このSSはとらハ3のALLエンド後、高町恭也大学一年のお話です。クロスオーバーSSですので、違和感だらけですが、気にしたら負けです(爆
涼子は、ある錯覚にとらわれた。
それは、自分の立っている場所が、高校の旧道場──剣道部だけでなく空手部や柔道部なども練習をしている都立高校にしては大きな武道場──であることを忘れてしまったかのように。
そこにいるはずだったのに。
涼子はまるで、断崖絶壁の縁に立たされてるような、絶望的な緊張感に襲われていた。
そう──
(これが……剣術使いの殺気……っ)
──目の前に立つ男、高町恭也によって。
『とらいあんぐる・リアルバウト 黒の剣士、乱入』
六の太刀
御剣涼子と高町恭也が手合わせを約束した翌日。
涼子は上機嫌で登校していた。
そんな涼子の後ろ姿を見て、そう評したのだが……上機嫌、という表現は間違っている。
これはむしろ、
「どうしたんです涼子さん? まるでこれから遠足に向かう小学生を彷彿とさせるような興奮状態っぽいですけど?」
武者震いをしている侍のようだ。
そんな彼女の様子に気づいた神矢大作が、昇降口へ向かうところの涼子に並びかけ、話しかけたのだ。それに気づいて振り向いた涼子の瞳は輝いていた──爛々と。
「どうした? そうね……今のあたしは午後──放課後に向けてテンションを上げてるのよ。徐々に精神を“昂らせて”いるのよ!」
「たかぶらせて……ですか」
「そう! あたしは今日の放課後、生まれ変わるのよ!」
「……そんな随分と具体的な時間指定での転生宣言をされても……」
涼子のテンションの高さは異常だった。その、あまりの高さには、自称涼子ウォッチャーである大作ですら圧倒される。普段からクールでありたいと思い、そう見せるように行動している涼子にしては珍しい姿だった。
「それにしても……生まれ変わるってことは、一度死んじゃうんですか?」
どこか呆れるような、大作の皮肉混じりのッコミ。しかし今の涼子にそんなモノは通用しない。
「そう……昨日までの弱いあたしは死ぬのよ! そして生まれ変わって再び剣を取る!」
「はぁ、そうですか。で、どうやって生まれ変わるんですか? 凄腕の剣豪にバッサリと斬られでもするんですか?」
「まあ、そんなところねっ」
「………………」
大作としては、あくまでもブラックジョークとして言った言葉だったのだが、それをまさか真っ向から肯定されるとは思っても見なかった。そんなリアクションに唖然とする大作をまったく気にすることなく、涼子は悠然と歩を進めていく。
(まあ、何も抵抗することなく斬られるなんてまっぴらごめんだけどね。あたしの全てを叩きつけてからよ!)
すでに涼子の気持ちは放課後の、恭也との“果たし合い”へと移行しているのだった。が、そこで涼子は不意に、とある事を思い出した。
それは──
「ちょっと、大作君? そういえば、あのバカは?」
「え……あ、はい。静馬さんですか?」
涼子の口から出る“あのバカ”といえば、草g静馬の事、というのは、この二人の共通項である。
唖然としていた大作はそこで我に返り、いつの間にか距離が空いてしまった涼子の元へ、小走りで駆け寄る。
「静馬さんが遅刻しないで来ることの方が珍しいのはご存じだと思ったんですけど」
「まあ、そうよね。じゃあ、大作君にお願いがあるんだけど」
「はあ、出来る出来ないはともかく、内容は伺いますけど?」
「放課後……あのバカを出来れば旧道場から遠ざけて欲しいのよね」
──今回の恭也との勝負に、余計な雑音を道場に持ってこられることだった。
涼子自身認めたくはないが、草g静馬という男が側にいると、自分のペースが保てなくなる事が多々ある。しかし、今回の勝負では自分の実力をいかんなく発揮して、それを恭也に見せつけなければならないのだ。今の涼子にとって、静馬はまさに“その障害”でしかないのだ。
だが、その涼子の願い事に、大作はあからさまな困惑の表情を見せる。
「ええ……? そんなこと言われてもなぁ。放課後の静馬さんの行動を制限するなんて僕には無理ですよ」
「そこをなんとかしなさいよ。あのケダモノを手懐けてるのは大作君だけでしょ?」
「……いつの間にか、僕は猛獣使いにジョブチェンジしていたんですねぇ」
苦笑いするしかない大作。
まあ、確かに草g静馬という人物を評するのに“猛獣”という例えは言い得て妙だった。大門の野生児たる彼は、誰にも飼い慣らす事が出来ないと思わせるパワフルさがあるのだ。
「だけど……本気で、今日の静馬さんは僕には抑えられないと思いますよ」
「今日の、ってどういう意味よ?」
「なんか漠然と、なんですけど……昨日の放課後から、静馬さんの様子がおかしいんですよ」
大作は昨日の放課後、静馬と共に町を歩いていた時のことを思い出す。
