逃げる袁紹軍。
 追う高町軍。
 双方の士気の差。そして兵数の差もあり、この二つの軍の距離はどんどん詰まっていった。
 進軍速度は雲泥の差である。
 そして、その情報は袁紹軍の総大将の耳にも当然届いており──

「先ほどの足止め部隊は何をやってますの!?」
「…………」

 ──総大将、袁紹の苛立ちは頂点に達していた。























『恋姫†無双異聞 〜高町恭也伝〜』
 第四十三章






















 高町軍の進軍速度が全く落ちていないことに腹を立てる袁紹。だが、そんな彼女を醒めた目で見ている男が一人。袁紹軍の“一応”軍師の郭図である。

(何をやってるか……なんて、それこそ言うまでもないだろうに)

 足止めを命じて置いてきた一万の兵士たちがその命令を放棄して逃げ出した事くらいは予測出来ていたからだ。あんな形で見捨てられた兵士たちの立場になって考えれば、あの状況で逃げずに袁紹のために命を懸けて戦う方がどうかしてる。
 しかし袁紹は兵士の立場になって考える、なんて事が出来るはずもない──というより、そもそもそんな考えに至らないため、兵士たちが逃げたと言うことすら思いつかないようだ。

「足が遅いだけでなく、足止めすら出来ないなんて……っ! 本当に役立たずですわねっ!」

 自らの策がうまく機能しなかったのは全て自分以外の人間が悪いのだと、そんな都合の良い考えしか出来ない袁紹。そんな袁紹を本来諫める役目を担っていた顔良や文醜がいない今、この場に残る将はみな、袁紹の怒りを買うことを恐れて首を縦に振ることしか出来ないイエスマンしかいない。
 完全な独裁だった。
 そうなると、

「でしたら今度は倍の二万の兵を足止めとしてこの場に置いていきます! これなら高町軍の足も止まるでしょう!」

 このような無茶な案すらも止められなくなってしまう。
 今の袁紹は、自らの策が決して間違いではなかったことを証明したいという気持ちが最優先され、本来の目的──いかに被害を少なくして冀州に戻るか──をすっかり忘れてしまっていた。
 現在の袁紹軍の兵数は約五万。なのに、そこから二万の兵を使って高町軍の足止めをするというのは、暴挙を通り越して愚策と言うほかなかった。進軍速度と士気の高さで高町軍に劣る袁紹軍ではあるが、兵数ではまだまだ圧倒的に有利といえる。だが、その有利とされる兵数の多さも、分割してしまっては意味が無くなってしまうのだ。
 しかし、

「今度こそ、連中の進軍速度を落としてみせますわ!」

 もはや意地になっている袁紹にはそんなことは些末事なのである。
 彼女の暴走を止められる者はこの場には存在せず、彼女の策は即座に実行されることとなった。
 そして、

(……もはや袁紹軍もここまでか。さて、そうなるとどこで逃げ出せばいいのやら)

 軍師役の郭図にいたっては、袁紹と共倒れは御免とばかりに、逃げ出すタイミングを密かに見計らっているのだった。






















 袁紹の意見が素通りし、高町軍を足止めすべくその場に残った二万の兵士。
 彼らは最初の一万の兵たちとは違い、元から袁紹の直属の兵士であることと、追ってくる高町軍よりも兵数は多いと言うこともあり、すぐに逃げ出すと言うことはなかった。
 だが、役割自体はやはり捨て石ということもあり、兵たちの士気はどん底と言っていいほど低い。
 そこへ、先の戦いで見事勝利を収めて勢いもある高町軍が迫ってきた。

「敵軍を発見なのだーっ!」
「袁紹はいるか!?」
「大将旗はありません! おそらくあれは足止めのための部隊ではないかと」
「兵を分割したのかよ!? あったま悪いやり方してんなー」
「まあ、本初らしいっちゃらしいけどな」
「……あっちの考えはともかく。ここで苦戦していたら袁紹を逃がしてしまうからな。ここは一気に蹴散らすぞ!」
「「「「「おーっ!」」」」」

