『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』





「……にしても、どうしてあんなにニブイのかねぇ。あの朴念仁は?」

一ヶ月前からウチに下宿することになった居候、『高町恭也』のことを考えると、自然にタメ息が出てきた。

俺の名前は、『八岐猛』。
『出雲学園』に通う、至って普通の高校生。
趣味・特技は、TVゲームと剣道。
特に剣道の方は、高校で剣道部に入部してる。

「……って、違うっ!!何で俺は、自己紹介なんてしてるんだ!?」

そうだった。今はあの朴念仁のことを、考えていたんだった。

『高町恭也』……俺と同じ、塔馬家居候。
趣味……釣りと盆栽
特技……剣術?
性格……寡黙で究極無敵の『朴念仁』

……特技は恐らく剣術だろう。
一度も手合わせをしてもらえなかったが、あの隙のない動作は爺ちゃんに通じるモノがある。
つまり、相当な達人なのだろう。

趣味の釣りは、理解できなくもない。
俺と同い年でも、釣りが好きなヤツなんていくらでもいるから。

……しかし、盆栽ってのは何だ!?
一度爺ちゃんと盆栽の話で盛り上がっていたが、普通あの年で盆栽が趣味なんてヤツはいないぞ!?
……まぁ、あの雰囲気と落ち着き具合を見ると、それもアリかと思ってしまうのも事実だが。

とにかく、あの究極無敵の朴念仁がウチに来てから一ヶ月。
アイツはウチの連中とも仲良くやっており、問題はない。

……強いて言えば、学校に『高町恭也ファンクラブ』なんてモノが組織され、
女子が熱を上げていることぐらいだ。
……当然のことながら、知らぬは本人だけという状態なワケだが……





第十ニ話 一日目……噂の彼は……《猛の章》





「猛、聞いたか!?このクラスに転校生が来るらしいぜ!!」

コイツは鈴木。頼まれると断れない性格で、何かと助けてくれる良いヤツなのだが、
ゴシップ好きで、ネタのためならどこへでも潜入するというところがある。
なので、その良さが帳消しになってしまうのだ。

「はぁ?この時期にかよ!?……どこからの情報だ。お前の情報はガセが多いからなぁ……」

コイツの情報は、ガセが多い。
本人は、どんな情報にもアンテナを張り巡らせているからと言っているが、
たんに真実を見抜けていないんじゃないのか?

「信用ねぇな〜……職員室で、学生会長と先生が話しているのを聞いたんだよ」

「……お前、もうすぐ試験だっていうのに、そんなところウロついてたのか?」

「……そう言えば、もうすぐ試験だったな……忘れてたよ」

この通り、情報を求めるためには何でもするが、どこか抜けているのだ。

「まぁ、将来の夢はジャーナリストだからな。情報収集のためなら、多少の危険は覚悟の上さ」

「オイ、オイ……」

本気でこの友人が心配になってきたぞ。


「……で、お前が嬉しそうな顔をしてるってことは……女子なんだな?その転校生は!?」

すっかり脱線しかかった話題を、俺は強引に戻した。

「ああ、なんでも帰国子女らしいぜ。だから、こんな半端な時期の転入なんじゃないかな?」

「ふ〜ん」

「帰国子女……きっとスタイル抜群なんだぜ!!」

「……なんで帰国子女だと、スタイルが良くなるんだよ……」

きっとコイツの頭の中では、『外国に住んでる人間は、スタイルが良い』という、
公式が成り立っているのだろう。
……舞い上がっているコイツの前では、俺の突っ込みは無意味なようだった。

「このクラスだと、北河ぐらいだからな〜、スタイルが良いのは〜!」

「お、おいっ!!お前!?」

クラス中にも聞こえそうな声で、なんてことを言うんだ!コイツは!?

