デュアルセイバー
トライアングル
Ep
02 『来訪者』
「根の世界アヴァター」に存在する王立フローリア学園には「救世主育成クラス」という特別クラスがある。
そのクラスは、1000年に一度現れる『破滅』と呼ばれる存在に対抗し得る、「救世主」を育成する事を目的としている。
そのため、救世主の素質の在る者を「救世主候補」として異世界より召喚し、破滅が現れた際、即座に対応できるように教育するのだ。
無論、これは強制ではなく、あくまで要請でしかない。
しかし、要請を断わる者は少なかった。
救世主候補が生まれる世界は、何らかの問題を抱えている事が多い。
故に、その問題を解決する為、或いは問題から逃避する為に、アヴァターに行くことを選ぶという。
現在、王立フローリア学園救世主育成クラスのメンバーは、
学園長リリィ・ハリウッドの一人娘、『ミア・ハリウッド』に、
双子の召喚師『リコ・リス』と『アイ・リス』。
そして最近召喚された、ここに居ない三人だ。
そして、彼女らは現在、食後のティータイムを満喫中だった。
午後から実技戦闘訓練が予定されているので、午後の授業が無い為か少々リラックス気味である。
先日、王都で買ってきた占いの本を読むのは、長い黒髪をポニーテールに結った少女『ミア・ハリウッド』。
「……今日の運勢、『衝撃的な出会いがあるかも。ふと気が付くと、カレ(カノジョ)の腕の中?。ラッキーカラーは黒』……出会い頭に抱きしめるってどんな状況?」
その横で、食後のデザートを堪能している小柄な女性二人。
金髪で、やや釣り目がちの少女が『リコ・リス』
「おいしい……です……」
黒髪で、やや垂れ目がちの少女が『アイ・リス』
「ちょっと甘すぎ……」
二人は数人掛かりで食べる事を前提としたデザート『バケツプリンパフェ(LL)』を一人一皿食べていた。
サイズは、名前から推して知るべし。
最初に異変を察知したのは、リコ・リスだった。
些細な違和感だったそれが、明確な形になる。
微弱ではあるがその感触は彼女がよく知るモノ…異世界の人間を召喚する際の手応えだった。
「?」
その意味を意識した瞬間、アイ・リスの悲鳴。
「外部からの強制干渉!?召喚が始まる?」
二人の本質とも言える「書」は、救世主候補を探して世界を渡り歩く。
常時であれば、『候補の発見⇒召喚者に報告⇒候補者に対する説明、及び要請⇒承諾を得て召喚』という手順を踏む。
しかし、極々稀にトラブルが発生し、召喚者との連絡が途絶する場合がある。
その際は、『救世主候補の確保』という最優先コマンドを実行し、候補者の意思に関係なく召喚される。
だが、そんな事態は未だ無かった。
しかも今回は書との連絡が途絶えた訳ではなく、外部からの干渉により強引に召喚を行わされたのだ。
ミアも二人の緊張に気が付き、席を立つ。
「リコ、アイ、何かあったの?」
「召喚が始まります……。ミアさん、塔へ行きましょう!」
「ええっ?この前あったばかりなのに!?」
三人は召喚の塔へと駆け出した。
ミア達が召喚の塔に着いたときには、召喚は既に始まっていた。
マナが唸り、空間が鳴動し、世界に亀裂が入る。
そして、その亀裂から一つの人影が滲み出て来た。
「……来ます!」
滲み出た影は次第に現実感を増し、反比例する様に歪みは薄れてゆく。
歪みが完全に消えたとき、召還陣の中心に現れた影は、その場に崩れ落ちた。
「…………、男…の、人?」
過去、救世主候補に選ばれた人間は、一人を除き、皆女性である。
しかし、現れた影は男だったのだ。
リス姉妹は目を閉じ、召喚の際の魔術痕跡を探し始めていた。
恐らく逆探知のようなことをしているのだろう。
二人は集中しているようなので下手に声を掛けられない。
ミアは如何したものかと考える。
が、先ず目の前の男が何者か確認しない事には何も判断出来ない事に気が付き、少し観察してみた。
現れた男は、ミアよりもいくらか年上だろう。
意識が無いらしくピクリとも動かない。
スマートではあるが、引き締まった印象を受ける。
ジャケット・シャツ・パンツ・靴下・靴……
身に着けているモノ全てが、偏執的なまでに黒で統一されている。
見たところ眠っているようで、全身の筋肉を弛緩させ浅く呼吸している。
正体の解らない相手だ。
リコやアイに召喚されたのでは無いのなら警戒するに超したことは無い。
そう判断し、自らの召還器を呼び寄せる。
「来て、ぺネティ」
呼び掛けに呼応し、ミアの手の中に純白の自動拳銃が現れる。
現れた拳銃を手に、射撃体勢を取りながら最初の一歩を踏み出した。
と、その時、
気絶していると思われた黒衣の青年が、弾かれた様に起き上がりミアへと襲い掛かる。
不意を突かれ一瞬反応が遅れるが、銃口を男の手足などの末端部を狙って向けトリガーを引く。
無論、命に支障が出ないように、だ。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
炸裂する弾丸は、亜音速で男に迫り……、しかし、男の背後の壁に弾痕を穿っただけだった。
男の居た場所の床には放射状の亀裂があるだけで、男の姿は影も形も無い。
視界をめぐらせ周囲を観察してみるが、男が居た痕跡は床の亀裂だけだ。
あまり得意ではないが、息を殺し周囲の気配を探ってもみたが、やはり補足出来ない。
「……どこに消えたの………」
魔力は感じなかったので、転移や不可視の魔法ではない。
かと言って、召還器によって底上げされた視界を振り切って動く事など考えられない。
