本陣に曹操乱入──という、ちょっとした事件の後。
 軍議に続いての騒動に気疲れしていた俺は、天幕で一休みしてから、再び愛紗達の元に顔を出した。

「……愛紗はもう落ち着いたのか?」
「私は元々冷静ですっ!」

 一休みしたのは、もちろん気疲れを癒すためでもあるのだが、怒りでヒートアップした愛紗をクールダウンさせるために間を空けた、という意味もあったのだ。しかし、どうやら怒りの炎はまだくすぶってるようだった。
 そう、俺は思っていたのだが、

「愛紗が怒っているのは、朱里のせいなのだー」
「は? 朱里?」
「あぅぅ……」

 鈴々の指摘を受けて、縮こまる朱里。
 どうやら俺が居ない間に何か一悶着あったようだ。
 やれやれ……

「しかし……まあ、愛紗ぐらいの有能な武将にもなれば他の太守からの引き抜きもあるとは思っていたが、俺が居る前で堂々とそれをやってくるとは思わなかったな」

 こうなれば、愛紗の怒りを全て吐き出させる事でクールダウンさせようと、俺はあえてその話題を口にする。

「大胆な人なんですね……曹操さんって」
「でも、思ってたよりちっこかったのだ」
「……それを本人に向かって言わない方がいいぞ。きっと」
「うに?」

 まあ、元々曹操と直接関わっていない朱里と鈴々は素直な感想を口にしていた。
 しかし、

「大胆? あんなのは恥知らずというのだ! いきなり他軍の本陣に乗り込み、私が欲しいなどと……ええいっ、気持ち悪いっ!」

 騒動の張本人としてはそんな呑気な事は言えないのだろう。
 まあ、直接関わったというのなら、俺もその一人なのだが。

「まあ、面と向かってそんな事を言われたんだから、愛紗の気持ちもわかるが……なかなかの大人物ではあったな。あそこまで正直に自分を出してこられると、かえって清々し……い……?」

 とはいえ、俺としては曹操という少女に関してはあまり悪感情を持てなかった。それを素直に口に出していると……いつしか、三人が俺をジト目でロックオンしているのに気が付く。

「……愛紗? 鈴々に朱里も。ど、どうしたんだいきなり?」

 その理解出来ない独特の迫力に、思わずどもってしまった。
 三人は、まるで敵を見るような眼差しで俺を睨んでくる。

「そういえば、御主人様は“随分と”曹操を評価しておりましたね」
「うんうん。曹操は敵なのに、そんけーするとか言ってたのだ!」
「曹操さんと一緒なら幸せだとかも……」

 愛紗、鈴々、朱里の三人が、それぞれ先ほどの俺と曹操の間で交わした言葉を持ちだして、責めるような物言いをし始めた。

「というか、ちょっと待て! 確かにそうは言ったが……というか、朱里は確実に言葉の真意を歪めてるぞ!」

 俺が言ったのは『曹操の下で能力を発揮している人間も幸せだろう』と言っただけだ。だが、朱里の言い方だと俺と彼女が恋仲になれば幸せになる、みたいな意味合いになってしまうだろう!
 なのに、

「歪めている? 私にも朱里の言葉通りに聞こえたのですが?」
「鈴々もそう聞こえたのだー」
「ぷん、っだ」

 三人が三人とも俺の否定を聞こうともせず、完全に拗ねていた。
 まったく……相手の器を認めるのは大切な事なのに。
 さて、思わぬところで地雷を踏んでしまったようだし、なんとか今はご機嫌を取るしかないか……と思ったその時。


「あっれー? もしかして妙にやばい時に来ちゃったかなー?」


 言葉とは裏腹に、随分と明るい声。そしてその声の主を辿ると、陣の出入り口付近に見知らぬ少女が立っている事に俺たちは気づいた。

















『恋姫†無双異聞 〜高町恭也伝〜』
 第十四章


















 見ているこちらにまで元気が出てきそうな、爽やかな雰囲気を持った少女だった。
 長い栗色の髪を少し高めのポニーテールでまとめ、少し太めの眉の形も整った、美形の少女だ。溌剌とした表情は好感が持てるし、その立ち居振る舞いには嫌味がない。ある意味先ほどの曹操とは好対照な人物だった。
 そんな相手にもかかわらず、

