――2001年1月21日、午前0時2分
矢張信之は駅の改札口を出るなり、夜空を仰いだ。
満月の輝く夜空から、霧雨が降る妙な夜である。
彼は首を竦めて、霧雨の中を足早に歩いた。
肩にも、腰にも、重い疲労がのしかかっている。
携帯電話のディスプレイを見ると、時刻は午前零時。
今日で、三日連続の深夜帰宅だった。
矢張は、邸宅街へと続く緩やかな坂道を歩きながら、ぼんやりと今日の業務を振り返っていた。
ここ最近、彼が残業続きなのには理由がある。
矢張がまだ20代も後半で、気力、体力ともに充実していた十数年前、日本の流通業界を揺るがす大事件が勃発した。東西流通戦争と呼ばれるこの事件は、関東最大規模の巨大スーパー企業と、関西最大規模の巨大スーパー企業が、東海に本店を置く名門デパートの乗っ取りを巡って、正面衝突するという異色の事件であった。
デパートがスーパーの勢力争いに巻き込まれるという時点で前代未聞であったが、その結果、それに誘発されるように全国各地で強力なスーパーがデパートの吸収合併を行い、一時は日本全国が騒然としたほどである。
『高級品はデパート、大衆品はスーパー』という神話が崩れ去り、スーパーという新興勢力がデパートという強大な力を打ち負かした瞬間だった。
矢張の勤め先もまた、東西流通戦争に触発されて、ジリジリとスーパーに追い詰められているデパートの1つだった。ついで言うならば、彼はそのデパートの、営業部長を担っている。
(少しでも気を抜いたら終わりだ)
矢張は、霧雨を身に受けながらそう思った。
スーパーという新しい力は、確実にデパートを呑み込もうとしている。
もはや、デパートの時代は終焉を迎え、スーパーとの共存共栄を推進していくしかない状況にある。仮に正面衝突したとしても、とてもではないが勝ち目はない。
そのことを充分すぎるほどに理解している矢張だからこそ、ここ数日の残業で何の成果も上がらない現状が歯がゆかった。
そのとき、一陣の風が吹いて、閑静な邸宅街に申し訳程度に生えた樹木が揺れた。
彼は、ふと足をとめて、辺りを見まわした。神経を研ぎ澄ます。
誰かに、見つめられているような気配があった。
この三日、同じ時間、同じ道筋を辿っているが、こんな視線を感じるのは初めてである。
注意深く辺りを舐めるように見まわしたが、その気配は姿を見せなかった。
矢張は、怪訝な顔をしながらも気配に背を向けて、歩みを再開した。
恐怖感はあったが、逃げるような素振りではなかった。
高校、大学を通じて柔道をやってきた矢張は、腕力には多少の自信がある。また、それほど自分の実力を過信していない矢張は、万が一に備えてポケットの中の携帯電話に手をかけていた。
もう一度、用心深く辺りを見まわす。
薄気味悪くまとわりついていたあの視線は、すでに消えていた。
霧雨が、激しさを増した。
矢張は、これはたまらないとばかりに、書類の入った鞄を体全体を使ってガッチリと守り、走った。
やがて10メートルも進まぬうちに、彼の体が音を立てて硬直した。
数メートル先に、忽然と黒い影が立ったのである。
矢張は、全身の血液が逆流するのを覚えた。相手を誰何するより先に、恐怖が血液とともに駆け巡る。
彼らはポケットからライターを取り出して、火を、前方へ突き出した。
坂の下から吹き上げる風が、たちまちライターの火を消した。
闇を見る矢張の網膜に、ライターの炎が、数秒の間残る。視力が回復すると、彼は鞄を胸に抱いてあとずさった。
ぼんやりと視認できる影が、足音も立てずに彼に迫る。
顔をひきつらせ、彼は一目散に駆け出した。
影が、物凄いスピードで追ってくる。
邸宅街を逆走して、体力が限界に達したとき、矢張は立ち向かう覚悟をして、振り返った。
「だ、誰だ……?」
自分の膝が、激しく震えているのが分かった。
影は、矢張の問いかけに応えなかった。
