『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




「剛!今加勢するぞ!!」

「お姉ちゃん!!大丈夫!?」

「明日香ちゃん!!今は『アイツ』を倒すのが先よ!!」

「う、うん!!そうだねっ!!」

恭也と明日香、そして芹が孤軍奮闘する剛に加勢する。

『――――――――!!』

剛が相対していたのは、出雲学園の校舎内を順応無人に駆け巡り、恭也たちの行く手を阻んでいた巨大樹木。
――その本体。末端である枝でさえ、通常では考えられない程の大きさであったが、
本体である幹の部分は、その何倍もの太さと巨大さを持った『モノ』であった。

「助かりますっ!!恭也さん!!みんなっ!!」

校舎をも覆い尽くしてしまいそうな体躯から繰り出される、素早い鞭。
――否、鞭のようにしなやかでありながら、当たれば中庭の端まで飛ばされそうな、その枝たち。
そして中心部を彩る、一輪の花。
花と言っても、愛でていて『美しい』という感情が込み上げてくるサイズは疾うの昔に過ぎ去り、
教室一つ分はあろうかという程のサイズの、『異質な』花。

「明日香ちゃんは後方から援護、芹は飛んでくる枝から剛と琴乃さんを護衛、猛は!!……オイ!猛っ!!」

それぞれに適したポジションを配置していく恭也。
普段の彼ならばこんなことはしない。
なるべく個人の好きなようにさせるか、本来のリーダーに任せることにしている。
だが、今対峙しているのは人外の、正真正銘の化け物。
一度攻撃を喰らえば、一瞬にして命を刈り取られる相手。
そんなモノが相手ならば、皆が無事にこの場を切り抜ける方を――恭也はソレを選択した。

「猛!何をボサっとしているんだ!!死にたいのかっ!!」

彼にしては珍しく、声を荒げて猛を叱責する。

「わ、悪いっ!!……それで、俺は?俺は何をすれば良いんだっ!?」

今は目の前にある障害を無力化させることが急務――そう考えた猛は、現在指揮官役を務めている、
恭也に指示を仰いだ。

「……お前は俺と一緒に、アイツの懐に飛び込んでの攻撃だ……やれるか?」

「当たり前だっ!!琴乃と剛の分の借りを返してやる!!」

そう叫ぶと、猛は恭也より一足はやくに、敵の懐の潜り込んでいった。





第二十五話 第一章 アシッド・ガス





「……なんてヤツなんだ……」

最早木の枝というよりは、蛸や烏賊の脚――直接的な表現をすれば、
『触手』と呼んで差し支えないモノ、それが敵の保有戦力だった。
素早い動きに、巨体から繰り出されるパワー。
その攻撃が直撃した地面はクレーター並に抉れ、後に残るのは無残に散ったコンクリートの『だった』モノ。

「不味い……このままでは、遠からず全滅してしまう……」

現状を分析する必要がない程の戦力差。
正直、算出するまでもないであろうその圧倒的な差は、自分の戦力を分析できる者であればある程、
絶望的な展開が予想できるモノであった。

「(これでは、いくら懐に潜り込んでも、決め手になる技がなければ意味がない……)」

恭也自身、先程から何度も巨木の本体――幹の部分に技を打ち込んでいる。
中でも雷徹――御神流の中でも最大級の威力を誇るソレを防がれたのは、恭也にとって予想外の出来事だった。
そもそも御神流の一太刀一太刀には、ダメージを相手の内面に浸透させる『徹』が込められており、
それを最大限に活用した『雷徹』で防げないものは、今まで――少なくとも恭也が御神流の鍛錬を始めてから、
数えるほどしかなかった。

「(――――しかし……)」

その防がれた数回は、達人によって『いなされた』か、『かわされた』かのどちらかであり、
今回のように『当たったのに効かなかった』というのは、初めてのことだった。
これで現状において、恭也が保有する戦力はセロに等しくなった。
あと残っているのは、渚と六介との仕合で出した、『アノ』太刀。

「(問題点の方が多いから、とてもじゃないが今使うわけにはいかない……)」

迫り来る枝、ソレらを回避しながらの思考。
――――問題点。ソレはダメージを受けた敵が、どんな行動に出るか分からないこと。
それは一番の問題点にして、最重要な問題点。

「(……逃げるしか、ないのか……?)」

敗走――現状ではソレが最も適した選択である。
皆が無事この惨状から帰還し、かつ今相対している人智を超えた化け物との闘いを回避するための最良の手段。
――否、最良ではなく『唯一』の手段。
相手が人間でない以上、コレは別段恥ずべき行為ではない。むしろ当然の行動。
だが、敗走を許されない――自らの敗走を許さない者にとっては、その選択程惨めなものはなかった。

「(だが皆を、これ以上危険な目に遭わせるわけには……)」

自分の矜持と皆の命――秤に掛けるまでもない。
恭也の中では、皆の命に勝るものはない。
それに、もし皆を守りきれなかった場合――そちらの方が、自身の矜持を傷付けられること知っている。
――――『大切な人たちを守る時こそ、御神の剣はその真価を発揮する』――――
それを心に刻み込んでいる青年にとって、それは何より大事な教え。

「(……かと言って、これでは撤退させるのも難しいな……)」

負傷者である剛と琴乃の両名を抱えての逃走。
敵の勢力範囲は出雲学園全域。
本体は恐らく中庭に固定されているため、移動は不可能だろうが、
その分身とも言える枝たちは、どこまでも移動が可能。
故に導き出される結論は――

