このSSはとらハ3のALLエンド後、高町恭也大学一年のお話です。クロスオーバーSSですので、違和感だらけですが、気にしたら負けです(爆












『とらいあんぐる・リアルバウト 黒の剣士、乱入』

二の太刀




 公園の茂みに身を潜め気配を殺しつつ、殺気の発生源らしき場所を見る。

「っ!?」

 公園の広場には人が八人ほど。女子高生らしき、制服の少女が二人。どこかの高校の制服らしきモノを崩して着ている、色黒の少年。そしてあとは同じような人種。ぱっと見て、不良と言うことが当てはまりそうな少年が五人。男達は揃っていい体格をしていた。
 不良達のリーダーらしき男が一人の女子高生を組み敷いている状態で、残る四人は色黒の少年と対峙している。もう一人の眼鏡をかけた少女は色黒の後ろで怯えていた。色黒の少年は木刀を持ち、相対している四人はそれぞれトンファーや特殊警棒などで武装している。見る限り、女子高生二人を色黒の少年が助けに来た。恭也はこの場の状況をそう見ていた。

(ケンカにしては、随分物々しいな……)

 どう考えても、不良連中の方に正義はなさそうだ。しかしそれでも、恭也はそこに乱入する気はなかった。

(あの色黒の少年……かなりの腕だな)

 恭也の言う、色黒のバンダナを巻いた少年は武装した四人の男に囲まれているにもかかわらず、不敵な笑みを見せていた。それはあたかも獰猛な猛虎のイメージを恭也に持たせる。しかも、そこらにいるケンカ慣れとも違う、独特の闘気を発していた。
 そして、不意に四人がバンダナの少年に襲いかかる。少年は木刀を振り回しながら迎撃する。少年の木刀捌きは素人剣法そのものだと言える。しかし、本人の格闘能力がずば抜けているのだろう。木刀での攻撃で相手の武器を封じた上であとは蹴りなどで次々と男達を倒していく。ほんのわずかの時間で四対一は二対一に変わっていた。その様子を見て顔色を変えたリーダー格の男は組み敷いていた人質らしき少女を放して、後方にあるバンに駆け込んだ。

(仲間を残して逃げる気か?)

 恭也の読みははずれた。リーダーは何かをバンから持ち出したらしく再びその広場に戻ると、その“持ち出したモノ”を構えた。

(あれはっ!?)

「静馬ァ! 危ない!!」

 組み敷かれていた少女が叫ぶ。

「死ねや、草gィィ!」

 パァン

 公園にやけに乾いた、銃声が響き渡った。













 結果、銃弾は少年── 草g静馬には当たらなかった。天才的な反射神経で交わしたのか、それとも銃弾がたまたまはずれたのか。しかし、その拳銃でその場の優勢は逆転した。それまで押していた静馬は拳銃にはかなわないと見て、木刀を放して無抵抗のポーズを見せる。それを見て、静馬の相手をしていた四人はダメージがありつつも起きあがり、静馬を袋叩きにし始めた。

(限界……だな)

 先ほどまでならケンカということで恭也も手出ししようとは思わなかったのだが、拳銃などと言うものが出た時点でこれはケンカではない。恭也は茂みから、ゆっくりと姿を出した。

「それまでにしておくんだな」
「あア!?」

 抑揚のない声にその場にいた全ての注目が集まった。拳銃を持っているリーダー格の男が、突然現れた青年── 恭也を睨みつける。

「なんだてめえは?」
「クズに名乗る義務も義理もない。お前らのやってることはすでにケンカの領域を越えているな。その拳銃、こちらに渡してもらおうか?」

 そう言って、ゆっくりと男に近づく恭也。
 リーダーと恭也のやりとりに、その場にいた者全てが……さっきまで威勢良く暴れていた少年──静馬ですら見入っている。

「近づくなっ! 死にてえのか!?」

 恭也に銃口を向ける。しかし、恭也の足は止まらない。

「やれるモノならやってみるんだな。どうせ、当たりはしないが……」

 蔑みの混じる恭也の言葉に触発されて、男が引き金を引く。が、弾丸は恭也にかすりもしない。
 恭也自身、相手が拳銃の扱いに慣れてないのは一目で分かっていた。実戦を経験している恭也にとって、そんなことは簡単に見抜ける。男が撃った直後、恭也は素早い動きで一気に男との間合いを詰め、男の拳銃を持っていた手を蹴り上げる。

