「…………静流……なのか……?」
茫然として、信一は知らず知らずのうちに口を開いていた。
恐らく、今、自分が声にした言葉の意味も理解していないだろう。
一方、『静流』と呼ばれた少女……城原愛歌は、信一の声が聞こえなかったのか、隣りで立っている和人に『これはどういうことだ?』と、目で語りかける。
和人が、俯いて押し黙った。
2歩、3歩動いて、やっと追いついた舞の隣りで震えている加菜の肩にそっと手を置く。
「静流……」
再び、信一が呟いた。
愕然とした響きを伴った、呟きだった。
次の瞬間、彼の目に涙が浮かんだ。
「静流!」
信一は叫んで自分から彼女に歩み寄った。
しかし……
「近づかないでッ」
彼女から返ってきたのは、拒絶の言葉だった。
信一が、絶望的な表情を浮かべ、立ち止まった。
「し、静流……?」
「あなたも……なの?」
「え?」
「あなたも……わたしのことを静流と呼ぶのね」
愛歌が、きっと和人を睨みながら言った。
信一が、和人と愛歌の顔を交互に見比べる。
「叶君もそうだったけど……あなたもわたしのことを静流って言うのね……正直、不愉快だわ」
信一の頭の中で、女の顔が過ぎった。
第七章「集結、青龍館」
――2001年1月7日、12時52分。
“パキィッ”
乾いた木の音がして、割り箸が2つに割れる。
目の前に鎮座したラーメンを前に両手を合わせて、和人は丁寧に頭を下げた。
「あいっかわらず律儀な奴だな」
注文の品がまだきていないためか、不機嫌そうに西川が言った。
和人が、「そう?」と答える。
学校帰りの昼飯時、和人達は青龍館で珍しく外食をしていた。
4人掛けのテーブルを2つ繋ぎ合わせた席に、和人、信一、舞、加菜の4人に、西川、薫、愛歌の3人を加えた7人が座っている。
昼休みのない始業式、この時間帯の学生通りは混雑しており、特に飲食店にいたっては普段あまり人気のない店でも行列ができていた。そんな状況下で、7人もの人間がこうして座れたのは奇跡に近い。
和人は、店長吾郎の温情に感謝しつつ、目の前のラーメン1つとチャーハン1つを平らげていった。
「うわっ、相変わらず凄い食欲だね」
「でも、これだけ食べて全然太らないんだよ?」
「…………和人……羨ましい……」
「……不愉快ね」
女性陣から送られる嫉妬と羨望の視線を軽く受け流しつつ、和人は周囲をぐるりと見回した。
先ほどから、どうも、自分達のいるテーブルに視線が注がれているような気がしたのだ。
視線だけを動かして周りを見ると、和人はやっぱりといった顔をした。
視線は、和人の隣りでラーメンとチャーハンを頬張る信一に注がれていた。一部、和人の方にも流れ込んできているようだが、圧倒的に信一の方が多い。
しかし、とうの本人はというと……
「ふむ、なかなかに、これは……」
中にはかなりの美人の視線も混じっているというのに、まったく気付かない。
和人が、信一を見て「らしいな」と呟いた。わずかに、唇が微笑を浮かべている。
そんな和人の視線を感じて、信一が「ん?」と振り向いた。
「なんでもないよ、馬鹿力」
「黙れ、軟弱者」
互いに言い合って、ふっと笑みを浮かべる。
その笑顔が、さらに周囲からの視線を熱烈なものとした。
「……吉田クンって、もしかして」
「あ、ああ……もしかして、とんでもなく鈍感な気がする」
「…………気がする……じゃない。…………まさに……そのもの……」
加菜が、言葉少なく薫と西川の疑問を肯定した。
薫と西川が、苦笑いを浮かべる。
「どうでもいいじゃない、そんなこと」
対して、愛歌だけはあまり関心も抱かず、食事に専念していた。
その態度に何か思うところがあったのか、信一がそっと耳打ちする。
「なあ和人、もしかして、城原さんって……」