「ん?どうしたんだ、猛?」

これ以上コイツと話していると、クラスの女子の信頼がガタ落ちだ。
早々に立ち去ろう。

「うるさい、俺を巻き込むな!」

「はぁ?……あっ」

教室に入ってきた北河の、微妙に冷たい視線が俺たちを貫く。
さっきから俺たちが『学生会長』とか、『北河』とか言っていたのは、この少女のことだ。

北河麻衣。同級生で、スポーツ万能、成績優秀。
推薦でクラス委員に選ばれ、クラス委員からの全校投票で選ばれることになっている、
学生会長にも文句無しで当選してしまった、まさしく学園一の才女だ。


「よーし、みんな!席に着けー!!」

担任が教室にやって来たようだ。

「(……んっ?あの娘は誰だ?)」

担任の後ろに見慣れない女子がいた。
出雲学園の制服とは、明らかに違っている服。

「(……もしかして、鈴木の言っていた転入生って、あの娘のことか?)」

「みんなも急な話でびっくりするだろうが、今日からウチのクラスに新しい仲間が増えることになった」

クラスのみんなが、いっせいにどよめく。
そんな中で鈴木は、得意げな顔でこちらを顔を向けていた。

「転入時期が、学期を挟むかどうか微妙だったんだ。だから、決まってから言おうと思ってな……」

先生はそう言うと、後ろにいた娘を前に立たせようとした。
そのとき、

「猛〜っっ♪」

「な、なんだ〜!?」

転入生は俺の名を呼ぶが否や、黒板から俺の机までの距離を一瞬でゼロにして、抱きついてきた。

「来ちゃったーっ!あたし、日本に帰ってきたんだよ!?」

「な、な、な……」

いきなり抱きつかれて、俺はすっかりパニックになってしまった。

「猛!!びっくりした!?お爺ちゃんにも、秘密にしておいてって頼んだけど……」

頭が回らない。この娘は、一体何なんだ!?

「あ、あ、あ、あ……」

「えへへ、あんまり驚いて、声も出ないみたいね?」

いたずらっぽい笑顔を向ける女の子。

「……猛?」

俺が何か言おうとしていえるのを察すると、転入生は小首をかしげて続く俺の言葉を待った。

「……あんた、誰?」

ガーン!!

何か今、すごい古典的な擬音が聞こえてきたような気がする。

「……だ、誰って……」

「だ、だから……君はだれだっけ?」

「…………」

転入生は、絶句してしまった。

「俺の知ってる子?えーと、小学校で一緒だったかな?それとも中学?」

なんとか記憶を掘り起こそうとするが、心当たりがない。

「(ほんとに誰なんだ、この子は……)」

「……し、信じられない……」

「えっ?」

「あたしのこと……忘れるなんて!」

一転、怒気と驚愕にぶるぶると肩を震わせる転入生。

「(……もしかして、地雷を踏んだ!?)」

気付いたときに悔やんでもしょうがない。
後悔先に立たずとは、よく言ったもんだ……

「あたしのこと、お嫁さんにしてくれるって言ったくせにぃ!」

「ぬなっ!?」

「ええっ!?」

「なにぃっ!?」

ええーっ!?と、クラス中のみんなが反応した。

「ち、ちょっと待ってくれ!?誤解だ!みんな、落ち着け!!」

騒ぎ出すクラスメイトたち。
特に、新たな出会いに敗れた男子学生からは、呪い殺されそうな視線か発せられている。
……その筆頭は、親友であるハズの鈴木だったりするのだが。

「猛の……猛の……」

「えっ?」

騒ぎ出したクラスメイトの方に目がいっていた俺は、転入生の声でそちらに再び向き直った。
そして次の瞬間、

「猛のばかぁぁぁ〜〜〜っ!!」

ごーーーーーーーんっっっ!!

転入生の、スピードも技のキレもタイミングも超一流のアッパーカットが、俺の顎先を見事に捉えていた・・・



「はっ!?」

俺が目が覚ますと、既に昼休みになっていた。

「あ、あれっ!?一体何が起きたんだ……」

俺が身体を起こすと、そこには学生会長――北河がいた。

「…………」

「き、北河!!あれから一体、何が起こったんだ!?」

「……八岐くん、気絶したの」

北河はいつもこんな調子で、感情を込めないしゃべり方をする。
そのせいなのか、美人なのに男はどうも話しかけづらくて、寄り付かない。

「気絶って……俺が!?あの娘のパンチで!?」

いくら不意打ちだったからって、女の子のアッパーカットで昏倒させられては、男として情けなさすぎる。

「……逢須さん、空手やってるんだって」

慰めてくれているのだろうか、北河はそんなことを教えてくれた。
それでも情けないことには、変わりない。

「(……爺ちゃんに知られたら、どやされるだろうな……)」

「それで、動かしていいのか分からないから、保健室の先生に来てもらったんだけど……」

俺は続く言葉を待った。

「『気を失ってるだけ』って言われたら、『じゃあ寝かしとけ』って、みんなが……」

「ひでぇな、おい!!」

いくらなんでも、ヒドすぎる!
ソレが、ケガ人にすることなのか!?

