスタントだって、いれ方ってものがあるだろうが。……見たところ、ジャワロブスタみたいだが、これでは折角の苦味が薄くなってしまう」

と、言った。

「……和人、お前ってそんなコーヒーにこだわりを持つやつだったか?」

「いや……まぁ、飲めれば何でもいいんだけどな」

それからしばらく、2人は無言でコーヒーを啜った。

やがて和人がカップから口を離す。

「……それで?」

「ん?」

「4年前の時は俺が勝ち、今回の戦いではお前が勝った。……4年前、お前は俺の言う事に従ったのだから、今回は俺が従う番だ」

「……そうだったな」

「お前の望みを言え。俺に出来ることなら、何でもしてやる。例えそれが、『組織』に戻れ、という命令だったとしても……」

信一の手の中で、空になったステンレスのカップが、ぐにゃりと変形した。

そのカップを放り出すと、信一は「ふむ……」と、思案する。

和人には、すぐそれがポーズであることが分かった。答えなど、最初から決まりきったことだった。

「…………よし、和人」

「なんだ?」

「『組織』に……『ノーデンス』に戻れ」

(やはり……)と、和人は思った。

半ば予測していた命令だけに、衝撃は思いのほか少ない。

むしろ、半ば予想がついていただけに、真っ直ぐにその命令と向き合うことが出来た。

口の中でその言葉を噛み締め、和人は、ゆっくりと深呼吸をする。

あらかじめ用意しておいた回答を、ゆっくりと唇から紡ぎ出した。

「……分かった」

万感の想いを籠めたその言葉を、信一は辛そうな表情で聞いていた。

 

 

 

しかし、さしもの和人も、その次の信一の言葉までは予測できなかった。

「ただし、20分だけな♪」

「……は?」

一瞬、告げられた言葉の意味を飲み込めずに、素っ頓狂な声をあげる和人。

見ると、そこには悪戯を成功させた子供のような表情の、信一がいた。

和人は、なるべく平静であることを努めながら、先ほどの憂いとは一転してニヤニヤとしている信一に問う。

「そ、それは一体どういう意味だ?」

「いや、だから言葉どおりの意味だ。今から20分の間だけ、お前は『ノーデンス』の一員なる。階級は―――そうだな、少尉ぐらいにしておくか?」

「信一、お前……」

和人は、ようやく信一の言わんとしていることの意味を知って、はっと口を噤んだ。

信一は、そんな和人の様子を見て、チラリと冷笑を浮かべる。

「……こうでもしねぇと、民間人(・・・)であるお前は、機密事項だからって、まともに話を聞いてくれねぇからな。対等の立場に、なってもらわねぇと」

「すまん……」

「いいってことよ。……よし、今からお前は少尉だ。『ノーデンス』における俺の地位は『中尉』だから、俺はお前の上官にあたる」

上官の命令は、絶対服従だ。たとえ一階級の差といえど、軍隊ではそれは絶対の壁である。

「……さて、叶少尉」

「はっ……」

一転して真剣な表情の信一に、和人も先ほどまでの茫然としたなりを潜め、真顔になる。

「今からきみには俺の命令に従ってもらう。いいな?」

「はい」

「……よし。では、これから俺の言う事を、何も言わずに黙って聞いていろ。口答えは許さないし、質問も許さん。……これが、俺の命令だ。いいな?」

『命令だ』と、言っておきながら、最後には同意を求めるあたり、信一らしい。

和人は、真顔ながらも苦笑しつつ頷いた。

和人の隣に胡坐をかいて座り、「ふむ……」と、やや腫れた顎をなでさすりながら口を開く。

「どこから話したものか…………そうだな、最初から、少し整理しながら話そうか。多少、お前もすでに知っていることとダブるかもしれねぇが」

「…………」

「――1980年代初め、ソ連は大きな危機に瀕していた。1979年のアフガン侵攻や、次第に見え始めた共産主義の構造的矛盾、財政難、急激な成長を見せる日本、とうとうアメリカに追い越されてしまった宇宙開発……オマケに、レーガン大統領の『スターウォーズ演説』だ。あらゆる国際情勢が西側に味方し、ただでさえ危機的状況に陥っていたソ連は、『スターウォーズ計画』を表向き嘲笑しながらも、内心ひどく恐れていた」