「ああ、大の男嫌い」
「やはりそうか……しかし、あれだけの美人が勿体ない」
「お前もそうだって」という言葉を、和人は発することができなかった。
信一が愛歌に対して呟いた『勿体無い』と、和人が信一に対して使う『勿体無い』とはまったく別次元の話題であることを、彼は見抜いていたのだ。
何気なしに、箸を止め、愛歌を眺めてみる。
……たしかに、城原愛歌は美人であった。
不粋な言い方は嫌いだったが、この中ではいちばんの美人だと、和人は思う。均等のとれたプロポーションと、どこか西洋人じみた端整な顔立ち、対称的に、腰までかかるロングヘアーは日本人的で、綺麗な黒色だ。
年不相応な大人の色気と、清潔感、そしてなにより、落ちつきがある。
美しさという点では、信一や加菜もかなりのものだが、ああいった神秘的な美しさよりも親しみが持てる。
“ある一点”を除いて……
「……たしかに、これは勿体ないな」
その“ある一点”がなんなのか、和人にはすぐに分かった。
かつて彼女が持っていて、今は失ってしまったもの……
それが何なのか分かっているだけに、和人の胸はひどく痛んだ。
愛歌が、和人の視線に気付いて不快そうに眉を吊り上げる。
「……なに?」
「いや、なんにも……」
和人は曖昧に笑った。
それが、余計に愛歌の逆鱗に触れたのか、彼女はそっぽを向く。
「いや、ホント勿体ねぇわ」
信一が、何気なしに呟いた。
「同感……」
「お、久しぶりに気が合ったな」
「久しぶりって……もう4年もあってなかったんだから当たり前だろ、馬鹿力」
馬鹿の部分を強調して、和人は言った。
「うるせぇ、軟弱者」
信一が、実に爽やかな笑顔を浮かべて、和人の頭をガシガシと撫でる。
やがて髪の毛をわしゃわしゃと揉んで、続いてぐわんぐわんと頭を回す。
「…………痛い」
「フォフォフォフォフォフォフォフォッ!どうだ、握力110キロの味は」
信一が、現実にはありえないような笑い声を上げて言った。和人は、円○プロの某宇宙人を彷彿とさせる笑い方である、と思った。
「へぇ〜吉田は力強いんだな」
「いや、それにしても110キロって……」
「自己ベストは右118キロ、左115キロ」
妙なところで西川が感心し、薫が苦笑いを浮かべる。
すでに西川の頭の中では、信一を利用しての新しい博打の構図が出来あがっていた。
「……よし叶、サクラになれ」
「いや、意味わかんないから」
「大体の予想は着いてるけどね」
西川は、信一に腕相撲か何かをやらせて、金を巻き上げようという魂胆なのだろう。
「……一応、言っておくが、現金を賭けての賭博は法律で禁止されているぞ」
「なにッ!そうなのか!?」
「知らなかったのかッ!?」
西川が驚愕の表情を浮かべ、和人が愕然とする。
よほどツボに嵌まったのだろうか、舞は腹を押さえてケラケラと笑っていた。
「そ、そんなに可笑しかったか」
なにやらショックを受けている西川。
舞は、まだ腹を押さえながら、「ご、ごめんなさい」と何度も誤った。よほどツボに嵌まったのだろう。まだ、ヒクヒクと頬が痙攣している。
「…………片倉さん……笑いすぎ……」
「だ、だって……」
「…………人のこと……笑うの……よくない……」
口数は少ないが、まるで幼子を諭すように優しく、それでいて咎めているような口調の加菜に、和人は懐かしいものを感じながら苦笑した。
「おおッ、吉田さんッ!ボクの味方はキミだけだッ!!」
西川が大仰に両手を広げ、座席配置などなんのその、とばかりに加菜へと抱き着こうとする。
無論、西川からすればそれは冗談であり、邪気のない、ちょっとした茶目っ気だったのだが……
「…………鬱陶しいです……西川先輩……」
「おうッ!!!」
閃烈のボディブローッ!