 恭也の指揮の元、士気も高い高町軍は将と兵たちが一丸となって足止め部隊へと突撃する。
 突撃する軍の先頭に居並ぶは、いずれも一騎当千の猛者たち──関羽、張飛、馬超。
 さらに現在は手負いではあるが、遼西にこの人ありとまで言われた剣の使い手──公孫賛。
 そして彼女たちの中心には、日の光を受けて煌めく衣装を身に纏う、噂に名高き天の御遣い──高町恭也。
 彼らの前では、士気の低い兵士たちなど足止めにすらならない。
 愛紗の青龍刀が。
 鈴々の蛇矛が。
 馬超の槍が。
 公孫賛の剣が。
 そして、恭也の小太刀が。
 袁紹軍の兵士たちをあっという間に駆逐していく。
 その強さはまさに桁違い。
 その圧倒的すぎる彼らの武は、元から士気が低かった袁紹軍の兵士たちの米粒ほどの戦意を喪失させるには充分すぎたのだ。

「こっ、こんなの相手にしたら命がいくつあっても足りねーよっ!」
「ここで死んでたまるかよ!」
「にっ……逃げろーーーっ!」

 袁紹軍足止め部隊の前線の兵士たちは、恭也たちの強さに恐れおののきなりふり構わずに逃げ始める。それが引き金となり、まだ接触していなかった後方の兵士たちも前線の兵士たちの必死な逃げっぷりにつられるかのように逃げ出してしまった。そのあまりに迷いのない兵士たちの逃走劇に、高町軍の面々は呆気にとられてしまう。これがかつて自分たちを追い詰めた袁紹軍なのか、と。

「……顔良さんたちが率いていた兵士たちはしっかりと統率が取れていたのに、彼女らがいなくなった途端にこの有様か。あの二人あってこその袁紹軍だったんだな」

 一目散に逃げていく敵兵の背中を見つつ、恭也は確信を得た。
 もう、袁紹軍は自分たちにとって脅威ではないのだと。

 そして、高町軍は再び袁紹の本軍を目指して追撃を再開する。















 袁紹軍の足止め案は、結局いたずらに兵数を減らすだけという結果に終わる。
 あっさりと足止め部隊を撃退した高町軍の士気は更に高まるというおまけ付きだ。
 つまり、袁紹の策は全て裏目に出てしまったのである。
 そんな事実も、袁紹からすれば足止め部隊が無能だったから、という理由になってしまうのだ。
 だから、

「こうなったら、わたくし自ら高町軍を足止めしてみせますわっ!」

 こんな事を言い出すのである。
 本軍が高町軍に立ちはだかるのは、もはや足止めではない。そんな簡単な事すらも見えなくなっているくらい、袁紹の苛立ちは頂点に達していた。
 そんな本末転倒な命令を聞けば、高町軍の脅威が己にも降りかかる恐れがあることを察知した(一応)軍師の郭図は、慌てて袁紹を止める。

「お待ち下さい袁紹さまっ! それだけわっ!」
「おだまりなさい! わたくしの考えに異論があるのなら、代案を出しなさいと──」
「──代案なら、あります」
「……ふぅん」

 それまでは袁紹のイエスマンでしかなかった郭図の反論に、不満半分興味半分といった表情で睥睨しながら、袁紹は郭図に意見を促した。
 郭図は語る。

「現在、我らの軍は三万弱。これ以上戦力を減らすわけにはいきません。ですから──」
























「……楽成城?」

 袁紹軍追撃途中ではあったが、ずっと走り詰めの兵たちの体力も考慮し、小休止を取ることにした俺たち。
 即席の本陣を設置して休憩を取っていた俺たちの元にたった今、先行させていた斥候からの報告が舞い込んだ。
 その報告とは、逃げていた袁紹軍は現在、楽成城に入城していると。
 それを聞いた俺は首を傾げながら、隣に座る朱里へと問いかけた。

「どういうことだ朱里? 楽成城と言えば確か……」
「はい。どの勢力にも属さない“中立”の立場を表明している領土です。兵力こそ持ち合わせていますが、それほど多くもなく、あくまで自衛のための軍とのことで……」

 楽成城の存在は俺ももちろん知っている。冀州北部に位置する都市でありながら、袁紹軍の指揮下に入らず中立の立場を貫いている領土だと、朱里から教わったことがある。

「そこが袁紹軍を保護した、と?」
「それはあり得ません。楽成城の城主はこれまで中立を貫くために尽力していましたから。ここで袁紹軍に肩入れするようなことをすれば、それこそ今までの努力が無駄になってしまいますから」
「じゃあ、どうやって袁紹達は楽成城に?」
「それが……」

