――2001年1月24日、午前11時23分

 

 

 

世渡良介は、西館2階にある社会科準備室のデスクの上に置かれた、埃の被った資料を丁寧に清掃していた。

燐道学園の社会科教師で、1年、2年の世界史と、3年生の倫理を担当している彼は、今年で31歳になる。年輩の多い社会科教師陣の中ではまだまだ若手で、丁寧な授業の進行には定評があり、生徒達からの人気も厚い。

社会科準備室は社会科の授業……とくに、日本史の授業で使われる資料が収められた部屋だが、事実上、良介に与えられた私室のようなものになっている。一応、職員室には彼のデスクもちゃんとあるのだが、最近では、こちらの部屋にいることの方が多い。

「これで最後ですか……」

良介は、べつに綺麗好きというわけではなかったが、何年もほったらかしにされ、埃まみれの本を平気で読むほど、無神経でもない。

ひととおりの掃除を終えると、良介は満足げに頷いた。

資料を本棚に戻し、備え付けの回転椅子に深々と腰掛ける。

良介は、この空間をなによりも気に入っていた。愛しているといっても、過言ではない。音楽室のように防音壁で作られた準備室は静かで、埃は舞っていたが、空気そのものは非常に清潔で、澄んでいる。埃など窓を開ければどこかに飛んでいくから、すぐに過ごしやすくなる。ここで聞えるものは、廊下から聞える生徒達のかすかな喧燥と、空調の音のみだ。

「…………」

良介の愛する静寂が破られたのは、まさにこのときだった。

“ガラガラ”と、重い扉が開いて、190センチはあろうかという長身の男子生徒が、準備室に「失礼します」と言って、入ってきた。

良介は、静かに回転椅子を回した。

「どうしました?」

良介は、入ってきた男子生徒に向って、穏かに言った。

男子生徒……信一は、万人を魅了する笑みを浮かべて、答えた。

「少し、分からないところがありましてね」

 

 

 

 

第十章「日常が終わる時」

 

 

 

――2001年1月24日、12時37分

 

 

 

「やっぱ食べ足りないな」

食堂を後にした和人は、ぽつりと呟くと、2年生教室棟……西館の、1階にある購買部へと向っていた。

燐道学園の食事処はなぜか上級生に有利な場所に配置されており、これは、戦前、戦中にわたって続けられた封建的な教育方針の名残だと、一部の生徒からは噂されている。

購買部の入り口付近には、大勢の生徒が長蛇の列を作っていた。それを見ているだけで、気が滅入ってくる。

昼休みが始まってすでに7分……人気のパンはすでに諦めていたが、これでは普通のパンすらまともに買えないのでは?

和人は、本気でそう思った。

食べ盛り、育ち盛りの学生達のパワーは凄まじく、ある意味、自分達の死活問題がかかっているだけにみな鬼気としている。

長蛇の列……とはいうが、それも末端の後ろの方だけが、かろうじて列をなしているにすぎない。購買部の窓口は1つ、生徒達は無数……当然の結果ではあるが、列は途中から崩れて、混沌とした状況であった。

「…………狩るか」

和人は校舎の窓から見える裏山を一瞥して、呟いた。

燐道学園の裏手には国有の小さな山があり、ここには、住宅街の住民が持ち込んだペットが、野生化し、多数、生息している。中には兎や犬といった動物もおり、こういった野生動物はサバイバルの際には貴重な食料となる。

しかし、和人は自分の頭の中に浮かんだ考えを、頭を振って否定した。

野生動物を狩猟する場合、原則として、絶対に接近してはならない。都会でたむろしている野良猫などと違い、一度山などの自然に入った野生動物達の攻撃本能は凄まじく、たとえ兎1匹と侮ると、手痛い反撃を食らう。