1983年3月23日、当時の米大統領ロナルド・レーガンは、広大なアメリカ合衆国に住む、すべての民に向かって唱えた。

『平和と、そして国家の安全という今夜のテーマは、まさに時を得たものといえるだろう。私は今、21世紀に生きるはずの我々の子供たちに、新しい希望を与えるであろう決断を下そうとしている。その決断とは、あなたがた国民が、あなたがた自信のために下さねばならないものである』

彼は続ける。ソ連の核の脅威を述べ、これまでは核の抑止力によってかろうじて戦争は回避されてきた。しかし、悪の帝国であるソ連が、いつアメリカに攻撃を仕掛けてくるとも限らない。なのに、アメリカが出来る事は報復という手段しかない。はたして、それでいいのだろうか……と。

そして、彼はひとつの決断を表明する。

『我々は今ここに、ソビエトのミサイルの脅威に、防御的な手段で対抗するプログラミングを開始する。我々の産業の基盤、我々が今、享受する良質の生活を可能にした高度な技術について想起されたい。アメリカの安全がソ連の攻撃に対する報復によって保たれるのではなく、戦略弾道ミサイルを、我々自身の、また、我々の同盟国の国土に達する以前に迎撃し、破壊できると知ったときに初めて、自由な国民は安楽に暮らせるのではないだろうか?』

核の抑止力に期待するのではなく、核ミサイルの迎撃という現実的防御によって、アメリカ及び同盟国の安全を実現する……

一般的に『SDI計画』と呼ばれる『スターウォーズ計画』は、その目的こそ、ソ連から飛んでくる核ミサイルの迎撃という、防衛のためのものであったが、それは核兵器の存在によってかろうじて保たれていたパワーバランスを一気に崩壊させかねないものであり、ともすれば攻撃手段にも転用できる、矛先を向けられたソ連にとっては脅威以外の何者でもなかった。

「……今でこそ結果的に失敗したと伝えられる『SDI計画』だが、当時の人々がそれを知るわけねぇ。ソビエトはこの脅威に対して、かねてより研究中だったあるプロジェクトを実行に移す。それが――――」

――――『メサイア・プロジェクト』。

当時のKGB――現在のFSB――が全面的にバックアップし、極秘裏に推進されていた計画。

「核兵器すら無力化するAクラス以上の能力を持つ『古代種』26名(・・・)に軍事訓練を施し、最強のテロリストに養成したところで、ソ連ご自慢の遺伝子工学をもってしてクローン生産。世界最強の『古代種』軍団を編成する……一見、この馬鹿げたような計画は、しかし、ソ連にとっての『SDI計画』とまではいかずとも、アメリカ合衆国の暗部に、大きな打撃を与えた。……そして、俺達『ノーデンス』にも、な」

そこまでひときしり喋ると、信一は一旦言葉を区切り、戦斗服の胸ポケットから、雨に濡れてよれよれのピースを取り出した。

口に咥え、防水処理の施されたマッチで、火をつける。

しかし、たっぷりと雨水を吸い込んだ紙巻は点火せず、信一は苦い表情を浮かべて、マッチの火を消し、ピースを放り投げた。

「90年代になって、ソビエトが崩壊し、ロシア連邦が誕生すると、プロジェクトは存在意義を失い、また、予算もかさむことから打ち切られた。……が、KGBと違って、ソ連崩壊後もその形態を保ち続けてきたGRUの支援の下、『メサイア・プロジェクト』は生き続けた。……そして、去年の8月頃、とうとうプロジェクトはレベル3段階に入った」