「でも、八岐くんもひどいと思う……フィアンセのことを忘れるなんて……」

「フィアンセ?あ……」

そう言えば、嫁にもらう約束とかなんとか、そんなことを言ってたな……

「う〜ん、まったく身に覚えが……ん、ちょっと待てよ?北河、その娘の名前は?」

「逢須さん……逢須芹さん」

そのとき、俺の記憶の中で一番奥の方にしまってあった、埃をかぶった記憶を見つけた。

「……芹って……ああ〜〜〜〜っ!!」

その名前を聞いて、ようやく俺は彼女のことを思い出すことが出来た。

「逢須芹!思い出したよ!あの芹なのかっ!?」

『逢須芹』、塔馬六介――爺ちゃんのひ孫だ。
小さい頃は、塔馬家で一緒に暮らしていた経験だってある。
確か、父親が海外に転勤になって、それで一緒にアメリカへ旅立って行ったハズだ。
あの娘が、あの『逢須芹』なのか・・・。

「幼馴染だって言ってた」

「あ、ああ……小学校に入るか入らないかの頃のことだけど……」

これじゃあ、すぐに思い出せなくても仕方がない。
仮に覚えていたとしても、そんな幼い頃と比べたんじゃ、すぐにはわからないだろうに……。

「逢須さんは、八岐くんのことがわかったのに……」

同じ女子だけに、芹のほうに同情的なのだろう。
北河の口調は、ちょっと咎めるようなモノだった。

「い、いや……そう言われても……」

そもそも、嫁にもらうなんて約束……したっけか?
子供の頃の話だからな。もう覚えていないぞ。

「はぁ〜〜〜……とにかく、メシでも食いに行くか……」

「あ」

俺が食堂に向かおうとしたとき、北河が何か言いたげな顔で俺を呼び止めた。

「どうした?」

「食堂には、『今は』行かないほうがいいかも……」

「なんで?」

「噂になってるから」

「…………」

「隣のクラスの白鳥さんとか、その妹さんとか、すごく怒ってたよ」

どうやら俺が気絶している間に、噂が完全に一人歩きしているようだ。
……今日の夕飯、食べさせてもらえるだろうか……

「うわ、マジかよ!?いったい、俺が何をしたと……」

芹のことを忘れてたのは、たしかに悪かったと思うが……

「昼飯、どうすっかな……」

「…………えっと……」

ためらうように俯いて、ぽそりと北河が提案してきた。

「屋上で食べると、いいと思う。あんまり人、いないから」

「屋上か……」

出雲学園の屋上は、立ち入り禁止ではないのだが、何故かいつも人がいない。

「私、いつも屋上で食べてるから……」

「へえ〜、そうだったのか?」

「…………」

それ以上何も言わず、北河は弁当を持って教室を出ようとした。

「あ、待ってよ、俺も行くよ!」

「…………」

「(北河なりに、俺に気を使ってくれたのかな?)」

北河麻衣。同級生。才色兼備の学生会長。
どうも近寄りがたい雰囲気の美人。
あまり話したことがなかったからわからなかったが、実は人に気を配れる良いヤツのようだ。

そんなことを考えながら屋上に歩いていくと、そこには思いがけない人物がいた。





あとがき

今回は、猛視点の物語でした。
一気に噂の人物になってしまった猛ですが、彼の今後は大丈夫なのでしょうか?
そして、今回の猛視点になってはじめてわかったことですが、
転入一ヶ月でファンクラブを結成させてしまった、朴念仁。
恭也の勢力範囲(?)は、ついに海鳴の外にまで広がってしまったようです。

次回は、再び恭也の視点に。
この騒動を聞きつけた恭也が、どんな反応をするんでしょうか?


それでは今回は 、このあたりで失礼します。





噂の一人歩き〜。
美姫 「猛にとっては災難ね。まあ、ある意味自業自得かも」
今回は恭也の視点でなかったので、今まで分からなかった部分が明らかになったり。
美姫 「にしても、FCまでできちゃうなんてね」
あははは。さてさて、次は何が起こるのかな。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
果たして、恭也と白鳥姉妹の反応は!?
美姫 「次回も待ってますね〜」
待っています。



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