「ぐあっ!」

 拳銃は男の手を離れ、弧を描いて恭也の手に収まる。恭也は慣れた手つきでそれを掴むと、銃口を残る四人に突きつけ、

「動くな。動けば撃つ」

 感情を感じさせない声で四人を制する。さらにもう片方の手にはいつの間にか投擲用の小刀が握られていて、それはリーダーの男の喉元に切っ先が向けられている。一瞬にして、恭也が男五人を制してしまったのだ。
 完全に硬直した男五人を睨みつつ、

「そろそろ、あなたにお任せしてよろしいですか?」

 恭也は自らの後ろの空間に向かってに話しかける。そこには誰もいないのに……と静馬や少女達が思っていると、

「……まさか気づいてるとは、な」

 野太い声のすぐ後に、誰もいないと思っていた恭也の背後から大きな人影が現れる。
 優に二メートルを超える大男だった。グレーのTシャツを押し上げる胸板は装甲のように分厚く、脇にだらりと下げた両腕は惚れ惚れするほどに太い。どっしりと地面に根を下ろしたような両足にはアーミーパンツを穿き、編み上げのブーツで足元を固めている。

「な、南雲……?」
「せんせい?」

 静馬と、組み敷かれていたポニーテールの少女── 御剣涼子がその男を見て呟く。

「その若さで、大した腕だな」
「あなたほどではないです」

 恭也はそう言ってから当たり前のように近寄ってきた大男、南雲慶一郎に拳銃を渡した。
 慶一郎の存在には、リーダー格の男と対峙したときから気づいていた。そして、彼が自分と敵対する人間でもないことも。殺気のようなモノを感じてはいたが、それは自分ではなく、例の五人組に向けられていたから。そして、男を見たときにその懐の深さを垣間見て、判断したのだ。そして、対面したときに恭也は目の前の大男が自分よりも遙かに上の戦闘能力を持っていることを察知していた。
 慶一郎は慣れた手つきで拳銃──トカレフを操り、五人組をその場で並ばせて正座させていた。その光景はどこか、鬼軍曹と新兵たちを彷彿とさせるモノがあった。
 なにをするか、それは恭也なりに予想は付いていた。慶一郎の顔は怒りの表情こそなかったが、目には冷徹な光が灯っていた。

(あの人は連中を無事に帰す気はないみたいだな。まあ、自業自得だが)

 同情する気も起きず、恭也は襲われていた少女達の方に歩み寄った。そこには先ほどの少年達の他にもう一人、少女と見間違うほどの美少年が三人の世話をしていることに気が付いた。どうやらその少年があの大男を呼んでいたらしい。そして少年達は恭也のことに気が付く。

「あ……」
「そちらの三人は、怪我は? 応急処置くらいなら俺にもできるが」

 恭也の問いかけに答えたのは、例の美少年だった。

「あ、涼子さんとひとみさんの二人に関しては大丈夫です。精神的にちょっとショックを受けてるようですけど」

 そして恭也はいまだに地面に大の字状態で寝ているバンダナの少年の方を見て、

「彼は?」

 問う恭也に、美少年はにっこり笑って、

「ああ、大丈夫ですよ。ふてくされてるだけですから」

 大したダメージではないらしかった。

「そうか」

 恭也は安堵して微笑した。その笑顔に、眼鏡の少女── ひとみが赤面したのはもちろん恭也は気づかない。

「ところで、助けていただいた上に失礼と思いますが……強いですね〜。何か格闘技か何か、やってるんですか? もしかしてバイパーズの新加入者とか? あっと、申し遅れました。僕は大門高校二年B組の神矢大作と言います。以後、お見知りおきを」

 美少年、神矢大作の質問混じりの自己紹介を受けて、恭也は目を丸くした。大作が大門高校の生徒だと聞いたからだ。

「こちらこそ。俺は高町恭也。今日初めてこの街に来て、この場に出くわしただけの者だ。バイパーとか言うのがなんのかは知らないが多分違う。格闘技はやっていない」

 律儀に大作の質問に答える恭也。

(嘘は言っていないだろう。『格闘技』はやっていないからな)