駅前の通りにある喫茶店に、静馬が敵視する教師──南雲慶一郎がいたのを発見した二人。その時の慶一郎は一人ではなく、連れがいたのだ。そして、その連れの姿を見た時から、静馬の様子がただならぬ様子となり、大作は首を傾げるばかりだったのだ。
「なんとなく機嫌が悪そうでしたし……今の静馬さん、何をしだすかわからなくて」
「ふーん……まあ、いいわ。一応放課後すぐに道場の方へ来ないように気を付けてくれればいいから」
静馬の変化に、涼子は特に興味を示すことなく、大作にそう言い含めておく。
いつもならば、もう少し静馬のことに反応を示す涼子らしくない様子に、
「……静馬さんもそうだけど、涼子さんもおかしい……放課後に何があるんだろ?」
大作は再び颯爽と歩を進めていく涼子の後ろ姿を見送りながら、放課後自分はどう動くべきかを悩むのだった。
一方その頃。
午前中は学校に行っても仕方ない恭也は、鬼塚家で掃除を手伝っていた。
しかし、メインで掃除をしているのは鉄斎ではなく、美雪だった。
美雪の年齢──13歳──をすでに鉄斎から聞いていた恭也は、義務教育中の彼女が本来なら学校に行っているはずの時間に、平然と家にいる姿に驚きはした。そして、彼女自身に恭也は自分の疑問をぶつけたりもした。
「学校に……行かないんですか?」
「……ええ」
そんな恭也の問いに対する、美雪の答えは素っ気なく、そして簡潔だった。
登校拒否、という言葉が恭也の脳裏に閃いたが、それにしては様子がおかしい気がした。そういう生徒はどこか後ろめたさを想起させる感情が見えそうなモノだが、美雪からはそれが感じられない。だからといって開き直ったような様子もない彼女を前にすると、恭也としては「学校には行った方がいい」なんて簡単に口にすることは出来なかった。
彼女がありのままに「行かない」と言う以上、行かないのが当たり前と思うような“何か”が彼女の通う学校にあるのだろう。そう感じた恭也はただ、彼女の掃除の手伝いをするだけだった。
しかし、現状が最良とは思うはずもなく、恭也は現在の美雪の保護者である鉄斎に話をしてみたりもした。美雪の祖父である鉄斎の考えを聞いておきたかったのだ。ただの下宿にしては踏み込んだ話だとは思った恭也だったが、放っておく事は出来ない。
「美雪の意思に任せておる……が」
「が?」
「慶一郎がなにやら動いているようでな。一応アレも似合いもしない教師の端くれらしいからな。アレに一任した」
「……そうですか」
鉄斎との話を終えた恭也は、納得して鉄斎がいた居間から出る。
自分と同じ、下宿の身である男──南雲慶一郎。鉄斎に聞いた話では、鬼塚とは遠縁の血筋である彼は十数年前にも鬼塚家に身を寄せていたことがあり、その時には美雪の母親──夫共々事故で数年前に亡くなっている──に世話になっていたらしく、その恩返しのため、とばかりに美雪のため、精力的に動いているらしい。
「あの人ならば、どうにかしてくれるだろう」
まだ、慶一郎と顔を合わせてからわずかな時間しか一緒にいないが、恭也は慶一郎に少なからず信頼感を持っていた。謎めいた部分を持っている男だが、決して悪ではない。油断ならない面を感じさせるが、歪んではいない。今まで出会った人間の中で、飛び抜けて底が見えない人物なのに、どこか気を許してしまう魅力を持った不思議な男だった。
「もし、俺に何か出来ることがあれば、手を貸せばいいだろう」
美雪のことに関しての自分のスタンスをそう結論づけた恭也は、午前中の掃除の後、鉄斎が用意してくれた昼食をとり、午後から大門高校へと向かうのだった。
そして、ついに、
「放課後ね!」
帰りのHRを終えたところで、涼子は抑えていた自分自身の高揚感を解放するかのように、自分の席から立ち上がった。
そして誰の制止も受け付けないとばかりに早歩きで、剣道部が活動する旧道場へと向かう。
そんな涼子の後ろ姿を見送りながら、涼子と同じクラスの神矢大作は溜息をつきながら、移動する。結局この日、一度も教室に姿を見せなかった草g静馬を探しに。
「一応……涼子さんからのお願いだし、やれるだけのことはやらないとね」
自称涼子ファンの神矢大作としては、なんだかんだで彼女の願いを無視することは出来ないのであった。
涼子は道場近くの更衣室で剣道着である袴姿に着替え、二つの竹刀袋──それぞれ竹刀と木刀が入っている──を持って旧道場へと向かった。
そして、道場の出入り口で一礼してから足を踏み入れると、
「……いた!」
涼子の目は、すぐさま道場の奧で剣道部顧問の弥永教諭、藤堂校長と話をしている恭也の姿を捉えた。すぐに駆け寄ろうとした涼子だったが、その三人の話し合いが、少しおかしいことに気づく。
「何か……もめてる?」
三人の様子が、話し合い、というよりは恭也が何かクレームを付けているように見えたのだ。
