このSSはとらハ3のALLエンド後、高町恭也大学一年のお話です。
クロスオーバーSSですので、違和感だらけですが、気にしたら負けです(爆















『とらいあんぐる・リアルバウト 黒の剣士、乱入』

一の太刀




 その殺気を感じ取ったのは、池袋駅の改札を抜けて、目的地へ歩き出してしばらくしたときだった。

「……これは?」

 進行方向にある道の先には広い公園らしき場所が見える。そして青年、高町恭也が感じ取った殺気もまた、その公園から感じ取ったモノだった。
 恭也は愛用のクリップオン時計に目をやる。
 約束の時間まではまだ、若干の余裕があった。

「ふむ」

 恭也はほんの数瞬ほど思考し、行動を決める。

(一応、様子だけでも確認するか)

 恭也は気配を殺しつつ、その公園へと向かった。













 高町恭也が池袋にいる理由を語るには、二週間ほど時間をさかのぼる必要がある。




 暖かい陽気が気持ちいいゴールデンウィークに入ったばかりの昼下がりだった。
 その日、母桃子と高町家の姉的存在であるフィアッセは仕事。家族同然の、妹的存在である二人、晶とレンはそれぞれ友人と出かけている。妹であり弟弟子でもある美由希は、恭也と共通の友人である神咲那美とデートだ。
 そして家に残ったのは特に用事のない恭也と、すっかり仲良しになった子狐の久遠と家で遊んでいる末妹のなのはの三人(?)だけである。
 恭也は最初こそ、趣味の盆栽の世話をしていたが、途中可愛い妹であるなのはと久遠にせがまれ、今は庭で二人の遊び相手になっている。
 そんな穏やかな休日に、それはやってきた。












 遊び疲れたのか、縁側でうとうとしてるなのはと久遠を寝かしつけようとしたとき、家のインターフォンが鳴った。そこで眠気が飛んだなのはが、慌てて玄関に向かおうとしたが、恭也はそれをやんわりと止め、代わりに、と自分が玄関に向かった。

「はい、どちらさまでしょう?」

 特に扉の向こうに殺気も悪意も感じなかったので、とりあえず扉を開けて相手を確認する。
 そこには、怪しい男が立っていた。
 その男を視認すると共に、恭也は警戒心を強めた。さすがに殺気をぶつけたりはしなかったが、一瞬今の自分の装備してる武器を頭の中で確認したくらい、目の前の男はうさんくさかった。
 黒を基調としたスーツを着た、がっしりした体型の中年だった。どこか嘘臭い威厳を醸し出している、サングラスをかけた男だ。

「高町恭也君、だね?」
「……どちらさまでしょう?」

 恭也は相手の問いかけをあえてもう一度同じ質問をすることで返す。間違いなくこの男は初対面の相手にも関わらず、自分を知っている。恭也はさらに警戒を強めた。

「私はこういうモノだよ」

 中年は不敵な笑みを見せつつ、懐から一枚の名刺を取りだし、それを恭也の前に出す。恭也はそれを受け取る前に、目でその名刺に書かれている内容を確認した。

『東京都立大門高等学校校長 藤堂鷹王』

 結果、恭也の警戒心はさらに強いモノとなった。恭也の考える学校の校長と目の前の男はあまりにかけ離れすぎている。
 恭也が警戒を解こうとしないのを見て、中年──藤堂鷹王は苦笑した。

「信じてはもらえないか。決してウソではないのだがね」

 どこか含みのある言い方。まるで、校長ではあるが……それだけではない、とでも言いたげな。

「どうやら士郎君以上のしっかり者のようだな、君は」

 不意に出た、今はもういない父の名前に恭也は表情にまでは出さないモノの、内心で驚いていた。

「……父をご存じなのですか?」

 藤堂は表情を引き締めた。

「葬式に参列できなかったのは申し訳なかったがね。当時は海外にいたので、訃報は聞いたのだが……」

 沈痛な面もちで語る藤堂。

「彼には十年近く前に、一度護衛してもらったことがあってね。彼は私の命の恩人なのだよ」
「そう、ですか」

 恭也はいまだに警戒を解いたわけではないが、それでも目の前の男が嘘をついてるわけではないと思った。それは恭也の勘と言ってもいい。しかし、恭也は自分の勘には自信を持っている。はずれたことがないから。

「立ち話もなんですから、入ってください。今、お茶の用意をしますので」
「いや、今は遠慮しておこう。実は先にやりたいことがあってね。君に案内して欲しいのだよ」
「案内、ですか?」
「ああ……士郎君の眠る場所に、連れて行ってくれないか?」