 楽成城の城主が袁紹軍を受け入れないのなら、こんな短時間に入城出来るはずがない。
 ならば何が起こっているのか?
 その疑問に、斥候から詳しい話を聞きだした朱里が答えてくれた。
 そして、その答えは──

「……なんだと?」
「ひ……っ」

 ──俺の心に怒りの炎をともすものだった。






















 袁紹軍が楽成城に入城する前まで時間は遡る。
 件の楽成城城下。
 大陸中が群雄割拠による戦乱で騒がしい昨今、この楽成城下は比較的平和と言えた。
 居並ぶ商店からは商人達の威勢のいい声が響き、買い物客たちの表情も明るい。そんな活気からも、この楽成城下を治める為政者の力量が見て取れた。
 そんな城下町で、仲睦まじく手を繋いで歩く二人の少女の姿を見ることが出来る。
 一見すれば仲の良い姉妹に見えなくもない二人だが、そういうわけでもなかった。

「璃々ちゃん? 今日はどこ行くですか?」
「う〜ん……ねねちゃんはどこか行きたいところは?」
「わたしですか? わたしは今日は張々にお土産でお肉を買うくらいしか決めてないんですよ。だから、それは最後でいいですから、今日は璃々ちゃんの行きたいトコに行くですよ」

 どちらも小柄ではあるが、年長らしき少女──ねねちゃんと呼ばれている──の方は、比較的動きやすそうな服装の上に、まるで大人が着るような外套のような上着を羽織っている。顔立ちこそは幼いながら、その瞳からは気の強さと知性を感じさせる光があった。
 そして年少の少女──璃々ちゃんと呼ばれている──の方は、いかにも女の子らしい子供服に身を包んでいる。年の頃はまだ片手の指で足りるほどで、くりっとした瞳が愛らしく、服装や何気ない仕草から育ちの良さを感じさせた。

「ん〜、じゃ、お菓子屋さんがいい!」
「お菓子屋さんですか? よし、わかったです! じゃあ、早速行くですよっ」
「うんっ」

 二人は行き先を決めて、再び歩き出す。
 二人は実に仲良しだった。



 年長の少女の名は陳宮。字は公台で、真名は音々音という。
 彼女はある人物を捜す旅をしていたのだが、その途中で旅費を落とすなどのトラブルに見舞われ、楽成城の近くで行き倒れとなってしまったのだ。そんな彼女を保護し、介抱したのが楽成城の城主である。城主は大層出来た人物で、介抱した陳宮の事情を聞くと、親身になって落とした旅費まで工面してくれるとまで言いだしたのだ。それには陳宮も二つ返事で頷くことも出来ず、せめて何か等価交換ではないが何か城主の役に立ちたいと申し出る。そんな陳宮の申し出に対する答えが、

「じゃあ、あなたがここにいる間でいいから、娘の友達になってくれないかしら?」

 ということだった。
 それから一ヶ月間、陳宮は城主の求めに応じ、城主の娘である璃々と“友達”として過ごしているのである。





 陳宮は人付き合いがいい方ではなかった。
 いや、むしろ“人嫌い”と言ってもいい。
 そんな彼女が、初対面の少女と友達になるには相当の苦労もあった。だが、幸いにも城主の娘──璃々は素直で優しい少女だったこともあり、陳宮が璃々とうち解けるにはさほど時間はかからなかったのである。
 しかし、だからこそ陳宮は今、うち解けたがゆえの悩みに直面していた。

(……正直、そろそろ旅に出たいんですけど……)

 陳宮は心の中でそんなことを考えつつ、隣を歩く幼女へと視線を送る。すると、璃々は陳宮の視線を感じたのか、陳宮の方に振り向き、満面の笑みを返してくれた。
 その璃々の天真爛漫な笑みが陳宮を縛り付ける。

(どの機会で旅に出ることを切り出せばいいんでしょうか……)

 璃々は殊の外陳宮に懐いていた。
 璃々は元々人見知りをしない性格で、人なつっこい。だからこそ陳宮とうち解けるのも存外早かったのだが、その依存度の高さに陳宮は戸惑いを隠せない。
 友達となってから、璃々は陳宮にべったりだったのだ。
 だが、璃々の生活環境を知れば、それも納得出来る。
 城主の娘である璃々は、当然その生活圏は城の中。そして城の中には璃々と同じ年頃の少女は皆無だ。ゆえに、璃々は友達を作ることもままならなかったのである。だからこそ、城主は比較的璃々と年の近い陳宮に「友達になって欲しい」と言ってきたのだろう。

(……もし、ここで旅に出るなんて言ったら、璃々ちゃん悲しむですよね?)