何があったのかと、涼子は様子を探るように三人に近寄っていった。
「ですから……俺は今回の一件を見せ物にする気は毛頭無いんですよ、藤堂さん」
「しかしね、この大門高校において全ての争い事は〈Kファイト〉で行うことになっているんだよ。郷に入りては郷に従う、という事で納得して欲しいのだが?」
「今回のことは、争い事ではないでしょう?」
「では、部活の範疇だと? しかしそれはおかしいだろう。君はまだ剣道部のコーチに関しては保留している。そして、御剣君は君にコーチしてもらう権利を勝ち取るために、これから闘うのだから。それを勝負と言わずしてなんと言うのかね?」
「…………」
「勝負、それは争いだよ。ならば、例外なくここは〈Kファイト〉で決着させねばなるまい。それが大門高の流儀なのだよ」
三人、というよりは、恭也と藤堂校長の言い合いである。その会話を聞いて、涼子は全てを察した。
すでに道場内にはいくつかのビデオカメラが設置され、数人の有志の生徒たち──Kファイト実行委員会──が会場づくりのため奔走している。
(相変わらず、校長も……抜け目ないわね)
涼子はその様子を呆れ八割感心二割で見ていた。
〈Kファイト〉。
それは、この大門高校内において乱立している格闘系サークルの、数少ない活動場所を巡るトラブル解消のために提唱されたシステムである。
それまでは活動場所を取り合うかのように小競り合いを校内の至る所で起こしていた。本来学校としてはそんなことを容認するわけにはいかないのだが、かといって練習場所が少ないという根本的な問題はどうやったところで解消出来るはずもない。そこで、その小競り合いをあえてしっかりとした野試合として、双方合意のルールの元で行い、公正な勝敗を決めて、互いに譲れなかったこともその勝敗に応じて、どちらかが権利を得て、どちらかが譲るという決まりを定める、という──つまりは学校公認の元でケンカをしてしまえ、というとんでもないシステムだった。
このとんでもないシステムの提唱者は誰あろう草g静馬であり、そんなとんでもないシステムを許可したのは、もちろん藤堂鷹王校長である。
そしてこの〈Kファイト〉には双方の遺恨が残らないよう、立ち会いをする第三者、戦いをしっかりと記録する撮影班、ファイトの邪魔をさせないための周囲への配慮。それらを一挙に担当する運営集団が、学年、部活動を問わずに集まった有志の生徒たち──〈Kファイト〉実行委員会である。
〈Kファイト〉の基本ルールは簡単で、勝負を挑まれた方が挑戦を受けた時点で勝負の方法を決める、というルールなのだ。そのため、必ずしも格闘だけの闘いにはならないのが、この〈Kファイト〉の面白い所である。実際に、かつてのKファイトの中には、将棋という競技での闘いもあったほどだ。
ちなみに、この〈Kファイト〉の“K”とは──もちろん“ケンカ”のKである。
結局恭也は、藤堂校長の詭弁──というか屁理屈に言葉を失い、半ば強引に〈Kファイト〉を了承させられた。恭也としては、御神の剣を衆目に晒すことに抵抗を感じ得ないのだが、ある程度自分の中で覚悟を決める。
(まあ、なんとかなるだろう)
そこへ、恭也に同情するような表情の涼子が歩み寄っていった。
「えっと……すみません。こんな形になってしまって」
「いや……君のせいじゃない。そもそも慶一郎さんの忠告を軽く見ていた俺の責任だからな」
「慶一郎さん……って、あいつ──じゃなくて、南雲先生のことですか?」
「ああ。偶然知り合ったんだ」
慶一郎の忠告──それは、
『藤堂校長にスキを見せるな。油断はするなよ』
という、簡潔なモノだった。恭也としてはその忠告は憶えていたし、スキを見せたつもりはなかったはずなのだが、気が付けば藤堂のペースにハマってしまっていたらしい。そんな自分を恭也は恥じている様子だ。しかし、恭也はもうそこは開き直る。
「まあ、過ぎたことを悔いていてもしょうがない。ここは開き直ってやらせてもらうさ」
「はい。わかりました」
恭也は微苦笑して、申し訳なさそうにしている涼子を逆に気遣った。そんな様子に涼子は、やはりこの青年は自分よりも年上なのだな、と実感する。
……どうにも涼子の周りには、年齢以上に子供っぽい同級生や大人になれてない大人が多すぎるせいで、逆に恭也の落ち着きっぷりが新鮮に見えたようだ。
「で、ところで高町さん」
「む?」
「着替えとかは……どうするんですか?」
あらためて涼子は恭也の姿を見る。
黒のズボンと長袖シャツ、そしてその上に濃いグレーの上着を羽織っている。
恭也は特に、これから闘うことを意識させない、ごく普通の服装だった。
対する涼子はすでに剣道着に着替え、臨戦態勢を整えている。
しかし、
