幽州啄群啄県。
後になって愛紗に見せてもらった大陸の地図(やはりその形は俺の記憶にある中国のモノと相違はなかった)によると、大陸北東に位置する街を中心とした地域。
そんな地域の県令に祭り上げられた俺は、街の復興をはじめとする政務や県内で暗躍する黄巾党を掃討する軍務。これらの仕事に忙殺される毎日を送っていた。
政務では、街の代表者達との会議で復興策を講じ、周辺の集落の代表にも顔を見せ、これからの簡単な政策についての説明。領内で起きた諸問題の対処。
これらの仕事には、愛紗がそつなく俺をサポートしてくれた。
この世界での知識が乏しい俺を上手くフォローし、俺が決断に迷うことがあれば適切なアドバイスもくれる。政務に関しては、愛紗が居なければ成り立たなかっただろう。
そして軍務では、逆に鈴々が意外(と言うのは失礼なんだろうが)にも一人前の将としての力を発揮してくれた。
領内の各集落に呼びかけて義勇兵を募り、集まった兵達を訓練して鍛え上げ、軍へと再編成させるのだが、鈴々は兵の訓練や再編成、部隊の統制に関しては立派に仕事をこなしている。鈴々のおかげもあって、兵力、兵の質とも格段の進歩を見せていた。
そのおかげもあって、領内に侵攻する黄巾党連中から集落を守り通すことが出来ていた。
『恋姫†無双異聞 〜高町恭也伝〜』
第五章
彼女らの活躍のおかげで、街は順調に復興し、その周囲の集落も安寧の時間を取り戻した。
しかし、問題は解決していない。
黄巾党は今もなお健在で、懲りることなく領内に攻撃してくるし、この戦乱の世に乗じて盗賊団が現れたりもする。そんな輩を駆逐すべく、軍は毎日のように出陣しなければならない。兵士達の疲労は溜まる一方だ。それでも、
「疲れてるというなら、県令様や関羽将軍達の方がよっぽどお疲れでしょう。皆さんはそれでも頑張ってるのですから、俺たちがへたばるわけにはいかねえってもんでさ」
兵士達は文句も言わずに従ってくれていた。
この言葉には俺は不覚にも感動してしまう。この領内のみんなはここまで俺たちのことを思ってくれているのか、と。
だからこそ俺は頑張れる。
自らの心に気合いを入れて、再び県令の仕事に全力を注ごうとしたその時。
「ご報告しますっ!」
一昼夜休むことなく駆けてきたと思われる伝令兵の報告が届いた。
俺たちが治めている啄県は、ここに来て軍備を固め、領内に巣くっていた黄巾党の連中を締め出していた。追い出された連中は幽州の各地に逃散していたのだが、この啄県の抵抗ぶりを無視出来ないと感じたのか、幽州中の黄巾党の兵士達が集合し、一大兵団を形成したのだという。
その兵力は俺たちの軍の数倍。それらが一気に県境から侵入。当然県境を守っている警備隊も黙って見過ごすわけにもいかず応戦したモノの、相手はいくら烏合の衆とはいえ相当の大軍。数の暴力に押し潰される形で全滅した──それが、先ほどの伝令兵の報告の内容だった。
それほどの大軍ならば、そのまま県庁のあるこの街まで軍を進めてくると思ったのだが、今は幸運にも足止めをくらってくれているらしい。
実は今、朝廷より任命されて他県の黄巾党討伐を果たし、本拠地に戻る途中だった公孫賛という武将の軍が、例の黄巾党の大軍と接触し、果敢に防戦してくれているからだった。しかし公孫賛軍も討伐戦の帰還途中と言うこともあり、兵力では敵軍に劣っている。彼ら単独では、間違いなく黄巾の大軍には勝てないはずだ。ならば尚更、このまま公孫賛の軍を見殺しにするわけには行かない。彼らが負ければ次は俺たちなのだ。
「愛紗、鈴々。急いで本隊の出陣準備を! 公孫賛軍を助け、彼らと共に黄巾党の軍を殲滅するぞ!」
「はっ!」
「あいあいさーなのだ!」
俺は迷うことなく命を下し、愛紗から各部署へと素早く指示を出し、瞬く間に出陣準備を終えた。
このあたりはさすがだ。
そして、出陣前には、いつもの通り、俺が最後に兵達へと声を掛ける。