 手を繋いで隣を歩く璃々の楽しそうな表情を横目で見ながら、陳宮はこっそりと溜息をついた。
 ──そして、そんな璃々に情が移ってしまったのは陳宮も一緒だったりする。
 人嫌いである彼女もまた友人はほとんど無かったこともあって、璃々と過ごしたこの一ヶ月間は新鮮であり楽しかったのだ。
 しかし……

(……だからといって、ここにいつまでもいるわけにもいかないですし……)

 彼女には旅を続ける理由がある。
 彼女が唯一慕い、尊敬する人物を捜すという理由が。
 それだけは、何があろうと譲れないのだ。
 だからこそ、ここは心を鬼にして別れを告げなければいけないのだが……そのキッカケが掴めないままずるずると一ヶ月が過ぎていたのである。
 ここ数日は「今度こそは……」と意気込んでいるのだが、いざ璃々と相対するとその意気込みがしおれてしまうのだった。

(うう……今日こそは……)

 そして、今日もどうにかキッカケを掴もうと機会を窺いながら、どこか上の空で璃々と歩く陳宮。
 悩みに気を取られていた陳宮だったが、不意に繋いでいた手を引っ張られ、意識を現実へと戻した。

「わ、わわっ!?」
「こっちこっちー。こっちが近道なんだよ〜」

 璃々が陳宮を路地裏へと導く。先ほど璃々の生活圏は城内だとは語ったが、見た目以上に活発な璃々は、ちょくちょく城を抜け出していたこともあり、思った以上に町中の地理には明るいらしい。少なくとも、ここに来て一ヶ月しか経っていない陳宮よりかは。
 陳宮は苦笑しつつ、璃々に引っ張られるままに璃々の後へと続く。
 ──だが、その道から目的地に辿り着くことは出来なかった。

「へっへっへっへっ、こりゃあ、都合がいいや」

 路地裏を抜ける前に、見知らぬ男が二人の前に立ちはだかったからである。
 その男の服装──この楽成城の衛兵とは異なる兵装と、腰に帯びている物騒なモノ──剣を見て、陳宮は即座に動いた。咄嗟に璃々を自分の方へと引き寄せ、即座に自らの背後にかくまう。

「……どいてくれませんか? わたしたちはここを通りたいだけなんですが」

 狭い路地裏の道をふさぐように立っている男に、固い声で話しかける。だが、男は終始人を小馬鹿にするような下品な笑みを浮かべたままで、その場を動こうとはしなかった。
 その下卑た笑みに腹を据えかねたのか、陳宮は声を荒げる。

「そこをどきなさい! 言葉が分からないほど頭が悪いのですか!?」
「分からないねぇ。そもそも俺たちはそっちのお嬢ちゃんに用があってね」

 にやけていた男の視線が陳宮の背中に隠れる璃々に向けられた。その視線に悪意を感じたのか、璃々は怯えながら陳宮の背中にしがみつく。
 璃々の不安を打ち消すかのように、さらに陳宮は勇気を振り絞って声を大きくした。

「このコはこの楽成城の城主の一人娘ですよ! このコに手を出せば、タダじゃ……っ」

 タダじゃ済まない──そう言おうとした陳宮の言葉は最後まで言い切ることが出来ない。何故なら、それよりも先に、

「そんなこと、百も承知だっての。こっちはその“城主の娘”に用事があるんだよ!」
「え、やっ……やぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 いつの間にか二人の背後に忍び寄っていた、もう一人の男に璃々が捕まったからだ。後ろに現れた男もまた、陳宮の前に立ちはだかる男と同じ見知らぬ兵装である。そのことから、この二人が仲間だと言うことは容易に伺い知れた。
 そして、陳宮はここで断定する──この二人は間違いなく自分にとっての敵であると。

「ちっ! 暴れるんじゃねーよっ!」
「やぁぁぁっ! はなしてぇぇっ!」

 見知らぬ男に抱きすくめられた璃々は泣き叫びながらジタバタと手足をばたつかせるが、相手は戦いを生業としている兵士である。幼女の抵抗などあってないようなモノだ。
 そして──

