このSSはとらハ3のALLエンド後、高町恭也大学一年のお話です。クロスオーバーSSですので、違和感だらけですが、気にしたら負けです(爆











 きぃぃぃぃんっ!

 金属同士が激しくぶつかり合い爆ぜる音が飛天神社の境内に響き渡る。

「ほぉ……」

 抜刀した鉄斎の刀と飛び込んだ恭也の八景が交わった瞬間、鉄斎は小さく感嘆の息をもらした。
 そして恭也はと言うと、

(……ここまでとは……)

 一合交えただけで二つの事実に気づく。
 一つは鉄斎の剣術──飛天流──を見誤っていたこと。鉄斎を一目見て強いと感じていた恭也ではあるが、鉄斎は見たとおりの老齢で、その剣術スタイルは力に頼らない技と洞察力に特化した剣だと予測していた。しかし、実際の鉄斎の剣は……

(完全に力と速さに特化した剣……あの年齢でここまでの打ち込みが出来るなんて……)

 そしてもう一つ気づいた事実。
 それは………………鉄斎は恭也をはるかに凌ぐ、今まで出会った中でもおそらく最強の剣士であると言うこと。












『とらいあんぐる・リアルバウト 黒の剣士、乱入』

三の太刀










 ──十五分後。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「うむ……なかなか楽しめたぞ」
「あ、ありがとうございました…………」

 恭也は片膝をつき、肩で息をしつつ鉄斎に礼をし。鉄斎はその礼に鷹揚に頷いて応えた。
 二人の打ち合いがどうなったのかは、その姿で一目瞭然だろう。
 最初の十分間は恭也にあえて攻めさせて、その攻撃を全てかわし、いなし、弾いた。
 そして残り五分間は逆に鉄斎が攻撃に回った。

(今、生きてるのが不思議なくらいだ……)

 恭也にそう思わせるほど、鉄斎の攻撃は苛烈を極めた。
 二刀流で、しかも日本刀の中でも守りに適していると言われている小太刀であるにも関わらず、恭也はこの手合わせで幾度も死を覚悟したくらいである。
 鉄斎の剣は強く、速く、そして美しかった。
 恭也は今まで、自分より強いと思う人間は確かに存在したが、鉄斎ほどの強さは初めてだった。
 そう……自分の記憶の中にいる士郎よりも強いと確信できる相手は。
 今回はあくまで死合いではなく、軽い手合わせということで、恭也は神速を使わなかったが、使っていてもおそらくは勝てなかっただろう、と恭也は見ていた。
 自分にとって濃密すぎる十五分間を振り返っているうちに、息も整い、恭也は立ち上がる。
 そんな恭也を見据えたまま、鉄斎は白木の鞘に刃を収めながら、ぽつりと呟くように言う。

「恭也。お前、右足に故障を抱えておるな?」

 それは問いかけ、というより確認に近い質問だった。
 自分としてはそういった素振りを見せないように動いていた恭也だが、それでも見破られてしまったらしい事に、恭也はさほど驚かなかった。

「はい。昔、事故にあって右膝を砕いたことがありまして。今も完治してません」
「そうか……治るのか?」
「ついこの間までは、完治することはないと言われてましたが、今の主治医は完治出来ると断言してくれましたので。可能性はあるかと」
「そうか」

 鉄斎の言葉は短かったが、どこか安堵するかのようなモノが含まれていたような気がした。
 そして鉄斎は家へ戻ろうとしたが、その前に恭也が声を掛ける。

「あの……鉄斎先生!」
「ん?」

 鉄斎は振り返らずに足だけを止めた。

「よろしければ、この先もお手合わせを願えないでしょうか?」
「…………」

 そして恭也の言葉に一瞬驚き、そして、

「気が向いた時は、相手してやろう」
「……ありがとうございます」

 そう返事して家に戻った。

(あれだけやられても、臆することもないとは……さすがはあやつの息子と言うことか)