「みんな疲れているのはわかる……申し訳ないとも思う。だが、この戦いは避けられないモノだ。ここで俺たちが勝たねば、今まで守り通してきた大事な人たちが、大事なモノが再び黄巾党によって蹂躙されてしまうんだ」
兵士達が疲れているのは、共に戦ってるからこそ俺にだって分かる。それでも今は無理をしなければいけないのだ。
「敵は大軍……だが、我らには関羽と張飛、二人の一騎当千の将軍がいる! そして、現在県境で黄巾党をおさえてくれている“北の勇者”公孫賛殿もいる! 俺たちは勝てるんだ! 関羽を信じてくれ! 張飛を信じてくれ! そして……俺を信じて欲しい。必ずや勝利をものにし、この地を守るのだと! そして生きて戻ってくるのだと!」
ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっっっ!
県庁の前に居並ぶ兵士達から、こちらの身を震わす程の喊声。
それが士気の高さを物語ってくれた。
それを見計らって、愛紗が号令を発する。
「では……出陣!」
こうして、俺たちの軍は街を後にした。
「先ほどのお言葉……いつもながらお見事でした」
出陣し、行軍している中で、馬を並べて進む愛紗から声がかかる。
「勘弁してくれ……ガラじゃないんだ」
心底困ったような表情を見せると、悪戯っぽい微笑みを見せる愛紗。彼女はたまにこんな表情を見せるようになっていた。
「何を仰いますか。ご主人様のお言葉を受けて、兵達は皆高い士気で戦場へと赴けるのです。ご立派なことではないですか」
そう。
出陣の度に、こうして兵達の前で演説じみたことをやらされることになったのは、愛紗の発案だった。彼女曰く、大将が直接声を掛けるからこそ士気は上がるのです、とのこと。
そう言われてしまったら、断るわけにもいかず、こうしてガラでもないことをやらされているのだ。
「そもそも、俺は愛紗の真似をしているようなモノだぞ? だったら愛紗自身がやった方がいいと思うんだが……」
「駄目です! これは大将であるご主人様だからこそ効果が絶大なのですから」
「ふぅ……」
どうやらこの仕事ばかりは拒否出来ないらしい。
俺は諦めの溜息を吐くしかなかった。
「そういえば」
「ん?」
その話は終わりとばかりに愛紗が話題を変えてくる。
「ご主人様は、いつ公孫賛のことをご存じに? 先ほどの演説でも彼の者を“北の勇者”と言っておりましたが」
「あれ? 何か違ったか?」
「いえ、公孫賛殿の勇名は私も聞き及んでおります。北方の遼西の太守にして一廉の人物であるというのは。しかしそれをどうしてご主人様が?」
「いや……ちょっとした噂で聞いた程度なんだ」
そう言って適当に誤魔化した。
本当は、以前に読んだ三国志の小説で公孫賛という武将を呼び讃えている一文があったのを憶えていて咄嗟に出しただけなのだ。
とはいえ、こんな事を愛紗に話しても意味が分からないだろうからな。
そんなことを話ながら、行軍を続けていると──。
「ご報告いたしますっ!」
先行していた部隊から送られてきた伝令が現れ、俺の前に跪く。
「先行している部隊の更に前方二里のところで黄巾党の別働隊を発見! 別働隊は他県より移民してきた農民達を襲う準備をしている模様です!」
「……よしわかった、ご苦労。下がって休んでくれ」
「はっ!」
伝令兵に簡単なねぎらいの声を掛けてから、俺は隣に控える愛紗と、伝令が来たのを見計らってだろう、愛紗の隣にやってきた鈴々と顔を見合わせた。
「さて……これはもうどうするかなんて聞くまでもないな?」
「はっ!」
「当然、助けるのだ!」
「ああ、では頼む、愛紗」
「はいっ!」
愛紗は振り返り、全軍に向かって号令を発する。
「全軍駆け足! 先行部隊に追いつき、農民たちを守るのだ!」
「全軍、我に続くのだーっ!」
おおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!