「……お主は誰だ? どうして我が軍の陣地にいる?」

 先ほどの曹操の事と今の俺の事で機嫌の悪い愛紗が、のっけから少女を威圧するようにして問いかける。

「……愛紗。さっきの今だから、警戒する気持ちは分かるが、その対応は良くない」
「うっ……すみません」

 少女に八つ当たりしてるということを自覚したのだろう、愛紗は素直に謝罪の言葉を口にした。

「?? 何かあったのか?」

 幸いな事に、少女の方も愛紗の言葉に怒ったりはしていない。ただ、愛紗の様子から何かあった事は悟ったのか、興味深げに聞いてくる。

「なんでもないのだ! それよりお前誰だー?」

 そんな少女の問いかけを無視するように、鈴々が少女に名前を訊ねた。
 ……鈴々にも、名前を名乗る時にはまず自分から、と言い聞かせていたのだが……これはまた、後で怒らないといけないな。
 だが少女は、相手が子供だからと思ったのか、さほど気分を害する様子も見せず、あっさりと名乗ってくれた。

「あたしか? あたしは馬超ってんだ。よろしく」
「よろしくなのだ!」

 その、あまりにも気持ちいい名乗りっぷりに気をよくした鈴々も笑顔で応対する。なんとなくだが、この二人は気が合いそうな気がした。
 ……とはいえ、馬超か。
 これはまた随分なビッグネームが出てきたな。この連合軍に入ってから、曹操、孫権、おまけで袁紹といった有名人(?)と対面してきたが、目の前の彼女もまたそれに負けないほどの名前だ。俺の知ってる三国志演義では、劉備に仕える五虎将軍の一人に数えられる猛将で、槍の名手だったはず。


 ──やはり、俺はここで劉備の“役目”を担っているのだろうか?


 目の前の馬超と名乗る少女を見ながら、俺はぼんやりとそんな事を考えていた。
 そんな俺の様子に気づかず、他の面々が馬超と接触する。

「確か西涼の領主、馬騰さんの娘さんに同じ名前の人が居たような気がしますね」

 最近各地に間者を放った事で、地方の領主の事にも詳しくなった朱里が誰にともなく呟いた。その呟きを耳にした馬超は、

「そりゃあたしのことだ。馬騰はあたしの父上さ」

 あっさりと自分の事を話してくれる。
 ……ふむ。この世界は、俺の知ってる三国志の武将は全て性別が入れ替わってると思っていたんだが、そうでない人も居るんだな。

「ほお。ではあなたがあの名高き錦馬超か」

 そして先ほどまでは不機嫌だったり反省しきりだったりと、らしくない様子が続いていた愛紗も馬超に興味を持ったようだ。馬超の勇名は、愛紗の耳にも届いていたらしい。
 だが、当の本人は愛紗の言葉に照れ笑いを浮かべていた。

「あなたなんて言い方はやめてくれよ。なんだか体中が痒くなってくる。普通に馬超って呼んでくれよ」

 そして、なんともフレンドリーで気持ちがいい事を言ってくれる。
 そんな彼女の人柄に、愛紗も好感が持てたのだろう。小さな微笑みを馬超に返した。

「分かった。ならそう呼ばせてもらおう。私は関羽。そして──」
「鈴々は張飛なのだ!」
「私は諸葛亮。字は孔明です。よろしくです♪」

 次々と名乗りを上げていく面々に合わせて。視線を滑らせていく馬超。そしてその勢いで朱里の横にいた俺と目が合うと、

「へぇ……」

 何故か今になって興味津々と言った様子の目で俺を観察し始めた。
 とはいえ、この流れでは俺も自己紹介をしないわけにはいかないよな。

「俺は高町恭也。よろしく」
「なるほど……ただ者じゃないとは思ってたけど、あんたが天の御遣いって奴なのか」

 どうやらさっきの愛紗とのやりとりでもそうだが、堅苦しいのは苦手らしい。彼女が砕けた話し方をするのなら、俺も合わせてしまおうか。

「ま、一応はな。しかし……ただ者じゃないと言うなら、馬超の方もそうだろう? とても強そうだ」
「へっへー! そう言ってもらえるのは嬉しいねっ♪ あんたとは一度手合わせしてみたいな」

