『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』
「そういや、剛。今朝は、俺も女の人が出てくる夢を見たぜ」
「何っ!?本当か!?」
「あぁ、細かい所までは覚えてないんだけど……」
「もしかして猛と剛君、同じ夢を見たんじゃないの?」
「……………」
猛・剛・芹……そして、北河さんとヤタロー。
今この屋上では、そのメンツと俺……五名と一羽が昼食を摂っていた。
「(……どうしてこんな事態になったんだ?)」
俺は数分前に起こった出来事を思い返していた。
第十八話 二日目……勘違いする二人
「……ふむ、北河さんはまだのようだな?」
俺は昼休みになり屋上に来ると、この地で数少ない友達である、ヤタローに問いかけた。
「クワァ」
北河さんのように、烏語(この場合は、ヤタロー語と言うべきか?)を分かるわけではないのだが、
何となく『いや、まだだよ』と言われたような気がした。
「……そうか、では待つとしよう」
ヤタローと俺は、共通の友人である北河さんを来るのを待つことにした。
そして、数分後……
「あれ、何で恭也がココにいるの?」
北河さんは現れた……芹や猛、そして剛に伴われて。
そして現在に至る訳だが……
「いや、芹が『このメンツで昼飯を食べてみよう!』って言うもんだから……」
「……ということは、剛は引っ張られてきたクチか?」
猛と芹、そして北河さんだけなら、クラスメイトということで理解できるが、
剛がいるのは、連れて来られたせいだろう。
「え、えぇ……でも、たまにはこん所で食事も良いものですね」
普段から屋上で食事を摂っている俺には分からないことだが、剛にとってはそういうものらしい。
「そういえば、逢須さん。授業の方はどうだい?」
あまり共通の会話がなかったせいだろうか、剛は昨日転入してきた芹に話を振ってきた。
「えっ!?……それは、その……」
どうにも芹は、歯切れが悪かった。
なので猛が、芹に代わって、彼女の成績報告をし始めた。
「英語は、問題なし……さすがは、米国帰ってとこだよ。
そんで他の教科は……まぁ、聞かないでやってくれ……」
猛は申し訳なさそうに、そう報告した。
「そ、そうなのかい!?」
予想と違った答えが返ってきたのだろう。
剛はそう言い返すのが精一杯のようだった。
さすがにフォローの仕方が分からない面々は、俺に視線をやって来た。
……つまり、俺にフォローしろということなのだろう……
「……まぁ、焦る必要はないだろう。俺の知り合いに英国育ちの人がいるが、
その人はすぐに日本に溶け込めたぞ。だから、心配ないと思うぞ」
「本当っ!?じゃあ、なんとかなりそうね!!」
芹が嬉しそうに、そう言った。
それを見ると、何だか悪いことを言ってしまったような気分にかられた。
俺は嘘は言っていない……嘘は言っていないのだが、真実も語っていなかったのだ。
「(何しろ、今話したのはフィアッセのことだからな……)」
フィアッセの場合、確かに『英国育ちで、すぐに日本文化にも溶け込めた』が、彼女はイギリス人だ。
それに、ティオレさんという日本贔屓の親がいたから、
良い意味でも悪い意味でも日本のことに詳しかった。
「(まぁ、これで芹の不安が取り除けるのなら、良いと思うのだが……)」
美由希が聞いたら、『ウチの兄は、割と嘘つきですから』とか言われそうだが、
気にしないでおこう。
「ところでさ、その……そのカラスは何なの?」
芹がやや言い辛そうに聞いてきた。
無理もない。普通カラスは頭が良く、危険なモノだと思われているからな。
「……この子はヤタロー。私のお友達……」
「へっ!?このカラス、北河さんが飼ってるの!?」
「クワァッ!クワァッ!!」
芹の発言に、怒るヤタロー。
まぁ、普通はそう思うだろうが……
「……違うわ。ヤタローは私のお友達なの」
「けっこう、人懐っこくて良いヤツだぜ」
そんなヤタローをフォローしたのは、『ヤタローのお友達』である北河さんと猛だった。
「へぇ、カラスって頭が良いから、そういうこともあるんだな」
剛は剛で、感心した様子でヤタローを見ていた。
「…………」
そんな剛を、北河さんが数瞬見つめていたが、気付いたものは俺以外にはいなかったようだ。
学校の授業が終わるとすぐに下校したせいか、俺が帰宅した時には、
まだ誰も塔馬家には帰ってきていなかった。
塔馬家では、食事は琴乃さんが作ってくれるから問題ないが、掃除はそうもいかない。