野生動物を狩る場合は、間接的な罠で仕留めるか、遠距離から飛び道具を用いて殺すかの、2通りが理想的であり、それ以外の手段で捕まえようなど思わない方がいい。

「まさか真昼間っからベレッタは撃てないしね」

罠で捕まえようにも、事前にしかけてあるのならばともかく、今からでは時間が足りなさすぎる。

「さて、どうしたものかな」

和人は苦笑を浮かべて再び購買部の列を眺めた。

――と、そこで和人は知った顔を見つけた。

“彼女”はどうにかして購買の列に並び、前の方へ進もうとしているが、群集によって弾き飛ばされ、難儀している。

何を思ったのか、和人はそちらの方へと歩を進めた。

また少女が、列から進もうとして弾き出された。その身はバランスを失い、床に向って一直線に倒れていく。少女……青葉瑞希は、次にくるであろう衝撃を予想して思わず目を瞑った。

しかし、いつまで経ってもその衝撃は襲ってこなかった。

瑞希が慌てて目を開けると、そこには和人の顔があった。右手を、ガッシリと握られている。

たちまち、瑞希の頬が赤く染まった。

「大丈夫、瑞希ちゃん?」

「か、和人さんッ。あ、は、はい。大丈夫です」

見慣れた和人の顔だったが、至近距離にあったためか、その端正な顔立ちをまともに見て、瑞希は慌てて身を引こうとした。が、見た目にそぐわない和人の腕力にがっちりと掴まれ、動かさせてもらえない。

「ほら、慌てないで」

そう言いながら、和人は瑞希の体をゆっくりと引き起こし、立たせる。

足取りはおぼつかなかったが、瑞希は、なんとか立ち上がることに成功した。

「ありがとうございます」

「べつにお礼なんていいよ。……瑞希ちゃんは、今日はパンなの?」

「あ、はい。でも、授業がちょっとだけ長引いちゃって……」

瑞希は混雑している購買部の窓口を一瞥して、寂しそうに溜め息をついた。

和人は、あははと苦笑を浮かべて、同じように購買部の窓口を眺めた。心なしか、先ほどよりも人が増えているような気がする。

「4時間目、何だったの?」

「世渡先生の世界史です」

「……あの先生が授業延長なんて、珍しいね」

和人は、2年生のときに良介の授業を受けており、彼の人となりについてはかなりの理解がある。

彼の授業は丁寧だが、決してそれが定期試験に間に合わなかったり、進みすぎることはあっても、遅れすぎるようなことはない。また、丁寧すぎて進行が遅い……ということもない。

少なくとも、和人の知るかぎりでは、焦って、授業を延長させたことはないし、なにより、彼はちゃんと時間を考えて授業をしている。

「はい、なんか世渡先生、今日は調子が悪かったみたいで……」

「それは……心配だな」

「ええ……ところで、和人さんは、今日は購買?」

「いや、食堂だったんだけど、ちょっと食べ足りなくてさ」

和人が苦笑を浮かべて、親指で窓口の方を指す。

「でも、あの調子じゃね」

「……ですね」

察するに、瑞希はまだ昼食を摂っていなかったのだろう。

食堂はすでに満席だろうし、購買もこの有り様だ。

和人は、しばし考えて、瑞希に言ってみた。

「なんなら、俺が買ってこようか?」

「え、いいですよ。そんな……」

「遠慮しなくていいよ。……さすがに人気商品は無理だと思うけど……ね」

「でも、あんなに人がいるんですよ?」

瑞希の言葉に、和人は冷笑を浮かべた。

彼女が見たこともない、ぞっとするような冷笑である。

「実力行使……」

「え?」

「あ、ううん、なんでもないよ」

和人は、慌てて取り繕うと、いつもの微笑を浮かべた。

その表情、そして気配の変化に戸惑う瑞希だったが、いつもの和人に戻ったのを確認すると、苦笑しながら、

「じゃあ、お願いします」

と、丁寧に腰を折った。

 

 

 

――2001年1月24日、午後4時6分

 

 

 

「……迂闊だったな」

誰もいない教室の片隅で、和人は項垂れながらひとり、椅子に腰掛け、呟いた。

虚空を見詰めるその瞳は、どこか憂いに満ちている。

和人は、1月7日の夜に、信一から刃を突き付けられてから、度々見られる自分の変化を苦々しく思っていた。嫌悪している、といってもいい。

「…………」

和人は、周囲に誰の気配もないのを確認すると、おもむろに立ち上がって、ショルダーホルスターからベレッタを引き抜いた。

…………速い!