 高町家からそう離れていない、町を一望できる高台に墓地はあった。
 恭也は藤堂を連れて、高町家の墓にやってきていた。
 そして藤堂はその案内を受ける道すがら、士郎と自分の出会いと関わりを詳しく話していた。かつて、趣味でしていた情報収集で裏社会のある情報を手にしたことで、マフィアに命を狙われたこと。その時知人から紹介を受けて護衛してくれたのが士郎だったこと。彼の人柄に好感を持ち、友として飲み明かしたことなど。話を聞いていた恭也からすると、

「とーさんらしい」

 と思えるエピソードばかりだった。だからかもしれない……この藤堂という男に悪意はないと思えたのは。
 墓地に着く前に、恭也は和菓子屋で豆大福を。藤堂は酒屋で大吟醸の一升瓶を購入してから墓地に赴いた。
 墓の前にそれぞれのお供え物を置いてから、恭也は一歩引いて藤堂の後ろに立つ。先に藤堂に士郎と話をしてもらうためだ。藤堂は恭也の気遣いに軽く笑みを返してから、墓に向き直る。先に購入していた線香に火をつけ、墓にたてる。そしてサングラスをはずしてから手を合わせた。恭也からは死角になっていて、藤堂の素顔は見えない。

「久しぶり……だね。随分素晴らしい環境で眠ってるようだな。そのことに関しては安心したよ。しかし、いくら何でも早すぎだろう……そちらに行くのは。まだ君にはあのときの恩を返しきっていないと言うのに……」

 藤堂の語りかけを恭也はただ黙って聞いている。

「以前君は、『どうせ死ぬのなら剣士として、好きな人間を守って死にたい』と冗談交じりに言っていたが、本当にそんなことになるなんてな。正直私はその通りにはなって欲しくはなかったんだが。皮肉なモノだよ。君のような男が死んで、私のような憎まれモノが生き残るんだからね」

 藤堂は空を見上げた。その先にいるであろう男を見つめるかのように。

「私が訃報を聞いて最初に心配したのは君の自慢の家族のこと。そして御神流のことだったよ。君が死んだとき、子供達はまだ若かったからな。生活も大変だろうと思い、君の奥さんに援助を申し出たんだがね、即座に断られたよ。さすが君の奥さんだと、その時は思った」

 それは初耳だった。そして恭也もまた桃子らしいと思うと同時に、そんな桃子を誇りにも思った。

「そして、御神流は君がいなくなった時点で断絶したと思ったよ。何しろその時、君の自慢の息子は小学生だったからね。しかし……」

 そこで藤堂は再びサングラスをかけ直す。

「嬉しいじゃないか。君の息子さんは君の技と志を見事に受け継いだようだな」

 そこで藤堂は振り返り、恭也にサングラス越しの視線を合わせた。

「藤堂、さん?」
「まったく、なかなか情報がつかめず苦労したよ。昨年のクリステラソングスクール主催のチャリティコンサート。その最初の開催地、海鳴の事件」
「……」

 恭也は表情を崩しはしないが、内心舌を巻く。

(……この人は知ってるのか?)

「香港マフィアが暗躍してることは掴んだが、それを阻止した人間が誰なのか、それを掴むのに一年近くかかってしまった」

 昨年のあの事件。恭也と美由希が関わったことは、関係者の中では極秘扱いになっていた。にもかかわらず。

「そして、その時間をかけたことは間違いではなかったよ。まさか、あの事件の最大の功労者があの『御神流』の剣士だと聞いたときには」

 藤堂がにやりと笑った。宝物を見つけた子供のような、それでいて、同時に何かを含ませた策士のような、そんな笑い。

「恭也君。今日、ここにきた理由は二つ。一つは士郎君に会いに来たこと。そしてもう一つは、君に仕事の依頼を持ってきたのだよ」

 途中の話の流れでそんな予感はしていた。恭也は特に動揺することもなく、話を促す。

「護衛の仕事、ですか?」

 恭也の言葉に、藤堂は首を横に振りつつ、顔を笑みで歪めた。さっきとはうって変わって邪気だらけの笑みだった。

「そんな無粋な話じゃない」

 その後、藤堂が場所を移そうと言って一時話を打ち切り、二人が移動した場所は「翠屋」だった。










「いらっしゃ……って、恭也?」

 振り返って、対応したウェイトレスは見目麗しい英国人。恭也の幼なじみのフィアッセだ。

「ご苦労様」

 恭也は一言、労いの言葉をかけ、後に続く藤堂と共に四人がけの席に座る。するとすぐにフィアッセが注文を取りに来る。

「いつもの」
「翠屋シュークリームセットを」

 二人は迷うことなく注文し、フィアッセは笑顔を残して厨房に向かった。

「彼女か。士郎君と君が守った大切な女性……フィアッセ・クリステラ嬢とは」
「ご存じでしたか」
「君のことを調べ上げたときより前からな。私はクリステラソングスクールの東京公演を見に行ったのでね。あの舞台で彼女の歌声のファンになったのだよ」