矢張は、軽く腰を落として右自護体に構える。柔道家としての自信が、彼に携帯電話を使うという判断を鈍らせた。悲しい、習性だった。
影は、中柄中背の矢張よりも、はるかに上背であった。
影の十本の指が、鈍い音を立てる。
このときになって、彼はようやく、相手の殺気を肌に感じた。ゾッとするような殺気を感じて、矢張の足がひきつる。
矢張は、誰かに狙われるようなことをした覚えはなかった。午前9時前に出社し、午後10〜11時の間に退社する毎日を繰り返している。その繰り返しの仲に、何者かに狙われるような要因が、あるはずもない。
それに矢張は、自分の品行や対人関係にはそれなりの自信を持っていた。どうやって考えても、人の恨みを買うようなことをした記憶はない。
にも関わらず、迫りくる影は、殺気を漲らせていた。
このとき、矢張の頭からは携帯電話の存在などさっぱりと失せていた。
矢張は闇の中、開いての足の動く気配に注意を傾けた。
武器を持っているかどうか、また、相手の人相などは暗くて判らない。
相手の十本の指が、不気味に鳴った。
異変が生じたのは、そのときだった。
突如として、軽快なメロディとともに矢張のポケットの中の携帯電話が着信を知らせたのだ。
矢張が、はっとしてポケットに手を伸ばそうとする。
影が、動いた。
「……え?」
思わず、素っ頓狂な声を上げた。
迫りくる影の瞳が、突如として緑色に輝き出したのだ。比喩ではない。影の双眸は、本当に緑色に発光していた。それとリンクしているかのように、影の、両の掌も……
瞳の発光により、影の正体が男であることが判った。しかし、それだけだった。
緑色に輝く右手が、矢張の携帯電話を持つ腕を掴んだ。
刹那、矢張の体に『衝撃』が走った。
左腕を中心に、まるで体内を長い棒で掻き回されたような激しい痛みが全身を襲う。
たまらず声を上げようとしたとき、男の左手が矢張の首を掴んだ。
直後、今度は呼吸器系を中心に、あの掻き回されるような『衝撃』が走る。
まるで体内を小さな台風が駆け巡り、内臓を傷つけているような痛みだった。
こらえきれず、矢張は喉を掻き毟る。だが、それはむしろ寿命を縮めるだけだった。
男が、両手を頭と胸に当てる。
瞬間、『衝撃』が矢張の脳髄と心臓を襲った。
その瞬間、矢張信之は帰らぬ人となった。死体が発見されることは、朝までないだろう。
男は何食わぬ顔で踵を返すと、「足りない……」と、一言だけ呟いた。
第九章「カウントダウン」
――2001年1月24日、午前8時24分
何事もなく2週間が過ぎ、和人は表面上はおおむね平穏な日常をおくっていた。あの、1月7日を境に、それまで毎日のように現れた刺客の姿が、ぱったりと途絶えてしまったからである。
ここ数日、今も懐に忍ばせているベレッタが咆えたことは、一度もない。万が一の事態に備え、常に数本のナイフと予備弾倉2本を携帯している和人だったが、最近ではそれすら重荷に感じる。
無論、実際にそれらの装備を持たずに外出することはなかったが、そうする必要がないぐらいに、和人の周囲は静かだった。
「あわわわわっ!遅刻だぁ〜〜〜!」
……一部、騒がしいが。
今日も今日とていつものように、眠り姫となった舞をどうにか起こしたときには8時16分。その後3分で着替えさせ、2分で身だしなみを整えさせた和人は、心優しい親友と、その妹を道連れに、学生通りの裏を走っていた。
商店街と住宅街が隣接したそこは、迷路のように入り組んだ構造ではあるが、その道筋をすべて網羅すれば普通に通りを走るよりも早く学校に着ける。
「今日で15日目か……」
信一が、乳白色の雲に隠れた太陽を仰ぎながら呟く。その表情には、かすかな疲労の色が覗える。体力というより、精神的に疲れているようである。
「加菜ちゃん、大丈夫かい?」
「…………ん……大丈夫……」
「むぅ〜〜〜、なんでみんなそんなに元気なの〜?」
先陣を切る和人と信一に少し遅れた加菜……さらにその5メートルほど後方で走っている舞が、情けない声を上げる。