「…………

「――お前も知っての通り、『メサイア・プロジェクト』は全部で4段階。レベル1は計画の根幹となる26人のAクラス以上の『古代種』の確保。レベル2は集めた『古代種』に軍事訓練を施し、データを収集して、軍団編成後の運用マニュアルの作成。レベル1とレベル2は同時進行で行われ、レベル1の段階の『古代種』が確保でき次第、随時レベル2に移行という形がとられた。さらに、レベル3……」

レベル3はレベル2訓練を施した『古代種』を、クローン技術で量産する段階。大量生産が可能なプラントのために必要な人員、設備、土地、予算の確保。一歩間違えば神を冒涜しかねないその行為は、全工程の中でも特に慎重に行わなくてはならない。

そして、レベル4――――

「レベル4はレベル3で量産した『古代種』達を、レベル2段階で得られたデータを元に軍団規模で編成、運用する最終段階……」

『古代種』を人間として見ず、ただ戦うための道具としてしか見なさぬ、本来ならば許されざる行為……それが、『メサイア・プロジェクト』の実態であった。

「俺達『ノーデンス』がその事実を知ったのは去年の10月。イギリスにあったGRUの秘密研究所を襲撃した際のことだった。以降、俺達はドイツ、イタリア、フランス、カンボジア、ホンジェラス、チェコ、カナダ、ブラジル、オーストラリアと、それこそ世界中に点在しているGRUの秘密生産場を襲撃している……が、未だプロジェクトの本隊を壊滅させるには至っていねぇ……。情けないことに、な」

 “パシッ”と、苛立ちを紛らわすように己が掌に拳を叩きつける信一。

その表情は、苦悩と憤怒が入り混じった、複雑なものとなっていた。

「……悔しいぜ。いくらトカゲの尻尾を切り落としても、本体が無事な限り、尻尾はいくらでも再生してきやがる。……悔しかったし、それ以上に俺達は焦っていた。プロジェクト立案からすでに20年近く経過しているのにも関わらず、未だ計画を潰せていないことに、な」

「…………」

「―――だが、そんな状況ながらも俺達には希望があった。一縷の望みとはいえ、その存在自体、馬鹿でかい希望が……」

「それは……」

和人は言いかけて、はっと口を噤んだ。最初に信一が言ったではないか。口答えも、質問も許さない、と。

しかし、信一はそんな和人を咎めるでもなく、ふっと自虐的な笑みを浮かべて、口を開いた。

「……叶和人っていう、でっけぇ希望だ」

 

 

 

「『ノーデンス』から除隊したとはいえ、お前の行動は逐一、俺達の監視下に置かれていた。俺達は常に所在を知ることが出来た。だからこそ、俺達は心苦しいとは思いながらも安心することができた」

「……たしかに。俺がいない限り、『メサイア・プロジェクト』が完遂することはない。量産段階であるレベル3に到達することが出来ても、実際に軍団を運用する最終段階……レベル4に到達することはない」

「お前の存在は、俺達にとっても、GRUにとっても鍵だった。お前がまだGRUの手に堕ちていない……その事実だけで、俺達は安心することが出来た。勿論、お前が連中に捕まらないよう、俺達も水面下であの手この手を尽くしてはいたが……しかし、その安心も去年の10月ぐらいまでしか続かなかった」

「あの時期からだったな。俺に対するGRUの接触が、頻繁に行われるようになったのは……。最初は単に『こちら側に戻ってこい』という、半ば脅迫じみた内容だったが、最近は実力行使に及び始めた。……連中は、よほどこの体が欲しいらしい」

「GRUのお前への接触が活発になったことを知って、俺達は焦ったぜ。いくらお前が強いといっても、10人、20人の武装した刺客が相手じゃ、万が一という事態もありうるからな。即座に、俺達は当初の予定を全て変更して、お前に接触しようとするGRUの刺客の討伐を開始した」

