『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』
「それじゃあ、猛。俺はここで」
「ああ。またな、剛」
練習が終わり、校門まで着た俺たちは、ここで剛と別れた。
「剛君って、ここから車で帰るんだっけ?」
「あぁ、大斗財閥の御曹司だからな……リムジンで登校してるんだぜ!」
「リムジン!?……本当にいるんだね〜、そんな人たち……」
芹は呆気に取られているみたいだ。
……ムリもない。リムジンで登校なんてする生徒が、普通の学校にいるハズがないしな。
「わたしたちも、帰ろ?」
「そうだな」
こうして俺は、芹に促されて、剛より少し遅れて帰路についた。
第十七話 一日目……芹の恩返し?《猛の章》
「そういえば、芹。今ウチに、俺と同じ居候がいるって知ってるか?」
「えっ?琴乃さんと、明日香ちゃんのこと?」
芹の母親は、綾香さんの教え子だったこともあり、芹と白鳥家の娘たちは面識があった。
芹もアメリカに行くまでは、何度か遊んだことがあるらしい。
「いや、あの二人は飯を作りにくれるけど、住んでるワケじゃないんだ」
「?じゃあ、別の人がいるの?」
「ああ!……まぁこの話は、帰ればすぐわかるコトだし……」
「ふ〜ん。じゃあ、あとの楽しみにとっておくね!」
芹はそう言うと、もうこの話題には触れなかった。
「(……楽しみか……)」
芹はそうかもしれないけど、恭也はどうなんだろう?
「(まぁ、先に帰った爺ちゃんが説明してるとは思うけど……)」
あの朴念仁はどんな反応をするのだろうか?
ソレを考えると俺も少し、楽しみになってきた。
『そんなっ!一つ屋根の下で年頃の男女が一緒に暮らすんですか!?それは、いけません!!』
とか言って、爺ちゃんに抗議でもしてたりして……
『ただいま〜!!』
そんなことを考えならがら歩いていると、あっという間に塔馬家まで帰ってきていた。
俺たちはその勢いのまま、リビングに向かうと、
「お帰り。芹ちゃん、猛」
先に帰った爺ちゃんが、俺たちを出迎えた。
「お帰りなさい。猛さん、芹さん」
「お帰りなさ〜い。お兄ちゃん、芹お姉ちゃん♪」
次いで、琴乃と明日香ちゃん―白鳥姉妹が。
「ただいま……って、あれ?アイツは?」
『アイツ』……つまり、俺と並ぶもう一人の居候『高町恭也』の姿が、ここにはなかった。
部活をしていない恭也は、基本的にこの時間はリビングにいることが多いのだ。
「ああ。恭也君なら、今実家に電話してる所じゃ……邪魔するんじゃないぞ?」
「しね〜よ!!……そんなに信用ないのか?俺って?」
どうやら爺ちゃんの中での俺は、電話中の人間に何かイタズラをするような、悪ガキらしかった。
……あんまり強く反論できない自分が、少し悲しかったりするが……
「……ねぇ、猛。もしかして、もう一人の居候って『男の人』なの?」
爺ちゃんと俺のやり取りを見てか、芹が俺に訊ねてきた。
「ん?あぁ、そうだけど……」
「(何だ?芹の様子がおかしいような気がするけど……)」
そんな俺の胸中も投影したのか、この後の芹のセリフはとんでもないものだった。
「お爺ちゃん!!あたし、見ず知らずに男の人と同じ家に住むなんてイヤっ!!」
一瞬、空気が凍ったような気がする。
それはそうだろう。芹がこんなことを言い出すなんて、一体誰が予想できただろうか?