「璃々ちゃんを放すですよっ! くらえっ! ちんきゅーきーーーーっく!」

 璃々が泣き叫ぶのを見た瞬間、陳宮は反射的に動いていた。璃々を抱きかかえる男に向かって跳び蹴りを敢行する。
 しかし……

「はん!」

 ──小柄な陳宮の攻撃も、男からすれば攻撃に値しない。
 璃々の抵抗も、陳宮の蹴りも、男からすれば脅威にはならないのだった。
 男は片腕に璃々を抱き止めつつ、もう片方の手であっさりと陳宮の蹴りを受け止める。そしてそれを振り払うかのようにして陳宮を地面に叩き落とした。

「きゃうっ!」
「ねねちゃんっ!?」

 地面に叩きつけられピクリとも動かなくなった陳宮を見て、さらに泣き叫ぶ璃々。そんな璃々の泣き声に辟易とした様子の男は、たまらないとばかりに懐から布きれを取り出すと、それを猿ぐつわとして璃々に噛ませて口を塞いだ。

「やれやれ……ようやく静かになったぜ」
「よし、これで任務は達成だ。郭図様に伝令を送るぞ。あとは、人質を閉じこめる場所を用意しないとな」
「おうよ、さっさとしようぜ。騒ぎを聞きつけて衛兵がやってきたら厄介だ」
「ああ。このガキも気を失ったみたいだしな。へん、チビのクセに一丁前に大人の邪魔をするなっつーの」
「おい、そんなの放っておけ。行くぞ」
「へいへい」

 二人はなおも暴れる璃々を抱えながら、足早に路地裏を後にする。
 そして、路地裏は静寂に包まれた。
 地面に倒れ伏した陳宮を残して。

「う……うう……っ」

 男たちが路地裏から完全に立ち去ったのを確認してから、陳宮は抑えていた声を上げる。
 彼女は気を失ったフリをしていたのだ。

「……任務……それに郭図、ですか。郭図って名前は聞いたことはあるです。確か……袁紹軍にそんな人間がいたような……」

 陳宮が気を失ったフリをしていたのは、相手を安心させて情報を得るためだったのである。そして彼女は思惑通り、情報を得たのだった。
 陳宮はただの小柄な少女ではない。彼女は実に聡明な……それこそ一廉の“軍師”になれるほどの才媛なのだ。

「どっちにしても……早く紫苑(しおん)に伝えないと……っ」

 陳宮は地面に叩きつけられたダメージでよろけながらも、なんとか立ち上がる。そして痛みで言うことを聞かない体を引きずるかのようにして路地裏から抜け出し、城へと向かった。

「うう……ぐす……っ」

 よろけながら城を目指す陳宮の土埃にまみれた顔を涙が伝う。
 それは、痛みから来る涙ではなかった。

「悔しい……っ。わたしがもっと強ければ、璃々ちゃんだって守れたですのに……っ」

 陳宮は自分の才覚を理解している。
 戦いがあったとしても、前線で剣や槍を振るうのは自分には向いていないことはわかっているし、むしろ己の才能は後方で軍を勝利へと導く参謀役に適していることも。
 だが、それでも彼女は強さに執着する。





「……強さが……欲しい……」

 それは、彼女が“最高の強さ”を知っているからこそ。

「呂布様みたいに……強くなりたい……っ」






あとがき

 ……ついにやっちゃったなぁ(汗
 未熟SS書きの仁野純弥です。
 痛々しいくらいに弱体化していく袁紹軍と、士気が高まる高町軍……まあ、総大将の差がありありと出ちゃってますね。ここまで酷い大将っぷりを書いてると、かえって清々しさすら感じています。
 そして……ついに出してしまいました。恋姫無双おまけディスク謝謝無双でお目見えした新武将の一人、陳宮さんを自分なりのアレンジをつけて。口調だったり性格だったりはちょっといじってしまいましたが。この陳宮を皮切りに、しばらくしたらまた新武将を出そうとは思ってるので、それを楽しみにしてもらえたら幸いです。
 では最後に、ここまでこのお話を読んでくださってる読者の皆様と、SS公開の場をくださった氷瀬さんに最大級の感謝を。
 では〜。



新キャラの登場〜。彼女は果たして仲間になってくれるのかな。
美姫 「そしていよいよ紫苑も登場ね」
袁紹軍は相当追い込まれているな。最早、暴挙を止めるものもいなければ袁紹の暴走も止めれない。
美姫 「この後、どうなっていくのかしらね」
いや、本当に楽しみですな〜。
美姫 「そうよね。次回も楽しみにしてますね」
待っています!



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