「ねえ、詠ちゃん?」
「ん? どうしたの月?」
主のいない部屋から、出ていくことが何故か出来ずにいた二人は、応接用の椅子に座っていた。
「話しておかなくて良かったの? あのこと」
「あのこと……ああ“助っ人”のことね」
「うん……御主人様、きっと驚くと思うよ?」
「そりゃ驚くでしょうよ。だってこっちは驚かすつもりで用意したんだから」
「……詠ちゃん……」
「冗談よ冗談。でも、あのコが同行すれば、高町の生存率が上がるのは間違いないでしょ?」
「……うん。そうだよね」
「しかし、この話をあのコに持ちかけた時……まさかあんなにあっさりと聞いてくれるとは思わなかったわ」
「……御主人様のことが好きなんだよ」
「まったく……あんなヤツのどこがいいのか……」
「……詠ちゃんは素直になった方がいいと思う」
「ボクは素直よ! ボクはあんなヤツ、大嫌いなんだから!」
「もう……」
『恋姫†無双異聞 〜高町恭也伝〜』
第三十三章
県庁の敷地内……そのはずれにある厩舎。
誰にも見つかることなく、その厩舎へと辿り着いた俺を待ち受けていたのは、
「……遅い」
赤毛の髪と健康的な日焼けした肌の、無表情の少女。
「恋……か? どうしてここに?」
周囲の気配に気をつけながら厩舎の傍までやってきた俺は、厩舎に人の気配があることに気づく。馬の世話係がいるのかと思い、その気配が立ち去るまで気配を殺して隠れていようと思ったのだ。今回は遼西までの長い道のりを馬なしではきつい。ここで馬を持ち出さないといけなかったのだ。
しかし、そこで気配を殺していたはずの俺に、その気配の主は声を掛けてきたのである。
その気配の主こそ、
「……御主人様と一緒に行くから」
呂布──恋だった。
「は……?」
そして、彼女があっさりと言いのけた発言に、俺は自分の耳を疑う。
「恋……? お前、俺がどこに行くかは……わかってるのか?」
「……(コクッ)」
恋は俺の問いかけに頷き、
「……月と詠から聞いてる」
これもまたあの二人の仕業であることを教えてくれた。
……やってくれたな二人とも……いや、この意地の悪さは詠だろうな。
俺をこれ以上驚かせてどうするんだ、全く……。
心の中で大きな溜息を吐きつつ、俺はあらためて恋と向かい合った。
恋は確かに行き先がどう行った場所なのかは理解しているようである。
なにしろ……すでに得物である方天画戟を手にしているのだ。
それが、彼女にとっての戦闘態勢。
だが、それでも俺は確認しなければならない。
「恋?」
「……?」
「これから戦いに行くことは知っているな?」
「……(コクッ)」
「そしてこれは……戦ったところで、お前の友達を守ることにはならない。そんな戦いだ」
「…………」
「話を聞いて、ここへ来てくれたのは嬉しいが……もう一度考えてくれ。戦いというのは、そこに己が納得する理由あって初めて臨むモノ。理由がなければ……戦ってはいけない」
恋は優しい少女だ。
優しいから、今回も月たちの願いに応えてくれたのだろう。
だが、忘れてはいけない……俺がやろうとしているのは、シンプルに言えば殺し合いの場に出るということ。
だからこそ俺は恋に知って欲しかった。
戦うと言うことの意味を。
自らが戦う事の意義を。
今よりもっと大人になった恋が、自ら戦ってきたことを──後悔しないように。
恋は……優しい少女だから。
「…………」
恋は黙って俺の顔を見ている。
俺の言葉の意味は伝わっているのか、それは彼女の無表情からは読みとれなかった。
首を傾げるでもなければ、考えてる素振りもない恋に、俺は不安を感じる。
しかし、それは杞憂に終わった。
「……御主人様はセキトたちと、友達?」
その問いかけにどんな意味があるかはわからないが、俺は問い返すことなどせずに、黙って頷いた。
「……御主人様と愛紗は友達。恋も愛紗とは友達」
「そう、だな」
「……御主人様はこれから友達を助けに行く」
「ああ」
「……だったら、恋も助けに行く」
「どう、して……?」
「……御主人様の友達は、恋も友達だから」
恋には戦う理由がある。
友達を守るため。
友達を助けるため。
それはきっと単純な理由。
だけど、それは何よりも尊い理由であり、恋にとっては戦うに値するモノなのだ。