「せ、芹ちゃん!?」
流石の爺ちゃんも、芹がこんなことを言うとは思わなかったのか、慌てているようだった。
爺ちゃんの慌てる姿なんて、ほとんど見たことがないが、
今はそんなことを言っている場合ではなかった。
「しかし、芹ちゃん……彼は、とても良い青年じゃぞ!?」
「それでも、イヤなモノはイヤっ!!」
それでも、なんとか爺ちゃんは芹を説得しようとしたが、芹の意見は覆らなかった。
「……芹、俺は良いのか?」
ここで『やっぱり、猛もイヤっ!!』とか言われると、かなり凹むんだが、
それでもツッコまずにはいられなかった。
「猛は良いのよ!前にも一緒に暮らしてたことがあるでしょう?」
「まぁ、確かに……」
俺が塔馬家に引き取られてから、芹が渡米するまでの短い間だったが、
芹とは一緒に暮らしていたことがある。
……にしても……
「(やっぱ、マズイよな?これって……)」
悪気があるとは思えないが、恭也が聞いたら気を悪くすることは間違いない。
芹にそう言おうとした瞬間、
「六介さん……」
リビングの入り口を見ると、そこには話の種である、恭也が立っていた。
「恭也君……済まないね、見苦しい所を見せて……」
こんな混乱した場面であっても、流石は年の功。
現状を確認して、爺ちゃんは恭也にまず謝罪し始めた。
「いえ……それよりも、そちらのお嬢さんの言い分は正しいです。
誰だって、自分の家に見ず知らずの異性がいたら、良い顔はしないでしょう。
「そ、それは……」
恭也に正論を突きつけられた爺ちゃんは、言葉に詰まってしまった。
「荷物は、後日引き取りに伺いますので、今日はこれでお暇させて頂きます。
……今までお世話になりました」
恭也はそう言うと、一礼してリビングから去っていこうとした。
「まてよ『待って!!』……えっ?」
俺が恭也を呼び止めようとすると、他の誰かの声に阻まれた。
「ちょっと待って!!」
呼び止めたのは、先ほどまで恭也がこの家にいることに反対していた、他ならぬ芹だった。
「……何でしょうか?」
芹に呼び止められた恭也は、ゆっくりとこちらに向き直った。
「もしかしてあなた、今朝職員室前で助けてくれた人!?」
「……そういう貴女は……確か、『逢須芹』さんでしたよね?」
「やっぱり!!」
何だ?一体何が起きてるんだ!?
芹と恭也は、既に顔見知りだったっていうことか?
どちらにせよ、これで芹の言う『見ず知らずの男の人』では、なくなったということか?
「う〜ん……お世話になったから、お礼をしなくちゃいけないし……」
「……芹?」
先ほどまでの険悪な雰囲気はどこへ行ってしまったのか、芹は何か考え事をしているようだった。
しばらく唸っていた芹だったが、次に瞬間今までと、正反対のことを言い始めた。
「うん、わかった!良いよ、出てていかなくても!」
「……良いのですか?先ほどと、言ってることが違うような気がしますが……」
恭也が狼狽するのもムリはない。
さっきからの態度が一転し、いきなりそんなことを言われたら、
誰だって似たような反応をするだろう。
「(ていうか、どうしたんだ?芹のヤツ……)」
「一度お世話になったから、お礼はしなくちゃいけないでしょう?
それに、貴方ならあたしに変なことしそうにないし!!」
どこからそんな根拠が出てくるんだろうか?
芹は自信ありげに、恭也に言った。
「(まぁ、確かにそうだけどな……あの堅物が、そんなマネをするとは思えないし……)」
案の定、恭也は俺の想像通り、ひどく真面目に受け答えした。
「お世話になっている家の娘さんに手を出すほど、俺は恩知らずではありませんよ。
……それに、貴女には既に心に決めた相手がいるのでは?」
「えっ!?なんでそれを!?」
恭也のセリフを聞いた芹は、いきなり恭也に凄い迫力で迫っていった。
「(……まだ恭也には、芹の素性を話してはいない。なのに、なんで知ってるんだ!?)」
「い、いえ!噂の転入生が貴女なのならば、その相手は猛のはずでしたし……」
芹に凄い迫力で迫られた恭也は、珍しく調子を崩しながら自分の推理を語った。
「オッホン!」
爺ちゃんは、芹がお墨付きを出したことで、これ幸いと会話を軌道修正した。
「それじゃあ、芹ちゃん。恭也君が同居することに、問題はないね?」
「えっ?うん、良いよ!」
一瞬、爺ちゃんの意見に反応できなかった芹だったが、
次の瞬間には笑顔で了承していた。
「……という訳じゃ。騒がせて済まなかったの、恭也君」
流石は年の功。
何とか話をまとめた爺ちゃんは、結論を出した。
「……わかりました。今後ともよろしくお願いします」
そう言うと、恭也は芹の前にやって来た。
「朝は自己紹介もせずに、済みませんでした。俺は『高町恭也』です。逢須さん」
「えっと、さっきはゴメンなさい!……『恭也』君で良いのかな?」
「ええ、構いません」
「じゃあ、あたしは『芹』で良いよ!」
「……わかりました、『芹』さん」
「う〜ん、呼び捨てで良いのに……」
恭也が芹を呼び捨てにするのはともかく、芹が恭也を呼び捨てにするのは、マズくないか?