「状況は解らないが…、いきなり銃を向け、あまつさえ発砲するとは随分と穏やかじゃ無いな……」
背後からの声とともに、ペネティを持った右腕を取られ捻り上げられる。
同時に、首筋に刃物の感触。
「動くな……。抵抗しなければ、危害は加えない。……そちらの二人も」
男は、いつの間にか再起動していたリコとアイが魔法を放とうとしていたのを気配で察知したらしく、釘を刺すのも忘れない。
ミアは拘束されたまま思う。
(このひと…、只者じゃない。慣れてる……)
男は、警告を発したまま無言。
ミア達三人は動けない。
状況は、停滞してしまった。
実際のところ、男……、恭也は困っていた。
恭也は召喚陣の上に現れた時点では、確かに気絶していた。
しかし、落下の衝撃で目覚めていたのだ。
ただ周囲の人間の様子を見る為、死んだ振りをしていただけだ。
しかし、銃を向けられたという事に反応して、半ば脊椎反射で拘束してしまった。
頚動脈にナイフを合わせるというオマケまでつけて。
………が、どうにも状況が解らない。
その上、背後の二人が動く気配を感じて警告してしまったため、ますます引っ込みが付かなくなってしまった。
耳が痛くなるような、静寂………
(誰か、助けてくれ……)
状況が停滞したまま、数分が過ぎた。
もっとも当事者達にすれば、数時間にも感じられたようだが……
そんな中、アイが口を開いた。
「たしか……『衝撃的な出会いがあるかも。ふと気が付くと、カレの腕の中?。ラッキーカラーは黒』……だっけ?」
激しく状況を無視した発言ではあったが……。
しかし、状況にそぐわない発言は、これで終りではなかった。
「?………あ、……確かに……黒……です」
アイの言葉に、リコも思い当たったようだ。
「何の話だ?」
この会話に恭也も、興味を持ったようだ。
もっとも、僅かなりとも緊張を緩めてはいないが。
そして、アイが『あの沈黙よりはマシ』とばかりに食いついてきた。
「占いの話よ。…アンタが抱えてる娘、ミアの今日の運勢。微妙に当たってない?」
恭也は自分の格好を客観視してみる。
「確かに俺は黒尽くめだし、彼女も腕の中かもしれん……。それに、首筋に刃物というのも衝撃的だな」
そこで、思い出したように苦笑い。
「いきなり撃たれるのも衝撃的だったが」
確かに衝撃的だ。
直撃していたら、大怪我では済まない。
急所などに当たれば、十二分に即死できる。
それが判っているので、腕の中のミアも言い訳を開始。
「あっ、あなたがっ!…あなたがいきなり襲い掛かってきたんでしょう?」
「銃を向けられたからな……。条件反射だ。気にするな」
銃という武器は、構えてから撃つまでのタイムラグが少ない。
なにせ照準さえ合っていればトリガーを引くだけなのだから。
そして、弾速も秒速300m超。
普通、発射されれば避けられない。
つまり、撃たれない為には、射線上に身を置かない事か、撃たれる前に無力化するのが一番なのだ。
後者を実行出来る者は、非常に稀だが……
「どんな反射神経よ?非常識な……」
「非常識か?……撃たれる前に取り押えるのは基本だと思うんだが……」
確かに、常識的な行動なのだ。
香港国際警防隊という『非常識』のなかでは……という条件で、だが。
事態が停滞したまま数分が過ぎた。
「あの、突然の召喚で、私を含めた全員が混乱しているでしょうし、落ち着いてお話できる場所へ移動したほうがよいのでは?」
これまでの間抜けな会話を華麗にスルーしたリコは、この場で最も建設的な発言をした。
その言葉にアイも「そのほうがいいかもね」と同意を示す。
そして、未だに抱擁を交わす(語弊有り)二人に、改めて声を掛ける。
「そっちで固まってる二人は、どうでしょうか?」
無論、恭也に否は無い。
話し合いで解決出来るなら、それが一番だ。
「了解した。……解放するから、お前も銃を仕舞え」
拘束を解かれたミアは、「言われなくても…」などと呟きながら、ぺネティをベストの内側にあるホルスターに納める。
恭也は見たことの無い形状の銃に疑問を感じたが、話がややこしく為りそうだったので保留として置く。
面白そうに恭也とミアの様子を眺めていたアイは、「じゃあ…」と前置きし、
「学園長室に行きましょうか」
と、会話を締めたとき、
バーンッ!と、けたたましくドアが開き新たな人物が現れた。
それは恭也のよく知る人物だった。
「ミアさん!何か銃声が……、え」
それは、恭也を師と仰ぐ、少女。
「…、し…師匠……?」
少女は、恭也の姿を見て、固まる。
「なんで、…ここに?」
フローリア学園救世主クラス所属・ガントレット型召還器「金剛」の使い手。
城島晶だった。
あとがき
一月掛けてこれだけ……
シナリオは殆ど出来ているのに、それを文章に起こすとなると……とほ〜
まぁ、間にPS2のFateとかコンプリートしてましたが!
気を取り直して。
ここまで読んでいただき有難う御座います。
次回で救世主クラス全員を紹介できると思います。
が、恭也の救世主試験はその次になります(たぶん…)。
前のあとがきでも書きましたが、デュアル勢の90%以上がオリジナルという無謀な話。
さらに、救世主・晶。
無茶にも程が在る!
といった感じで、次回に続きます。
それでは!
晶が救世主なのか!?
美姫 「へー、とっても意外……?」
うーん、高町家は住人の半数以上が戦闘力を保有している人たちだからな。
無きにしも非ずだな。
美姫 「とっても気になるわね」
ああ。残る救世主クラスのメンバーも気になるし。
美姫 「次回も待ってますね」