「――だが、それでも完全に、というわけにはいかなかった」

信一は自虐的に笑いながら頷き、「この国は密入国に対するバリケードは固いが、真正面から堂々と入ってくる分には甘いからな」と、言った。

「俺達がどんなに頑張っても、常にお前の周囲には刺客が何人か潜んでいた。……まぁ、中にはGRU以外の連中もいたようだが、そのすべてをお前は返り討ちにしていった。結局、俺達に出来たのはその後の事後処理だけだ。状況は変わらず、むしろ悪くなっていく一方……」

「そんなことはない……と、言っても気休めにもならないか……。たしかに、ただ返り討ちにしているだけでは、いつかは俺も力尽きただろう。この国で武器弾薬を入手することは困難だし、立場上俺は警察には駆け込めない。捕まるのが、遅いか、早いかだけだな」

「悪化する周辺の状況。このままではまずいと、『ノーデンス』は判断した。……そして、俺に命令が下された」

「…………」

「叶和人を守れ。叶和人を援護しろ。手段は問うな。叶和人ほどの実力者を陰ながら守ることは不可能だ。真正面からぶつかり、敵に目立つようにやれ。そして、あわよくば叶和人を再び『ノーデンス』に引き入れよ。まったく、無茶な命令だぜ……けどな、その命令が俺の所にやってきた時、正直、俺は少し嬉しかったんだよ」

「何故だ……?」

和人は、信一の言葉が信じられなかった。

自分を守るということはそれだけでその身を危険に晒すことになる。最悪、死ぬ可能性だってある。誰よりも加菜を大切に想っている信一だ。加菜が独りになってしまかもしれないことなど……本意であるはずがない。

「――どんな形であるにしろ、また、お前に会えると知って、な。嬉しかったんだよ、俺は……」

「…………!」

和人は、絶句した。

「俺だけじゃない。ちょっと複雑な気分だが、加菜も、お前にまた会えることを喜んでいたぜ。……本音を言えば、『ノーデンス』に戻ってきてくれるのがいちばん嬉しい。けど、それはお前の本意じゃないだろ? だから、俺はそれで充分だった。この戦いで勝って、お前を『ノーデンス』に引き入れるつもりは、まったくなかった」

和人は、痛む拳をきつく握りしめた。

(俺は……俺は……)

こんな人間に、こんなにも素晴らしい男に、拳を叩きつけたのか。

叩きつけて、しまったのか。

――4年前、自分は自分のことしか考えていなかった。

――4年前、信一は常に周りのことを考えて、最善だと思ったことをしようしていた。

自分は自分のエゴのために、信一は自分のことを想って、4年前、拳を振るった。

そして現在、状況はまったく一緒だ。

(俺は未だ自分のことしか考えていない。しかし、信一は…………)

常に自分のことを考えて、自分の意思を尊重して、俺ごときのために拳を振るってくれた。

振るって、くれたのだ。

「……これが、俺がこの街に来て、お前の前に現れた真相だ。悪いな、こんな(・・・)()でしか伝えられなくて」

「いや……」

乾いた笑いを浮かべながら言う信一に、和人は首を横に振った。

こんな(・・・)()で、充分さ」

和人が言ったその一言。

その言葉に籠められた万感の想いを、我々はまだ知らなくてもよい。

今はまだ、叶和人と吉田信一の、一つの物語が終幕を迎えたという事実を知っているだけで、充分である。

和人は、軋む体をゆっくりと動かして、窓の外を見た。

「……ありがとう」

一向に止む気配を見せない雨を眺めながら、和人は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

〜章末設定解説(ちょっとだけ模様替え)〜

――古代種――

 

 

 

古代種のクラス分け

『古代種』の持つ特殊能力のみを判断材料とし、その能力がより戦闘的で、より神がかっている者ほど強力な能力者となる。

 