「構わないですよ。俺のような剣術使いは、いかなる状況下でもすぐに戦えないと意味がないんで。服装に関しては気にしなくていいです」
「なるほど……」
恭也の言葉に、涼子は感銘を受けたかのように頷く。
日々、いかなる時でもすぐに戦闘者としてのスイッチを入れなければならないという剣術使い・恭也の心構えを涼子なりに感じ取ったようだ。
感心する涼子を余所に、恭也は話を進める。
「で、どうしましょうか?」
「え? どうするって何がですか?」
「さっき藤堂校長から聞きました。なんでも〈Kファイト〉というのは、勝負を挑まれた方が勝負の競技を決められるそうですね?」
「あ、はい。そうなんですけど……」
「ならば今回、この件に関して言い出したのは俺の方ですから、勝負方法を決めるのは君の方なのだろう?」
「あ……っ」
そこでようやく涼子も思い至った。
確かに恭也の言うとおりで、今回の二人の手合わせを〈Kファイト〉として扱う以上、そのルールには従わなければならない。そして今回の一件は恭也から提案したことなので、当然ながら勝負方法を決める権限は涼子側に発生する。しかし、突然そんなことを言われても、涼子としても困るところである。
元々これは、涼子が恭也に実力を認めてもらうための手合わせなのだ。当然、手合わせのルールは恭也に決めてもらうモノだと思っていた涼子としては、戸惑いは隠せない。
とはいえ、このまま戸惑ったままでは話も進まないということで、涼子は、
「じゃあ……こうします。勝負方法は『武器使用可・時間無制限一本勝負』で」
かつて、同じ〈Kファイト〉で草g静馬と勝負したルールで、恭也に挑むこととなった。
『──さあ、やって参りました本日メインイベント前に、よもやこのような美味しいファイトがあるとは……じゃなかった。今のはオフレコでー!』
オフレコも何も、実況席でマイクを使ってそれはないだろう。
『こほん! 気を取り直しまして! 皆様、お待たせいたしましたァ!』
自分の失言はさておいて、テンションをむやみに上げるような実況は、実況席にしっかと陣取る丸眼鏡の女子生徒のものである。
『対戦の準備が整いました、いつの間にか組まれた注目の一戦! 大門高のラストサムライ・御剣涼子の〈Kファイト〉となれば、注目しない方がおかしいでしょう! しかも相手は──っと、これまたビックリ! この大門高校ではお目にかかれない正統派美青年だ! これはどっちが勝利しても女生徒たちはたまったものじゃないぞ!』
試合場所に使われるのは、剣道の試合場。
その両端には、すでに臨戦態勢を整えた二人──涼子と恭也が立ち、対峙している。
『おっと、昂奮しすぎで放送席の紹介を忘れていました。実況はわたくし、放送部二年の中村環。解説はうさんくささでは他に追随を許さないグラサン親父、藤堂鷹王校長でお送りいたします!』
『……以前から思っていたのだが、君は校長である私をなんだと──』
『さあ、ではおっさんの戯言はさておいて、ここで今回の勝負のルール説明をしましょう! 今回のルールは御剣選手の希望により、今回は“武器使用可・時間無制限一本勝負”となります! ギブアップあり、武器の使用あり、打撃技、投げ技、関節技、ダウン攻撃あり。しかし、急所及び背面への攻撃は禁止となります』
そして、実況からのルール説明がなされている中、会場となった旧道場にはどんどんとギャラリーが増えていた。〈Kファイト〉実行委員会が旧道場に入っていったのを見た生徒たちが、騒ぎを敏感に察知して野次馬として集まり、さらに道場内で部活動にいそしんでいた他の武道系サークルの面々も、今回のマッチメイクが“あの”──剣道部のホープにして草g静馬と互角以上にやり合える女傑である──御剣涼子の試合と言うことで、いやがおうにも注目を集めていた。
『さて校長! ここでまず、今回の御剣涼子選手の対戦相手を教えて欲しいのですが! あの美青年はいったい何者なんでしょうか?』
『ふむ、では説明しよう。彼の名は高町恭也。今回、期間限定で剣道部の特別コーチとして招聘した青年だ』
校長の説明に、一部──剣道部の女子部員たち──から黄色い声が上がる。どうやら恭也は早くも、部員たちの心を掴んだようである。
『しかし、条件面で少し難航していてね。現在この件に関しては保留なのだが……』
その下りで、剣道部女子部員たちがいっせいに藤堂校長にブーイング。
『そこで、今回の勝負で御剣くんが高町君に対して、実力をアピール出来れば、コーチを引き受けてもいい、という条件が出されて、今回の勝負となったわけだ』
さっきのブーイングは即刻消え失せ、今度は女子部員たちの声援が涼子に向けられる。その、あまりに露骨な声援に、涼子は苦笑するしかなかった。
『なるほど。で、この高町選手の実力は?』