恋はかつてはセキトたちが友達で、セキトたちのために戦っていたのである。恋が真っ先に友達としてあげるのはセキトたち。人間の友達の名は上がらなかった。月や詠を真名で呼んでいたことから、ある程度親しい関係だったのかもしれないが、それでも恋は友達として彼女らの名を出さない。
それは何も月たちに限った話ではなく……恋は“人間”を友達として見られなかったのではないか……そんな気がした。
それはきっと……俺の知らない、恋の過去が起因しているのだろう。
それはとても悲しいことだった。
だが、今は違う。
今の恋はしっかりと人間の友達の名を上げることが出来た。
さっき愛紗を友達だと言ったのもそうだし、きっと今では鈴々も朱里も月も詠も。
まあ……俺というフィルター越しでないと友達として見ないのは問題ではあるが。
だが、俺はそんな真っ直ぐな信頼がくすぐったくも心地よかったし、今はまだこれでもいいと思った。今はどんな形であれ“人間”を友達と思えるだけで……。
それに、恋はきっとこれからも心の成長を続けていくだろう。その中でいつか……いつかきっと、自分の力で友達を作れるようになってくれれば。
俺はまた一つ成長した恋の姿が嬉しくて、そっと彼女を抱き寄せた。
そして恋の、お日様の匂いがする赤毛をそっと撫でる。
「ありがとな、恋」
「……(コクッ)」
「俺に……力を貸してくれるか? 友達を助けたいんだ」
「……頑張る」
こうして、俺は心強い仲間と共に、遼西へと向かう──友達を助けるために。
恭也が恋と共に遼西へと向かった翌日。
普段は高町軍首脳陣──恭也、愛紗、鈴々、朱里──が重要案件について話し合う謁見の間に、恭也を除く三人が集まっていた。
そして、
「……どうして……どうして止めなかったのだ! 朱里っ!」
「──っ!」
「むぅ……ずるいのだ。お兄ちゃんが行くなら、鈴々も行きたかったのだ」
「そういう問題ではないっ! 今は……本来止める役割である軍師が、どうして御主人様の暴走を止めず、それどころか荷担までしていたと言うことが問題なのだ!」
「はぅ……」
恭也が姿を消したことに激怒した愛紗が、その責任問題を追及している。
それはもちろん、昨日は公孫賛を助けることを断念させた朱里が、その決定を蔑ろにして単独行動を起こした恭也を止めず、あまつさえそれを幇助したことへの追及だ。
ちなみに、この事件を受けて鈴々も不満そうな表情を見せていたが、それは朱里にと言うより恭也本人に対しての不満で、出来ることなら自分を連れて行って欲しかった、と思っているからである。
「……公孫賛は確かに我らの危機を救ってくれた恩人だ」
一通り怒鳴ったことで、ある程度の落ち着きを取り戻したのか。
愛紗は声を抑えていた。しかしその表情には怒りがありありと浮かんでいる。
「先の連合の際にも我らに手を貸してくれた……立派な太守だ。そんな御仁の危機とあれば、本音を言えば私とて助けに行きたいと思っていた」
「愛紗さん……」
「だが、それでもだ。我らは啄県、ひいては現在治めている幽州西部の民を守ることを第一に考えなければならない立場にある。それに、我らの力では袁紹軍を追い返すことも出来ない。その判断を下したのは御主人様であり、朱里……お前だったな?」
「……はい」
愛紗の抑揚のない、だからこそ責めの意識がより強く感じられる言葉に、朱里はうつむいて頷くことしか出来ない。
今の愛紗は、個人としての怒りを抑え、高町軍の将軍としての立場で話していた。
首脳陣を交えた会議で決めたことを破ったのは重罪である。その一件について、高町軍のナンバー2である関羽将軍という立場で、軍師諸葛亮を断罪しようとしていた。
そう……これは重罪なのだ。
そして、それは朱里自身も理解し、納得している。
どんな罰も受ける──それほどの覚悟が必要だったのだ。
今回の一件は。
「それがわかっていて、やったのであるのなら……大人しく罰を受けると。そう捉えて相違ないな?」
「はい」
「わかった……本来ならば、こういった時の罰を決めるのは御主人様の役目なのだが、今回は不在であり御主人様もまた罰を受ける対象ゆえ、代理として私が罰を決める」
「…………」
自分にも周囲にも厳しい愛紗である。
その彼女が下す罰……それは想像するだけで身震いをしてしまうほど。
だが、朱里はそれを甘んじて受けると決めていた。
あの時、月の言葉に賛同した時点で。
「では、我が主高町恭也さまの代理として、諸葛亮の罰を言い渡す──」