 家に入る際に、鉄斎の口元がわずかに緩んでいたのを見たのは、ずっと二人の打ち合いを遠目から見ていた美雪だけであった。













 旅の疲れと、鉄斎との手合わせで疲れた恭也はその夜、ぐっすりと眠る。
 そして恭也が熟睡している頃、某ギャグマンガの名物キャラクターのお面をつけた大男がヤクザの組を一つ丸ごと潰していた。
 恭也はまだ、その事実は知らない。











 そして翌日。
 充分な睡眠で疲れもとれた恭也は、日課の早朝トレーニングをしていた。
 軽く神社の周辺を走ってきた後、境内で小太刀型の木刀を握り剣術の型を一通りやっていると、恭也は一つの気配を察知し、動きを止めた。早朝にも関わらず神社に客というのは珍しいだろう。
 しかし、それ以上に恭也には気になったことがあった。

(この気配は……? もしかして昨晩の?)

 気配の質に覚えがあったのだ。
 恭也はわずかに緊張しつつ、その気配の主の登場を待つ。おそらくその気配の主も恭也の存在を気取っているのは明白だが、あちらは気配を消すわけでもないので、恭也も特に警戒はしていない。
 そして間もなく、石段を登ってきた男の姿がはっきりと視認出来るようになって、恭也は小さく驚いた。
 そこにいたのは昨晩の公園で少しだけ顔を合わせた大男──南雲慶一郎だった。
 ただ、恭也が驚いたのにはワケがある。慶一郎の気配は察知していたので、彼が登場すること自体は予想通りだったが、彼が手にしているモノが、あまりに慶一郎には似合わないモノだったからだ。

「やっぱり昨日の……どうしてここに?」

 先に慶一郎から出た疑問は、まんま恭也の疑問でもあったので、恭也は思わず苦笑してしまう。

「今、同じ問いをぶつけようと思ったんですが……先に聞かれたので答えます。昨日からこちらの神社の宮司さんのお宅に下宿しているからです」
「下宿!? 君も!? 聞いてないぞ、そんなこと……」

 驚き、目を見開いた慶一郎は「それくらいは教えろよ……あのひとは……」と渋面になって、ここにいない鉄斎に向かって文句を言う。
 そんな慶一郎の様子から、恭也は彼こそが鉄斎の言っていた居候であることを確信した。
 恭也はまず、一度頭を下げてから、自己紹介を始める。

「ご挨拶が遅れました。俺は高町恭也。昨晩より鬼塚家に厄介になっています。よろしければお名前を伺ってもよろしいですか?」
「ああ、それはどうも、ご丁寧に。俺は南雲慶一郎。君と同じで鬼塚家の居候だ」

 二人はそれぞれ名乗り合ってから、よろしくと言い合い、お互いを慶一郎さん、恭也と呼び合うようにすることを決めてから、言葉を交わす。

「しかし……昨晩も言ったが、大したモノだな。その若さで随分な腕だ。しかも得物は剣とは……鉄斎先生の所に弟子入りでもしに来たのかい?」
「いえ。昨晩は成り行きで手合わせはしていただきましたが、一応自分にも背負ってる流派があるものですから、飛天流を学ぶわけにはいかないので」
「そうだったのか。でも……」

 慶一郎はしげしげと恭也の姿を見て意外そうな顔をした。

「あのヒトと剣を交えた割には、無傷だな」
「加減して頂きましたので。本気でしたら、俺はすでに死んでます。ところで……もしかして慶一郎さんは飛天流の?」

 恭也の疑問に、慶一郎は苦笑を返す。

「俺が剣士に見えるかい?」

 慶一郎の問い返しに、恭也は躊躇なく首を横に振った。

「いえ……俺が見る限り、慶一郎さんは無手の武術家かと」
「まあ、そんなところだ」

 そんな会話の中でも二人はそれぞれの力量を見定め、推し量っていた。

(先生と打ち合って無傷……しかも、適度に手加減してもらえると言うことは、かなり気に入られたな。だとすれば、相当だな。それに、今までのやりとりでも俺の間合いはしっかり計ってる所を見ると、まんざらアマチュアでもないか)
(見れば見るほど、底が知れないな。まるで難攻不落の城を前にしているようだ。鉄斎先生といい慶一郎さんといい、ここは凄い人間が集まる場所なのか?)