重量が1キロ近いベレッタを、和人はコンマ4秒とかからず抜いたのだ。

一般に、人間が反応から動作までにかかる時間は0.5秒かかるとされる。訓練をすればその時間はもっと縮まるであろうが、動作の規模によっては、その時間はもっと長くなるだろう。それを考えると、和人の抜き撃ちはむしろ異常と言えた。とても一介の高校生のなせる業ではない。

だが、和人の表情はいまひとつ冴えなかった。なにかに苦しんでいるようにも、見える。

「…………くそッ」

ベレッタを持つ手が、震えていた。

ベレッタをショルダーホルスターにしまい、もう一度引き抜く。その動作を5・6度繰り返して、和人は諦めたように椅子に座った。

ベレッタを引き抜く速度は、繰り返すたびに加速していった。しかし、本来ならば喜ばしいはずのその事実に、和人の表情は冴えなかった。それどころか、速度が上がるたびに、辛そうな顔をする。

(間違いなく……戻りつつある)

和人自身、何が戻りつつあるのかは分からなかった。しかし、彼の本能が、警鐘を鳴らしている。

否、それは警鐘ではなかった。初めは警鐘だったが、次第にその感情は変化していった。

自分でもどうしようもないほどの、昂揚感……

和人の中で、情熱的なまでに何かが燃え上がっていた。

「結局、何も変わってはいないのか……」

それは何に対しての言葉だったのか。

「静流……」

要領を得ない彼の呟きは、グランドで忙しなく練習に励む生徒達の声に掻き消されてしまった。

――と、そのときである。

閉じられていた教室の扉がガラガラと遠慮がちに開き、教室に、和人の見知った顔が入ってくる。

愛歌であった。

和人は、思わず自分の目を疑った。

教室には自分以外の生徒はいない。愛歌は2つ隣りのクラスなので、3−2の教室に入ってくる道理もない。

考えられるケースは、彼女が和人の姿を視認して、教室に自分から入ってきたということだ。男嫌いの愛歌が、自分から男である自分に近付いてくること自体、和人には信じられなかった。

そして愛歌が、形の整った唇から紡いだ次の言葉もまた、和人にとっては信じられない言葉だった。

「何をしているの?」

男嫌いの彼女が、男である自分の行動を気にかけている。

和人は、一瞬、空白となった頭脳をフル回転させ、言い訳を考えた。さすがに正直に、ベレッタの抜き撃ちをしていたなどとは、言えない。

「いや、ちょっと考え事を……」

苦しい言い訳である。

当然、愛歌はさらなる追求をしようとしたが、和人は彼女の言葉を遮って、言った。

「城原さんは、何故ここに?」

「職員室に用事があったの。それで、教室にある物が必要になって」

そこから職員室に戻ろうとして、教室にいる和人に気がついたのだろう。

「それで、叶君が教室にいたから……叶君、すごく寂しそうにしていたんだもの」

「えっと、それって…………」

(少しは気にかけてくれたってことかな?)