愛紗もそんな朱里の覚悟を見て取れたのだろう。朱里の潔さに幾分か怒りが収まりつつも、厳粛な声で罰を告げようとしたその時、
「待ってください!」
重要な会議が行われている時は、入室してはいけないという規約を破り、二人の少女が謁見の間に姿を現した。
その二人の姿を見て、収まりかけていた愛紗の怒りが再燃した。
「……月、詠……お前達、会議中の謁見の間は立ち入り禁止だと教えていたはずだぞ!」
愛紗の怒鳴り声が謁見の間に響き渡る。
一騎当千の将である愛紗の一喝は尋常ではない迫力があり、その声には月の後ろに控えていた詠ですら一瞬怯んだ表情を見せるほどだった。
だがそれでも、月は気丈にもしっかりと顔を上げ、この場を去ろうとはしない。それどころか、目に見えて怒っている愛紗に向かって歩を進めたのだ。
詠も、少し遅れて月に続く。
(ああ……そうか)
詠は先を歩く月の背中を追いながら、ある錯覚を覚えた。
今の月は可愛らしいメイド服姿の侍女なのに……今の威風堂々と愛紗の元へと歩み寄ろうとする後ろ姿が、かつての太守時代の彼女とだぶって見えたのである。
そしてその姿を見て詠はあらためて月の本質を見た気がして、それに納得したのだ。
(月はメイドである今の自分に満足してるみたいだけど……やっぱりこのコは人の上に立つ資質があるんだわ)
そして、
「規律を破ったことに関しては後に謝罪し、然るべき罰を受けます。それでも関羽将軍にお伝えしたいことがあったのです。無礼をお許し下さい」
「…………」
月の毅然とした表情と口調から、いつもの彼女ではないことを察した愛紗は黙して彼女の耳に傾ける。
「このたびの御主人様の単独行動に関して、軍師様が幇助したとの事ですが」
まずそれぞれの呼び方からして違っていた。
すでに月は皆に認められていて、愛紗のことも朱里のことも真名で呼べる許可をもらっているのだ。それでも月はこの会議の場では礼儀をわきまえ、『関羽将軍』『軍師様』と二人を呼んでいるのである。
「……それが間違いだとでも?」
「はい」
「その根拠は?」
「今回の御主人様の行為を幇助した主犯は私です。軍師様と詠は私に利用されたに過ぎません」
月はきっぱりと言い放った。
今回のことは自分が全て悪いのだと。
「ですから、軍師様に罪はありません」
「……月ちゃん……」
普段とはまるで違う、威厳すら漂わせる立ち居振る舞い。
そこにあるのは、かつて一国を治めていた太守の気概。
その姿に、覚悟を決めていた朱里は圧倒されていた。
そこに内気で可愛いメイドはいない。
愛紗の目の前で、自らの罪を主張するのは──董卓仲穎という名の、かつて国を束ねていた一人の指導者だった。
この姿を見せることこそが、月にとっての今回の出来事への覚悟。
「昨日、軍師様と詠は御主人様が単独行動を行うことを予見しておりました。そして二人は御主人様のことを止めようとも。ですがそこで私が二人を言いくるめたのです。御主人様の行為を幇助するように仕向けたのです」
そして、目の前で全ての罪を被ろうとしている月の発言に、詠は口を挟むことが出来なかった。
それはこの謁見の間へと入る前に、月から懇願されたから。
──何があっても、詠ちゃんは何も言わないで。お願いだから。
月のお願いを拒める詠ではなかった。
なにしろ……それは必死の懇願だったから。
だから詠は黙って彼女の言葉に従った。
詠は月の親友で……董卓に忠義を尽くす軍師──賈駆だから。
「……今の話が本当なら、確かにこたびの罪は月……お前にあるのだろうな」
「はい……」
この場にいるほとんどの人間が、その月の姿に息を飲む中。
愛紗だけはいつもの毅然とした態度を崩さずに、月と向き合っていた。
「ならば……今回の罪はお前に問うことにする──が」
「……?」
「一つ聞いておきたいことがある」
「……なんでしょうか?」
「今回の……動機は? 月、お前とて太守だった人間だ。今回の御主人様のなさったことがいかに軽率なモノかは充分すぎるほどわかっていただろうに」
愛紗の言葉には、すでに怒気はない。
その問いには、愛紗の純粋な興味からのものだった。
どうして月は恭也を送り出したのか。
その問いに、月はその瞬間だけ……メイドである月の顔に戻して答えた。
「もし、御主人様をお止めしたら……きっと御主人様は一生後悔し続けるって、思ったから。太守としては間違っていると思います。だけど……あのお方に、後悔だけはして欲しくなかったんです」