兵達は愛紗や鈴々の声に即座に反応し、隊列を崩すことなく、それでいて行軍速度を上げた。これらの軍の動きを見るだけでも、鈴々が中心となって鍛え上げられた部隊の統率力の向上ぶりが窺えた。
こうして行軍速度を上げてしばらく進んだ先で、本隊の先頭を歩く俺たちは先行部隊と合流し、荒野の中を火災道具を抱えて歩く農民達の列を発見した。
彼らが報告にあった移民達に違いない。
「なんとか襲われる前に接触出来そうだな……とはいえ、ここは迅速に対応しないと。敵の別働隊も迫っている事だし」
俺はちらりと愛紗を一瞥すると、彼女は「お任せを」と言わんばかりに一つ頷いた。
「張飛隊は合流した先行部隊と共に戦線を形成! 私の部隊は農民たちを先導して一次後退するぞ!」
愛紗の作戦にはまったく異存はなかった。
「よし、先行部隊は俺が指揮を執る。愛紗、まだ例の別働隊は兵力が分かっていない。農民たちに無理はさせられないが、それでも出来る限り早く戻ってきてくれると助かる」
「もちろんです。それまでは鈴々と共に頑張ってください」
「了解だ……さあ、行くぞ鈴々」
鈴々はにっこりといつものように笑顔を見せて頷く。
「うん! お兄ちゃんと一緒に頑張るから! 愛紗もみんなをお願いなのだ!」
妹の力強い言葉に後押しされるかのように愛紗も頷いた。
「任せておけ……では関羽隊、行くぞ!」
その声に従い、愛紗の部隊が本隊からはずれ、農民たちを安全な場所へと先導を始める。まあ、愛紗ならば途中で奇襲があったりしても農民たちを守り抜けるはずだ。
だが、今はあちらの心配をしている余裕はない。
なにしろ農民たちの後を追いかけるようにしてやってきた黄巾党の一軍を俺たちで相手をしなければならないのだから。
俺は鈴々と共に馬を降り、徐々に接近してくる黄巾党の群れを見据える。
「どうしようか、お兄ちゃん?」
ちなみに鈴々は兵の訓練や部隊の編成は上手いが、作戦立案には向いていないらしい。だからこの場は俺が策を講じるのだが。
「ふむ……連中もこっちに気づき、そのまま駆け足でこちらに突っ込んできているようだ。ならば射程距離まで連中を引き付け、入った所で弓部隊の一斉射……これで先手を打つか」
やはり黄巾党は烏合の衆。それほど複雑な策は必要ないだろう。
鈴々も俺の作戦には異論はないらしかった。しかし、
「そうだねー。そのあと鈴々とお兄ちゃんが敵の前線に突っ込んでって、混乱させちゃうのが一番かなぁ」
「そうだな……………………っと、なに?」
「うん? どうかしたのお兄ちゃん?」
「……どうやら今の作戦は使えないようだ」
「え……?」
「敵軍の先頭……その手前を見てみろ、鈴々」
「てまえ………………あにゃっ?」
鈴々もようやく気づいたらしい。
前方にまだ先ほどの移民の中で逃げ遅れた者がいたことに。
逃げ遅れているのは、遠目で見る限りは……どうやら女の子とお年寄りの二人。
もしこのまま先ほどの作戦をするために連中の侵攻を待っていれば、おそらく二人は黄巾党の軍に飲み込まれるか、よしんばそれより先にこちらの弓部隊の射程距離に連中が入ったとしても、俺たちの軍の矢が二人を襲うことになってしまう。
そして当然……あの二人を見捨てるという選択肢は俺たちにはない!