なので、掃除当番は割り当てが決まっていて、今日は俺が風呂掃除をする番だった。
「(……皆が帰って来る前に、風呂を沸かしておくか……)」
夏が近づきつつあるので、沸かしておけば、誰かしらは入るであろう風呂。
自分は深夜の鍛錬後に入るから、今沸かしてもあまり意味はないが、
居候の身としては、少しでもやれることをやっておきたかった。
「(……良し。そうと決めたら、さっさとやってしまおう)」
高町家にいた時も、食事以外は俺も風呂掃除の当番があったせいか、
風呂の掃除自体はすぐに終了した。
『ただいま〜〜〜!!』
そして、丁度風呂を沸かし終えた時、料理番とその妹、そして今出雲学園の注目を浴びている、
自称猛のフィアンセが帰ってきた。
「おかえりなさい」
玄関まで行き、三人を出迎えた俺はそう言った。
「今日は三人で帰宅か。珍しいな」
「あのね、今日は三人で買い物をしてきたんだよ♪」
そうか、だから三人そろってに帰宅になったのか……
「そうだったのか……言ってくれれば、荷物持ちぐらいはしたんだが……」
女性の買い物には、荷物持ちが必須。
それは、自分以外女性の高町家で育った俺にとって、もはや常識と同じ位に刷り込まれていた。
「えっと〜……今日の買い物は、女の子だけで行きたくて……」
明日香ちゃんは、何やら言い辛そうに発言した。
「そうか……なら、荷持ち持ちが必要な時は、遠慮なく言ってくれ」
「う、うん!(ふぇ〜〜〜ん、流石に『芹お姉ちゃんの下着を買いに行ったんだ!』なんて、
言えないよ〜〜〜)」
ふと明日香ちゃんの顔を見ると、百面相をしていた。
そして、残りの二人は何故か頬を赤らめていた。
「(……何だか知らないが、話題を変えたほうが良さそうだな……)」
俺はそう判断すると、別の話題に切り替えた。
「そう言えば、芹。今丁度風呂を沸かしたんだが、食事前に入ったらどうだ?」
「え!?本当っ!?恭也、気が利いてるね!!」
「いや、コレぐらいしか俺ができることはないからな……」
一応基本的な料理はできるが、高町家と同じく鉄壁の料理番がいる塔馬家では、
俺の出る幕はなかった。
「それじゃあ悪いけど、先にお風呂入ってきちゃうね!」
「ああ」
芹はそう言うと、スキップしながら一旦自室に戻っていった。
「私たちは、お夕飯の用意をしますね」
「いつも済みません、琴乃さん」
いつものことながら、いやいつものことだからこそ、琴乃さんには感謝の言葉しか出ない。
「いえ、気にしないで下さい。私、お料理は好きですから」
「そう、そう♪だから恭也お兄ちゃんは、デ―ンと座ってるだけで良いよ♪」
明日香ちゃんは、胸を張りながらそう言った。
明日香ちゃんは、なのはと同じようなことを言うせいか、時折なのはと重なる時がある。
……なのはも大きくなったら、明日香ちゃんのようにまっすぐに育って欲しいものだ。
「わかった。それじゃあ俺は、自分の部屋にいるから、夕飯ができる頃にまた来るよ」
「は〜い♪」
俺は明日香ちゃんにそう言い残すと、自分にあてがわれている部屋へ戻っていった。
「ただいま〜〜〜!!」
六介さんが帰ってきてからしばらくして、最後の塔馬家の住人である、猛が帰ってきた。
猛は元気が良いせいか、声が良く通る。
そのせいか、猛が言っていることは大体自室にいても聞き取れた。
「ふぅ〜、飯前に風呂でも入るか〜!」
「(!?)」
猛はそう言うや否や、風呂場の扉を開けていった。
俺は、猛の言葉を聞いて、慌てて自室から出てきいくと、
「きゃぁぁぁぁあ〜〜〜、猛のエッチ!スケベ!」
「誤解だ〜〜〜!!ワザとじゃないんだ!!」
風呂場の方から、そんなやり取りが聞こえてきた。
「(お、遅かったか……)」
俺は二人の声の様子から、大体の事態を把握した。
そして、猛が撃墜されたであろうと考えた。
……学校でのやり取りから考えての結果である……
「(……猛、安らかに眠れ……)」
今俺にできることは、猛の冥福を祈ることだけだった。
「本当に信じられない!!」
「だから、謝ってるじゃないか!」
夕飯になっても、芹と猛の喧嘩は納まらなかった。
「(……というか、アレは猛への糾弾か?)」
今回の件は、猛の一方的な不注意であり、それは誰の目から見ても明らかだった。
だからなのか、今回猛を援護してくれる人間は、この場にはいなかった。
「お兄ちゃん〜、女の子を一緒に暮らすんだから、ちゃんと注意しなきゃだめだよ〜」
