「おや……? どうして公孫賛殿が?」

 自陣に戻ってきた俺の姿を最初に発見した愛紗は、俺の隣にいる公孫賛の姿を見て首を傾げた。
 そして程なくして朱里や鈴々も俺たちの元へとやってきたので、三人に軍議でのやりとりの一部始終を聞かせ、公孫賛がこの陣へとやってきた理由も分かってもらう。
 だが、

「我々が、虎牢関の先鋒、ですか……」
「袁紹のやつ〜っ! 無茶苦茶なのだ!」
「袁紹さんの事ですから……ある程度は覚悟していましたが、こんなことになるなんて」
「すまん……俺が力不足ゆえに、こんな事になってしまって」

 この軍の大将として、俺は三人に謝ることしかできなかった。

「そんな……悪いのは袁紹であって、御主人様のせいではありませんから」
「そうなのだ! 悪いのはアホの袁紹なのだ」
「そうです。それに、御主人様は頼もしいお味方を連れてきてくださったじゃありませんか」

 そう言って朱里は俺の隣にいる公孫賛に視線を向ける。朱里の言葉が照れくさかったのか、公孫賛は顔を赤くしつつも苦笑を返した。

「頼もしいと言われるほどじゃないけどな」

 公孫賛にも勿論感謝しているが、不甲斐ない俺を責めずに受け入れてくれる三人の心遣いもまた嬉しい限りだった。
 俺はあらためて思う。
 自分はこの世界でも多くの人たちに支えられているのだと。

「あ……」

 そこで俺は一つ、忘れていた事を朱里たちに告げる。

「言い忘れてた……朱里。公孫賛の他にもう一人、俺たちに協力してくれるひとがいたんだ」
「え?」
「袁紹軍の顔良将軍が、俺たちの軍に兵を組み込んでくれると約束してくれたんだ」
「「「──っ」」」

 その、俺たちにとって嬉しい報告だったはずのそれは、

「ほぉ……」
「またなのだ……」
「顔良さん、ですか……」

 何故か三人の表情を曇らせるという形となった。
















『恋姫†無双異聞 〜高町恭也伝〜』
 第十九章


















「お待ち下さいっ! 高町さん!」

 公孫賛を連れて自陣へ戻る途中、袁紹軍の陣から追いかけてきたのは、

「……顔良さん?」

 袁紹軍の顔良将軍だった。
 全速力で追いかけてきたのだろう、俺たちの前までやってきた顔良さんは乱れた呼吸を整えてから、俺たちと向かい合う。

「その……私がこんな事言っても意味がないのはわかってるんです。それでも…………本当にすみませんでした!」

 そして彼女の口から出たのは、謝罪の言葉だった。
 これには俺も、そして隣にいる公孫賛も顔を見合わせる。だって、そうだろう。少なくとも俺たちは彼女に謝ってもらう理由がないのだ。

「あの……顔良さん? どうして君が?」
「……自分の主君の事ながら、アレは酷すぎると思いまして……」
「へぇ……もしかして軍議の様子を聞いてたのか」

 公孫賛の問いかけに、無言でこくりと頷く顔良さん。

「はい。姫──袁紹さまにもしものことが起きた場合、即座に駆けつけられるように、と大本営の天幕の裏で待機してましたので」

 ……実はそのことには気づいてはいた。
 俺が袁紹に本格的な殺意を抱き、本気で殺す手だてを頭の中で練っていた時も、天幕の裏に控えていた気配を撃退することも含めて計画を考えていたのである。もっとも、それが顔良さんだったとまでは思わなかったのだが。

「正直、あの殺気を感じた時は踏み込むべきかどうか迷ってしまいましたけど……」
「……申し訳ない」
「い、いいえっ! あんな事になったんですから、高町さんがお怒りになるのは当然です!」

 先ほどの己の短慮さを恥じ、うなだれる俺を必死にフォローしてくれる顔良さん。
 ……やはり優しいひとなんだな。
 そんなことをしみじみと感じていると、今度は公孫賛が彼女の行動に呆れたように苦笑を漏らした。

「で、わざわざ高町を気遣って、こうして謝罪に来たってワケか。顔良も相変わらず苦労してんね」
「……苦労してるってトコに関しては否定しませんけど。でも、今回はただ謝りに来たワケじゃないんです」
「「え……?」」

 彼女の意味深な言葉に、俺と公孫賛は驚きの声を上げる。
 それはどういう意味なのか?
 視線でそれを問うと、顔良さんはこくりと一つ頷いてから、俺に一つの提案を出したのだ。
 それが──
