「──っ」
それはもう、立場も何もない。
月はひたすら、恭也の心のために幇助したのだと。
ただそれだけ。
それ以上もそれ以下もない……それが全てだった。
それを聞いた愛紗に、
「ふふ……まったく、どうして私の周りにはこうも勝手な人間が多いのか」
一瞬だけ笑みが浮かぶ。
それは苦笑のような微笑みのような……複雑な笑み。
だが、その一瞬に彼女の優しさが垣間見えた気がした。
「……こほん。では、あらためて……月、お前に罰を科す」
「はい」
二人はすぐに表情を引き締める。
愛紗は将軍としての顔。
月は先ほどまでの真剣な顔。
そして──
「今回の刑は……地下の独房への禁固刑及び刑期が終わるまでは食事抜きだ」
愛紗は刑を言い渡す。
「……刑期は?」
「御主人様が帰還するまでだ」
「…………」
……月も詠も朱里も驚いていた。
何故驚くか? それは……あまりにも“軽い刑罰”だと思ったから。
恭也が一昼夜馬を飛ばせば、おそらくは今日の夜には遼西にある公孫賛の居城には到着する。そこで公孫賛を救出して、戻ってくるのは……遅くても明後日くらいだろう。
ということは、月は実質二日間の食事抜きで刑期が終わることになるのだ。
首脳会議で決定した事項を破った主の幇助で、これだけの罰ではあまりに軽すぎないか、と三人は思ったのである。
しかし、
「……軽いなどと思うなよ? もし御主人様の身に何か起こり戻ることが困難な場合、月……お前は独房からずっと出られないのだからな」
愛紗は、そんなに甘くはないと月を脅す。
しかしそれは脅しにはならなかった。
何故なら──誰もが分かっていたから。
恭也が戻ってこないことはあり得ないと。
あの男ならば、必ず帰ってくると……それを誰より信じているのは愛紗なのだから。
その、あまりの説得力の無さに、
「愛紗ぁ、嘘はもっと上手くついた方がいいのだ」
「ふふふっ……ホントですよ愛紗さん。それじゃ脅しにはならないです」
「……関雲長は一騎当千、知勇に優れた将って聞いてたけど……“勇”はともかく“知”は微妙ね」
「そ、そんな言い方失礼だよ詠ちゃんっ」
思わず四人ともそれまでの張りつめていた空気をすっかり忘れ、いつもの明るいノリが戻ってしまっていた。
そしてその原因を作った愛紗は羞恥で顔を真っ赤にして、
「だっ、黙れ! 言っておくけどな、御主人様が戻った後にもあらためて罰を与えるぞ! 今回の主犯は月ではなく、御主人様なのだからな!」
さっきの発言を台無しにするようなことを言い放ったのだった。
その後、月は刑に服すため、兵士に連行されて地下の独房へと向かった。
それを見送っていた愛紗は、最後まで口を挟まなかった詠に声を掛ける。
「……月のことをかばわないのだな?」
「これも月が望んだことだもの……」
「まったく……羨ましくなるほどの忠臣っぷりだな」
「そっちの大将と違って、私の月は立派ですからね。尽くしがいもあるのよね」
「確かに……あんな一面もあったのだな。さすがに面食らった」
「あのコ自身は、侍女として過ごしている方が楽しいみたいだけど……やっぱり人の上に立つ資質ってのは持ち合わせてるのよ」
「確かに立派だ……本来なら感謝したいくらいなんだがな」
「感謝? 月に?」
「ああ……我らでは、どうしても出来ない事を──御主人様の心を守ろうとしてくれたのだから」
それは間違いなく愛紗の本音だろう。
しかし詠は、「じゃあ、どうして罰なんか……」なんて言わなかった。
恭也がいないことはすでにこの場にいない人間でも、数人は気づいている。恐らく箝口令を敷いても広まることとなるはずだ。となれば、何らかの形でけじめはつけなくてはいけない。
恭也の単独行動は高町軍にとってマイナスな事であり、それを幇助した月に何らかの罰を与えなければならなかったのだ。
そのことを詠が理解出来ないはずがないのである。
「だったら、その感謝の気持ちを自分の言葉で伝えたら? まあ……さっきの刑罰を決めた時のやりとりで、ある程度愛紗の気持ちは察してるとは思うけどね。月もバカじゃないんだから」
「う……」
詠の皮肉った言葉に、愛紗は顔を赤くした。
あの時のやりとりはやはり愛紗にとっては自己嫌悪したくなるような失態だったようだ。
羞恥に顔を赤くする愛紗の顔を見て満足したのか、詠はニヤリと笑い、謁見の間を出ていく。