「まずいのだ! お兄ちゃん、こうなったら鈴々たちも突撃しよう! あの二人を助けないと!」
「ああ……張飛隊、高町隊は戦闘準備! こちらも奴らに突撃を仕掛ける!」
『応っ!』
勇ましいかけ声と共に、兵たちが一斉に剣を抜き放つ。
兵力は向こうが上でも、兵の錬度と士気はこちらが上だ。
「いっくぞーっ! みんな鈴々に続くのだーっ!」
「全軍、俺に続けっ! 黄巾党に、守る者の強さを思い知らせてやれ!」
俺は鈴々と共に軍の先頭に立ち、迫り来る黄巾の軍へと突撃をかけるのだった。
たった二人の、か弱き民を救うために。
「はわわ、はわわ、はわわ、はわわ……っ!」
走ることもままならない老婆を支えるようにして必死に進む少女。しかし、その耳には確実に迫ってくる黄巾党の兵たちの地響きのような足音が聞こえていて、焦りが口に出てしまっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
そしてそれは当然の事ながら老婆の耳にも入っている。だからこそ、老婆も急ごうとする気持ちはあるのだが、身体がついていかないのだ。焦りが二人の体力だけを奪っていく。
「お婆さん、もう少しだから頑張ってぇ〜!」
少女が見た目とイメージが合う可愛らしい声で老婆に発破を掛ける。しかし、
「わしゃもうダメじゃぁ……お嬢ちゃんだけでも先に逃げなさい」
老婆にはわかっていた。このままでは自分が黄巾党から逃げ切れないことを。そして自分を支えてくれている少女だけなら、なんとか助かるであろうと言うことを。
しかし、見た目は可愛らしいこの少女は、その外見とは裏腹に意志が強かった。
「はわわ〜、そんなのダメですよぉ……」
「しかし、このままじゃお嬢ちゃんまで……」
「そ、それでもダメなのです! わ、私は弱い人を守るために塾を飛び出してきたんです! だからお婆さんを見捨てるなんて事出来ないんです!」
辿々しくはあったが、その彼女の決意の強さは決して曲げられるモノではない。それを感じた老婆はもう自分を見捨てろとは言えなかった。
「ああ……ありがとう。ありがとうお嬢ちゃん」
「はい! だからお婆さんもがんばるのです!」
こうなれば自分に出来ることは一つ。
少しでも早く逃げて、この立派な志を持つ少女を死なせないことだけだ。
「ああ! がんばるよ、わたしゃ!」
「その意気なのです!」
そうして再び老体に鞭を入れるようにして急ごうとする。しかし……それでもやはり年老いた老婆の身体は進行速度を上げることは出来なかった。
老いた自分の身体を恨めしく思いながら、それでも前を見続けていた老婆。
その老婆があるモノを見つけた。
「はぁ、はぁ、はぁ……それにしてもお嬢ちゃん」
「はい? どうかされましたか?」
「後ろから黄巾党の奴らが来ているのは分かるんじゃが……前からも何か来たぞい?」
それまで老婆を支えながら励まし続けていた少女は、そこでようやく前方からも一軍がやってくることに気づき、表情を青ざめさせた。
「はわっ!? あぅぅ、ホントですぅ〜……」
その時、二人の脳裏には最悪の状況が浮かぶ。
前から来たのは、もしかすると黄巾党の別働隊なのでは、と。
さすがにここまで来ると、必死に前へと進もうとしていた老婆の足も止まってしまった。
「……こりゃ、年貢の納め時かのぅ」
しかしそれでも少女は諦めようとはしなかった。
「はわわ、まだです! まだなのです! 諦めたらそこでおしまいなのです!」
そう言う少女ではあったが、彼女の心の中でも諦めの色は浸透しつつあった。それでも彼女は老婆を励まし続ける。