特Aクラス

極めて原初の人類に近い『古代種』で、特殊能力はおろか、他のあらゆる面で他の『古代種』、現人類を上回り、その力は、Aクラス『古代種』数百人分にも匹敵する。

Aクラス

Bクラスよりも格上の能力者。

Bクラス以下とは一線を隔てた存在で、その能力はより複雑で、強力なものとなっている。

現代の科学レベルではほとんど対処不可能。

現時点の登場人物では、『叶和人』がこれに該当する。

Bクラス

Cクラスよりもワンランク上の能力者。

Cクラス能力の延長上の特殊能力を操り、より強力なものとなっている。

現代の科学レベルでも対処可能だが、若干厳しい。

現時点の登場人物では、『吉田信一』がこれに該当する。

Cクラス

最も多い『古代種』で、通常レベルの能力者。

Simple is best. を地でいっており、しかし、それゆえに強力。

現代の科学レベルでも対処可能。

EXクラス

HGSや夜の一族、吸血種、人狼など、『古代種』とは別の異能者達が該当。

上記4種のクラス同様、『古代種』のクラス分けが適用され、EX−S、EX−A、EX−B、EX−Cといった具合に表記される。

また、EX−S以上のW−EXクラスが存在する。

 

 

 

 

 

タハ乱暴死す!?

信一「……っていうか、痛いんじゃゴラァァァァァァアアア!!」

タハ乱暴「いきなりか!? …って、うぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!」

和人「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」(注:右腕折れてます)

“パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!”

タハ乱暴「あべしっ! あべしっ! あべしっ! あべしっ! あべしっ! あべしっ!」

舞「……え、え〜と、お兄ちゃん達ご乱心?」

瑞希「……まぁ、第十一章から第十六章までの間、日頃の鬱憤が溜まったのか、さんざん傷だらけにさせてきましたから。自業自得です」

タハ乱暴「――んな不条理な! 俺がキーを叩かねばお前たちは存在すらままならんのだぞ!?」

信一「……だからといって」

和人「コレ(右腕)はやりすぎだろうが!」(注:一応、右腕折れています)

タハ乱暴「うぎゃぱぁぁぁあああッ!!!」

舞「……………………」

瑞希「……………………」

舞「……………………」

瑞希「…………さ、作者さんも死んだことですし」

舞「死んだの? タハ乱暴死んだの!?」

瑞希「予定通り解説を進めましょう。今回は和人さんや吉田先輩達『古代種』についてです」

舞「……じゃぁコレ、今は誰が書いてるの!?」

瑞希「……さぁ? 幽霊じゃないですか?」

舞「さらりと怖いこと言わないでよ〜! ねぇ、ホントにタハ乱暴死んだの!?」

瑞希「煩いですね。……こうなったら、エイッ!」(怪しげな液体の入った注射器を舞の血管に突き刺す)

舞「はぅ!」(崩れ落ちる舞)

瑞希「……舞ちゃん?」

舞「……………………」(返事がない。ただの屍のようだ)

瑞希「……さて、これでやっと静かになりましたね」

舞「勝手に殺さないで〜!」

瑞希「……チッ、生きてましたか」

舞「……瑞希さん、性格変わってない?」

 

『古代種』誕生

瑞希「さて、そろそろ真面目にいきましょう。『古代種』とは、原初の人類の遺伝子を継承した人々のことで、かつて神や天使達とともに、クトゥルフの邪神と戦った戦士達の子孫のことです。……そもそも、人類とは何者なのか? 舞ちゃん、説明をお願います」

舞「うん、任せて。(もはやタハ乱暴のことはどうでもよくなっている)

……まだ人間が生まれる前の、大昔の地球は、クトゥルフっていう邪神と、その眷属によって支配されていたの。このクトゥルフの邪神を倒すために地球にやってきたのが、旧神達の中でも一番強かったベテルギウス座の神様で、この神様が後にユダヤ教やキリスト教の絶対神ヤハウェのモデルになったんだって。