遺伝子のなせる技なのか、特に鍛えてもいない加菜は、歩幅や、スピードの面では和人や信一に及ばないものの、スタミナに関しては和人や信一と並ぶものがあり、男の2人によく着いてきている。
一方の舞は、帰宅部の上たいした運動もしていないので、3人のグループからは大きく遅れていた。
「ほら、舞ちゃんも頑張って」
「片倉さん、もう少しだから」
「…………舞……ファイト……」
敬愛する兄と、尊敬する先輩と、心優しき友人は、暖かく声援を投げかける。
しかし、今の舞にはそれに応える余裕すらなかった。
「ま、待ってぇ!」
「む、この速度でもいかんか」
「じゃあ舞ちゃん、俺の背中に……」
「それは嫌ぁ〜!」
「なら俺が代わりに……」
「もっと嫌ぁ〜〜〜!!!」
「…………兄さん……泣かないで……」
本気でがっくりと肩を落とす信一の背中を、加菜が優しく慰める。
そんなリアクションをしながらも、3人と舞の距離は離れるばかり……
「おい、和人」
「…………強制でいきま〜す」
「にゃお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
結局、和人が半ば強制的に舞の体をむんずと抱え、疾走した。
「…………早い……」
「……もしかして、俺達はおいてきぼりか?」
はい、そうみたいですね。
――2001年1月24日、午前8時29分
「あ〜疲れた」
「お疲れさん」
結局、HR開始直前になって登校してきた信一に、和人がねぎらいの言葉をかける。
信一は額から滝のような汗を流していたが、口で言うほどに疲れた様子は見られない。
「しかし、もう慣れたとはいえ、片倉さんの寝起きの悪さがあれほどとは……」
「入学したての頃はヤバかった。一時は単位が危ぶまれたことすらあったよ」
「……マジか?」
「塵も積もればなんとやら……ってこと」
燐道学園の進級及び卒業に関する制度は、3つの条件のすべてをクリアしていれば、進級・卒業の資格を得ることができる。その3つの条件とは次のようなものである。
・学年成績がいずれの教科特活においても所定の評点を得た者。
・出席日数が年間授業日数の4分の3以上の者。
・授業料を完納した者。
このうちのどれか1つの条件でも満たしていない場合は、余程のことがないかぎり進級、卒業はできない。
さらにこのうち、授業の出欠席に関しては次のような細かい決まり事があった。
・遅刻・早退は3回を以て1日の欠席とする。また、課業における遅刻・早退の場合も同様に3回を以て1時間の欠課とする。
・課業開始20分経過後の入室は原則として欠課とする。また、20分を越える退室がある場合も原則として欠課とする。
・保健室等において静養した場合は欠課とする。
・課業をする態度と思われないような言動がある場合には、原則として、欠課とする。
舞は、授業の欠席こそないものの、その寝起きの悪さから遅刻が多く、その分の塵が積もって、山となろうとしていた。
「なんとか今は、丘で留めてるけど……」
「気を抜いたらすぐに山……か」
これにはさすがの信一も苦笑いだ。
机のサイドフックに鞄をかけ、トレンチコートを脱ぐ。1月7日の深夜に着ていたコートと、同じメーカーの製品だが、別物である。
結局、あれだけ盛大に付着した血痕は落ちなかったらしい。
「白は汚れが目立つから止めろってあれほど言ったのに……」
「うるせぇ。俺は白が好きなんだ」
口を尖らせながら席に座る信一。
――と、そこで彼はあることに気が付いた。
教室を何度かぐるりと見渡し、すぐ後ろの空席を見て、ようやく合点がいったように納得する。
「西川と坂本さんは?」
「入試」
「ああ、あの2人は今日だったのか」
西川と薫の希望する大学は浦賀水道に面した、設備や敷地面積などは、市内の大学の中でも上位に入る学校だ。学力の方は、全国平均で見ると中の上といったところである。