心の中で呟いて、和人はふっと微笑を浮かべた。

「ありがとう」

「……何の話?」

「いや、こっちの話」

「?」

愛歌は、不機嫌そうに和人を見ると、「はぁ……」と、大きな溜め息をついた。

和人が、愛想笑いを浮かべながら首を傾げる。

「……あなた、いつもそんな風に笑ってて疲れない?」

「…………」

和人にとっては、鮮烈な一言だった。

いつもの笑顔で取り繕うのも忘れて、和人はただ呆然と愛歌を見ている。

和人に見詰められて、愛歌はバツが悪そうにぷいっとそっぽを向いた。

しかし、和人は愛歌の顔を見詰め続ける。

1分、2分と沈黙が続いたが、やがて和人が、思いがけない一言を放った。

「……城原さんこそ、無理してないのかい?」

「……!」

愛歌の目がカッと大きく見開かれ、忌々しげに和人を睨み付ける。

だが、和人はそれに動じることもなく、続ける。

「俺のことを言う前に、自分のことを、気にしておいた方がいい……」

「……それがあなたの、地なのかしら?」

「……さあ、ね?」

和人の視線が宙を泳ぎ、窓の外に注がれる。

その瞳には、これまで以上に暗い、憂いの感情が見え隠れしていた。

「もはや、本来あるべき叶和人が、どんな人間だったのかも、俺は憶えていない……」

和人が自虐的に笑って、愛歌が「そう……」と、不愉快そうに呟いた。

「……職員室に用があるんでしょ? そろそろ、行った方がいいと思うけど」

「そうね……じゃあ、行くわ」

愛歌はそう言って踵を返すと、入ってきた扉とは逆の、より職員室に近い側の扉を開いた。

ふと、その足が何か思い出したように止まる。

和人が怪訝な顔をすると、愛歌は、和人に背を向けたまま、告げた。

「……吉田君に聞いたわ。あなたが、あの席を空けてくれたんですってね」

「あ、ああ……」

思わぬ話題を振られて困惑気味の和人に、愛歌はやや頬を赤く染めながら、「ありがとう……」と、小さく言った。

掠れるように小さな声だったが、和人にはそれで充分だった。

「……どういたしまして」

和人が穏かな笑みを浮かべて告げた時には、愛歌はすでに脱兎の如く駆け出していた。

「廊下は走らないようにね」

苦笑を浮かべながら呟くと、和人は再び窓の外に視線を注ぐ。

その瞳には、もう、あの憂いの色は見られない。

(……もしかして、あの一言を言うためだけに来たのかな?)

真実はどうあれ、和人はそう思っておくことにした。

 

 

 

――2001年1月28日、午後11時52分

 

 

 

深夜の空を、今にも雨を降らせんとしている黒雲が覆っていた。

三浦半島の先端……四十万市の潸然岬は、都市部と違って昼間でも静かだが、夜……それも深夜となると、人一人……もっと言えば、巡回の警察官すら寄り付かない。

しかしそれでも、世の中には常に例外というものが存在する。

酔ってここまで辿り着いてしまった者や、1日に1回あるかないかの気紛れで、岬の方へと歩を進める者もいる。

しかし、今夜に限って言えば、そんな例外が起こりうる確率は0.002%に過ぎない。

なぜならば、今夜に限って言えば、四十万市の住民達は、誰一人の例外もなく、安らかな眠りに就くのだ。居酒屋で酒を飲んでいたサラリーマンや、深夜営業のスナック、ホストクラブ、24時間営業のコンビニエンスストアすらも、例外はない。

“しかるべき者達”によって薬品を投与された人々は、午前零時から3時間は絶対に眠りに就く。

さらにそのうえで、緊急の工事、土砂崩れ、場合によっては交通事故を装って、一帯の道路は封鎖される。また、電話回線や通信電波なども断絶し、事実上、四十万市は、午前零時から午前3時の間まで、日本列島から消えることとなる。

その事実を知っている者は、日本全国内でも、ほんの一握りの人間達のみである。

「……よう、遅かったな」

いつものロングコートを羽織ってやってきた和人に向って、信一は爽やかな笑顔で彼を迎えた。

和人と信一が待ち合わせたのは、潸然岬のはずれにある、もう20年も前に放棄された廃ビルの屋上であった。

1967年に放棄されたこのビルは、ある医科大学の生活協同組合が分譲マンションとして建設を始めたものだった。地上六階地下一階。全百部屋の、中規模のマンションである。翌年に基礎工事が完了したものの、敷地面積4千平方メートルの土地が、無許可で造成された宅地であったことが発覚した。約30年前まで続いた、団地マンション建設ブームの最中のことである。

そうしたトラブルは珍しいことではなかったし、しかも、建築基準法にも違反していることが判明したため工事を続けるわけにもいかず、かといって、証拠保全のため取り壊しを決めるわけにも行かず、もう33年もそのまま放置されている。