『こちらは事情があって詳しい話は出来ないが、実力に関しては疑う余地はないね。この現代日本ではめっきり数は減ったが、実力はトップクラスの“剣術使い”だよ』
『剣術使い? それは剣道の選手とは違うんですか?』
『簡単に説明させてもらうのなら、剣道とはあくまで剣術から派生したスポーツとして発展を遂げた競技。剣術とは、純粋な総合武術──いや、高町君の言葉を借りるのならば“殺人術”と言えるモノだ』
『…………』
校長の物騒な説明に、実況の中村が思わず息を飲んだ。
『まあ、彼の洗練された技術に御剣君の剣道と我流で培った戦闘能力がどれほど通じるのかが、今回の闘いの楽しみと言えるだろうね』
校長の試合前の解説が終わり、俄然試合前の二人に視線が集まる。
涼子は剣道着を着ているモノの防具は付けず、袴姿のまま背筋を伸ばして立っていて、愛用の赤樫の木刀を杖のように切っ先を床にたてて、今は恭也を見据えたまま精神を集中させている。
一方の恭也はというと、カジュアルな服装のまま。得物は黒の木刀だが、普通の木刀とは違うことに涼子は気づいていた。
(あの長さは脇差し……じゃないわね、となると小太刀か。それに二刀流とは、また随分と特徴のある流派ね)
恭也が左右の手にそれぞれ持っている木刀は、涼子の持つ通常の木刀よりも短い。それは、剣術においてはもっとも守りに適していると言われる小太刀を模したモノだった。
涼子の探るような視線を受けている恭也はただ、感情を感じさせない眼差しで涼子を見ていた。
その無機質な視線に、涼子は気圧されるモノを感じたが、それを表には出さない。
(闘う前からビビってちゃ話にならないわ。ここは気合いで!)
涼子は気合いを入れ直して、恭也の視線を真っ向から受け止め、恭也をにらみ返す。
そんな視線の応酬で高まる緊張感の中、試合スペースの中央に、人影が現れた。普段ならば〈Kファイト〉の審判を務めるのは、実行委員会の人間なのだが、今回は両方とも剣の使い手ということもあり、ジャッジは剣道部顧問の弥永教諭が務めることとなったのである。
ジャッジの登場に、盛り上がる観客。
「両者、前へ!」
弥永の声に、二人は静かに反応し、ゆっくりと試合スペースの中央へ。
弥永は二人にルールの確認と、使用武器である木刀のチェックをしてから、再び二人に間合いを取らせる。チェックの間、涼子は恭也を気合いの入った瞳で睨みつけていたが、恭也は終始、涼しげな瞳を涼子に向けていただけだった。
二人は再び試合スペースの端と端に離れ、対峙した。
涼子はいつ、始まってもいいように木刀を正眼の構えを取る。
一方の恭也はというと、
「……?」
右手に持っていた小太刀型の木刀を左脇のズボンのベルトに納めたのだ。まるで昔の侍が鞘に刀を納めるかのように。
あまりにもわかりやすい意思表示。
恭也は、自分が二刀流の剣士であることを誇示しておきながら、それでも涼子を相手にするなら、二刀は必要ないと、その態度で示しているのだ。
(面白いじゃない……なら、なんとしてもその二本目の木刀を出させてやる!)
涼子はさらに気合いを入れた。
そして──
「それでは…………始めっ!」
──弥永のかけ声と共に、涼子の挑戦が。
そして、恭也の〈Kファイト〉デビュー戦が幕を開けた。
まずは、迂闊に飛び出すことなく、自分の構えを崩さずに相手──恭也の出方を見る涼子。
しかし、
(なによあれ……あまりにも──)
恭也は出方も何も、まるでやる気を感じさせない姿を見せていた。二刀流の小太刀の一本は腰のベルトに挟んだまま。もう一本は左手で持ってはいるモノの構えることもなく、だらりとぶら下げるように持ってるだけ。ただただ普通に立って涼子を相変わらずの無機質な眼差しで捉えているだけ。
ぶっちゃけて言えば“隙だらけ”だった。
現役の剣術使いという紹介と、おとといの夜に垣間見せた実力からして、どう考えても挑発しての誘いであるのは明白だ。
だが、涼子はここで覚悟を決める。
(元々これは、あたしが高町さんに挑む闘い……あたしの実力を見せることで認めてもらわないとならないモノなんだから。ここで睨み合うのは愚策よねっ)
本来の闘いであれば、相手があからさまに誘ってる状況で無策のまま突っ込むのは、頭のいい選択ではない。しかし今回は状況が異なるのだから、と涼子はあえてここは自分から仕掛ける。
じりじりと、摺り足で間合いを詰める。
「…………」
そんな涼子の動きの変化を当然察知している恭也ではあるが、表情を変えず動きも全くない。
しかし、そんな二人の間合いが徐々に詰まってる事実は観客にはわかりにくく、「いつまで睨み合ってんだよーっ」「さっさとやり合えよ〜っ」などというヤジも飛び始めるが、涼子の耳にはそれは届かない。涼子は焦らずに間合いを詰める。
そして、最初こそ少なかったヤジがかなり増えてきたその時。
「はぁぁぁぁっっ!」
涼子が動いた!