「あ、ああ。さっきので懲りた……これからはちゃんと、ルールとかも決めることにするよ……」
さっきのことが、相当堪えたのだろう。
猛はそう言いながらも、既にかなり疲労感が出ていた。
白鳥姉妹が帰宅した後、塔馬家の住人での夕飯になった。
その後、六介さんは就寝し、猛と芹はテレビゲームをし始めた。
そして俺は、深夜の鍛錬に行った。
「……流石に一人だと、やれることの幅が狭くて、あっという間に鍛錬が済んでしまうな……」
ロードワークに、筋トレ。そして、仮想美由希による実践稽古。
一人だと美由希のペースを考えずにやれてしまうこともあって、
こちらに来てからは、鍛錬はあっという間に終わってしまうのだ。
「……さっさと風呂に入ってしまおう」
夏が近づいてきているが、油断するとすぐに身体が冷えてしまう。
そんなことで、調子を崩すわけにはいかない。
俺は寝ている人たちを起こさないように、足音を消して風呂場に向かった。
「……さてと……もう出るか……」
風呂に入って十数分。既に身体も温まったことだし、もう十分だった。
「(家族が知ったら、また『恭ちゃんは烏の行水だね〜〜〜』とか言われるだろうが、
これ以上浸かっていても、のぼせるだけだろうが……)」
女性の考えることは、いつになっても理解できない。
そう思いながら風呂場のドアを開けようとすると、
『……へっ?』
何故か夕飯前に風呂に入った芹が、一糸まとわぬ姿でドアを開けてきた。
芹と俺は、予想外の展開に頭が真っ白になった。
「(とにかく、俺にできることは……もう一度ドアを閉め、向こうが冷静になるのを待つか……)」
高町家にいた時に、既にこういったことが経験済みである俺は、いち早く冷静に対処した。
……ちなみに、その時の相手はフィアッセで、立場が逆だったが……
芹が冷静になるのを待ってから、俺は芹に謝罪した。
謝罪内容はもちろん、見ていて気持ち良いものではない、身体中の傷を見せてしまったことについてだ。
「……本当に済まない。その……イヤなものを見せてしまって……
(あんな傷だらけの身体、見ていて気分が良いものではないだろうに……)」
「えっ!?その、あの……とっても立派なモノだったわよ!!
(猛よりも立派だったような気が……って、あたし何考えてんのよ〜〜〜!!)」
「え?……そう思うのか?」
てっきり嫌な顔をされると思っていた俺は、芹の意外な反応に面食らった。
「う、うん!胸を張って良いことだと思うわ!!
(ひぃぃ〜〜〜!!この期に及んで、何考えてんのよ、あたしって〜〜〜!?)」
芹は、何故か顔を赤らめながらだったが、そう言ってくれた。
「……ありがとう。この傷だらけの身体は、俺の成長の証でもあるんだ。
そう言ってもらえると、ありがたい」
「え゛っ!?(ソッチの話だったの!?)う、うん!!カッコ良いと思うよ!そういうの!!」
武道家の家に育ったせいだろうか、芹はそういうことに理解があるようだった。
「(……ウチの愚妹も、コレぐらい理解があったら……)」
遠く離れた地にいる、弟子兼愚妹である特定人物に、芹の爪の垢を煎じて飲ませたいと、
本気で思ってしまったのは、秘密である。
「それじゃあ、お互いさまってコトで良いよね!?」
「ああ……そう言ってもらえると、こちらとしても助かる」
何とか、先の猛と芹のような喧嘩にならずに済み、俺は安堵した。
「そ、それじゃあ!おやすみっ!!」
そして芹はそう言うと、足早に去っていってしまった。
「(……シャワーに浴びにきたんじゃ、なかったのか?)」
やはり女心は理解できないと思った、深夜の出来事だった。
あとがき
久々の恭也編です。
今回のハプニングは、最初予定していなかったのですが、
書いているうちに、『コレ入れたら、おもしろそうだな〜』と思い、追加してしまいました。
サツキはこういったシーンは、あまり得意ではないので、精進あるのみだと思いました。
次回は何と、恭也でも猛でもない人物が主役を張ります。
一体誰なのでしょうか?
それでは今回は 、このあたりで失礼します。
風呂場でのハプニングニ連続〜。
美姫 「どっちも芹なのね」
まあ、そりゃあな。塔馬家にいる女の子は芹だけだし。
美姫 「冷静に対処できた恭也は被害を受けなかったと」
この場合、入ってきたのは芹というのもあると思うけれどな。
美姫 「次回は違う人が主役みたいね」
一体、誰が!?
美姫 「次回を待ってますね〜」
ではでは。