加菜の正直な一言に、西川の背筋に電流が走る。
精神的に強烈なダメージを被った西川は、「ぐふッ……」などと呟いて、椅子の背凭れへともたれかかった。こころなしか、戦戦兢兢としている。
しかし、さらに追い討ちをかけるように阿修羅の如き形相をした信一が、「西川、たとえ友人といえど、加菜に手を出すようなことがあれば即刻たたっ斬るからな」と、無情にも殺気を放ちながら言った。
西川が、ブルリと身震いしてガクガクと首を縦に振った。
「あれは恐い……」
「……吉田クンって、もしかしなくてもシスコンの気、ある?」
「もしかしなくても、あるよ」
「…………迷惑……」
「最低ね」
「加菜ちゃん……城原さん……」
「…………なに……?……」
「なにかしら?」
「いえ、なんでもありません」
女性2人の痛い視線を受けて、和人はうっと押し黙った。
10分の1ほどまで減ったラーメンとチャーハンを、均等に食べていく。
ものの30秒で、ラーメンとチャーハンは和人の胃袋へと納まった。
「ごちそうさま」
『早ッ!!』
現時刻は13時7分。青龍館の席に着いたのは午前12時45分頃なので、まだ20分余りしか過ぎていない。加えて、料理が出てきたのは50分頃のこと……途中、みなと会話していたことを考えると、尋常のスピードではなかった。
「か、叶クン、もう食べちゃったの?」
「あれ?みんなはまだなの?」
「お兄ちゃん、だから早過ぎるって」
「こんなほっそい体によく入るな」
「……べつに普通じゃない?」
「少なくとも、俺はお前ほど食えない」
「俺は食えるけど……お前ほど早くは食えねぇな」
「…………和人……早食い……体によくない……」
好き勝手に非難されて、さすがに和人も少しだけムッとした。
「……たしかに、和人さんの食欲は並みじゃありませんね」
「瑞希ちゃん、きみまでそんな……」
ようやく西川の注文した五目蕎麦が並んで、未だ凹んでいた彼も復活する。
“パキィ”と割り箸を割って、上手そうに五目蕎麦を頬張る。
「ん!美味いッ!」
「ありがとうございます。お父さんも、それを聞いたら喜びますよ」
髪をポニーテールに結わえ、作業着に身を包んだ瑞希がやんわりと笑みを浮かべる。
瑞希は、その場でエプロンを脱ぎ、ポニーテールを解くと8人掛けの、最後の席へと座った。
同じバイト仲間でもある和人が、最初に口を開く。
「今日はもう終わり?」
「あ、はい。あとはバイトの人がやってくれますから」
「そう……じゃ、俺も明日から復帰だね」
「和人、この人は……?」
見ると、信一だけではなく、薫、西川、愛歌、加菜も、不思議そうに瑞希を見ている。
否、愛歌だけは、不思議そうに……というより、不機嫌さを顕著に表しながら見ている。
和人は、「そういえばほとんどは初対面だったね」と呟いて、少し考えたあと、みなに瑞希のことを紹介した。
「青島瑞希ちゃん。燐学(燐道学園の略)の2年生で、青龍館の看板娘ってところかな」
瑞希は、ほのかに頬を赤らめながら、「そんなことないです」と、思わず苦笑した。
「青島って……もしかして」
「そ、青龍館は瑞希ちゃんのお父さんが経営してるんだ……で、俺はここのバイト店員」
「なんだ和人、バイトしてたのか?」
信一が、さも今知ったような口調で訊ねてくる。
(白々しすぎだぞ……)
和人は内心で苦笑を浮かべながら頷いた。
「城原愛歌……薫や西川君と同じで、3年生よ。よろしくね」
愛歌が右手を差し出して、瑞希もそれに応じる。互いに握手を交わすと、自然と、2人の顔には笑みが浮かんでいた。
それを見て、信一が驚いたような表情を浮かべる。慌てて和人を見て、そっと耳打ちする。
「お、おい、どういうことだ?」
「城原さんは、男以外には基本的に優しい人だよ。男っていっても、子供は例外だけどね」
「そ、そうか……」
その笑顔に吸い込まれるように、信一が愛歌の顔を見つめる。
