『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




「……クッ!!一体何なんだっ!コイツらはぁっ!!」

手に握る得物は木刀。
奇しくも少年は、先刻まで仕合をしていた相手と同じ得物を以って獣たちに立ち向かう。

「くそ!……キリがないぞ!!」

しかし二人には、決定的な――決して覆すことが出来ない差が横たわっていた。
――――倒せない――――
ソレは単純でありながらも、決定的な差だった。

「……ぅ、うぅん……」

無論、普段の彼なら――全力を発揮できていたのなら、また異なった結果が出ていたであろう。
だが彼の左腕に抱かれている少女――琴乃の存在がソレを阻害していた。

「(くっ!!気絶した琴乃さんを抱えたまま逃走するのは難しい……かといって、
 このままの状態でコイツらを倒すことはもっと難しい……)」

地震が発生した時少年は、自分の様子を見にきてくれた少女と対面していた。
先刻起こしてしまった騒動のせいか、どちらからも話しかけることは容易ではなく、
一切の言葉が紡がれることのない時間が過ぎていった。
意を決し、少年の方から話を振ろうとした矢先の地震。そして獣たちの出現。
彼は、その際に気絶した少女を庇いながら防戦することになった。

「(……猛……)」

進むことも引くことも出来ない状態において、人間は本音が露呈する。
彼は求めたのは、先ほど喧嘩をしてしまった親友。
――――猛がこの場にいたのなら――――
ソレは、少女も気絶していなければ思ったであろう台詞。

剛は現在の状況を維持し、一刻もはやい加勢の到着を待つことを決意した。





第二十三話 第一章 大活躍?暗躍していた二児の母





「……ココは?」

「保健室だよ。ココでいったん休憩しようと思って……」

「休憩?そんなことしてる暇があるんだったら、はやくみんなを探さないとっ!!」

清潔感漂う学園の一室。
滅菌された医療器具が幾つも並ぶその部屋は、獣たちに進入された形跡はなかった。

「……芹。俺たちの状態をちゃんと把握してるなら、そんなセリフは出てこないと思うんだが……」

保健室に入ってきた二人――猛と芹はそれぞれに自分の状態をチェックした。
体力――疲労困憊気味。
外見――両名ともにボロボロ……主に埃が付着しているせい。
得物――芹のグローブは問題なし。しかし猛の木刀は既に柄の部分しか存在せず。

「……ゴメン……あたしが悪かった……」

自身の、そして猛の格好を客観的に検証した芹は、申し訳なさそうにそう呟いた。
予想外に疲弊している自分たちの姿を突きつけられたのだろう。
背中からは哀愁が漂い、目にはうっすら涙が『視える』。

「だからさ、ここで体制を立て直すんだ……闇雲に突っ込んでも、ダメっぽいからな」

頭を使うことはあまり得意ではないが、現状の分析はきちんと出来ている。
猛を構成する魂がそうさせたのか、とにかく今の彼は『戦士』として目覚めつつあった。

「まず勾玉で体力を回復して……」

「それから、ここにあるタオルとか使って埃とかを落とす……で良いんだよね?」

「あぁ……って言うか、ソレしかないんじゃないか?」

「……そだね」

そう言いつつ、保健室を物色――もとい、タオルを探し始める二人。
非常事態だけに本人たちは真剣そのものだが、端から見たらタダの火事場ドロボウにしか見えなかった。
――真剣度が増せば増すほど、なおそういったように見えてくる。



「……で、タオルを探しているうちに『こんなモノ』を発見したんだけど……」

「『真剣』かぁ〜〜。何だってこんなモノが、保健室にあったんだろう?」

十数年前の保健教諭ならいざ知らす、今の保険教諭は常識的な人であったと生徒に認識されている。
……ちなみに十数年前の保険教諭は、科学の教員資格を併せ持つなど、非常識の塊として認識されていた。

「……あれ?何か貼り紙があるよ?」

真剣が収められた木箱。その蓋の裏側に時代がかった貼り紙。
少なくとも十数年は経過しているであろうその貼り紙は、既に黄ばんでいて元の白さは失われている。

『もしピンチの時が来たら、コレを使ってね〜♪   親切で美人な保険教諭より 19××年 』

『……………………』

痛い程の沈黙。書かれている内容を読み終わった時、時間は止まってしまった。
日付からして、『アノ人』しか該当者がいないという状況。
そして自分の呼称に『親切で美人な』という冠詞を付属させる、その人物。