「──顔良さん指揮下の兵士五千人を再編成して俺たちの軍に組み込んでくれるという申し出だったんだ。ただ、袁紹の許可は取っていないらしいから、彼女も危険を冒す事となるが」
「…………」
「…………」
「…………」

 顔良さんとの一部始終を聞かせた後、三人は揃って何故か沈黙していた。しかもその表情はどれも複雑そうで。
 俺はその意味の分からないリアクションに、どうしていいかわからず。
 公孫賛は公孫賛で、

「軍の人間としてはありがたいんだろうけど……複雑ってトコか」
「……どういう意味だ、公孫賛?」
「それくらいは自力で理解しな朴念仁」
「む……」

 俺が問いかけても、にべもない返しをするばかり。
 ……まったく、なんなんだか。
 その後、すぐに意識を策の立案に切り替えた朱里が、この条件下で最善の策を考える。
 相変わらず敵の規模はわからないが、それでもわかることはある。
 虎牢関を守るのは司令官の呂布と、その副官の張遼……どちらも大陸に名を轟かせる猛将だ。
 そして、対抗する俺たちは公孫賛の軍と顔良さんが組み込んでくれる兵士たちを併せれば二万強となる。この兵数ならばあるいはなんとかなるのでは、と希望すら持てるようになっていた。
 しかし、長い黙考の末に出てきた朱里の答えは意外なモノだった。

「ここは失礼を承知で言わせて頂きます。今回の先鋒、公孫賛将軍の兵は我々とは別行動をとって欲しいのです」
「え……?」
「ど、どうしてだ朱里? 公孫賛の軍が離れれば、俺たちの兵数は一万前後にまで落ち込む。そんなことになれば……」

 最初に出てきた朱里の言葉に戸惑いを隠せない公孫賛と俺。
 しかし、そんなリアクションも予測していたらしく、朱里は俺たちを落ち着かせた上で、その根拠を語り始めた。

「理由は二つです。まずは、私たちと公孫賛軍が合同で最前線に出た場合、おそらく敵軍は虎牢関の外には出てきてくれません。敵の大将は呂布さんですが、副官の張遼さんが止めるでしょうから」

 朱里曰く、呂布はともかく張遼は武人であると同時に状況判断に優れた知将でもあるので、とのこと。二万の兵を前にして、うかつにも虎牢関の外には出てこないだろうと言うのだ。

「そうなれば我々はきっと袁紹さんから攻城戦を強要されちゃいます。それだけは避けないと……」

 朱里の言う通りだ。事実、先の水関ではそれで曹操、孫権の二人の軍が痛手を被っている。

「そのためには、あくまでも相手が虎牢関から出て戦える程度の寡兵でないとダメなんです。つまり、相手の軍を引き出すための囮としては、我々の軍だけで前進した方がいいと思ったんです」
「なるほど……敵からすれば、一万程度であれば直接外に出て撃破して、士気を上げたいと思うもんな。それじゃ確かに私たちの軍がいたら、かえって囮にはならんわな」

 朱里の意見に納得した公孫賛がうんうんと頷いた。
 その公孫賛の様子を見た上で、朱里は更に続ける。

「これが理由の一つです。そしてもう一つの理由としては……公孫賛将軍には、ある役目を請け負って欲しいからです」
「ある……役目?」
「はい……それは、諸侯たち──特に曹操さんと孫権さんの説得です」

 二つ目の理由を聞いた俺と公孫賛は、目を丸くした。

「それはさっきも話したが……」
「袁紹がしてくれるんじゃないの?」

 そう、説得役は袁紹のはずだが?
 そんな俺たちの疑問に、朱里は首を横に振った。

「他の諸侯の皆さんなら、袁紹さんが先の御主人様の時みたいな脅しをかけてでも動かしてくれると思います。ですが、それが通用しないのが曹操さんと孫権さんです」
「……なるほど」
「確かに……」

 俺たちは納得せざるを得ない。
 元々連合内における袁紹の求心力なんて無きに等しいのだ。となれば袁紹がいくら命令したところで誰も彼女には従わない。となれば当然俺たちみたいに脅しをかけるという手段になるだろうが、それが袁紹軍と同規模の戦力を有する魏と呉が相手では、それも効きそうにないのだ。

「今回公孫賛将軍が提示した策は、やっぱり曹操さんと孫権さんの横撃があって初めて成り立つ策ですから。あの二人を動かす事は必定なんです。でも、袁紹さんではあの二人は動かせない……いえ、むしろ余計に仲違いして二人の態度を硬化させるだけだと思うんです。だから、その二人の説得を公孫賛将軍にお任せしたいのです」
「むぅ……」