 そう言って、にかっと少年のような笑みを見せる馬超。顔立ちそのものは美人なのに、性格はホントに少年のようなのだな。

「勘弁してくれ。俺としては馬超と敵対するのは御免だし、ましてや強さで言うならそっちの方がずっと上だ。それくらいはわかるぞ」

 気さくで明るい彼女だが、何気ない仕草からも彼女がかなりの実力者である事は感じ取る事が出来る。下手をすれば、愛紗達と遜色ないほどの……。

「んなことはないって。まあ、あたしもここのみんなとは敵対したくはないけどさ。でも、あんたの強さはけっこうなモノなんだろ? なぁ?」

 と馬超は愛紗に意見を求める。
 すると愛紗は鷹揚に頷いた。

「その通りだ。御主人様の剣捌きは尋常ではないほどの速さと巧さを兼ね備えている。それを見抜くあたりはさすが錦馬超と言うべきだな」
「……まあ、愛紗は身内贔屓が強いんだ」
「愛紗の言葉に嘘はないのだ。お兄ちゃんはあっという間に十人以上の敵を斬って捨てる事が出来る達人なのだ!」
「鈴々まで……朱里、君から言ってやってくれ」

 愛紗と鈴々はそのどちらもが卓越した戦闘力を持った武人なのに、そういった贔屓で馬超に過大評価を伝えてしまう。これで彼女が真に受けたらどうするんだ、まったく。
 そこへ行くと朱里は軍師なのだし、冷静に人物評が言えるはず──

「御主人様には愛紗さん達が言うように素晴らしい武技もありますが、それ以上に人の上に立つ者としての強さが備わっているのです」
「朱里ぃ……」

 ダメダメだった。
 冷静なんてとんでもない。朱里が一番贔屓していた。
 それらを黙って聞いていた馬超は、

「なるほどね。武人としての強さと統率者としての強さか。噂は聞いていたけど、噂以上の武将ってワケだ」

 完璧に勘違いしている。しかも、

「もちろんだとも! この方は我々の御主人様なのだからな!」

 その間違いも正そうとしない愛紗。
 俺はそんなやりとりを聞いてガックリと肩を落とした。

「馬超……真に受けるな。あの三人の言葉は単なる贔屓で……」
「あれ? もしかして照れてんの?」

 そして馬超もまた、からかうような笑みを浮かべてこんな事を言う始末。
 ……駄目だこりゃ。

「あー……もう好きにしてくれ」

 俺は半ばやけになって言い捨てた。
 そんな拗ね気味の俺の表情を見て、馬超は遠慮のない大笑い。

「あははははっ! ウソウソ! ウソだって!」
「やれやれ……」

 そこまで気持ちよく笑われてしまうと、怒る事すら出来ないじゃないか。
 そしてそんな馬超に釣られるかのように、愛紗や鈴々達にまで笑みがこぼれていた。どうやら彼女はムードメーカーとしての資質があるようだな。
 そんな事を考えながら、俺は彼女の笑いが収まるのを待った。
 そして、

「ところで、馬超はどうしてうちの陣に来たんだ? それがさっきから気になっていたんだが」
「おっと、これを忘れたらまずいよな。実は袁紹から配置換えの伝令が届いてさ。それを全軍に通達する役目の途中だったんだ」
「配置換えの通達か……となると、いよいよ攻撃開始ということか」

 なるほど。あの無意味だった軍議から結構な時間も経ったし、ようやくそれぞれの部署を決めたというワケか。

「みたいだな。でも、高町軍は後曲に回されるはずだぞ。元々連合の中でも兵数が少ないみたいだし」
「むぅ……我が軍の兵は皆、一騎当千の猛者であるものを……」

 馬超から伝えられた俺たちの部署に関して、愛紗としては不満があるようだ。しかし、俺としては有り難い限りだと言えよう。

「愛紗の言いたい事は分かるが、俺たちの兵力で前線に回されるのは勘弁して欲しいぞ。むしろ“あの”袁紹にしてはまともな采配と言える」
「……あははは」

 俺の袁紹への褒め言葉(?)に朱里が苦笑を見せる。

「んー、袁紹ねー。父上も『ありゃひどい』と言ってたけど、かなりのバカらしいなー」

 だが、馬超あたりは容赦のない、真っ直ぐなコメントで総大将を評していた。
 そんな馬超の飾らな過ぎるコメントに、フォローも入れられないと思った朱里はあえて今のコメントはスルーしてしまう。

「と、とにかく。後曲には後曲なりの戦いの方法はありますから。愛紗さんに鈴々ちゃん、それに御主人様が居れば、我が軍は大活躍間違い無しですから♪」
「任せるのだ! そんで、馬超はどのあたりに配置されてるのだ?」