そんな少女の健気さに、老婆の顔はほころんだ。
「そりゃそうじゃがの……こうなればもう逃げ場はないんじゃし、せめて前から来るのがわしらの味方で居てくれることを祈ろうかの」
「あぅぅ〜……」
能動的な老婆の言葉だったが、実際には少女にもそれ以外の考えは浮かばない。
少女は老婆の手を握りながら、前から来る一団が自分たちに悪事を働く者たちじゃないことを祈るしかない……そんな自分の無力さに悔しさを感じながら。
そして──
「燕人張飛、ただいまサンジョー! なのだ!」
二人の祈りは通じた──のかもしれなかった。
鈴々と並ぶようにして荒野を駆ける俺は、思ったよりも早く逃げ遅れた二人の元へと辿り着くことが出来た。もっとも、他の兵隊達はまだ追いついてこないのだが。
「燕人張飛、ただいまサンジョー! なのだ!」
「はわっ!?」
突然大きな矛を持った少女が現れたことで、逃げ遅れていた少女が驚きの声を上げた。
「鈴々……敵に名乗りを上げるのならまだしも、救助する相手に高々と名乗るな。驚いてるじゃないか」
「うにゃにゃ……つい勢いで。でも……よく見たら女の子にしても、子供の女の子なのだ。ケガとかしてないかー?」
鈴々に問いかけられた少女はショックからすぐに我に返った。
「してないですけど……」
その少女は、鈴々に子供扱いされたことが心外とばかりに頬を膨らませる。
「あの、私、もう子供じゃありませんもん! 大人の女の子ですもん!」
どうやらご立腹のようだ。すると、
「鈴々だって大人だもんねー!」
何故か鈴々が少女に対して対抗意識を燃やし始める。そんな二人の様子に、俺はがっくりと肩を落とした。
「……鈴々、状況を忘れるな。今はそんなことを言い合ってる場合じゃないだろう?」
「あにゃっ!? そうだったのだ!」
「二人は俺が保護するから、鈴々はこのまま突撃して戦線を維持してくれ。俺もすぐに向かうから」
「あいあいさー! なのだ!」
鈴々は元気に頷くと、再び走り出し、敵の前線へとダッシュしていってしまった。本来ならば俺も前線に向かう所だが、この二人を部隊の連中に引き渡すまではここにいなくてはならない。
ともかく今はこの二人のことを……と老婆と少女に目を向けた。
特に、先ほど鈴々と言い合いをしていた少女を見て、
「?」
……大人……か。
心の中だけで苦笑する。
背の高さは鈴々とどっこいどっこいだろう。柔らかそうな髪を短く切りそろえたショートボブは女性らしくおしゃれに気を遣ってるのがわかる。顔立ちも幼く、スタイルもどこか幼児体型っぽい。人形のような可愛らしさはあるが、お世辞にも“大人の女の子”には到底見えなかった。
そんな感想をおくびにも出さず、俺は二人に声を掛ける。
「お二人とも、大丈夫ですか?」
「ああ、わしゃ大丈夫じゃ……あんたさんはわしらを助けに来てくれたのかい?」
「ええ。この近くには啄県の街がありまして。俺たちはそこから一軍を率いて来たんです」
「そうじゃったか、ほんにすまんのぅ」
老婆が安堵した表情でぺこりと頭を下げた。
「お気になさらずに。それにしても……救助出来て良かった。あなたたちよりも先を歩いていた移民の皆さんも我々の仲間が安全な所まで保護しています。もうすぐ俺の部隊が到着しますから、彼らについていけば、そちらに合流出来ますので」
「ご丁寧にどうも……それではお言葉に甘えることにするよ……さ、お嬢ちゃんや。一緒に行こう」
老婆が一緒に逃げてきた少女に声を掛ける。
しかし、少女は何故か先ほどからずっと俺の顔を凝視したまま動かず、