信一の視線に気付いて、一瞬、愛歌はバツの悪そうな表情を浮かべて、すぐに気を取り直すと、「なに……?」とばかりに、鋭い視線を送ってくる。信一は、その視線に愛想笑いで対抗した。
愛歌が、フンとそっぽを向く。
そうしている間にも、みなの自己紹介が過ぎていく。
やがて信一の番が回ってきて、彼はコホンとひとつ、咳払いをした。
そして今朝、和人達の教室で浮かべていた愛想笑いをしながら、
「和人達と同じく3年生の吉田信一です。よろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「吉田クンは今日、コッチに転校してきたんだ」
「あ、そうなんですか。どちらに住んでいらしてるんです」
「あ、ゴメン。まだ、この街の地理とか頭に入ってないんだ。事前に地図とかは見てきたけど、昨日、この街に着いたばっかりだから……引越しで、昨日はそれどころじゃなかったしね。……感覚的なもので、いいかい?」
「じゃあ、それで」
不明瞭な信一の説明にも嫌な顔ひとつせず、瑞希は頷いた。
「ん〜〜〜……ここからだと、歩いて20分ぐらいかな?住宅街にあるマンションなんだけど……」
「住宅街……」
「歩いて20分……」
思わず、和人と舞は顔を見合わせた。
和人の第六感が「危険、危険」と必死に警鐘を鳴らしている。
「そのマンションの名前は?」
「たしか……『ミッドナイトハイツ』っていう名前の」
“ガタンッ……”
和人と舞が、同時にテーブルに突っ伏した。
西川と薫が、驚いて“ビクリッ”と身を震わせる。
「ど、どどどどどげんしたと!?」
「み、『ミッドナイトハイツ』って言った?」
「ああ」
「そこ……舞達が住んでるマンション」
「おお!奇遇だな」
大仰に両手を広げて、信一は芝居のかかった仕草で驚いたような表情を浮かべた。隣りで加菜が、そんな信一をジト目で見ている。
和人は、内心で怒りを漲らせながら、信一を睨みつけた。
(コイツ、知ってやがったな……!)
よくよく考えてみれば、昨日は和人も舞も遊園地に行って、ヘトヘトになって帰ってきた身だ。特に、和人などは電車内で謎の襲撃を受けている。
家を空けていた時間も長かったし、帰ってきたらきたで、和人は傷の手当てをした後、すぐに眠ってしまった。
たとえ引越し蕎麦を持ってこられたとしても、気付かなかった可能性は高い。
「む……そういえば引越し蕎麦を忘れてたな」
「俺はあんまりお前とは関わりたくない」
「お兄ちゃん、それ、どういう意味?」
「片倉さんは、引越し参りに配るのが、何故、蕎麦なのか知っているかい?」
「え?う〜ん……そういえば、知らない」
「それすなわち、末永いお付き合いの意」
「絶対にタオルはよこさないでくれよ」
「タオル?」
「タオルの方が長いんだよ。より、末永いお付き合い」
「ふぅん」
「……やっぱタオルの方がいいか?」
「…………俺は引っ越す」
力強く、ぐっと拳を握り締めながら和人は言った。
妙に力む和人に、みなが訝しげな視線を送る。少なくとも、彼らの知るかぎりで、叶和人は冗談でもここまで人を拒絶するような人間ではない。
和人の意外な一面を知って、彼らは自分達は叶和人という人間をあまり知らないことに気が付いた。
「……嫌われたものだな」
一瞬だけ、信一が寂しそうな表情をして、彼は残りのラーメンを平らげていった。
いちばん最後に注文の料理が届いた西川が、慌てて箸を動かす。
ラーメンを平らげ、勘定を精算するときには、すでに彼は唇に微笑を湛えていた。
和人と加菜が、複雑な表情でその表情を見ていた。
――2001年1月7日、午後4時32分
和人や舞の住んでいるマンション……ミッドナイトハイツは、今年で築20年になる7階建ての高層マンションだ。住宅街に建ち並ぶマンション群にまぎれて、4棟、建てられている。
一部屋の広さは10坪ほどで、さらにその中の部屋数は4つ。各階に8部屋あり、4棟合わせると合計224部屋にもなる。
96年の阪神・淡路大震災で一度、耐震性などの強化を施した以外、際立った改装はなく、白い外観には月日の流れを感じさせる亀裂が入っている。