地球に降りてきた神様は、クトゥルフの邪神とその眷属を滅ぼすために、まず炎から天使を、次に土から人間を創って、自らも神の軍団を作ったの」

瑞希「――この物語において、天使や人間は、元々、神様がクトゥルフの邪神と戦うためだけに生み出した生物兵器に過ぎませんでした。神は天使達に空を飛ぶための翼と、敵を倒すための武器を。そして人間には、隠れているクトゥルフを探し出し、見つけて、滅ぼすための特殊な力を与えられました(※1)」

舞「戦争は最終的に神様の軍団が勝ったんだけど……その後、天使には新しく地上と、天界で仕事を与えられたんだけど、人間はもう必要ないからって、一度はその特殊能力、それを制御するための知恵を奪われてしまったの。

でも、その後に堕天使ルシフェルによるアダムとエヴァの『原罪事件』があって、人間は再び特殊能力を復活させたんだ。……この時に、初めて『古代種』っていう人達が誕生したの。それから『グリゴリの悪魔(※2)』と交わって、人間は特殊能力を制御する知恵を得たんだよ」

 

生まれながらの戦闘者

瑞希「本当に簡単にですが、『古代種』の誕生が分かったところで、次のテーマにいってみましょう。ここからは、特殊能力の有無以外で、『古代種』がどれだけ普通の人と違うかを検証していきます」

舞「元々、『古代種』の人達はクトゥルフの邪神っていう、物凄く強い敵と戦うために生まれてきた人達だから、普通の人よりも色々な面ですぐれたところがあるの。主に戦闘に関係するものが多いんだけど……例えば、『古代種』の人達の筋肉や骨はすっごいんだよ〜」

瑞希「かつて、戦争で戦う兵士の人達に求められた筋肉は、瞬発力のあるものでした。これはかつての戦争が、兵士一人一人の力と力がぶつかり合う、白兵戦だったからです。翻って、人を殺すための道具が発達した現代では、兵士に求められる筋肉は持久力のあるもので、いかに長時間、高い能力を維持したまま戦えるかが重要視されます。

『古代種』の敵は、人間が戦うにはあまりにも強力すぎるクトゥルフの邪神……特殊能力があるとはいえ、時には長時間、白兵戦を強いられることもあったでしょう。そこで『古代種』の筋肉は、構成密度の高い、瞬発力、持久力の両方に優れたものとなっています」

舞「そして、それを支える骨格もやっぱり構成密度の高い、すっごい硬いものなんだ。それを取り巻く筋肉も強靭だしね。ちょっとやそっとのナイフじゃ骨まで届かないし、そんじゃそこらの刀じゃ傷一つつけられないんだよ」

瑞希「……そんな強靭な骨と、強力な筋肉が生み出す運動能力は、当然ながら常人のそれを大きく上回り、ちゃんとした訓練をすれば、それによっては素手で熊を殺すという、それこそ漫画みたいな事も出来るそうです(『古代種』はフィクションですけど)。