『……………………』

この場にいる二人には、その人物が誰かすぐに思い浮かんでしまった……幸か不幸か分からないが。

「……とにかく!!コレで俺はまた闘えそうだっ!!」

「……うんっ!!良かったね!猛!!」

痛い程の沈黙から復帰を果たした二人は、貼り紙を『見なかった』ことにした。
ソレは本能からの行動、突っ込んだら負けだと言わんばかりの現実逃避。

「とにかく!これで校舎中の樹木を切り払えそうだな!!」

「うん!!やったね、猛っ!!」

貼り紙の存在をすっかり忘却の彼方にうっちゃた二人は、今ある現実に立ち向かうことにした。




――――カチッ!

廊下中に響き渡る開錠音。
このフロアにいた獣たちを殲滅したせいか、僅かな音しか出ないはずの開錠音が廊下を木霊していった。

「……良し、これで大丈夫なはずだ……」

場所は出雲学園校舎の二階――理事長室前。
恭也は今、その扉をヘアピン一つで開錠したのだ。

「大丈夫かな〜、こんなことして……」

明日香は苦笑顔でそう呟いた。
彼女の心配はもっともである。
なにせ、彼が今やり終えた『コト』は、一歩間違わなくても犯罪にカテゴリーされる行為だからだ。

「……非常事態だ……恐らく問題ない」

「問題……ないのかなぁ……?」

恭也の無表情な顔に気圧されたのか、明日香は冷や汗を流しながらそう返した。

――――

音もなく開く扉。
流石は理事長室の扉というだけあってか、かなり上等な材木とそれを装飾する金属で作られた扉だった。

「……ところで恭也お兄ちゃん?さっきの『鍵開け』って、どこで習ったの?」

「……父さんと旅している中で、身につけねばならなかったんだ……」

誰に、どこで習ったというモノではない。
敢えて言うのなら、生きていくためには必要になったスキル。
ソレがなければ生き抜くこと不可能だったために、命がけで体得した『業』。

「……ゴメンね、またイヤなことを思い出せちゃったみたいで……」

「明日香ちゃんが気にする必要はない……それより、さっさと目当てのモノを探してしまおう」

「う、うん……じゃあ、手分けして探そっか?」

「あぁ、そうしよう」

保健室での火事場ドロボウ……もとい、タオル探しと同じような光景が展開されていく。
状況、探し方……そのどれもが非常に似通っていた。

「う〜ん、なかなか見つからないねぇ〜?」

唯一違っていたのは、探す対象となるモノ。
――――『真剣』――――
保健室組が偶然探し当てたモノが、こちらの二人にとっての目当てのモノ。
無手の恭也が、本来の実力を発揮するために必要なモノ。
ソレが真剣――またはそれに類するモノだった。

「その戸棚の中はどうだろう?」

「う〜〜ん……あれっ?コレ、なんか怪しいかも!!」

恭也が指示した戸棚――いかにも豪華そうな絵柄が彫られた戸棚から、やや大きめな木箱を発見する明日香。
ソレは、保健室にあったモノと同じ材木でできた箱。
違いをあげるのならば、先に発見された方が細長い木箱だったのに対して、
今明日香の手にあるのは、上辺が正方形に近い代物である。

「じゃあ、開けてみるね♪」

「…………」

微妙に嫌な予感がしつつも、首を縦にふり妹分に行動を促す恭也。
その予感は恐らく正しい。
この場に猛か芹がいたのなら、必死にその行動を止めていたであろう。

――――ガクッ!

まさにそんな音が聞こえてきそうなぐらい、二人の崩れぶりは酷かった。

『もしピンチの時が来たら、コレを使ってね〜♪   親切で美人な保険教諭より 19××年 』

先ほど保健室で発見された張り紙と、一字一句変わらない貼り紙が、蓋の裏側に貼り付けられていた。
恭也と明日香が希望を託して開け放ったその箱の実態は、開け放つことを許されないパンドラの箱。
――最後に残ったモノが『希望』であったことまで同じだった。

「……ソレって、何か変じゃない?」

「……明日香ちゃん?一体誰に話しかけてるんだい?」

天からの声に対して突っ込みを入れる明日香、その声が聞こえないので彼女を訝しげに見やる恭也。
この時に至って、二人の常識離れの度合いは近づきつつあった。
……ソレが良いことであるかは別だが……