和人はミッドナイトハイツC棟の、4階、402号室に住んでいた。片倉家はその隣りの403号室、吉田兄妹は1階上の、502号室にそれぞれ住んでいる。
少し早めに夕食の買い物を済ませて、和人は帰ってくるなりリビングに直行し、ハンガーにコートをかけて、ヒーターの電源を入れた。コートを脱いで初めて分かることだが、やはり、拳銃のホルスターとそれに差されたベレッタM92F、専用のナイフシースとシャドウVのセットを身に着けている。
和人がいつもコートを着ているのは彼が寒がりだからではない。コートの方が、そういった武器を隠しやすいからという配慮のためだ。
和人は慎重にベレッタの拳銃ホルスターをはずして、テーブルの上に置く。それからベルトをはずしてナイフシースを抜く。
身軽になると、和人は窓のカーテンを閉めるなりソファに身を沈めた。
あまりにも、考えるべきことが多すぎる。
「何故、今になって……」
そっと瞼を閉じても、そこには信一の顔があった。
信一だけではない。
視線を巡らせればそれこそ何百、何千という人間の顔が和人を見ている。
それらひとつひとつの顔に、和人は見覚えがあった。
彼の、あるいは彼女達の顔を眺めているだけで、和人は胸のうちに熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
不意に、人だかりが唸りを挙げて2グループに分かれ、道ができた。
その道を進んだずっと奥に、見覚えのある、少女が立っている。
ついに居た堪れなくなって、和人は瞼を開けた。
――と、不意に、ズボンのポケットの中で何かが震え出した。
携帯電話のバイブレーション機能である。
ディスプレイを覗くと、デジタル化された、『発信者不明』の文字が表示されていた。
通話ボタンを押してみると、すぐに、聞きなれた男の声が聞こえてきた。
「よぉ、和人」
「……おかけになった携帯は、現在電源をお切りになられているか、電波の届かないところに―――」
「そ、そんなに邪険にするなよ。寂しいじゃねぇか」
「寂しがるような歳か……」
和人は盛大に溜め息をつくと、ソファから身を起こして受話器を持ち直した。
「人間はいつも孤独な生き物だ。常に、誰もが寂しさと戦っている」
「…………そうだったな」
和人は、何故、信一が自分の電話番号を知っていたかということには、あまり興味を示さなかった。そんなことを訊ねたところで、無駄なことだと分かっているのだ。
「……用件はなんだ?」
「……簡潔に述べよう。今夜、9時半にでも鈴鐘寺の墓地まで来てくれ」
「拒否権はなし、か」
「なしだ。もし来なかった場合は超法規的措置でお前の身柄を拘束しなければならない」
「……もしそうなった場合、俺も可能な限りの手段で抵抗させてもらう」
相手の変じを待たずして、和人は通話終了ボタンを押した。
携帯電話をポケットにしまうと、再びベルトを解き、シャドウVの納められたナイフシースをベルトに差しこむ。無論、拳銃ホルスターも一緒だ。
「……飯にするか」
呟いて、和人は台所へと向った。出来ればゆっくりと食べたいものだが、あいにく、今夜は用事ができてしまった。
心の中で舞に誤まって、彼はスーパーのビニール袋を開けていった。
一方的に通話を断絶された信一は、“プツッ”という通話終了の音を聞いて冷笑を浮かべた。
「可能な限りの反撃……か」
受話器を置くと、信一は手招きで加菜を呼び、リュックサック大の“ソレ”を取り出した。
――PRC320。
イギリス陸軍で広く使用されている戦術的通信システムである。バックパック型の無線機で、重さはわずか5.6キロしかない。
手馴れた手つきで軍も使用している高性能通信機を操作すると、機械は起動し、信一はマイクに唇を寄せた。
「こちら『鷹』、本郷少尉、応答してくれ」
ほぼ秒の間もなく、野太い男の声が返ってくる。
「こちら本郷です。感度良好」