……『古代種』が戦闘をするにあって、普通の人間よりも優れているのは筋肉や骨格だけではありません。ところで舞ちゃん、戦場で一番恐いものはなんだと思います?」

舞「え? ……う〜ん、敵さんの攻撃?」

瑞希「はい、それも正解ですが……実は戦場で一番恐いのは病気なんですよ」

舞「え? そうなの!?」

瑞希「はい。じゃあ今から、作者さんが最期(さいご)にわたしに託してくれたこのカンペの通りに読み上げます。

え〜、『戦場における最大の強敵は病魔である。病気にかかった兵士はその戦力を著しく低下させ、その兵士を看護するためにも、また兵力を割かなくてはいけないからだ。特に伝染病は厄介で、一人が感染したら、下手をすればその地域にいる全部隊に病原菌が蔓延する可能性がある。戦場は硝煙の臭い以上に死臭に満ちており、いくつもの死体が腐敗していくのだから、その衛星状況は極めて劣悪である。病原菌は一気に繁殖し、敵味方問わず一斉に牙を剥いてくる。かつてのベトナム戦争の舞台は主にジャングルで、そこには欧米人には免疫のない伝染病がたくさんあった。ベトナム戦争で死んでいった5万8000名の尊き米軍人の中には、こうした病気で死んでいった者もいた。これはなにも現代に限らず、過去、多くの病気に対する治療法がなかった時代もそうだった。黒死病などは、その最たる例である。

性病による戦死者も多かった。ルネサンス時代の都市間戦争には、大勢の女性が見物その他の理由で戦場におり、大勢の兵士と性交渉をした。ナポレオンなどは、イタリア戦線において一個大隊につき4名の女性参加を認め、それがもたらす病気は、敵軍の砲火の、十倍もの犠牲を作ったという。また、ベトナム戦争でも米軍人は多くのベトナム人女性を陵辱し、多くの米軍人が性病にかかって死亡した。現在、いくつかの国では、軍隊に入って最初に教えるのは“正しいコンドームの使い方”である事実は、戦場における性病の脅威を如実に語っている』……とのことです(最後の方は顔を赤らめながら)」

舞「ほぇ〜」

瑞希「『古代種』も、人である以上は人体の構造は普通の人と変わりません。普通の人が掛かる病気は、『古代種』もかかってしまいます。戦場において、これは致命的です」

舞「だから『古代種』の人達は身体の免疫機能や、内蔵機能なんかが普通の人の何倍も強化されてるんだよ。あと、そういった病気の存在とかも含めて、原初の地球の環境(※3)に対応するために、『古代種』の環境適応能力はそれこそこの地球上にいるすべての生物の、どれよりも優れているんだ」

瑞希「並外れた身体能力。優れた環境適応能力と、堅牢な身体機能……生まれながらにしてそれらを備えた『古代種』は、まさに生まれながらの戦闘者とも言えるでしょう」

 

地球に優しい人達

瑞希「……けれど、どんなにすぐれた力を持っていても、それが持続しなければ意味がありません。人間は体内の脂肪(エネルギー)を燃焼して代謝を行いますが、いくら『古代種』と言っても体重は普通の人と同じなのですから、脂肪の貯蔵量は常人と変わりません。こればっかりは、自然の摂理なのでいかに『古代種』とはいえ、どうしようもないのですが……そこで『古代種』の体は、このエネルギーの消費を出来る限り抑えるようになっています」

舞「つまり、『古代種』の人達はすごく燃費がいいんだ。普通の人(体重60キロぐらい)が100カロリーを消費する運動をしても、同じ体重の『古代種』の人は30カロリーぐらいしか、エネルギーを消費しないんだよ〜。

あと、『古代種』はエネルギーの消費だけじゃなく、生産の方も考えて創造されていたみたいで、それこそ戦中の日本みたいに、無駄をなくすために呼吸器系や、腸の働きが普通の人の何倍も強いんだって。まさにエコロジーだね」

瑞希「また、『古代種』はより長い間戦闘を継続させるために、戦闘を行うことによって生じる体内の不都合(体温の上昇や、老廃物の蓄積など)を解消するために、発汗などのメカニズムを強化しています」

 

医者は必要? 不必要?