一足飛びで一気に間合いを詰められるくらいの距離まで詰めたところで、涼子が仕掛けたのだ。
鍛え上げられた蹴り足で床を蹴って一瞬で自分の射程距離に恭也の頭を収め、容赦なく上段から木刀を振り下ろす。唸りを上げた木刀は、直撃すれば恭也の頭をいとも簡単に砕く程の威力を秘めている。
だが、
がきっっっっっっっっっ!
「く……っ」
「…………」
涼子の渾身の一撃を恭也はいともあっさりと、左手の小太刀型木刀で受け止めた。二人の木刀の衝突音の激しさに、飛び交っていたヤジが消えるほどだ。
そのままつばぜり合いになるかと思ったが、恭也が振り払うかのように小太刀を振るって涼子を後方へと下がらせて、再び二人は間合いを取った。
そしてまた睨み合う二人は今の、たった一合だけの打ち合いで、二人はそれぞれに手応えを感じていた。
(見た目は筋肉質には見えないのに、随分と力があるわね……あたしの渾身の上段を左手だけで受け止めるなんて。それに、さっきの振り払いにしても、こっちは気を抜いてたワケじゃないのに……)
涼子はその外見からでは判断のつかない恭也の筋力の高さに内心で驚いていた。
一方の恭也はというと、
(剣道の腕は相当だな。あの上段は見事の一言に尽きる。それに、木刀でのあの一撃……普通に剣道で修練を積んでいる人間なら木刀で生身の人間を打つ場合、多少の躊躇があるモノだが彼女にはそれがない。この手の痺れからして木刀の扱いにはそれなりに慣れている、というわけか。二年ほど前の赤星レベルよりもあるいは上か?)
冷静に涼子の力量を分析していた。
赤星──恭也の学園時代の親友であり、現役の剣道選手である赤星勇吾の二年前より上、と恭也は判断したが、これは驚くべきポイントである。二年前……学園の二年生だった頃の赤星は個人戦でインターハイベスト16になってる猛者である。それは、今の涼子の実力が剣道では全国レベル──しかも男子の──に達しているということなのだ。
それは、常識の範囲で考えればとんでもない話である。
しかし、涼子は今のレベルでは納得出来ないのだ。
彼女の望みは全国大会を制する事ではないのだから。
二人の闘いはなおも続いていた。
『おおーっと! 御剣の烈火のごとき連続攻撃が唸りを上げる! 上段、胴打ち、下段、袈裟斬り、突きと、バリエーション豊かなコンビネーションで高町を追い立てる! 謎の美形剣士高町は終始防戦一方だ!』
確かに実況の言うとおり、展開は一方的な涼子の苛烈と表現していい連続攻撃。そして恭也が完全に防御に回っている。この展開を一見すると、涼子が圧倒しているように見えなくもない。しかし、決して見た目通りの実力差でないことを理解している人間が、この場に四人いた。そのうちの一人が──
『確かに高町君は攻めてはいないが、御剣君優位かと言えば、決してそうではないな』
──解説席の藤堂校長である。
『と言いますと?』
『御剣君の攻撃は確かに凄まじいが、見たまえ。高町君は試合開始時に立っていた場所から一歩たりとも下がっていない。いや、その場からまったく動いていない。彼はその場に根を下ろしているかのごとく動かずに御剣君の攻撃を全て受けているのだよ。これは言うほど簡単な事じゃない』
その解説に、ギャラリーから感嘆の声が上がり、あらためて観客たちは恭也の立ち位置に注目した。そして、校長の言うとおり彼がまったくその場から動いていないと言う事実に畏怖の視線を送るのだった。
そして、校長の解説を聞かずとも恭也の力量が半端ではないと感じていたのは、まだいる。
それが、今回の勝負の審判役を引き受けた剣道部顧問弥永教諭である。
彼は剣道五段、そしてわずかながらではあるが、剣術道場にも入門していた時期がある凄腕でもあるのだ。そんな彼だからこそ、恭也の実力には寒気すら感じていた。
(校長の解説は間違ってはいない。だが、彼はただ受けているだけじゃない。御剣の並はずれて強烈な攻撃を全て、自分の腕にダメージを残さないために“受け流している”ってことだ。それは並はずれた技術と、御剣の攻撃の先の先まで読みきってなければ出来る芸当じゃない。あの若さでこれほどの技術と洞察力……こりゃ、とんでもないな)