「これより目標“β”と接触する。街にいる兵士を、鈴鐘寺の半径10キロ内に近付けさせないようにしてくれ」
「敵が来た場合は?」
「容赦しなくていい。なお、鈴鐘寺に敵が侵入した場合は死体処理にのみ動いてくれ……連中は、俺が片付ける」
ぞっとするような冷笑を浮かべて、信一が告げた。
通信機の向う側、本郷と呼ばれた男がゴクリと喉を鳴らした。
「山本曹長、風祭曹長、葦原曹長も、聞こえたな」
「こちら山本、現在浦賀水道周辺を哨戒中……とくに不信な点はありません。鈴鐘寺の件ですが、了解しました」
「こちら風祭、現在、横須賀方面を哨戒中」
「こちら葦原、現在は鎌倉方面を哨戒中。念のために第3分隊を鎌倉市内に送りましたが、今のところ、不審者は見当たらないようです」
「了解。第1小隊はそのまま市街地の哨戒に向ってくれ。第2、3小隊もそのままでいい。第4小隊は、鎌倉方面から戻ってくるように」
『了解』
通信を終えて、信一は長い溜め息をついた。
加菜が、心配そうに彼を見つめている。信一は微笑むと、「大丈夫だから」と、優しく言った。
加菜が、それを受けて優しく微笑んだ。
章末詳細解説
――日本刀の種類@〜形状編〜――
タハ乱暴の友人R氏所有の太刀(模造刀)
こちらもタハ乱暴の友人H氏所有の打刀(模造刀)
タハ乱暴「今回のお題は日本刀についてです!」
加菜「…………」
タハ乱暴「……あの〜加菜さん?」
加菜「…………」
タハ乱暴(人選ミスったかなぁ?)
加菜「…………日本刀……大きく打刀と……太刀とに分けられる……」
タハ乱暴「なにッ!始まっとったの!?」
加菜「…………打刀……日本刀の原形として……戦国時代の初期に登場した刀剣のこと……。…………一挙一動で抜き放つことできて……ん……とっても便利……。…………長さも反りも……充分にある……。…………江戸時代の武士の……標準装備とされた……。
…………原形は鎌倉時代……腰刀(戦場用の短刀)……言われている……。…………時代が進むと……鎧を着た武士……太刀の予備として……長い腰刀……必要になった……。…………鍔が付いて……実用性の上がった腰刀は……太刀の利点……反りも加わった……。
…………打刀で……刃渡り2尺以上の刀の総称……大刀……。…………実戦用の刀剣で……平時から戦場まで……武士専用の刀として……使われた……。…………外見的な特徴……鍔の拵え……凝ったものが多い……。…………鞘は……結構簡単にできている……。
…………小刀は……刃渡り2尺以下の打刀……。…………別名……脇差……。…………時代劇によく出る……武士の正装……『大小拵え(二本差し)』に欠かせない物……。…………でも……戦国時代の鍔刀と比べると……実用性はイマイチ……。…………ん……短いの……よくない……。…………儀礼的な意味合いの強い……刀……。……町人が携行できる……ん……唯一の刀……。
…………長脇差は……渡世人が使う打刀の総称……。…………ドスのこと……。…………刃渡りの指定は……とくにない……。…………だけど……この人達が使ったのは……ん……刃渡り2尺前後の物が多い……。…………拵えはおおむね地味……刀身も……粗悪品が多い……。…………けど……この手軽さが……流浪の生活を送る……渡世人には好まれた……。
…………最後に……番指……。…………これは儀式用の大小拵え……。…………実用性はないけど……見た目がすごく綺麗で……素材も豪華……。…………鍔や柄に……家紋を入れる武士も多かったみたい……。
…………打刀は……大体こんな感じ……」
タハ乱暴「な、長い……」
信一「じゃぁ、ここからは俺が交代しよう」
タハ乱暴「お、出たな馬鹿力」
信一「…………(無言で刀を振りかざす信一)」
タハ乱暴「(卑屈な態度で)……おねがいします先生」
信一「うむ、よきにはからえ……。
太刀は、鎌倉時代に、武士の台頭に伴なって普及した刃渡り2尺以上の刀剣のことだ。