瑞希「……最後に、『古代種』の回復能力について説明していきましょう」

舞「『古代種』の人達はお兄ちゃん達の例をとるまでもなく、あれだけ激しい運動をしているから、その分、細胞の劣化がすっごく激しいの。それでなくてもたくさんの傷を負っていくわけだから……細胞の精製サイクルは、実はすっごく重要なんだよ」

瑞希「『古代種』の細胞精製において、最も重要なのはそのスピードです。『古代種』の優れた肉体を構成する細胞は、当然ながら優れた能力を持ち、反面、その分だけ細胞分裂の過程で時間がかかります。しかし、これはあくまで平時の場合……緊急時(例えば怪我をしたときなど)には脳からの指令により、『古代種』の細胞分裂のスピードは、その損傷箇所に限って爆発的に加速するのです。これによって『古代種』は短時間で怪我などを治すことが出来るのです。ちなみに、骨折などの場合には、しっかりと骨が固定されるまで細胞分裂のスピードは平時と変わらず、ギプスなどで強制されたと脳が認識してから、そのスピードを加速させます。

一見すると便利な『古代種』の身体ですが、これはちょっと困った問題も抱えています」

舞「え?」

瑞希「『古代種』が創造された時代、銃弾なんてものはありませんでした。当然、爆弾もありません(それに近い魔法などはありましたが)。だから、そういったものによるダメージに対してだけは、若干弱いんですよ。

それに、外科手術で弾丸を取り出そうと思っても、強靭な筋肉がメスを阻んでしまいますし、輸血しようにも、血管まで針が刺さりません。だから作者さんは、『これを読んでる古代種の方は、盲腸を取るならまだ筋肉が弱い子供のうちに〜』って言ってました」

舞「う〜ん、『古代種』であるのも楽じゃないんだねぇ」

瑞希「いえ、始めから楽じゃないと思うのですけど……ちなみに、『古代種』の寿命は非常に長く、これは初期の人類であるアダムが930歳で死んだことからも証明されています」

 

結局、タハ乱暴は死んだのか!?

瑞希「大体こんな感じでしょうか?」

舞「そうだね〜……でも、いつになく長い解説だったね」

瑞希「作者さんが珍しくはりきりすぎたんですよ」

舞「作者さん……って、そういえば結局タハ乱暴って死んだの?」

瑞希「え〜と、死んだってわけじゃなさそうですよ。ホラ」

(瑞希の指差す方向を見る舞)

 

信一「働け! 働け!! 働けェェェェェェエエエッ!!!」

“ビシィッ! バシィッ! ズシャァッ!”

タハ乱暴「うぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!」

和人「手を動かせ! キーを叩け!! そして俺達に安息をよこせ!!!」(注:何度も繰り返しますが右腕折れてます)

“ビシィッ! バシィッ! パパパパパンッ!”

瑞希「……………………」

舞「……………………」

瑞希「……………………」

舞「…………そろそろ終わっとく?」

瑞希「…………そうですね」

タハ乱暴「ちょっとマテェ! マイドーター達!! お前達は実の父親を見捨てる気か!?」

舞「お父さん?」

瑞希「誰でしたっけ?」

信一「というより、そんな奴いたか?」

和人「いや、いないだろ?」

タハ乱暴「うぅぅぅぅ……子供たちが苛める」

信一「じゃぁ、もっと苛めてやろう」

タハ乱暴「結構です!」

和人「そう、遠慮せんと」(注:しつこいけど右腕折れてます)

タハ乱暴「いや、だから、これは遠慮ではなくて…………へ、Help me 〜〜〜!」

瑞希「―――では、本日はこのあたりで」

舞「じゃぁね〜」

タハ乱暴「うぎゃぁぁぁぁぁぁあああッ!!!」

 

 

 

 

 

     1 この時点で、海はクトゥルフの邪神達の領域だった。

     2 1万2千年前、エデンの園を追放されたアダムの子孫達を監視するべく使わされた200人の天使達。後に堕天し、人類に多くの“宇宙の秘密”を教える。

      




遂に決着が。
美姫 「信一の勝利だったわね」
ああ。そして、遂に明かされたメサイア・プロジェクトの全貌!
美姫 「ちょっと、びっくりな内容」
さて、次回からはどんな風に展開していくのか!?
美姫 「次回も楽しみにしてますね」



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