 恭也の修めているのは格闘ではない。人を殺める、殺人術である。格闘技とは趣がまるで違うのだ。

「もしかして、ここにいるのは四人とも大門高校の生徒なのか?」
「はい。そしてあっちにいる人間の領域を越えてる大男が僕らの担任の南雲慶一郎先生です」
「先生……か」

 恭也は少し離れたところで不良グループになにやら説教している大男、南雲慶一郎を凝視する。とてもじゃないが、教師という職が連想できない。もっとも不似合いとすら思えた。













 その後、恭也は大作達に礼を言われ恐縮しつつ、その場を離れた。もうすでに下宿先に行く約束の時間が迫っていたからだ。大作は恭也の存在そのものに興味津々で何かと質問してきたが、怪我人もいるということを思い出させ、煙に巻いた。結局大作達四人は慶一郎にタクシー代をもらってその場をあとにした。
 その後の不良五人の運命は知る由もないが、多分五体満足では帰れないだろう。慶一郎の目は剣呑としていて、瞳の奥には怒りの炎が垣間見えたからだ。それを同情する気は更々ないが。
 恭也は住所を探しつつ、目的の場所に着いた。長い石段の先には鳥居がある。
 ここが恭也の下宿場所である「飛天神社」だった。














 恭也は石段を登り境内にたどり着く。しかし、すでに当たりは暗く、当然参拝客もいない。恭也は社の裏にある鬼塚邸に足を向けた。
 玄関前に着き、呼び鈴を鳴らすと突然扉が開いた。そこにはレンや晶と同年代くらいの色白の少女が立っていた。

「……誰?」

 感情を感じさせない、ぶしつけな言葉だったが、恭也は律儀に答える。

「今日からこちらでお世話になる高町恭也です。鬼塚鉄斎さんはご在宅ですか?」

 恭也の言葉に少女はこくんと頷くと、なにも言わずに家の中に入っていく。

(これは……ついてこい、と言うことなのか?)

 判断しかねて立ち止まっていると、奥の方から小さな……それでいて響く声で、

「……早く」

 と急かされた。どうやら恭也の思ったとおりらしい。恭也は慌てて靴を脱ぎ、それをちゃんとそろえてから少女の後を追った。
 少女に通され、着いたのはこの家の居間らしき部屋。畳張りの和室に恭也は正座していた。しばらくすると、部屋に一人に老人が姿を見せた。
 身長はおそらく一八○センチを越えるくらい。作務衣にも似た和装に身を包んでいる。体に一本の鉄の芯が入ったかのように背筋は伸びており、白髪は背中まで届くほどだ。老人特有の弱々しさは欠片も見られず、むしろ常に周囲を威圧するような空気すらまとっている。

(……この人か)

 恭也は誰に言われるまでもなく、目の前の老人こそが藤堂の言う「士郎が勝てなかった人間」であることを理解した。
 老人が座ったのを見計らって、恭也はゆっくりと頭を下げる。

「お初にお目にかかります。永全不動八門一派・御神真刀流師範代高町恭也です」
「堅苦しい挨拶はいい。面を見せい」

 にべもなく言う老人── 鬼塚鉄斎の言葉に多少面食らいつつ、恭也は顔を上げて鉄斎と対面する。そうして数瞬の顔合わせの後、口の端をわずかに上げて笑った。

「ふっ、あの士郎に子供がいたとはな。藤堂の話を聞いたときにはにわかに信じられなんだが、確かにあやつの息子のようだな」
「……父と死合ったのですか」
「ふむ、今の貴様くらいの年頃だった。アレはこの現代にしては珍しい、侍の心を持った男だった。惜しむらくは我が飛天流の剣士ではなかったことだがな」
「……」
「まあ、その話は後にしよう。今日から我が家に泊まるのだろう?」
「はい。今日からよろしくお願いします。これはつまらないモノですが……」

 恭也は荷物から『翠屋洋菓子詰め合わせセット』の箱を取りだし、鉄斎に差し出す。鉄斎はそれを受け取ると、誰かを呼び寄せる。部屋に来たのは先ほどの少女だった。少女は鉄斎の横に座る。

「孫の美雪だ」

 鉄斎に紹介されたにもかかわらず、頭を下げるでもなく表情を変えるでもなく、微動だにしない。

(感情表現が苦手なのだろうか?)