 朱里の言葉に呼応した鈴々は、馬超の事を訊ねる。

「あたし、というかあたしの父上は左翼に配置される事になったから、あたしもそっちだな」
「そっか。一緒に戦えなくて残念なのだー」

 すっかり友達感覚になっている鈴々は、馬超と一緒ではないのが寂しいらしい。
 そんな鈴々に、馬超は元気を出せと言わんばかりの笑みを見せた。

「ま、確かにな。あたしもどうせなら、武名名高き関羽と張飛の二人と一緒に戦いたかったけどさ。ま、後曲からあたしの槍捌きを見といてくれよ」
「ああ。無事でいろよ?」

 愛紗も、すでに彼女を認めているようなフシがあり、その声はどこか戦友を気遣うようにも聞こえる。そんな愛紗の言葉に、にかっと気持ちのいい笑顔で応え、

「当然。こんなところで死んでたまるかよっ……じゃあ、またあとでなっ!」

 馬超はまだ通達していない陣があるから、と小走りで去っていく。そんな彼女の背中に、

「次に会った時には、軽く打ち合おう」
「おうっ! その言葉、忘れんなよなっ!」

 そんな声を掛けて、俺たちは別れたのだった。





 そしてやっと静かになってくれた陣では、

「なかなか気持ちのいい人物でしたね」
「ああ……それに随分と強そうだった」
「あーあ、鈴々も馬超と一緒に戦いたかったのだ」
「言葉遣いはちょっと乱暴かな、って思ったけど、優しそうなひとでしたね〜」

 颯爽と現れ、颯爽と去っていった少女の事を思い出していた。
 ここにいる誰もが、いつの間にか馬超を友人のように思っているというのが面映ゆく、そんな彼女の無事を祈らずにはいられない。なんとも不思議な魅力を持った少女だった。
 とはいえ今はそんな事をのんびりと話しているヒマはない。

「さて……伝令も受けた事だし、これから忙しくなるぞ。早速部隊編成を行い、いつでも軍を動かせるよう、準備を始めるぞ!」
「はっ!」
「おまかせなのだー!」
「すぐに準備しますー」

 俺たちはすぐに行動を起こす事にした。

 ……別に負け惜しみというわけではないが、少数の兵だと軍としての動きが機敏なので、他の陣営よりも行動が早いのは利点と言える。そして早く準備が出来たところで、まだまだ準備段階の他の軍を横目で見ながら、朱里が一計(?)を案じる。
 それは──戦闘準備で慌ただしい連合の武器保管場所から、どさくさに紛れて最新の武具をくすねてくるという……なんとも情けないモノだった。
 とはいえ、他の大勢力を抱える諸侯たちは兵数以上の武器糧食を保持しているので、多少の搾取は平気なはず。更に言えば、連合を組んだのだから、これくらいの共有は認めてくれるだろう……というなんとも身勝手な理屈の元、俺たちは装備を整える事に成功するのだった。

 そして、俺たちの軍は後曲へと移り、袁紹の指示を待つ──。


















「前曲は魏と呉の軍勢がお取りなさい。左翼は涼州連合が。右翼は伯珪さん。本陣として後曲に袁家の軍勢と、貧乏で戦力としての価値が低い高町軍を配置しますわ」

 袁紹が本陣にて各軍への指示を下す。

「まずは前曲を前へ。それに続いて右翼、左翼ともに前進しなさい。圧倒的な兵数を持って水関を威圧しますわ!」

 彼女の言葉を聞き漏らすことなく、伝令兵達がその命令を憶える。

「さぁ皆さん! 水関を突破しますわよ!」

 そして、伝令兵達は一気に各陣営の元へと走り出した。
 袁紹の命令を速やかに伝えるために。


 そして、連合軍の兵たちは彼女の命令に従い、行軍を開始した。


















 後曲として袁紹本陣のすぐ側を行軍していた俺たちの軍。
 その俺たちの目にも“それ”は見えてきた。
 峡谷の途中、行軍を邪魔するようにそびえ立つ関門。
 高々と築かれた石垣の壁。何人たりとも通さないと威圧するような頑丈そうな門扉。向かい来る全てを拒絶するような雰囲気を持つ要塞。
 それが──

「……水関、か」
「そうです。あれこそが王都洛陽を防衛するために造られた要塞──水関です」

 王都へはこの峡谷を進むしか無く、そこには強固な砦。
 しかし、全軍に下っている命令と言えば……

「要害である水関を正面から攻めるのは、愚策中の愚策だと思うのですが……」

 そう。
 愛紗の言う通り、あれほどの要塞を兵力だけの力押しをするなんて、正気の沙汰とは思えない。だが、実際に全軍に下っている命令は、見事なまでの“正面突破”だった。