「2人して同じ学校に進学するのか……あの歳でここまで一緒という時点でレアケースだというのに」
「さぁね。俺の場合、幼馴染なんて実例がないから、その辺のことはよく分からないよ」
西川と薫は、生まれる以前からの付き合いになる幼馴染だった。
元々、彼らの親同士の付き合いが長く、子供が生まれてからはその絆がいっそう強くなったのだろう。以来、両家はいたって良好な関係を築いている。
「幼馴染……ねぇ。俺はそれすらも捨てて今日にいたるわけだからな」
「いいじゃないか、幼少の頃からそんな知り合いがいるってのは、それはそれでいいことだよ」
「だな。……そういえば、もう1人の幼馴染は?」
「もう1人って……ああ、城原さんか。今日はまだ、会ってないよ」
男嫌いの愛歌も、西川とは比較的普通に会話しているし、薫とも仲がよい。それは、彼女達3人が、10年来の幼馴染であるためだ。薫からは、小学生の頃の知り合ったのだと、和人は聞いていた。
愛歌は西川や薫とは違う大学への進学を希望しており、すでに推薦が決定しているため、和人や信一同様まだ余裕がある。
ちなみに、彼女のクラスは和人達の1つ隣り……2年1組である。
「……城原さんも、お前と西川だけは普通に苗字で呼ぶもんな」
「そう?べつに普通じゃない?」
「城原さんの場合は話が別だ。知り合って2週間以上過ぎたが、俺なんていまだに『あなた』だぜ?他の男も同様さ。教師にまで、『あなた』を連発してやがる。苗字呼びなんて、俺の知るかぎりじゃお前と西川だけだ」
と、そこで一旦話しを区切って、信一は前を向いた。
“ガラガラ”と扉を開け、教室に担任教師が入室してくる。
それから形式通りの挨拶をして、信一は一旦区切った言葉を再開した。
「西川は幼馴染だからいいとしても、和人、お前は違う」
その言葉に、和人の眉根がピクリと動いた。
それはとても些細な反応だったが、信一は見逃さなかった。
信一は、いいきに畳み掛けるように小声で言う。
「……それに、城原さんの男嫌いは、生来のものではないらしいじゃねぇか」
「…………どうしてそのことを?」
「俺の情報網を舐めんなよ」
信一が、ニヤリと笑った。
いつもならば、見慣れているはずの和人ですら意識していないと見惚れてしまうようなその笑みも、今の彼にはまったくといっていいほど効果がなかった。
和人は、自分達に周囲の視線が向いていないことを確認すると、ドスの孕んだ声で、
「ずいぶんご執心だな」と、言った。
信一は、やや自虐的な笑みを浮かべて、「そりゃそうさ」と、答える。
「本当に反則だぜ、あの顔は……」
――2001年1月24日、午前12時30分
午前中の授業が終わって、和人と信一はほぼ同時に席を立った。
互いに顔を見合わせ、苦笑すると、やはりほぼ同タイミングで食堂へと向う。
燐道学園では、昼休みの食料調達方法は主に3つある。学生食堂で食べるか、購買部で何か買うか、校内から抜け出して外食するかの、3つだ。
このうち、外食に関しては当然ながら校則で規制されているため、見つかった際のリスクを考えると、諸刃の刃でもある。
「教師陣には足があるからな」
「時速60キロで走る鉄の箱がね」
第4選択肢で『狩猟』という手段もあるのだが、これは一般の生徒ではまず成功しない。
というよりも、やろうという生徒がいない。
「兎って結構美味いのにな」
「まったく」
必然、人気は購買と学食に集中するのだが、燐道学園の食堂は和人達3年生の教室棟……南館の1階にあるため、2人はやや余裕を持って歩くことができた。
1分とたたないうちに、食券販売機が視界に入った。
2人は、口数少なくアイコンタクトを交わすと、どちからとなく頷いた。和人が食券を買いに向い、信一が席の確保へと奔走する。
食堂にはまだあまり人はおらず、2人はいたってスムーズに事を進めることができた。