和人は、「まだ約束の時間じゃないだろ」と苦笑しながら、信一の隣りに並んで、夜空を見上げた。

「……あの日も、こんな天気だったか」

「へっ、神様も粋な計らいをしてくれるじゃねぇか。……よりにもよって、4年前のあの日の天気をそのまま再現してくれるんだからよ」

「そうか、あれからもう、4年と1ヶ月か……」

懐かしむように呟く和人に向って、信一は頷いた。頷きながら、ニカッと爽やかな笑みを浮かべて、和人に言う。

「……もっとも、なにもかもがそっくりそのまま……とはいかねぇがな」

「ああ……俺も、お前も、変わった……」

そう言いながら、和人はロングコートの第1、2ボタンをはずした。信一も、トレンチコートのボタンをはずし、ベルトに、『刃月』の納められた白木の鞘を差す。

しばらく沈黙が続いた後、不意に、和人が口を開いた。

「信一……」

「ん? なんだ?」

「…………いつだったか、静流が俺に言ったことがあるんだ」

「……なんて言ったんだ? 静流は……」

「罪なき人を……権力なき人を守ってくれ……だとさ。まったく、俺達とそう年も変わらないというのに、何故、あいつは……」

「それが鈴風静流なんだ。……俺と、お前が、命を賭けて守り抜こうとした、女なんだ」

「……そうだったな」

和人が、信一から少し離れて、距離をとった。約10メートルほどの距離を隔てて、2人の青年が対峙する。

互いに向き直ったところで、信一が口を開く。

「時計を合わせてくれ、今から、5分後だ」

「ああ……分かった」

頑丈さで有名な某メーカーから発売されたGショックの針を合わせ、和人はダラリと両手を下げた。

頭の中に、次々と思考の波が押し寄せてくる。

この4年間の、様々な思い出が去来する……

(神よ、今だけは、あなたから与えられた力を私利私欲のために使うことをお許し下さい……)

和人は、心の中で祈った。

信一もまた、同じことを考えているのだろう。

目を瞑って静かに十字を切るその仕草は、妙に様になっていた。

1分……2分と……沈黙が続く。

対峙する2人の呼吸は、寸分の狂いもなく同一だった。

同じタイミングが心臓が伸縮し、横隔膜が上下する。

和人が、静かに軽く握っていた拳を解き、五本の指をさり気なく開いた。

次なる跳躍に備え、信一の全身の筋肉が、しなやかに伸縮運動を始めた。

「和人……これは私闘だ。遠慮はいらねぇ」

「……なにを今更」

信一の言葉に和人が苦笑を浮かべたそのとき、和人のGショックのアラームが、静かに鳴った。

刹那、2人がカッと大きく目を見開き、コートの内側へと、秒とかからぬ速度で手を伸ばす。

……静かに、そして残酷に、2人の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

章末詳細解説

 

――日本刀の種類A〜時代編〜――

 

さすがにタハ乱暴も刀を持っていません。ということで♪

わが愛銃でもあるトカレフの勇姿♪ 友人S、画像提供ありがとう!(タハ乱暴のトカレフはオーバーホール中)

 

 

 

舞「今回は日本刀の分類パート2!」

タハ乱暴「(周囲を警戒しつつ)……です」

舞「あれ? 今日はいつもみたいな元気がない」

タハ乱暴「……あいつらあそこまで(第九章参照)卑劣な連中だとは思わなかった。だから、今回はそんな事態がないようにあらかじめ警戒しているんだ」

舞「ふぅん、そうなんだ」

タハ乱暴「そうなんだ」

“ブオオオォォォ……!!!”