「ともかく……目当てのモノがあって助かった」

「それにしても……よく『コレ』があるってわかったね〜?」

木箱に収められたモノは、二振りの日本刀。
身の丈は、どちらもおよそ一尺六寸。
派手な装飾はなく、実質本位・質実剛健を旨として作られたであろう、その造り。
黒塗りの鞘に収められたその刃は、鯉口を切られるのを今か今かと待ち望んでいるようにも『視える』。

「いや、ココは数年前まで六介さんが使っていたのだろう?
 それなら、刀の一本ぐらいは残っているんじゃないかと思ったんだが……正直『コレ』は予想外だった……」

予想外――ソレには二つの意味が含まれていた。
一つ目は額面通りに捉えて、小太刀が――それも二振りも存在したこと。
彼は真剣に類するモノ――最悪鉄パイプぐらいしか調達できないかとも思っていただけに、
良い方向での期待ハズレであった。
二つ目は……言うまでもなく、『コレ』を用意していた人物とその書置き。
その人物を特定することは――非常に容易かったために、なおのことその非常識具合に頭を痛めてしまう。
ちらりと横にいる少女を見やる。

「……………………だ、誰だろうねぇ?『コレ』、書いたのって?」

随分と長い沈黙の後の、現実逃避。
恭也の視線の先の少女は理解している――『コレ』を書いたのが自身の母親だということを。
そして呆れている――自分たちの母親の思考回路について。

『…………『コレ』は見なかったことに……できないよな〜(よね〜)」

これ以上ない程の溜め息。
吐くと逃げると言われているモノなだけに、今の一回分で人生の三分の一ぐらいの幸せが逃避したようだ。
――――『俺(あたし)たちに幸せを返せ!!』――――そんな声にならない叫びが聞こえる。

「……まぁ、この際この貼り紙は置いておいて……」

「……そうだな。それが一番無難だな」

母からのメッセージをなかったことにする娘。
それに同調する青年。
――書いた本人が見たら、泣くだけでは済まないだろう。それだけは確実に予見できる事柄である。

――――シャキッ!!

空気が切断されたような、極めて鋭利な音が理事長室に響き渡る。
鯉口を切り、二振りの小太刀の銘を確認する恭也。
黒塗りの刃に刻印された、朱塗りの文字。

――――『楓』――――

ソレがこの小太刀に付けられた名前だった。

「『カ・エ・デ』……?」

銘を口に出して読む恭也。
彼には風流を愛でる習慣はない――故に、あまり口にしたことはない言葉。
――しかし脳か、身体か、それともDNAにでも刻まれているかの如く、
その名前は恭也の至る所に浸透していた。



『――――様、”これから”よろしくお願いします――――』



一瞬脳裏を掠める着物を着た女性の顔。
酷く懐しい古の記憶のようでもあり、つい最近のことのようにも思える『記憶』。
以前に見たような闘いの断片ではなく、正反対の柔らかく落ち着く空気を持った記憶。
母親の胎内のような温かさ――そしてそこから見たような記憶の端々。

「――――あれは、誰なんだ……?」

自分にとって、とても大切だったハズの女性。
自分とは如何なる関係だったのか――など、不明瞭な点が多すぎる。
――が、恭也の頭に『楓』の三文字が刻まれた。
その三文字は、これから起こる物語の最後――本当の意味での『最後』まで記憶に残る、
恭也には何故か確信があった。










あとがき

今回は、学園内に残る人物全員が出てくる話でした。

えっ?一人足りないって?
『アノ御方』は、もう少し先に進むと現れますので、今しばしお待ちを(笑)

サブタイトルにもあった人物は、本編で大活躍していますね……良いのやら悪いのやら(オイ)
ともかくそれぞれの得物を手にしたところで、反撃(?)が開始されます。
まずは、校舎の破壊(違っ!)からですかね。


それでは今回は 、このあたりで失礼します〜




武器の調達には成功〜。
美姫 「そこに至るまでの経緯や、そこにあった出来事は兎も角ね」
いやいや、それにしてもお茶目な美人保健教諭がいたもんだ。
美姫 「その正体は誰(笑)」
また、こういう出来事が起こると思っていたのか、それとも冗談だったのか。
美姫 「でも、そのお陰で武器が手に入ったんだしね」
だな。さてさて、少し意味深な感じのも出てきて。
美姫 「益々、次回が楽しみね」
ああ。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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