『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』
草木を司る精霊――蔓との一戦から一夜明けた保健室。
そこでは妙に目が赤い猛と、ソレを疑問視する他のメンバー。
ソレらが向かい合っているという、奇妙な図が出来上がっていた。
「猛、どうしたの!?その目は!?」
「い、いや!何でもないぞっ!?」
「猛お兄ちゃん、まだ何も言ってないよ?……怪しいな〜?」
純粋に猛の心配をする芹。
必要以上に狼狽する猛。その様子を見れば、明日香でなくても同じ感想を抱くだろう。
そんな彼を救ったのは、もう一人の男性メンバーである恭也だった。
「まぁ、よく寝れなかったという所だろう。……羊の中の狼のような気分だったのだからな」
「そう、そう!!……って、ちょっと待てっ!!何か余計なモノが付いてたぞ!?」
……訂正。恭也は猛にとって救世主ではなく、猛を断罪に来た死神だったようだ。
実際はそんなことを考えていなかったのだから、ちゃんと反論すれば良いハズ。
だが後ろ暗い所がある猛には、そう言い返すことができなかった。
「えぇぇ〜〜〜〜!?猛お兄ちゃんのエッチ〜〜!!」
「うわぁ、猛……サイテー」
女子二人からの追求も容赦がない。
しかし、エッチでないとは言い返せない自分が恨めしい。
それだけの前科が存在するが故に(そのほとんどがワザではないが)、反論が不可能な猛であった。
「まぁまぁ、二人とも……猛もそういう年頃だから仕方がないんだ。
それより、はやく帰宅しよう……六介さんや綾香さんが心配するしな」
「あ、そうだったね……」
「……そうね。はやく帰らないと、お爺ちゃんに怒られそうだしね」
そう口々に言いながら、保健室を出て行く明日香と芹。
その二人の後に、焚きつけ役の恭也が保健室を出て行く。
そして取り残された猛は一言、
「そういう年頃って……アイツはどこの爺様だ……」
第三十話 第二章 炎の神になった光の少年
「ここって……ここって、一体ドコなの!?」
「後ろにあるのは出雲学園。だけど前に見えてるのは……」
「……見渡す限りの草原と山……だな」
「私たち……夢でも見てるのかな……?」
四者がそれぞれに現状を把握する。
彼らが今見ているのは、本来塔馬家や白鳥家、そして街がある方向。
普段ならば北河神社も見えるその場所からの風景は、今は明らかに変化していた。
「……コレって、どういうことなんだろう?」
明日香のその台詞は、その場にいた全員に意見を代弁したモノだった。
……否、驚いてはいるものの、その事態を予想した者も一人だけだが存在した。
【出雲物語】によってこの事態を想像していた人物――恭也のみが。
「(本当に異世界――【ネノクニ】に来てしまったというのか……?)」
半ば予想通り。しかし驚いていることも事実。
このような異常事態、起こると分かっていても、すぐに受け入れられるモノではない。
それは如何に異常事態に慣れている恭也とて、例外ではないだろう。
『――――ガサッ!!』
草木を踏みしめる音がした。
その音は恭也たちの視界の外から、大きな【モノ】に乗ってきた者たちが奏でた音。
皆がそちらを向いた時、そこには三頭の馬に跨った、三人の人間が存在した。
「おっと……」
男たちは剣を腰に差して、鎧――戦国武将のようなモノではなく、古代人が着ていたような鎧を身に纏っていた。
そしてその中でもリーダー格と思われる男が、馬の頭を恭也たちの方へ向けた。
「むむっ!なんと面妖な……!!」
「怪しい奴!!名を名乗れ!!」
従者らしき二人の男が口々にそう言った。
恭也たちからすれば『お前たちの方が面妖だ!!』と言いたくなる奴らだった。
だがソレを言おうものなら、彼らが手にした得物が血を見るだろう。それが雰囲気から十分に予想できた。
「もしや魔物の仲間ではあるまいな……!」
そう言ったのを皮切りに、馬から下りて得物を恭也たちに首に突きつけようとする男たち。
皆がその訪れるであろう未来を想像し、目を閉じる。
しかしその瞬間は訪れることはなかった。
「……一体、どういうつもりだ。いきなり武器を突きつけようとするとは……」
猛たちが目を開けた時に見たモノ……それは、男たちの首元に二刀の小太刀を突きつける恭也の姿だった。
今自分たちがしようとしていた行動をその対象にやられる。そんな予想外の事態に、男たちは驚愕した。
「ちょっと待ってくれないか?部下たちが勘違いをして失礼をしたが、コチラに害意はないんだ。
だから……その得物を下ろしてくれないかい?」
その光景を見ていたリーダー格の男は、穏やかな口調で恭也に話しかけてきた。
「……悪いが信用できないな」
「う〜〜ん、弱ったな……それじゃあ、コチラは武器を地面に捨てる。それで信用してくれないかな?」
「……分かった。だが少しでも妙な動きを見せたら……」
「あぁ、それで良いよ。……ホラ、お前たちも武器を捨てるんだ!」
自らが先に武器を捨て、二人の部下にも行動を促す。
三人が武器を捨てたのを確認すると、そこでようやく恭也が小太刀を下ろした。
一連の流れを見ていた猛たちは、ほっと胸を撫で下ろした。
「恭也、助かったけど……あんまり無茶するなよ?」
「心配をかけて済まない……」
助かったことの感謝しつつも、心配した旨を伝える猛。
今まで繰り広げられていた光景は、それだけ一般人にとって危険な光景であった。
そして逆に、恭也にとっては見慣れたモノであった。
「済まない……俺たち、戦続きで気が立ってるんだ」