2人分の盆を抱えた和人が、信一のいるテーブルへと向う。さすがに飲食店でバイトをしているだけあって、その姿は様になっている。
「Aランチでよかったよね?」
「ああ、お前は……意外だな、Bランチだけか」
「いけない?」
「いや、そんなことはねぇ……ただ、な」
いつも食べている分量が分量なだけに、信一は苦笑いだ。和人は、キョトンと疑問符を浮かべて、信一の隣りの席へと座った。
なにを話すわけでもなく、割り箸を割って無言で食事を始める。
食事中の和人と信一は、誰かに話しかけられないかぎり、普段とのギャップが激しいほどに静かであった。
以前、不思議に思って舞や薫が訊ねてきたこともあったが、2人はその質問をされると、決まってこう答える。
「無駄な会話は無駄な水分を消費するから」
これには舞や薫のみならず、西川や愛歌さえも絶句した。薫などは、『この人達の頭の中では、毎日がサバイバルなのだろうか?』とすら、思ったほどである。
さすがにこれを聞いた時は、2人とも複雑な表情を浮かべていたのだが、「べつに普通じゃねぇ?」という信一の言葉に和人が頷いてしまったため、今度は逆に質問をしたみなの方が複雑な表情を浮かべていた。
2分ほど経って、信一が、和人を肘で小突き、さり気ない動きで顎をしゃくった。
和人が、信一の示した方向へと視線だけを向ける。
「…………」
――愛歌だった。
こちらにまだ、気付いていないようだが、食券を買って、列に並んでいる。
信一は、すでに辺りをぐるりと見回してみた。
先ほどまで空いていたはずの食堂は、すでに満席に近い状態である。幸いにも和人達の隣りの席は2人分空いていたが、それは後から来るであろう舞と加菜のために確保した席だった。
ひとつ溜め息をついて、和人は、驚異的な速度でメインのおかずを食べると、残った分を信一へと預けて、席を立った。
「じゃ、あとはよろしく」
「おう」
和人はとりあえず食べた分の食器を持つと、困ったような表情を浮かべて席を探している愛歌の視界に入らないようにしながら歩き出した。
がやがやとした喧騒の中、信一の、愛歌を呼ぶ声が聞こえた。
章末詳細解説
――銃――
わが愛銃トカレフ♪(……いや、深い意味はないんですが)
タハ乱暴「ふと、思い出したんだが……」
瑞希「な、なんだか唐突ですね」
タハ乱暴「今から2年ぐらい前の話なんだが、海外在住の親戚に呼ばれてな、1週間ほど米国に滞在したことがあるんだ」
瑞希「へぇ〜そうだったんですか」
タハ乱暴「うむ……でな、その時に、その親戚に誘われてシューティング・レンジに行ったんだ」
瑞希「シューティング・レンジ……」
タハ乱暴「まぁ、端的に言えば射撃場なんだが……それで俺は、わが愛銃とともにそこへ馳せ参じたんだよ」
瑞希「愛銃?」
タハ乱暴「トカレフ♪」
瑞希「…………」
タハ乱暴「コラコラコラ、逃げるな、逃げるな」
瑞希「こ、来ないで下さい人殺しィ」
タハ乱暴「銃を持ってるだけで人殺しとはひどい言い分だな……じゃあ、スイス人はみんな英雄ではないか」
瑞希「……はい?」
タハ乱暴「ほら、いつだったかチャップリンが言ってただろ。『1人殺せば犯罪者、100万人殺せば英雄だ』って」
瑞希「……つまり、スイスの方々はそれだけ危険な物を持っているってことですか? 非武装中立国なのに?」
タハ乱暴「……どこの誰が言いふらしたんだろうな、その迷信……。
スイス国民の国防意識は物凄く高いぞ。非武装……なんてものじゃない。重武装の強力な戦力を持っている。スイスは、あくまで『他国を侵略せず、他国の侵略を許さない』かたちの中立国で、防衛力を放棄した非武装国家じゃない」
瑞希「はぁ……そうなんですか」
タハ乱暴「そうだ……って、話がかなり逸れたな。
……で、だ。とにかくシューティング・レンジに行ったんだよ。そこで俺はトカレフと予備弾薬を取り出したんだ……ところが、隣りのレーンに立ったその親戚が持っていた拳銃はなんと……」