「お嬢ちゃんや?」
「はわ……っ」
もう一度声を掛けられてようやく我に返った。
そしてあらためて老婆が声を掛けたのだが、
「はわっ!? あ、えと、お婆さんは先に行っててください。私は、あの……」
少女は何故かこちらに再びチラッと視線を送ってくる。その様子からしてどうやら俺に何か話があるようだ。
そんな時、ようやく遅れていた部隊の兵士達がこちらに追いついてくる。
ふむ……。
「済まないが、このお婆さんを保護してくれ。関羽隊が保護した移民達の元までな。あと、お婆さんはかなりお疲れのようだから、無理をさせないように。いいな?」
「はっ!」
俺はとりあえず二人ほどの兵士に老婆の保護を頼み、
「残りは現在敵と戦っている張飛に続け! 俺もすぐに向かう!」
『応っ!』
残る部隊の兵士達を前線へと送りだした。
そしてこの場にはまだわずかばかりの形だけの俺の護衛の兵士と、俺と少女が残った。
「で、俺に何か用があるようだけど……出来れば手短に頼む。仲間の元へ向かわねばならないからな」
「あ、は、はいっ!」
あらためて声を掛けると、少女は顔を真っ赤にして緊張した様子ながらも、必死になって俺に問いかけてくる。
「その……貴方様は啄県の県令様ですかっ!?」
その声も緊張のせいか上擦っていて聞き取りづらかったが、内容は十分に理解出来た。
「ああ。若輩の身ながら、なんとかやらせてもらってるが……」
俺の返答に、少女の表情がぱあっと和らぐ。それはまるで、ずっと探してきた宝物をついに探し当てたような喜びの表情だ。
「やっぱり! 天の御遣いの方なんですねっ!?」
「……ああ。そうも呼ばれているが」
……あらためてそれを自分で認めるのは、やはりどこか気恥ずかしい。
しかし、移民の少女までその名を知ってるとなると……けっこう広まっているのかも知れないな。
そんなことをぼんやりと考えていた俺に、少女は突然、名乗り上げた。
そしてそれは……
「はわわっ! あ、あのっ! 私、姓は諸葛! 名は亮! 字は孔明と言いますぅ! どうか、貴方様の配下にお加えくださいぃっ!」
まさに青天の霹靂とも言える、とんでもないビッグネームとの出会いだった──。
あとがき
……ホントに原作通りだな(汗
未熟SS書きの仁野純弥です。
早々にぶっちゃけちゃうと、原作を知ってたら読まなくてもいいくらいに原作通りです、はい。
クロスオーバーで恭也が主人公なんだから、多少の変化があっても良いだろうと思うのですが……メインの三人が揃うまでは、さすがに原作からヘタに動かすことが出来ずに、こうなっちゃってます……期待してくれてる方々には申し訳ないです。
恭也がいるからこその変化というのは、もう少し後になってからとなりますので、ここは一つ我慢をしていただけると嬉しい限りです。
言い訳じみたあとがきだなぁ……(汗
最後に、ここまでこのお話を読んでくださってる読者の皆様と、SS公開の場をくださった氷瀬さんに最大級の感謝を。
では〜。
ついに軍師の参戦。
美姫 「流石の恭也もこのビックネームには驚きを隠せないわね」
まあな。三国志をあまり知らなくても名前ぐらいは、というぐらいだからな。
これは諸葛孔明の罠だ!
美姫 「はいはい、バカ言ってないの」
さて、メインの三人が揃った……。
美姫 「まだ完全に揃ったとまではいかないのかもしれないわね」
だな。だが、登場はしたという事で。
美姫 「これからどうなっていくのか、益々楽しみよね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」