 二人はそれぞれの強さを認めつつ、警戒心はほとんどなくなっていた。
 少なくとも、敵となる要素はないと判断したからである。

「そういえば昨晩襲われていた生徒さんの連れから伺ったのですが、慶一郎さんは大門高校の教師だとか」

 慶一郎はその恭也の問いに、照れくさそうな笑みを浮かべた。

「まあ、自分でも場違いとは思っているんだがな。数日前から赴任したばかりなんだ」
「……もしかして大門高校は、普通の学校ではないんですか?」
「普通……とは言い難いな。なにしろトップがまともじゃないから」
「トップというと、藤堂校長ですか?」
「あのヒトを知ってるのか?」
「実は……」

 そこで恭也は自分がこの街へ来た理由を簡単に説明する。すると、慶一郎は呆れたような溜息を漏らしながら、同情するかのように恭也の肩に手を置いた。

「お前さんも災難だな。あんなタチの悪い大人につき合わされるとは」
「タチの悪い? それは?」
「あのヒトは都立高校を私物化しているとんでもないヒトでね。教師の人選や学校の運営方法なんかはほとんど自分の趣味で決めている酔狂な人物なんだ。お前さんを持ってきたのも、おそらくは御剣あたりを教育させる気なんじゃないかな?」

 慶一郎の言葉に、恭也はあらためて今回の仕事がただのコーチ業ではないのでは、と考えるようになる。どうやら恭也をスカウトした藤堂は、見た目通りに胡散臭い人物なのかもしれない。しかしそれと同時に、悪いことにならないだろうとも見切っている。実際問題、慶一郎のような人物が藤堂の下で働いているのだから。
 ただ、恭也の中で一つ気になることがあった。

「ミツルギ?」
「ああ。今の大門高校の剣道部にはちょっと変わった部員がいるんだ。多分、校長は恭也をあいつにぶつけてみたいんじゃないかってね」

 慶一郎はそれ以上語ることはなく、

「さて……話はこれくらいでいいか? 俺はこれから台所にコレを置いて、一風呂浴びて、学校に行く準備をしたいんだ」
「俺もそろそろ切り上げます」

 恭也を連れて鬼塚家に戻る。
 その際に、恭也は気になっていたことを訊いてみる。

「その、慶一郎さん?」
「うん?」
「市場にでも行って来たんですか?」

 慶一郎が手にしていたモノ──魚の尾鰭がはみ出ているビニール袋──から推察したらしい。

「まあな。築地はいいモノが集まるからな。出がけのついでに買ってきたんだ」
「そうですか……」

 恭也は他にも訊きたいことがあったのだが、迷った末に訊かないままにした。

(出がけのついで……なら、その用事とはなんだったのか……)

 慶一郎の穿いているアーミーパンツにわずかに付いていた血痕と、慶一郎が脇に挟むようにして持っていたセルロイド製のお面が謎だったのだが、何故か恭也は訊かない方がいい気がしたのだ。






















あとがき
 三話目の投稿です。
 リアルバウトを知らない読者の方だと、不可解なポイントがあったかと思いますが、そのあたりは次回以降の話の中で明らかにしていこうと思いますので、ご容赦を。
 次回からは、恭也が大門高校へ顔を出します。



やっぱり鉄斎は強いな〜。
美姫 「うんうん。にしても、魚の入ったビニール袋に返り血って」
あははは〜。
ともあれ、いよいよ恭也が大門高校へ。
美姫 「一体、そこで待っているものとは!?」
次回も非常に楽しみです。
美姫 「本当に待ち遠しいわね」
こんどはどんな話なんだろうか。
美姫 「次回も待ってますね〜」



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