「……ま、ホントならボクも月と一緒に刑を受けたかったんだけど。それじゃ一人罪を被ったあのコの気持ちを無駄にするだけだし……こうなったら月の分も掃除を頑張らないと」
「く……憶えてろよ、詠」
「ええ、せいぜい憶えておこうじゃないの。愛紗の支離滅裂な言い分をね」
最後まで愛紗を口で言い負かしながら。
愛紗は、謁見の間を出ていく詠の後ろ姿を悔しそうに見送るのだった。
これが……恭也が恋と共に遼西へと向かった翌日の朝のこと。
そして太守恭也がいない一日が始まる。
愛紗はいつも通り、国防・治安の業務に従事し。
鈴々はやはりいつも通り、兵たちを鍛え。
朱里はいない恭也の分も含めて政務をこなし。
詠は仕事が出来ない月の分も含めて侍女としての仕事に奮闘する。
そんな中で愛紗はある変化を聞かされて、呆れてしまった。
その変化を教えてくれたのは、県庁内で料理を担当している侍女の女性から。
「あのちっこい軍師さまと侍女仲間の詠ちゃんがねぇ……食事を取りに来てないのよ。もしかして二人とも具合が悪いのかい?」
その話を聞いて、愛紗はすぐに二人の考えに思い至る。
「あいつら……なんてわかりやすいことを。今の軍師とかつて軍師だったモノらしくもない」
苦笑しようにも笑えなかった。
それは、朱里と詠なりの贖罪。
一人罪を被った月の意志を汲んで、あの場では何も言わなかった二人。
しかし、やはり月一人に罪をかぶせることをよしとしない二人は、せめてもの贖罪として食事抜きを自らに科したのである。
しかし、
「月は独房で何もしてないんだぞ? それに比べ二人は働いていて体力を減らしているのに……」
愛紗としては頭を抱えたくなる話だ。
ここでもし二人が倒れたりすれば、どうなると思っているのかと。
いつしか侍女たちの中心人物となっている詠が倒れれば、県庁で働く侍女たちに動揺が走り、仕事の効率が落ちるのが目に見えており。
朱里が倒れれば、間違いなく幽州の内政業務は滞ってしまう。
「まったく……そのあたり、しっかりと考えているんだろうな」
愛紗は額に手を当て、疲れたような溜息をついた。
そして、あらためて気づかされる。
「朱里はある意味納得だが、詠までとはな」
あえて自分たちに罰を科している二人。
その罪悪感は、もちろん月に対して申し訳ない気持ちもあるのだろう。
しかし根幹にあるモノは違うと愛紗は半ば直感で理解していた。
それは……二人にも月と同じ思いがあったから。
恭也に後悔がないように、という願いがあったから。
その想いが胸にあったのに、月一人が主犯として扱われることに抵抗があったのだ。
その健気さに胸を打たれると同時に……妙な腹立たしさを愛紗は覚え、
「やはり……元凶である御主人様には、帰ってきたらそれ相応の罰を受けてもらいませんと……」
昏い笑みを浮かべながら、恭也が帰ってきた時にどんな刑罰を与えるかを色々と模索していくのであった。
あとがき
……アレンジし過ぎかなぁ?(ぉ
未熟SS書きの仁野純弥です。
前回のヒキから、すぐにバトル……と思いきや、今回は啄県に残された月たちのお話となりました。原作のファンからすれば意外に思ったかもしれませんね……月のこと。
ゲームの中では、彼女が“人の上に立つ人間の資質”を見せたことは無かったような気もしますが、僕は彼女の中にはそんなモノがあってもいいのでは……と勝手な妄想を膨らませ、今回のような毅然とした月を出しちゃいました。こんなのは月じゃない、という方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。このSSでの月はこんな感じです。もちろん、可愛らしいメイドとしての月も、全く持って否定する気はないですし、作品の中ではそっちの彼女がもちろんメインですけどね。
では最後に、ここまでこのお話を読んでくださってる読者の皆様と、SS公開の場をくださった氷瀬さんに最大級の感謝を。
では〜。
恭也と恋が公孫賛の元へと向かっている間の啄県の様子。
美姫 「愛紗も複雑そうよね」
確かにな。戻ってきたと時、恭也がどんな目になるか。
美姫 「まあ、それよりも前にやっぱり二人が加わる事でどうなるのかというのも楽しみね」
ああ。無事に助ける事が出来るのか。
ああ、非常に次回が待ち遠しいです。
美姫 「次回を待っていますね」
待ってます!