 朱里の話を聞いて、唸る公孫賛。
 頼りにされているのは嬉しいが、頼まれてる事柄は厄介なだけにその内心は複雑だろうな。
 ……まあ、俺もこればかりは公孫賛が適任だと思う。軍議での彼女の姿を見れば、その人柄はわかるだろうし。そもそも曹操も孫権も、人の話を全く聞こうとしない愚か者ではない。何か利点があればしっかりとこちらに食いつくはずだ。

「説得の際には、横撃のあと主力の抜けた虎牢関を攻め落とすようにと言っておいてください。あのお二人がこの連合に参加した理由はやっぱり自らの名を天下により強く示す事でしょうから。難攻不落の虎牢関を制圧した、というのは両軍にとっても欲しい名誉でしょうし」
「なるほどね……それは確かに。それならあの二人も動くはずだ……凄いな諸葛亮は」
「え……あ、そ、そんな……えへへ♪」

 公孫賛の素直な賛辞に、照れ笑いを浮かべる朱里。
 ……こうしてると、普通の可愛い女の子なんだがなぁ。
 だが、朱里もすぐに軍師の顔に戻り、あらためて公孫賛に説明を続ける。

「ですけど、これはあくまで公孫賛将軍お一人のこと。実は公孫賛軍にも、まだやって欲しい事はあるんです」
「軍に?」
「はい。曹操さんと孫権さんへの説得が終わった後は、軍を率いて私たちの背後に軍を展開して欲しいんです。背後と言っても、前には出過ぎないように。あくまでも安全圏で、ですが」
「ん? どういうこと?」
「これが今回の策のキモなのですが」

 朱里は人差し指を一本だけ立たせ、含みのある笑みを見せた。

「今回は、水関の意趣返しをしようと思うのですよ」

 その言葉に公孫賛は首を傾げるが、

「なるほど……それは良い考えだ」

 それまで黙って聞いていた愛紗が昏い笑みを浮かべながら頷いている。どうやら彼女には朱里の策の全貌が見えているようだ。

「どーゆーことなのだ?」

 しかし、鈴々にはやっぱりわかっていない。そこで朱里が説明を始めた。

「状況としては似た状態だと思うんです。寡兵の私たちが前に出て敵主力をおびき寄せる……ここまでは水関とまったく同じです。ですけど、問題はこの後。水関では無理をして愛紗さんに敵将を討ってもらいましたけど、今回はそこまですることはありません」

 今度は我が軍に無理をさせませんと豪語して、朱里は続ける。

「私たちは虎牢関から出てきた敵軍を迎撃し、戦線を維持しながらも徐々に後退していきます。それはあたかも敵から見れば“徐々に押し込んでいる”と錯覚させるように。で、敵軍をある程度まで虎牢関から距離を取らせれば、それを好機と見て魏と呉の軍が横撃を仕掛けてくるはずです。あの両軍ならそのあたりのタイミングを読み違えたりはしないはずですから。両軍はおそらく横撃で一当てさせて敵を混乱させただけでそのまま虎牢関攻略に向かおうとするでしょう。あくまで主力の相手をするのは高町軍だと言わんばかりに。ですが……」

 瞬間、朱里が笑う──それは、普段は決して見せない、策士の笑みだった。

「私たちは曹操さん達が動くタイミングを先読みして、横撃の寸前に戦線を離脱。大急ぎで転進、後退をします。ただ、それだけでは敵軍も私たちを追撃しようとしますから、そこで後方に待機していた公孫賛軍の弓隊に敵軍の鼻面めがけて矢の雨を降らせてもらいます。それで足止めしてもらってるうちに距離を稼げば、私たちは安全圏まで逃げられます。そして私たちへの追撃が出来ないとわかれば、敵の兵は続いて横撃してくる魏と呉へと攻撃目標変更を余儀なくされます。そうなれば両軍とも一当てして虎牢関へ……とはいかずに、敵主力と激突。乱戦となるのです」

 ……なるほど。
 それで“水関の意趣返し”なのか。
 実に良く出来た策だ。

「私たちの軍の後退と公孫賛軍に矢を放ってもらうための合図は私の方で銅鑼を使って知らせますので」

 この策の重要なポイントは、やはりタイミング。
 だが、戦場の中で戦局をしっかりと把握出来るという朱里の才能があれば、これは期待が出来る。
 ゆえに、この策に反対意見はまったくなかった。