「愛紗さんの言う通りだと思います。けど……袁紹さんが策を弄するようにも思えませんから、おそらく全軍が整列し次第、突撃の命令が出されると思います」

 さすがと言うべきか、袁紹の性格をすでにばっちり把握している──というかきっと彼女を直接見た全員が把握しているであろう──我が軍の軍師殿は、そんな悪夢のような未来を予測している。

「うーん……袁紹はバカなのだ」
「身も蓋もないぞ、鈴々。さっきの馬超もそうだったが……」
「でも、ホントの事なのだ」

 いつも「突撃、粉砕、勝利」を信条としている鈴々にさえバカ呼ばわりされてる袁紹が、可哀想な気がしてきた。
 とはいえ、同情している場合でもない。

「袁紹がバカで、自分たちの兵を減らすだけならまだいいが……そのバカの命令に、俺たちも従わなくてはならないのが、厳しいところだな」

 俺の言葉に、やはりこの無策ぶりに呆れているらしい朱里も力無く頷いた。

「そうですね……さすがにここで怠業するわけにもいきませんから」
「しかし無策のまま突撃などしようものなら、被害がどれほどになるか……」
「全くです。私たちは後曲に配置されていますから、まだマシだとは思うのですけど……」

 愛紗も朱里も、心配そうな表情を見せる。
 その気持ちは俺にだって分かる。ふたりとも、左翼に配置された涼州連合の一員である馬超の事を心配しているのだ。
 とはいえ、ここは彼女を信じるしかない。

「馬超なら大丈夫だ。そこらの雑兵はおろか、並み居る猛将を相手にしたって負けたりはしない」
「……そうですね」
「馬超なら、みんなぶっ倒しちゃうのだ!」
「無事を祈りましょう……」

 そんな時、水関付近に放っていた間者が戻ってきた。
 その間者の報告によると、水関を守る敵将の名前が明らかになったという。
 敵将の名は華雄。
 武技に優れた豪傑らしい。
 とはいえ、この情報が役に立つかどうかは、正直微妙だった。
 後曲にいる俺たちでは、おそらく敵将と対面する事は出来そうにないからである。
 ならば、馬超のいる涼州連合あたりにこの情報を流そうか、などと話していた時だった──。

 じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!

 緊急事態を知らせる銅鑼の音。
 そしてすぐに現れた斥候。

「わ、我が軍の後方に突如として敵がっ! 董卓軍の伏兵です!」

 その報告に、愛紗、鈴々の表情が引き締まり、

「はうっ!? ご、御主人様! すぐに迎撃準備をしましょう!」

 朱里が慌てながらも的確な指示を出した。

「了解だ! 同じ後曲の袁紹軍は大軍ゆえに対応は鈍いはずだ。ここは俺たちの軍で伏兵を返り討ちにするぞ!」
「はっ! 全軍反転! 突撃してくる敵を我らで迎撃するぞーっ!」

 愛紗が兵たちに号令を下し、兵たちが愛紗の声に機敏に反応する。兵の錬度は鈴々と愛紗が鍛え上げただけはあり、その動きは統制が取れ、見ているだけでも頼もしい限りだ。
 素早く反転を完了させたところで、

「みんな迎撃開始なのだーっ!」

 鈴々の声が全軍に雄々しい声を上げた。
 完全に迎撃体勢を取り終えた高町軍が、敵の伏兵を迎え撃つ──。









 こうして、俺たちの戦いは唐突に幕を開けたのだった。






あとがき

 ……ようやく戦いへと(汗
 未熟SS書きの仁野純弥です。
 前回の曹操達との邂逅、そして今回の馬超との顔合わせを経て、ようやっと戦争へと突入……という流れとなった今回。ちょっと恭也にとっては良い流れではなくて、タジタジだったのはご愛敬ということで(苦笑
 のんびりのんびりと進んでる展開ですが、多分このペースから早くなることはあまりないので、そのあたりを覚悟してもらえると幸いです(ぇ
 では最後に、ここまでこのお話を読んでくださってる読者の皆様と、SS公開の場をくださった氷瀬さんに最大級の感謝を。
 では〜。



いよいよ始まる、歴史を大きく変える戦いが。
美姫 「どうなっていくのかしらね」
今回は馬超も出てきたし、五虎将軍は後一人か。
とりあえずは、菫卓軍との戦いが先だな。
美姫 「無策、袁紹の下でどうなるのかしら」
華雄も気になる所。
ああー、次回が待ち遠しい。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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