 藤堂の言葉に、恭也は破顔する。

「本人に言ってやってください。喜びます」

 他愛のない話を交わし、注文した品が届くと、藤堂が話を切りだした。

「是非、君に我が校に来てもらいたいんだ」
「我が、校?」
「忘れたのかね? 私はこれでも高校の校長だということを」

 そうだった。そのあまりにかけ離れた姿に失念していたが、恭也が受け取った藤堂の名刺には確かにそう書かれていた。

「しかし……来いと言われても、自分はすでに高校を卒業しているのですが?」
「別に生徒として来てくれと言ってる訳じゃないよ。我が校の剣道部、そこの特別コーチとして招きたいんだ」
「剣道部の、コーチですか?」

 恭也は目を丸くした。藤堂は自分が『剣道家』ではなく『剣術家』であることを知ってるはずだ。ならば……。

「もちろん、君が剣術使いであることは理解しているよ。その上で頼んでいるんだがね」
「……」

 正直、恭也は気が乗らない。自分の、御神の剣は人目にさらすモノではない。それを美由希以外の人間に伝える気は今はない。しかも、自分は剣道に関しては素人に近い。

「もちろん、今の君に対して、それなりの環境を用意してはいるがね」
「用意、ですか?」

 恭也の言葉に藤堂が不敵な笑みを見せた。

「まず今、君が通っている大学だが……君がコーチを受けた場合に限って、その期間内のみ通信制にしてもらえるようにしてある。さらにもちろんこの仕事には報酬がある。概算としてはコレくらいだが」

 と言って、藤堂が書類を差し出す。そこには、コーチを受けた場合の雇用条件が事細かに記されている。それにはもちろん給与形態などの条件も書かれているが……。

「こんなに?」

 そこに書かれた給料の額は、公立高校の教職員の給料よりもはるかに多い額が提示されていた。
 確かに聞けば、それは破格の待遇かも知れない。それでも恭也の心はまだ、藤堂の希望には傾かない。しかし、次の藤堂の言葉に、恭也の心は大きく動くことになる。

「そして、コーチを引き受けた際の君の特典だが……君は現在、誰かに御神流を教わってるわけではないね?」
「はい」
「まあ、それは仕方ないと思う。そして、だ。人に聞いた話なんだが、剣の稽古にしてもやはり自分よりも上の実力者につけてもらえば腕は格段に伸びるらしいね」
「まあ、その通りかと」

 恭也の答えに、藤堂は満足げに頷く。

「そこで、だ。君が我が大門高校に来てくれるのなら、君には下宿先を紹介する気でいる。そしてその下宿先の家主は、剣士だ。しかも……」

 もったいぶったように一つ、区切りを入れてから藤堂は言葉を続けた。

「あの士郎君でさえ勝つことができなかった凄腕だ」
「っ!?」

 恭也の驚きの表情に、藤堂は「我が意を得たり」とばかりに笑う。
 恭也の驚きはその藤堂の笑みに気づかないほどだった。かつて、二人で旅をしていた頃は、何度か士郎の戦いぶりを見たことはある。しかし、士郎は誰にも負けたことはない。恭也からしてみれば、士郎こそ最強の存在であるのだ。その士郎ですら勝つことができなかった剣士。その言葉に、恭也は並々ならぬ興味を抱いた。

「それは、本当ですか?」
「君が信じられないのも無理はないだろう。が、嘘ではないよ。さらに言えば、嘘かどうかは確認できるだろう?」
「……」
「君自身の剣で、な」

 何となくではあるが、恭也は藤堂の言葉に嘘はないと思い始めている。そしてなにより、自分自身の剣でそれを確かめたいと思う自分も。恭也は右膝の爆弾もあり、自分が「御神の剣士」としては完成しない。そう思っていた矢先、昨年の春に知り合った主治医から「膝が治る」との言葉を受けてからは、自分が剣士として強くありたいと思ってることを再認識していた。だからこそ、今回の藤堂の誘いは正直、なにより魅力的だった。
 だが……