刀身の形状そのものは現代に継承されている日本刀(打刀)と大差はねぇ。両者の最大の違いは携行法で、腰に差して持ち歩く打刀に対して、太刀は鞘に緒……つまり、輪のような形をした吊り紐を2つ付け、これに帯を通すことによって腰に装着するんだ。この携行法を使うと、峰が上を向き、刃が下を向くため、抜刀の迅さが命の居合術を使うのに適さないスタイルとなってしまう。まぁ、これは太刀という刀剣が確立した鎌倉時代には、居合術そのものが、存在しなかったためなんだがな……。ちなみに、居合術の登場は江戸時代と言われる。
太刀には、その形状から分類される種類としては、一般的な太刀の他に、3つある。
まずは、『とらいあんぐハート』ユーザーにはお馴染みの、小太刀。小太刀は、刃渡り2尺以下の太刀の総称で、主に護身用に使われた太刀だ。
刀身の短さゆえに、兵器としての威力は一般的な太刀に劣るため、実戦に遭遇する可能性の低い者は小太刀を携行する場合が多かったらしい。このことは『今昔物語』にも記されている。
次に、小太刀に相反する大太刀。呼んで字の如く、大太刀は刃渡り3尺以上の太刀の総称だ。
攻撃力の低い小太刀を越える、実戦向けの太刀。武士であれ、盗賊であれ、人を切る機会の多い物には欠かせない武器だったといえるな。
最後に、野太刀。大太刀の別称でもあるんだが、ここでいう野太刀は、騎馬戦で用いることを前提に作られた長剣だ。
南北朝時代〜室町時代にかけて、槍や長巻が白兵戦のメインとして定着してきたために、これらの新兵器で迫ってくる雑兵への対抗手段として、騎馬武者が背負って出陣した。
刀身は驚くなかれ、最長の物になると5尺を越え、全長2メートルにも及ぶ。人力で持ち歩くのはさぞかし困難だと思われるが、当時の絵巻物には、自分の背丈より長い野太刀を担いで走っている描写も見られるため、人並みはずれた腕力の持ち主だけがこいつを使いこなせたんだろう。
野太刀を振り回す姿は、その圧倒的な殺傷能力に加えて、戦う相手に多大な恐怖感を与えるという心理的なダメージもあったんだろうな。戦場を駆け抜けた無銘の戦士達は、実は恐るべき肉体を持った連中だったわけだ。
まぁ、こんなもんだろ」
加菜「…………お疲れ……」
タハ乱暴「も、もっと長い」
信一「なんだぁ?文句あるのか?」
タハ乱暴「HAHAHAHAHA!滅相もございません(必死)」
加菜「…………前回の……相当痛かった……みたい……」
信一「そうかそうか……じゃ、和人」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
90式戦車に乗って和人登場
和人「呼んだか?」
タハ乱暴「呼んでない!呼んでないぞ〜〜〜〜〜ッ!!!」
和人「砲撃用意」
タハ乱暴「No〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
信一「それじゃ、今回もこの辺で……See you again. 」
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
加菜「…………あばよ……」
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
和人「それでは、ごきげんよう」
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
タハ乱暴「…………うぐぅ。ボクのこと忘れてください……って、何発撃ち込む気じゃぁッ!?」
和人「お前が2度と悪さできなくなるまで」
タハ乱暴「シクシクシクシク」
和人「ええいッ、鬱陶しいッ!(ベレッタ連射)」
タハ乱暴「あうっ!!」
さて、和人と信一は一体……。
美姫 「どうなるのかしら。ううん、信一の目的って」
謎、謎、謎。
美姫 「早く次回を〜」
二人は一体どうなるのか。ひっじょ〜〜〜に、気になるるるるるる〜〜。
美姫 「と、言う訳で次回を…」
待っております〜〜。