「はぁ……」
恭也たちの側が落ち着いたのを待ってか、リーダー格の男が話しかけてきた。
先の二人に男たちと違い、柔らかな物腰。そして恭也たちに近い話し方。
ソレらが彼の印象を良いものに仕立て上げていた。
「その制服、出雲学園のものだろう?女子の制服は変わったみたいだけど、男子は変わっていないみたいだなぁ……。
あっちでは何年経ったんだろうか……」
猛たちの姿を見て、昔を懐かしむように語りだす男。
とりあえず男が出雲学園の卒業生であったことは理解できたが、それ以外のことが分からない。
というか、何を言っているのかさっぱり理解できない。猛たちは呆然と男を眺めていた。
「その様子じゃ、君たちは事情が良く分かっていないみたいだな?」
「え、えぇ……というか、何が何だかサッパリ……」
正直に自分たちの状況を伝える猛。
後ろにいた芹と明日香も、首を縦に振る。
そして唯一それに同意しなかった恭也は、黙って事態を見守っていた。
「まずは自己紹介をしよう……俺はカグツチ。このネノクニを納める、人間側のリーダーだ」
「【ネノクニ】……?」
「分かりやすい言葉でいうと、死後の世界――悪霊と魔物が跋扈する、なかなか物騒な所さ」
【死後の世界】――そんなことをいきなり言われて、納得する人間はいないだろう。
それは猛たちも同様であり、そんなことを言い出す男を疑問視してしまう。
特に女子は容赦がなく、言いたい放題な惨状だった。
「(ねぇ、猛……この人、ちょっとおかしいんじゃない?)」
「うぅ……関わってはいけない人かも……」
「う!いきなり信じてくれるとは思わなかったけど、その反応はあんまりじゃないか……」
そう言いながら、やや落ち込むカグツチ。
そんな彼の脳裏には、『最近の女子高生は、みんなこうなのか……』という考えが浮かんだ。
そして彼は決心する。『自分の娘は、そうならないようにしなくては!!』――と。
「……ん?この気は……君、もしかして蔓と契りの儀式を交わしたのか?」
「えぇ!?な、何でそれを……」
「……ということは、君たちは蔓に勝ったのか……。大したもんだな……」
『何故ソレを!!』――それが猛の偽らざる本音だった。
出来ればバレたくない過去……バラされたくない過去。
それが白日の下に晒されようとしている。猛にとっては、まさに死活問題だった。
「契り……?なぁに、ソレ?」
「具体的言うとだな、契りの儀式とは……」
「わぁ――っ!!なんでもない!どうってことないから!ホント!!」
【具体的な】説明をしようとしだすカグツチ。
ソレを遮る猛。カグツチの口から真実が語られた時、猛の人生は終着点に到着する。
よって遮る猛は必死であり、その様子を見てカグツチは笑みを洩らした。
「(このおっさん、わかっててやってるな!!)」
「……でもこれで納得してくれただろう?蔓のような存在は、君たちの世界には存在しないだろう?」
「じゃ、じゃあ……」
「ここって、ホントに死後の世界!?あたしたち、死んじゃったの!?」
事態を把握し始める猛たち。
この世界は死後の世界。つまり【自分だちは死んだ】――そういう結論に達したのだ。
その考えに至って絶叫する明日香と芹。しかし彼女たちの予想は、良い意味で裏切られた。
「そうじゃないから、話がややこしいんだな……。
君たちは生きたままこのネノクニに来たんだ……昔この俺が体験したように……」
「(もしや、この人は……)」
カグツチの昔話を聞き、彼の正体に当たりをつける恭也。
彼――カグツチは、恐らく【出雲物語】の登場人物。
その主人公であったのではないか――と。
「カグツチ様!伝令が入りました!!」
「ん、なんだ?」
その時、どこからともなく男が現れて、カグツチの前に跪いた。
その伝令を受けとるカグツチ。
内容は【魔物の軍勢がこの先数十里ほどの所にいるので、指示を仰ぐ】――とのことだった。
「うむ。ではソイツを追撃する!!……そういうわけだから、君たちとゆっくり話をしている暇がなくなった。
だからこの先は、俺たちの隠れ里で話そう」
「【隠れ里】?」
「あぁ。この坂道をまっすぐ降りていくと、半日ほどした所にあるんだ。
多分今夜には戻れるから、その時にでも詳しいことを話そう」
カグツチだちはそう言って剣を拾うと、馬に跨り駆けていってしまった。
その様子を、猛たちは呆気にとられながら見ていることしかできなかった。
そんな中、唯一人事態を把握していた恭也は、これからのことを考えていた。
「とにかく……その隠れ里とやらに行ってみよう。ここで立ち往生していても、解決にはならなそうだしな……」
「そ、そうだね!」
「よっし!それじゃあ、魔物に会わないように行きますかっ!!」
「……そうね。それが一番良さそうね」
恭也が言ったのを皮切りに、それぞれが元気良く声を出す。
それは空元気から来るモノだったが、それでも少しは皆が明るくなった。
彼らはソレ支えにして、坂道を下っていった。
あとがき
ネノクニに突入したお話でした。
おおまかであるが、見え始めてきたネノクニの背景。
そして現れた謎の男、カグツチ(笑)
彼の協力を得て、恭也たちは新たな仲間に遭遇します。
次回は、ようやく【アノ人】が再登場で〜す。
それでは今回は 、このあたりで失礼します〜
恭也たちの前に現れたカグツチと名乗る男。
美姫 「彼は果たして味方か敵か」
一体、どっちなのか!?(笑)
美姫 「次回が気になる所!」
そんな訳で次回はすぐに見れるという嬉しさに小躍りしつつ。
美姫 「また後で〜」