「正直、ここですぐは決めかねます。時間をいただけませんか?」

 その言葉に、藤堂は頷いた。

「できれば、GW中に返事をもらえるとありがたい。決めてくれたら、名刺にある私の携帯番号にかけてくれたまえ」

 そう言うと、藤堂は席を立った。いつの間にかシュークリームは全て藤堂の腹に収まっていたらしく、皿の上は空になっている。

「噂以上のうまいシュークリームだった。これを食べただけでも、ここに来た甲斐があったよ」
「……母も喜びます」

 藤堂はテーブルの上に万札を一枚置いていく。

「おつりは……?」
「いや……それはシュークリーム代と、今日一日つき合ってもらった礼だ」

 藤堂は振り返ることなく、翠屋を出ていく。
 恭也はただ、藤堂が出ていった翠屋の出入り口を見ていた。










 その日の夜。
 深夜の鍛錬を美由希一人に行かせ、恭也はダイニングで桃子と向き合っていた。

「で、どうしたの恭也? 鍛錬を休んでまで、話したいことがあるなんて」
「まず聞きたいんだが……この人の名前に見覚え、もしくは聞き覚えはないだろうか?」

 恭也は桃子に藤堂からもらった名刺を差し出す。

「あら、誰なの? 東京都立大門高校校長、藤堂鷹王? ……どこかで聞いたことが」
「ご本人の弁だと、とーさんが死んだあと、うちに援助を申し出たらしいんだが」
「……ん? ああ、思い出した!」

 桃子がぽんと手を叩く。

「そういえばあのとき、そんなことを言ってくれる人がいたわね。確かに藤堂さんだったわ」
「そうか」

 藤堂の話に偽りがないかどうか、確認したかった恭也は、桃子の反応を見て、一つ安心した。

「実は今日、その藤堂さんが来ていたんだが、俺に仕事を頼みに来たんだ」

 恭也の言葉に、桃子の顔が真剣な表情に変わる。

「仕事って、ボディガードの?」
「いや、実は……」

 恭也は藤堂からもらった雇用契約の書類の写しを見せつつ、藤堂の仕事内容を話した。

「あらまあ、随分といい条件のお仕事ねぇ」
「確かに……」
「でも恭也はこの条件よりも、その下宿先が魅力みたいね」
「……」

 桃子には全てお見通しのようだ。

「で?」
「……?」
「恭也はどうしたいの?」

 そう。そこが問題だった。

「わからない……というのが正直なところだ。確かに魅力的な話だがこれだけ長い時間、家を離れるというのは……」

 雇用条件に記されている恭也の雇用期間は最低でも一学期終了時まで。最低でも三ヶ月は高町の家を空けることになる。家族をなにより大切にしている恭也からすると、それほどの時間を空けるのは正直不安が残る。今ではすっかり腕を上げた美由希や、レン、晶などの手練れが家にいるとはいえ。

「でも、恭也は行きたいんでしょ?」
「……」
「なら、行けばいいじゃない。恭也?」

 桃子が恭也の目を見て話す。恭也も桃子の目から視線をはずさずに聞く。

「あんたが家族を思うのは嬉しいけど、たまには自分のわがままを通してもいいと思うわよ。美由希だって強くなってるんでしょ?」
「……ああ」

 決して美由希の前では褒めたりしない恭也だが、美由希の最近の上達ぶりは認めざるを得ない。

「だったら、あんたは弟子を信じて、自分のやりたいことをやってきなさい」
「かーさん……」

 桃子の言葉に、恭也は頭を下げる。

「ありがとう」

 桃子の言葉で恭也は心を決めた。











 その後恭也はGWいっぱいを使って美由希をしごき、その上で家族、友人一同にしばらく海鳴を離れる旨を伝えた。その時にひと騒動あったのだが、それはまた別のお話。







 こうして、御神流剣士高町恭也は東京都立大門高校の剣道部特別コーチとして招聘されたのであった。














あとがき
 初投稿となります、未熟SS書きの仁野純弥と申します。
 以前、コレと同じ『召還教師リアルバウトハイスクール』と『とらハ3』のクロスSSを読んで、真似してみようと軽い気持ちで書きはじめた作品です。
 最初は表に出さずに封印しようと思いましたが、「多くの人に読んでもらいたい」という欲求に駆られ、ある程度の形を整えてこちらに投稿させていただきました。
 こちらのHPの読者さんのお眼鏡に適う自信はありませんが、読んでいただけたら幸いです。



まずは、投稿ありがとうございます。
美姫 「ございます」
リアルバウトはそんなに詳しくないんだけれど…。
美姫 「それでも、充分に楽しめそうね」
うんうん。それにしても、とても上手な文だな。
美姫 「誰かさんとは大違いよね」
ほっとけよ…。
美姫 「続きがとても気になるわね」
確かに、次回が気になって仕方がないな。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待っています。



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