瑞希「なんだったんです?」
タハ乱暴「なんと!信一の愛銃でもあるザウェルP226だった!」
瑞希「…………」
タハ乱暴「いや、そう黙られると返答に困るんだけど……と、ともかく、第八章のこのコーナーを書いていた時にそのことを思い出したんだ。……で、よくよく考えたんだけど、一口に拳銃って言っても、トカレフやベレッタ、ザウェルっていう風に、その種類は千差万別なのよ」
瑞希「たしかに……そうですね」
タハ乱暴「だから、今回はそういった種類の千差万別じゃなくて、銃についての基礎解説をしておこうと思って」
瑞希「……もしかして、ここまでイントロだったんですか!?」
タハ乱暴「(トカレフの銃口を向けながら)なに? 文句ある?」
瑞希「い、いえ、なんでもありません!」
タハ乱暴「じゃ、紹介よろしく」
瑞希「なんでわたしがこんなこと……。えっと、今回は銃器のジャンルについて説明しろと作者さんが……あ、い、いえ、前言撤回です。したいな〜って、とっても、心から思っちゃいました。はい。
ハンドガン(拳銃)
主に近距離や、室内などの狭い場所で使用する銃器です。とりわけ軍内では、自衛用(PDW)として使用されています。種類には自動式(オートマチック)と回転式(リボルバー)の2つあって、作動方式や構造上の違いがあります。例外を除いて、基本的にこの両方に弾丸の互換性はないそうです。
対人用として殺傷できる一般的な有効射程距離は50m以内ですが、実際に使用されるのは20m以内だそうです。……正直、撃ったこともないわたしにはサッパリです。FBIの調査によると、ハンドガンが使用される距離は、平均して約7mとされているそうです。装弾数は5〜17発の銃が多く、引き金(トリガー)を引く度に1発発射されるのが、ほとんどだそうです。全長は20cm以内で、重量は500g〜2kgといったものが多いみたいですが、和人さんのベレッタM92Fなんかは、全長が21cmもありますから、一口に拳銃と言っても千差万別なんでしょうね。
セミオート(単発)射撃が殆どですが、中にはフルオート(連発)射撃が可能なハンドガンも存在します。
オートマチック・ライフル(自動小銃など)
トリガーを引くと自動的に発射、排莢、装填を繰り返す事ができる、ライフル弾を使用する銃です。セミオート射撃、または、フルオート射撃が可能な種類が多くて、一般的な歩兵が装備する、基本的な戦闘用オートマチックライフルは、『アサルトライフル』という分類になるそうです。
連射が可能で、装弾数は30発前後が多く、弾薬の種類は拳銃とは違い、拳銃弾より軽く小さな弾頭を、拳銃弾よりも多い火薬量の組み合わせで使用されます。有効射程距離は、アサルトライフルでは約200m、狙撃用セミオートライフルでは、1500m有効なものまで様々あります。重量は、一般歩兵にも負担の少ない3〜4kgが妥当のようですね。
アサルトライフル(突撃銃)
アサルトライフルは各歩兵が装備する主要武器で、装弾数30発程度の箱型マガジンを使います。マシンガンと同様にフルオート射撃が可能ですが、これをマシンガンとは呼びません。普通は、こういったアサルトライフルはマシンガンではなく、オートマチック・ライフルのジャンルに分類されます。重量が3〜5kg程度と軽量で、各歩兵が身軽に行動でき、移動しながらの射撃も容易です。有名なものに、米国のM16、旧ソ連のAK47などがあります。
ライフル(狙撃銃など)
オートマチックライフルと同じようにライフル弾を使用し、セミオート射撃が可能なものや、ボルトアクションといった手動で弾を装填するシステムが備わっています。 命中精度はオートマチックライフルより高く、長距離射撃のために、使用する弾薬の火薬量はオートマチックライフルの弾薬より多く、さらに高速で貫通力も高くなっています。600m〜1500m先のターゲットを狙える能力がありますが、中には対戦車ライフルなどの射程が2km以上あるような物もあるそうです。