「ふふふ……奴らへの意趣返しも面白いし、しっかりと生き残って袁紹にも我らの力を見せつけられる……実にいい策だ」
「よくわかんないけど、鈴々が頑張ればいいのはわかったのだ!」
「そうだな……俺たちは戦線を維持することと、転進する時機を逃さないように気をつける事か」
「……私のトコは軍としての被害は一番少ないけど、やる事自体は重要だな。気を引き締めていくよ」

 俺たちはそれぞれの意気込みを口にする。
 朱里は万全の策を用意してくれた。後は俺たちがそれに応えるのみ。
 そこへ、

「伝令!」

 袁紹からの伝令兵がやってきた──と思ったのだが。

「顔良将軍からの兵の再編成が終わりました!」

 どうやらこの兵は顔良さんの配下らしい。

「あと、これは大本営からですが。速やかに出陣せよ、との事です!」

 なるほど。大本営からの伝令も頼まれていたのか。そういえば、この命令も来るのがやや遅かったような……もしかして、顔良さんが兵の再編成が終わるまで留めてくれていたのかも知れないな。


 ──私に出来る事なんて少ないかもしれませんけど、それでもなんとかして、高町軍を助けますからっ!


 あの時の言葉を顔良さんは守ってくれた。
 本来なら、彼女が背負う事ではなかったのに。
 そんな彼女の律儀な思いに応えるためにも、俺たちはこの戦いに必ず勝たねばなるまい。

「大本営には、了解、と伝えてくれ。あと……顔良将軍だけに伝えて欲しい事がある。心から感謝する、と」
「……はっ! ではご武運を!」

 伝令兵に言葉を託し、俺たちは戦場へと向かう。
 頼もしい仲間達と共に。
 手を貸してくれた友人達を信じ。
 この困難を撃ち破るために。
 俺たちは──俺は、死力を振り絞って戦うのみだ!




















 それから一時間後。
 俺たちは後曲に控える袁紹軍のプレッシャーを感じながら出陣し、軍を前へと進めていった。

「前門の虎、後門の狼、か……」
「卑怯な奴らなのだ……ほら見てー。袁紹の兵隊が鈴々たちに向かって弓を構えているのだ」
「情けない。武人の風上にもおけん奴らだ」

 もし敵前逃亡しようものなら射殺してやると言わんばかりの袁紹軍の姿勢に、鈴々も愛紗も腹を据えかねたようだ。
 しかし、そんな二人の心を落ち着かせるべく、朱里が声を掛ける。

「……今は我慢です。けど御主人様がもっともっと大きくなって強くなった時は、あんな人たちなんてケチョンケチョンにしてあげます」

 その言葉は、二人を落ち着かせると言うよりも、怒りに燃える自分の心を抑えるための言葉にも聞こえた。やはり朱里とてあの袁紹のやり口は許せないのだろう。

「良く言った、朱里! まさにそうだ。その時は遠慮などせず、蹴散らしてやろう!」

 そんな朱里の静かな怒りが痛快に感じたのだろう、愛紗はそれに同意した。
 そしてそれは鈴々も同じである。

「ボッコボコのギッタギタにしてやるのだ!」

 早くも三人の怒りの矛先は袁紹へと絞られていた……まあ、俺も奴には怒りを感じていたが。それでもこの三人に目をつけられた事を思うと……さすがに同情を禁じ得ない。
 この三人がやると言ったら、必ず実現させる。そんなパワーを持っているだけに。

「……まあ、その気持ちはわかるが。でも、その前にこの局面を打開する事に集中するようにな」

 俺はとりあえず釘を差しておいた。

「そうですね。我々としてはとにかく防戦し、戦線を維持しながら徐々に後退、というのが基本方針ですが」
「あまりに不自然に後退したら敵に気づかれるかもなのだ」
「そのあたりは、こっちの戦い方一つだな……もっとも、気を遣わなくても圧される可能性は高いんだが」

 俺たちの相手は呂布に張遼。
 水関の華雄とはワケが違う。
 おそらく戦線を維持しようとする俺たちへかかる圧力も、段違いに強くなるのは間違いないはずだ。

「そのあたりは最前線を担当する我々が踏ん張るしかありませんね。あとは……魏呉両軍の動きですが……」

 そのあたりについては、すでに公孫賛が動いているはずだ。

「彼女ならやってくれるはずだ。あの両軍は必ず動いてくる。その動きの監視は朱里に任せるぞ?」
「はい! 状況を見極め、時期を見て合図を送りますから! その時は皆さん速やかに後退してくださいね!」
「ああ、信じているぞ朱里!」
「了解したのだ!」
「必ず遂行してみせる」