「(……すっかり忘れがちだけど、アイツ年上だしな……)」
そのことを知ってるのに、敬語すら使わない自分を棚上げして、俺はそのことを芹に話した。
「芹、恭也は俺らより年上なんだ。だから……」
「えっ?……じゃあ、やっぱりあたしのことは、呼び捨てで構わないよ!」
「(その言葉づかいがマズいんじゃないか〜〜〜!!)」
芹のまったくわかっていない発言に、俺はタメ息が出そうになった。
「……わかりました。それなら、俺も呼び捨てで構いません……というか、呼び捨てにして下さい」
「エッ!?」
「(……そういえば、コイツはそういうヤツだったな……)」
自分との初対面のあいさつの時にもした、同じやり取りが目の前で繰り返されていた。
「先ほど六介さんから伺いましたが、海外での暮らしが長いんですよね?
でしたら、向こうにいる時と同じように接してもらって構いませんよ」
「…………」
どう答えたら良いか、わからなかったんだろう。
芹は俺の方に視線をやり、助け舟を求めているようだった。
「俺も同じように言った時、そう言われたから、それで良いんじゃないのか?」
「……うん!!」
そう言うと芹は恭也の方に視線を戻し、
「それじゃあ、これからヨロシクね!『恭也』♪」
「こちらこそ……よろしく頼む『芹』」
こうして、少しひやひやした塔馬家全員の顔合わせは、無事終了した。
「それじゃあ私たちは、そろそろ失礼しますね」
「そうだね、はやく帰らないとお母さんが心配するし……」
こっちの話がまとまり、夕飯の用意ができた琴乃と明日香ちゃんは、帰宅の準備を始めた。
「今日は、うちにもお客さんが来ているから、はやく帰らないといけないんだ♪」
「?明日香ちゃん、嬉しそうだね?」
その来客に会えるのが、楽しみなんだろうか?
明日香ちゃんは、すごく嬉しそうな顔で、そう言った。
「うん♪お母さんの教え子なんだけどね、弓道部の大先輩でもあるから、知り合いなんだ♪」
「へぇ〜、そうなんだ」
「明日香は学校でも会ったかもしれないけど、私は会うのが久しぶりなんです。
……その、私も楽しみなんです……」
二人の様子を見ると、本当にその人に会えるのが楽しみなんだなぁと、わかるぐらいだった。
「うむ。それじゃあ二人とも、お疲れ様……お母さんと七海ちゃんによろしくな」
「はい。それじゃあ、失礼しますね」
「それじゃあ、また明日〜!!」
爺ちゃんが二人に感謝の言葉を述べると、二人は家へ帰っていった。
琴乃が用意してくれた食事を食べたり、芹と少し話したりしているうちに、
時間は過ぎていった。
『この世界は、危機に瀕しています……』
『今こそ、貴方の力が必要なんです……』
『世界を救うために、貴方の力が……』
『一刻も早く……もう、間に合わないかもしれない……』
その日の夜、俺は久しぶりに夢をみた。
……まるで、この後に起こることを予兆しているかのような、そんな夢を……
あとがき
今回も前回に引き続き、猛編でした。
猛に対しては甘々な芹ですが、他の男子がいきなり家にいたら、どうなるのかなぁと思い、
今回の恭也と芹の出会いを書いてみました。
……なんだか、微妙に芹がツンデレっぽくなっているような気が……
多分気のせいです!!(オイッ!!)
それでは今回は 、このあたりで失礼します〜
無事に恭也も居候を続けられるみたいだな。
美姫 「良かったわね」
そして、夢。
美姫 「これから起こる事を暗示するかのように…」
ゆっくりとだが、何かが動き出しているのかも!?
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」