サブマシンガン(SMG:短機関銃)
拳銃弾を使用して、早い連射速度が自慢の、近距離での攻撃に有効な銃です。1900年代初頭に登場しました。大きさは大型ハンドガンサイズから、ライフルよりも小さい、中間的なサイズが多くなっています。警察や対テロ組織に好まれますが、隠匿が容易で強大なファイアーパワーを持つ事から、テロリストにも好まれます。サブマシンガンで使用する弾は拳銃と同じで、互換性があります。よって、パワーや射程距離は拳銃と殆ど同じとなりますが、回転(連射速度)の早さから、拳銃より破壊力、ストッピングパワーに優れます。また、反動が小さいためコントロールしやすく、拳銃に比べ正確な射撃が可能です。
ライト・マシンガン(LMG:軽機関銃)
マシンガンには、人間が1人で装備できるような物から、数人で分担して扱う物まで様々な種類があります。その中で、ライトマシンガンは1人で携帯し移動が可能な、比較的軽量なマシンガンです。ライフル弾が使用され、ライフル同様に貫通力があります。
ライト・マシンガンの多くは分隊支援火器として使用され、歩兵で構成される分隊につき1〜2丁のマシンガンで、歩兵の支援射撃を行います。基本的な給弾機構は、それぞれの弾がベルト状に繋げられた弾を使用する、ベルト・フィードと呼ばれる方法で給弾されます。(中にはアサルトライフル同様にマガジンを使用するライト・マシンガンも存在します。)ベルトフィードは、ベルトが繋がっている限り装弾数の制限が無く、無限に撃ち続ける事ができます。もっとも、実際には、射撃によりバレルが加熱されるてしまうので、200〜300発の射撃でバレル交換を必要としまうんですけどね。
ライト・マシンガンで有名なものに、米国のブローニングBARや、M60、ベルギーのFN MINIMI、ドイツのHK23などがあります。
ヘヴィー・マシンガン(HMG:重機関銃)
ライトマシンガンより、口径が大きくte、強力なライフル弾を使用するマシンガンです。1800年代後半に登場し、後に小型化されたライトマシンガンが登場しています。給弾方法はベルトフィードで、ライトマシンガンと比べ、構造や機構に違いはありません。 へヴィー・マシンガンは、2脚または3脚を使用し、陣地に設置したり、車両や航空機などに搭載して大口径の弾を連続して撃ち出します。これは、重量が重く、そのほとんどは1人では持ち運べないので、支援火器として使用する場合は、1丁のへヴィー・マシガンにつき1組2〜3人の歩兵が射撃と移動を担当します。有名なものに、ドイツのマキシムシリーズやMG34、米国のブローニングM2などがあります。
ショットガン(散弾銃)
近距離で使用する銃で、自衛用、攻撃用、狩猟用など、様々な用途に威力を発揮します。他の種類の銃と違い、ライフリングを備えておらず、スムースボア(滑空銃身)という形状のバレルをしています。ショットガンは、使用する弾によって破壊力も違います。拳銃やライフルは一度に1発の弾を発射しますが、ショットガンは一度に複数の弾を発射できます。戦闘用として使用される弾の多くは、1つの弾に8発の鉛球が内包されたものでしょう。これは、8丁の拳銃を同時に射撃したのと同様の威力で、飛翔する弾も広範囲に広がる為、初心者でも命中させやすく、近距離で有利な扱いやすい銃と言えます。手動でコッキングし、装填や排莢を行うのが一般的ですが、中には、セミオートやフルオート射撃が可能なものもあります。
全長は30〜120cmと幅があり、重量は2〜4kgです。装弾数は、中折れ式は2発が主流で、それ以外は4〜12発程度。射程は短く、対人用としては10m以内で使用するのが有効です。
グレネード・ランチャー(GL:榴弾発射機)