「……倒すか、そこまでいかないまでも、相当のダメージを与えないとだめ、か……」

結局のところ、撤退は不可能。
皆を無事に帰還させるためには、標的――巨木の本体の撃破しなければならない。
それが結論にして、最初から逃れることの出来ない宿命だったようだ。

「おりゃぁぁっっ!!」

「えい、やぁっ!!」

「みんな、避けてね〜〜!!……はっ!!」

それぞれが恭也の課した課題をクリアしながら、迫ってくる枝たちと闘っている、
最初は一人一本ずつ枝と闘っていたが、今では一人当たり二・三本――合計八本の枝が彼らに迫っている。
その様子はまるで蜘蛛――その巨大さを考慮に入れると、女郎蜘蛛のソレに『視える』。

「(まるで蜘蛛だな……蜘蛛?何か引っかかっているような気が……!!)」

何がキーワードになったのだろうか。
恭也の眼前に、いつぞやの不思議な光景が繰り広げられる。



『――――、頼んだぞ!!』

記憶の中の恭也は、傍らにいた女性に呼びかける。
顔は靄がかかったように見えない。
だが、記憶の中の恭也は――彼がその女性を信頼していることだけは、感じ取れた。

『はい、――――様!!……『強酸霧』っ!!』

女性の手から放たれた、強烈な『酸の霧』。
ソレは相対した敵を一瞬にして溶かし、後に残されたのはその消し炭だけだった。



「(――――また、か……)」

時代も風景も曖昧――しかし絶対にあった、確かに存在したその記憶。
何故自分にそんな記憶が――恭也は何度も自問した。
結論は出ない。しかし、『アレこそが自分の出生に関係しているのでは?』という思考は絶えず残る。

「(さっきのアレなら……アレならいけるか?……いや、いけるハズだっ!!)」

以前に似た経験をした時に出した太刀は、結局のところ六介のような達人には効かなかった。
理を欠いた暴力の太刀――それでは敵うハズもなかったから――ソレが原因。

「(だがさっきの『アレ』ならば、確かに理が――確かな温かさを感じた……)」

記憶の中の恭也を守りたい――それが滲み出ていた彼女の技ならば……今度は上手くいくかもしれない。
恭也にはその確信があった。

――――!!

一筋の光が走る。
その源は、小太刀――その刀身に納められた球状のモノ。
先程までは刀身の装飾かと思われたその玉は、
今はその存在を周囲にアピールするかの如く、光り輝いている。

「コレは……!」

――――!!

恭也の心に呼応したかのように、明滅する玉。
まるでこの時を待っていたかのように、その力を漏れさせる。

「き、恭也っ!?ソレは一体……?」

恭也の近くで枝と闘っていた猛は、その発光する玉の存在の出現に驚きを隠せない。

「(――――何だか酷く懐かしいような気が……)」

酷く懐かしい――その感情は、恭也だけのものではなかった。
この場にいるメンバーでソレを懐かしいと感じたのは、恭也を含めて三人いた。
その光を具現化させた恭也、その光景を間近で見ている猛。
そして残りの一人は……

「(アレは何なんだ!?……あの夢と同じような感じがするぞ!?)」

猛たちが来るまで孤軍奮闘、たった一人で琴乃を庇いながら巨大樹木と闘っていた少年――剛。
彼が最後の一人だった。

「恭也っ!?」

「恭也お兄ちゃんっ!?」

狼狽――そして驚愕の渦は、こうしている間にもその範囲を拡大していく。
芹、そして明日香にもその同様の波紋は広がり、
ついにはその威力をぶつけられるであろう、その相手――巨大樹木の本体にも伝わっていく。

「猛っ!!今からかなり危険な技を使う!皆の所まで下がってくれっ!!」

「恭也!?……わ、わかった!!一発デカイの、決めてくれよっ!!」

突然のことに戸惑いながらも、猛は後退していく。
先程感じた懐かしい記憶――ソレを引きずりながら。

『――――――――!!――――――――!!』

まるで、明滅する玉に共鳴するように悲鳴をあげる巨木。
その恐怖心は、恭也に差し向けた八本の枝――その持ちうる戦力全てを注ぎ込んできている点からも、
明らかであった。

――

小太刀――その一振りを鞘に納め、残った小太刀を左手に。
そして右手は大きく前に突き出して、強く念じる。
先程見た記憶を再現するかのように――その温かな『想い』すらその手で甦らせるように。

『――――!!――――――――!!』

もう眼前まで迫っている八本の枝――脚と言っても差し支えないソレの存在に対しても、
恭也はただ悠然とその場で右手を突き出しているだけだった。

「……俺に力を貸してくれ!!――――『強酸霧』!!」

温かな『想い』を乗せたその霧は、強烈な酸という破壊力を伴って、
数十年ぶりに出雲学園の地に舞い戻ってきた。










あとがき

今回は、恭也がメインの回でした。

記憶の中の二人の人物と、恭也――そして猛、剛の関係。
ココに来て、野郎三人衆(コラ)の接点が目に見える形で出てきました。
恭也の攻撃が炸裂したので、普通ならこのままボス戦は終了するハズなのですが……
それは次回をご覧下さいませ〜(オイ)


それでは今回は 、このあたりで失礼します〜




恭也、猛、剛。
美姫 「この三人には一体、どんな関係があるのかしら!?」
恭也の放った技により、あの化け物は倒せたのか!?
美姫 「非常に次回が気になる所」
一体、どうなったんだ!?
美姫 「続きは、すぐ後!」



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