これで、二人。
そして、残る二人は言うまでもないだろう。
闘っている本人たち二人である。
涼子は休むヒマを与えずに連続攻撃を繰り出し続けていたが、その展開とは裏腹に、彼女は実は“追い詰められていた”のである。
(なんなのよもうっ! こっちは渾身の攻撃を繰り出してるのに……一向に手応えないし。今はまだあたしが攻撃を続けているからいいけど……もし、ここで攻撃を止めて、あっちに主導権を渡したら、と思うと……)
涼子は背筋に薄ら寒いモノを感じる。
元から、相手の方が力量は上だと思ってはいた。
しかし、それでも……自分の全力をぶつければ、高町恭也という男の力量の高さを感じ取れるとは思っていたのだ。
しかしそれは大きな間違いだった。
涼子は攻撃すれば攻撃するほど、恭也の実力の底が見えなくなっている。
涼子は今更ながら、目の前の得体の知れない男の実力に恐怖を感じ始めていた。
そして、恭也はというと、
(なるほど……大体の実力は掴めたし、そろそろ潮時だろう)
涼子の実力は完全に把握し、今の涼子の心理状態も見透かしていた。
このまま放っておけば、涼子は力尽きるまで攻撃を続けかねない。
なので恭也の方から、この“膠着状態”を崩しにかかる──。
「ふっっっ!」
涼子の袈裟斬りが途中で軌道を変化させて上段に変わり、恭也の脳天を狙う。しかし恭也は驚くことなくその攻撃を迎えた。しかし──
「え……っ?」
「…………」
涼子が戸惑いの声を上げてしまう。
それまで自分の攻撃を見事なまでに受け流していた恭也が、この攻撃だけはしっかと木刀で受け止めたのだ。木刀同士の重い衝突音が久しぶりに道場内に響き渡った。
そして久しぶりのつばぜり合いの形になりながら、涼子は困惑している。
(なんで……? 今のは受け流せなかった? そんなはずは──)
その違和感の正体を涼子が思い至る前に、その“変化”は訪れた。
涼子の視界が、突然“傾いた”のだ。
「なっっ!?」
目の前の恭也が、そしてその背後の光景までもがどんどん傾いていく中で、ようやくその原因に涼子は思い至る。
傾いているのは周囲ではない。自分であると。
(しまった! これは足払い……っ)
完全に死角となっていた足下を文字通り“掬われた”涼子。しかし気づいたのが足払いをされた後では気づいても意味はない。涼子は見事なまでに床の上で転がされた。
無様なまでに態勢を崩された涼子は、次に来るであろう恭也の反撃をどんな状況でも凌いでやると言わんばかりに立っている恭也を見上げ、腰砕けながらも木刀を構える。
しかし、
「…………」
恭也は動かない。
ただただ、試合前から変わらない、感情を感じさせない瞳を涼子に向けるだけだった。
足払いで相手の態勢を崩して、攻撃するというのは当然の動きのはずなのだが、恭也はそれをしなかったのだ。
そんな恭也の真意が読めないまま、涼子はこれ幸いとばかりに床を転がるようにして恭也の間合いの外へと逃れてから、立ち上がった。
恭也はその間も、攻撃を繰り出すこともなく、ただ涼子の動きを視線で追っているだけだった。
『おっとぉ? 抜群のタイミングで足払いを決め、絶交の反撃のチャンスを作った高町ですが、みすみすとそのチャンスを見送ってしまった。逆に御剣は最大のピンチから逃れたことになりますが……校長。彼にはどんな意図が?』
『はてさて。こればかりは本人に聞いてみないことにはね。で、どうなのかね高町君?』
藤堂がマイク越しで恭也に疑問をぶつける。
そのやりとりを涼子は黙って聞くことにした。その疑問は彼女自身も気になるところだからだ。
恭也は、ふぅ、と一息吐いてから、答えを口にする。
「俺にとって見れば、これは勝負だとは思っていませんから。勝とうと思えば、ここまで時間をかける意味はありません。あくまで今回は、御剣さんの実力を把握するという目的がありますから」
恭也の言葉に、実況の中村をはじめ、ギャラリーの面々も驚きを隠せず、道場内にはどよめきが広がっている。〈Kファイト〉でありながら、勝負ではないと言われては、生徒たちが驚くのも無理はないだろう。
『では、今回は彼女の勝つつもりはないと?』
校長の問いに、恭也はどう答えるのか?