これは名前の通り、手榴弾を撃ち出す銃と考えて差し支えないと思います。・・・・・・わたしはやったことがないのでよく分からないんですけど、作者さんが言うには『打ち上げ花火を横に向けて撃つようなもの』だそうで、撃ち出された弾の中に火薬が入っており、落下地点(着弾地点)で落下衝撃により炸裂し、半径3〜6mの範囲の敵を殺傷する事ができます。特にベトナム戦争以降に大きな発展を遂げ、中でも有名な、M79は、1961〜1971年の10年間に、35万丁ものランチャーが製造され、これを装備する兵士は1人あたり20発の弾を携行していました。
グレネードランチャーの大きさは様々で、個人装備用の重量1.5kg程度のものもあれば、3脚を使用して陣地に設置する重量20〜30kgの大型サイズ(AGL:オートマチック・グレネード・ランチャー)のようなものも存在します。最新の大型グレネードランチャーには、コンピューターが搭載されていて、距離を計測しながら1000〜2200mの射程で射撃する事もできます。 また、FN社のアサルトライフルF2000用として開発されたアドオンタイプのランチャーにも、コンピュータ内蔵のシステムが備わっています。AGLは、1966年以降にベトナム戦争を経て発展し、これまでに各国で多くのAGLが開発されました。口径は、30×28mmや、40×46mm、40×53mmといった弾薬(というより、手榴弾なんですけど)が一般的に使用されています。
使用される弾によっては、5m以内では安全装置が働いて不発になるものもあれば、15〜20秒後には必ず爆発する弾もあります。また、この弾は大きいので、ライフル弾や拳銃弾の様に、大量に持ち歩く事はできません。また、弾薬の種類も多様で、対人用榴弾の他、対装甲用も存在します。戦場でのグレネードランチャーは非常に有用で、装甲車に対しての攻撃、戦車のキャタピラやセンサーを破壊、壁に穴を開ける、といった事にも使用でき、現在でも好まれます。
グレネードランチャーは単体で使用するものもありますが、ライフルに装着して使用できるアドオンタイプのものもあります。 40mm口径が一般的で、最大3500mの射程を持つランチャーまで存在します。
……こんな感じでいいてですか、作者さん?」
タハ乱暴「うむ、上出来上出来」
瑞希「……あれ? そう言えば今日はまだお2人が来てませんね?」
タハ乱暴「HAHAHAHAHA!たまには俺だって平穏無事に終わらせたいのさ。じゃ、そういうことで……」
“スタスタスタ……ピタッ”
和人「待っていたぞ」
タハ乱暴「な、なにぃ!?」
信一「もう逃げられまい」
タハ乱暴「クソッ!待ち伏せか!!!」
瑞希「……結局、こうなるんですね」
和人「ベレッタM92F&ザウェルP226VSトカレフTT33か……」
信一「いい勝負が出来そうだな」
タハ乱暴「う、嘘つけぇっ!な、なんだその後ろにおられる約7万人の大軍は!?」
和人「……気にするな」
信一「そうそう、気にしたらダメだって」
“ババババババババババンッ!!!!!”
タハ乱暴「明らかに銃声多いしって……うぎゃぱぁ〜〜〜〜〜!!!!!」
一口に銃と言っても、色々あるんだね〜。
美姫 「勉強になるわ〜」
うんうん。って、何の勉強だ!
美姫 「まあまあ。それはそうと、すぐに殺さずにじわじわと痛みだけを与える銃ってのはないのかしら?」
単に、急所を外せば良いのでは?
美姫 「違うのよ。そうじゃなくて、命中しても命までは取らずにじわじわ〜って」
……あー、因みに誰に使う気だ?
美姫 「聞くまでもないでしょう?」
ああ、確かにな。
……って、ふざけるなよ〜〜!
美姫 「いや〜ね〜、私はいたって真面目よ」
余計悪いわ!
美姫 「くすくす」
な、何だー、その笑みは!
美姫 「秘密♪」
ぬおおおお。気になるが、聞くのが怖いぃぃ。
美姫 「さて、馬鹿が悩んでいるけれど、気にしないでね。それでは、次回も楽しみにしてますね」