 こうして方針を確認した俺たちは、それぞれの位置につく。
 今回は左翼に鈴々、右翼に愛紗、そして中央の最前線には俺がつき、中央の後方で朱里が全軍を見渡すという形となった。
 それぞれが位置についたところで、俺は大将として兵たち全てに響くようにと大きな声で口上を述べる。

「今回の戦いが、おそらくこの遠征でもっとも厳しい戦いとなる。それだけは間違いないだろう。そして、大変になればなるほど、みんなは思うかも知れない……なんで俺たちが幽州とは関係ないところで戦わなければならないのか、と」

 そう思っても仕方のない事だとは俺だって思う。

「しかしこの戦いで敗北すれば、間違いなく被害は大陸中に広がり、洛陽だけでなく幽州にも地獄の日々が戻ってくる。それは間違いないんだ。ならば俺たちは守らなければならない……幽州のみんなの未来を!」

 今だけ良くても、ダメなのだと。

「そのためにこの難局を乗り切らないとならない。確かに敵は強い……だが、俺たちには頼れる仲間がいる。幽州が誇る一騎当千の将軍二人──愛紗と鈴々。そして俺たちをいつも勝利に導いてくれる名軍師、朱里。それに、俺も……先頭に立って剣を振るってみせる。だから……俺たちを、そして自分を信じて戦ってくれ! これまで戦い抜いてきた俺たちならば、必ず勝てる。そして生き残れる、と」

 己の力をもっとも引き出すのは……何よりも自信と信頼。

「俺たちはみんなを信じて、背中を預けて剣を振るう。だから、みんなも俺たちを信じてくれ。みんなの命を俺たちに……預けてくれないか?」

 口上を終えたあとの、一瞬の間。
 そして──

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!

 ──続いたのは、兵たちの何よりも力強い返答。
 体に響くほどの、信頼の証。
 それが、俺たちの心まで昂らせてくれるという、相乗効果。

「皆の命、しかと受け止めよう! では行くぞ! 我らが舞台へ!」

 右翼の先頭からは愛紗の声が。

「みんなで敵をぶっつぶすのだーっ!」

 左翼からは鈴々の声が。
 それぞれの部隊の兵たちを鼓舞し、更に士気を上げていた。

「敵軍の動きに合わせて全軍を停止。初撃を堪えた後で反撃に移ります!」

 そこへ、朱里の兵たちへの作戦の確認の声。

「本陣からの合図によって動く! 我が旗を見失うなよっ! 銅鑼の音も聞き逃すな! この戦は時機を掴みさえすれば必ず勝てるのだからな!」

 さらに愛紗の檄で、兵士たちは再び雄叫びを上げた。
 その時、

「虎牢関正門が開門しましたぁーっ! 旗印は呂! 敵本隊です!」

 斥候からの報告が届く。
 ここまでは朱里の策通り、しっかりと敵は食いついてくれた。

「「「弓構えーっ!」」」

 左翼、右翼、中央。それぞれの将が同時に号令を掛ける。
 そして、

「「「一斉射、てぇーーーーーーーーーーっっっ!」」」

 申し合わせをするまでもなく、俺たちは同時に矢を放たせる。
 矢の雨は敵軍へ降り注ぎ、

「来るぞっ! 全員迎撃態勢!」

 それでも敵軍は怯むことなく突進してきた。






 こうして、虎牢関の戦いは幕を開けたのだった。






あとがき

 ……盛り上がらない回だなぁ(ぉ
 未熟SS書きの仁野純弥です。
 今回は、虎牢関の戦いの準備と言ったところのお話で、ちょっと地味でした。あえて言うならメインは朱里でしょうか。
 この虎牢関の戦いは、この董卓編の中でもキモと言っても良いくらいの盛り上がりを予定しているので、これから先、徐々に盛り上がっていくと思いますので、これからも読んでいただけると助かります、はい(笑
 では最後に、ここまでこのお話を読んでくださってる読者の皆様と、SS公開の場をくださった氷瀬さんに最大級の感謝を。
 では〜。



顔良さんの協力。
美姫 「苦労人だけに、色々と気がつく子ね」
確かに。今回は軍師、朱理ここにあり! って感じだな。
美姫 「そうね。こういう静かに策を巡らせ、その説明というのも面白いわね」
うんうん。後はこの策が上手く嵌るかどうか。
美姫 「次回がとっても楽しみね」
待ち遠しいです。
美姫 「続きを待ってますね」
ではでは。



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