ギャラリーたちの注目が集まる。
ここでもし、恭也がその問いに頷くならば、これほどの茶番はない。
しかし、
「いえ」
恭也は首を横に振った。
「勝負そのものを有耶無耶にする気は毛頭ありませんよ。そもそも、今回彼女と打ち合う理由は二つ。一つは先ほども言いましたが、彼女の実力を把握すること。そしてもう一つは──」
恭也はここでようやく、腰に差していたもう一本の木刀を右手で取り出した。
「──彼女が学びたいという“剣術”というモノの怖さを体験させるため、ですから」
恭也の言葉と、ようやく取り出した二刀流の二本目の木刀の出現にギャラリーがどっと湧いた。
得体の知れない剣士が、ようやくその実力の一端を見せると知って、誰もがその強さがいかほどのモノなのかと好奇心を覗かせているのだ。
そして、それを楽しみにしているのは解説の藤堂も、そして審判役の弥永も一緒である。
しかし──
(ついに、来るっ)
──ただ一人、恭也と相対する御剣涼子だけは、そんな楽観視が出来るはずもない。
これまでの攻防だけでも、涼子は目の前の青年に底知れない恐怖を感じ始めているのだ。そこへ、ようやく恭也は“剣術”の怖さを見せるという。
〈Kファイト〉開始前は、二本目の木刀を使わせてやると意気込んでいた涼子だが、そんな気持ちはもうなくなっていた。いや、むしろ怯えない方がどうかしているだろう。
しかし、
「御剣さん」
「え……?」
ここで恭也が、涼子に直接声をかけた。
「俺はここまでで、君の実力を見させてもらった。君の“剣道”の腕は相当のモノだ。女子剣道の個人レベルなら、間違いなくトップクラス──それも、学生の枠をなくしても、その評価は変わらない」
突然の恭也の、自分を褒め称えるような評価に涼子は戸惑い、ギャラリーはあらためて涼子に対し感嘆の声を上げた。
しかし、恭也の言葉には続きがある。
「それでも、事が“剣術”になれば、話が違う」
「う……」
「これまでの打ち合いで、君が感じている恐怖を俺は理解している。だからこそ、ここで言っておく。無理をする必要はない。君はこれからも剣道を頑張ればいいんだから。君が“剣術”を諦めてくれるなら、ここでギブアップするべきだ」
「…………」
恭也の言葉は優しく、決して涼子を挑発したモノではないことは、彼女自身が一番理解していた。
その恭也の勧告に、頷いてしまいたい自分が心の中にいることも認める。しかし、
(でも、あたしは……あたしは──っ)
涼子の脳裏に浮かぶのは、一昨日の夜の出来事。
親友を攫われ、単身乗り込んだ先でチンピラのような連中を撃退出来なかった自分。
その不甲斐なさを。
涼子自身が許せなかった。
その気持ちは…………残念なことに、ここで今恭也に対して感じている恐怖以上に、強く煮えたぎっていたのだ。
だから、涼子の答えは変わらない。
「ありがとうございます。ですが、あたしの気持ちは変わりません。なんとしても、剣術を身につけて、強くなりたいんです!」
そう宣言し、涼子は再び木刀を構えた。
その涼子の言葉に、ギャラリーが再び湧いた。
闘いがまだ続くことに観客たちが喜んでいるのだ。
『御剣涼子はなおも試合の続行を希望! さすがは大門高校最強の剣士! それでこそ大門の名物サムライガールだぁっ!』
実況がさらに会場を盛り上げ、その隣では藤堂校長が満足げに頷いていた。
しかし、そんな中でただ一人。
「……そうか。では、仕方ないな」
うつむいていた恭也だけは呆れ気味の溜息をつく。
「君が先ほど感じていた俺への恐怖は、人間の中にわずかに残されている生存本能による警告だった。しかし君は自らの意思でそれを突っぱねた」
恭也は淡々と言葉を紡ぐ。
感情を感じさせない声色で。
「ならば俺は、君がとった選択が、いかに愚かなのかを──」
ざわめく試合スペースの中で、ハッキリと告げる。
「──君自身の心身に刻み込んでみせよう──」
そして、うつむいていた顔を上げた時──。
──道場内の空気が一変した。
ざわめいた観客たちは、あまりの雰囲気の変化に声も出せず、誰もが硬直していた。
実況の中村でさえ言葉を失い、解説の藤堂の頬には冷や汗が一筋流れている。
審判の弥永は、突然の緊張感に喉がからからになり。
そして、顔を上げた恭也の視線を真っ向から受けた涼子は、
(嘘……でしょ?)
まるで死人のように顔面蒼白になっていた。
試合開始前から感情を感じさせなかった恭也の瞳に、ここで初めて一つの意思を感じさせる色が灯った。
それは、明確すぎる殺意。
そう。恭也はここで初めて殺気を込めた視線で涼子を射抜くように見据えたのだ。
御剣涼子は、ある錯覚にとらわれた。
それは、自分の立っている場所が、高校の旧道場であることを忘れてしまうような。
自分の通い慣れた道場の中にいるはずだったのに。
涼子はまるで、背後は奈落の底という断崖絶壁の縁に立たされてるような、絶望的なまでの緊張感と恐怖感に襲われていた。
そう──
(これが……剣術使いの殺気……っ)
──目の前に立つ男、若き剣術使い高町恭也によって。
あとがき
第6回の投稿ですが……随分と長くなってしまいました(汗
すっきりとバトルメインで始めようと思ったのですが、存外にバトルの前のやりとりが長くなってしまったのが敗因かな、と。
今回から苦手であるバトル描写も入り、今まで以上に読みにくくなっていますが、次もまた読んでいただけたら幸いです。
では。
うおぉぉぉぉっ!
美姫 「いや、急に叫ばないで」
いや、だって!
遂に恭也が攻撃かと思ったら、次回!
くぅぅ、こんないい所で区切るなんて、さすが。
美姫 「まあ、確かにね。でも、涼子は本当の殺気を当てられ、どうするのかしらん」
うんうん。本当にどうなるのか、手に汗握る展開。
美姫 「早く続きが読みたいと言うアンタの気持ちも分かるわ」
だろう! 次回も、次回も楽しみに待っています!
美姫 「楽しみにしてますね〜」