 そのことに関しては自分も同じようなモノなので、特に気にすることもなく、恭也は美雪にお辞儀をした。

「あともう一人居候がいるのだが、それは明日にでも顔を見せるだろう」

 鉄斎の話はそれで終わった。そのあと美雪の案内で恭也が世話になる部屋を案内され、恭也は久しぶりに腰を落ち着けた。











(ふぅ、何とも精神的に疲れる一日だったな)

 今日一日を思い返し、恭也は嘆息した。出てくるまでもひと騒動あったが、こちらに出向いてすぐにあんなことが起きるとは思わなかった。

(東京では、あんな少年達が簡単に拳銃を所持できるのか……)

 そう思うと、こっちで落ち着いてから家族や友人を呼ぼうと思っていた考えも、考え直す必要がありそうだ。










 その後、恭也は鉄斎、美雪と共に夕食をいただいた。この家は食事中は会話しないのがルールなのか、食卓は静かだった。元々自分から会話を切り出すことのない恭也としては、この静けさを甘んじて受け入れるしかなかった。
 その後、恭也は鉄斎に断り、境内を借りて夜の鍛錬を始めた。
 敵を想定しての素振り。二刀の小太刀「八景」を様々な剣筋で振る。その姿は無駄がなく、剣舞を思わせる。しばらく続けていると不意に気配を感じて、恭也は素振りを止めた。

「……なにか?」

 現れた気配の主に声をかける。
 姿を見せたのは、飛天神社の宮司鬼塚鉄斎だった。

「なかなか良い剣気だ。腕が見たい。打ってこい」

 鉄斎の手には一振りの白木の木刀……ではなく、それが白木の鞘に収まった真剣であることに恭也は気づく。

「……よろしいのですか?」

 この問いには実は二つ理由がある。一つは美雪の存在だ。
 実は鍛錬を始めてすぐ、恭也は視線を感じていた。それは美雪だった。新しい居候のやることに興味を示したのか、遠目からじっと恭也の鍛錬を覗いていた。その美雪の前で真剣の斬り合いを見せるのは刺激が強すぎるのでは、というのが一つ。
 もう一つはいわゆる遠慮だろうか。話を聞くと、鉄斎は現在道場を閉めているとのこと。現在の肩書きは神社の宮司である。その鉄斎に剣の鍛錬の相手をしてもらってもいいのか。
 恭也が考えてるのはそんなところだ。
 しかしそんな考えを鉄斎は一蹴する。

「構わん。道場は閉めているが、ワシは現役の剣士だ。美雪のことも気にしなくていい」

 こちらの考えは全てお見通しのようだった。
 恭也はわずかに苦笑を見せてから、すぐに表情を引き締め、二刀を構えて鉄斎を見据える。

「それでは…………お願いします」
「ふむ……楽しませてもらうぞ」

 鉄斎は恭也の闘気を感じたのか、口の端をわずかにあげて不敵な笑みを見せてから、納刀したままの剣を腰だめに構える。いわゆる居合い・抜刀の構えだ。

(隙がない……何を仕掛けても揺るぎようのない構えだな。こっちを迎撃する気か。それともこっちの初太刀をかわして打つ後の先か。どっちにしろ……俺が仕掛けるしかないか)

「ふっっ!」

 恭也は爆発的な瞬発力で一気に間合いを詰めて鉄斎に攻撃を仕掛けた。
















あとがき
 二話目の投稿です。
 今回のお話でリアルバウトの読者さんにはわかっていただけると思いますが、恭也が入った時間は小説版の最初の頃です。
 ここから、恭也がどのように大門高の面々と関わっていくのか、楽しみにしてもらえたら幸いです。
 では。



バトル開始直前で次回!
美姫 「次回はバトルなのかしらね」
あの士郎を打ち破った剣士の実力とは!?
美姫 「色々と楽しみね〜」
うんうん。美雪はやっぱり美由希と同じ発音なのかな。
美姫 「まあ、多分そうだと思うけれどね」
だとすれば、恭也は彼女を呼びにくいかもな。
美雪ちゃんって。
美姫 「そんな事はないって」
まあ、別人だしな。
美姫 「そうそう。さて、次回はどうなるのかしらね」
もう一人の居候も出てくるのかな、ワクワク。
美姫 「早くも待ち遠しいわね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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