舞「……この音、なに?」

タハ乱暴「さ、さぁ? と、とりあえずさっさと始めてくれ(必死)」

舞「は〜い。さて、日本刀は前に吉田さんが説明していたように、形状で分類されるんだけど、時代ごとにも分類されるんだよ。え〜っと、桃山時代末期の慶長元年(1596年)?を境に、それより前のものを『古刀』、それよりも後のものを『新刀』、それから江戸時代の終わりぐらいの明和元年(1764年)から明治維新までの約100年の間の刀を『新々刀』、そして、明治維新以降から現在まで作られている刀を、『現代刀』っていうんだって」

タハ乱暴「うち、旧大日本帝国の軍刀や、現在でも使われている模造刀などは『現代刀』に含まれる」

舞「ここからは各分類の特徴を説明するね。

まずは『古刀』。この刀は太刀が多いんだよ。

刀身は反りが強くて、細身でバランスがいいから、持った感じは軽いの。外見的な特徴は、刃文が小さくて自然な感じがすること。乱れのない直刃の場合は焼幅が狭くてちょっとだけ寂しい感じ、乱刃の方は焼出してて、鍔のあたりから帽子のあたり……つまり、剣尖のあたりまでが一貫して乱れてるの。日本刀の各部位の説明は、今度作者さんがやるって言ってたから、今はそんな風になってるんだなぁ、って覚えておいてね。

他に際立った特徴は、茎の表銘かな? つまり刀工の名前は二文字銘(漢字二字の名前だよ)のものが多くて、『新刀』なんかでよく見られる受領銘(『××守』って風な、大名のような銘)は少ないの。茎になにも切られてない、無銘の刀も少なくないんだよ。

『新刀』の特徴は打刀や脇差が多くて、太刀は少ないんだ。

『古刀』とは反対に、身幅が広くて、反りが浅くて、ガッシリとしてて重たいの。元禄新刀期(1681〜1735年)って頃の刀には、優美で華やかな刀もあったんだけど、これが『新刀』の基本的な特徴。

技術の進歩なのかな? 刃文は大きな模様で、技巧的なものが多いんだよ。乱刃の場合にも工夫があって、焼出と帽子だけが直刃になってるの。

茎に受領銘が切られてるのも、大半はこの『新刀』なんだよ。ほとんどは刀銘(鋒を背にした左側を表として刀工の名前が切ってある形式)で、太刀銘(棟を背にした右側を表とする形式)はむしろ少ないんだ」

タハ乱暴「『新刀』には他に、『試銘』という銘がある。山田右衛門のような据物斬のプロに、処刑された罪人の死体を切断してもらい、実際刀の切れ味を試した結果を記録するという銘だ。なんとも生々しい話だが、刀が武器として使用された時代の一端を知ろうとする上で、見落とせない点だな」

舞「『新々刀』は、別名『復古刀』って呼ばれているんだ。一見すると『古刀』に見えるんだけど、刃渡りは長くて、ガッシリしてるうえ、手に持った感じも重たいの。つまり、『古刀』を『新刀』の技術で作り直したって感じの刀だね。

銘には太刀銘と刀銘の両方があって、二文字銘はほとんど見られないの。刀工名と、作刀年月日の他に、製作地や試銘、所持銘と茎に色々な銘が刻まれてるのも、『新々刀』の特徴だね」

タハ乱暴「『現代刀』に関しては……もはや、説明するまでもないだろう。旧帝国軍の軍刀や、現在でも少数生産される刀のことだ。鑑賞用の刀なんかも、これだな」

舞「……こんな感じかな?」

タハ乱暴「そうだな、こんな感じだな。……ところで」

“ブオオオォォォ……!!!”

舞「この音は何だろうね?」

タハ乱暴「……一応、何度か耳にしたことのある音だ」

舞「え、どこで?」

タハ乱暴「航空自衛隊小松基地……」

“ブオオオォォォ……!!!”

舞「……あはははは」

タハ乱暴「HAHAHAHAHA!」

舞「あはははは、じゃ、じゃあ、舞は帰るね」

タハ乱暴「HAHAHAHAHA! おう、それじゃまた生きて会おう(涙)」

和人「爆弾投下っ!」

        

         




次回はいよいよ二人が激突か!?
美姫 「果たして、どんな戦いが待っているのかしら」
どくどくわくわく。
美姫 「興奮しすぎて眠れずに寝不足気味状態で待て!」



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