『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』
「・・・恭也君、君に一つ聞きたいことがある」
六介さんが、真剣な顔つきで問いかけきた。
「なんでしょう?」
「・・・もし膝が治るとしたら、君はどんなことでもするかね?」
第十話 答え・・・繋がれた未来
!!膝が治る・・・それは、失われた剣士としての未来が開けることを意味する。
物心ついてから、ずっと共にあった剣。
もはや、自分を構成する大きなモノになっている。
剣士としての未来が絶たれたとき、どれだけ絶望に駆られただろうか?
どれだけ運命を呪っただろうか?
自分の不注意で全てがダメになっても、半ば諦めながらも剣を置かなかったのは、
剣士としての完成しないことを、認めたくなかったからではないのか?
もし、剣士としての未来が再び見ることができるのなら、俺は何でもするだろう・・・
しかし、
「・・・俺が出来ることなら、何でもするでしょう。ですが、それが他の人間を犠牲にするよう方法なら、
お断りします」
そう、目的のためなら何でもする。それは、先ほどの戦闘でもやってしまったこと。
人間は脆い。自分の欲望が実現可能だと知ったとき、それを抑えられない生き物だ。
それが、人を犠牲にするものでも。
だからこそ・・・だからこそ、そんな方法に頼ってしまってはいけないのだ。
そんな方法は頼ってはならない。
これが、俺の出した結論だ。
「・・・本当に良いのかね?自分の剣士としての将来が閉ざされてしまうんじゃよ?」
「それなら、閉ざされた範囲で精一杯足掻きます。それでも、まだやれることがあるでしょうから」
先の戦闘で繰り出した太刀にしたって、きちんとした精神状態で放てば、力強い技になるだろう。
俺は今まで御神流、つまり父さんに教わったことに拘りすぎていた。
御神流を誇りに思うのは良いが、それだけに拘り過ぎるあまり、
まわりが見えなくなってしまっては、ダメなのだ。
今回の仕合で、それを思い出した。
いや、思い出させられた。
「それに、そんな答えを出しているようでは、さっきの仕合の意味がないんじゃないですか?」
俺のその答えを聞いて、六介さんは満足そうに微笑んだ。
「その通りじゃな。よくぞ辿り着いた。さすがは、士郎が育てた弟子じゃ」
その言葉は、先の言葉の否定。
つまり、さっきの発言は俺から冷静さを奪うための虚言だった、ということだ。
「やはり、さっきのは俺を怒らせるためだったんですね?」
「そうじゃ。たしかに士郎はとんでもない奴じゃったが、それでも尊敬できる奴じゃったからの」
それについては、同感だ。
あんなにハチャメチャな人間だったのに、出会った人たちに嫌われなかったのは、
尊敬できるところがあったからだろう。
「さて、それでは本題に入ろうか」
「はっ?本題ですか?」
この勝負は、俺の目を開かせるためのモノ。
ならば、ここまでが本題だったハズだ。
この先に何があると言うんだ?
「儂が先ほど言った『君の膝を治す方法がある』というのは、本当じゃ」
「えっ!?あれは本当だったのですか!?」
てっきり俺を試すためのモノだと思っていたのだが・・・
「ああ、本当じゃ。この方法は、誰かを犠牲にする方法ではない。ただ、君の覚悟が聞きたかったんじゃ」
「俺の覚悟ですか?」
「そう。誰かを犠牲にしてでも自分の膝を治したいと言っていたら、即座に叩き出しておったところじゃ。
じゃが、君はそれを良しとしなかった。よって儂は、君にその方法を教えることにした」
「・・・つまり、試験に合格したということですか?」
「そういうことじゃな」
この仕合自体が、いくつもの試験が盛り込まれていた。
つまりは、そういうことだったのだ。
・・・参った。正直、ここまで幾重にもトラップが仕掛けられていたとは、思わなかった。
役者が違いすぎるな。
「・・・恭也君、君に一つ見せたい技があるんじゃ。ちょっと、あそこの岩を見ていてくれ」
そう言うと、六介さんは剣を鞘に収め、居合いの構えを取った。
「(何をするつもりなんだ?)」
一切の音が止み、空気が凍ったように感じる。
シャキッ
鯉口が切られ、そこから凄まじい剣圧が生まれる。
「孤閃っ!」
六介さんがそう叫ぶと、生じた剣圧は一直線に飛んでいき、六介さんが指定した岩を粉砕した。
「(何だ、今の技は!?那美さんたちの使う霊力技に似ているが・・・)」
「今のは『孤閃』。剣圧で生じた波動を飛ばす技じゃ」
俺の心の中の疑問に答えるかのように、六介さんはそう言った。
「この技を俺に見せて、どうするつもりです?まさか、俺に教えてくれるとでも?」
確かに凄まじい技だが、これを覚えたところで俺の悩みが解決するとは思えない。
「この技は、一見剣圧のみで構成されているように見えるが、実は『気』の力を使っているじゃ」
「『気』ですか?『霊力』とは違うのですか?」
思ったことを聞いてみた。
「『霊力』のことを知っておったか。なら、話ははやい。『気』と『霊力』は、同一のモノじゃ。
単に儂は、『気』と言う方が慣れているだけじゃ」
六介さんは剣を納めて、こちらに向き直った。
「君の膝を直す方法。それは、ある特殊な呪法を使うことなんじゃ」
「呪法ですか?それは、『霊力』を使った治療とは違うのですか?」
この世界には、退魔師と呼ばれる人たちがいる。
彼らは、『霊力』と呼ばれる力を駆使し、俗に幽霊と呼ばれるモノたちを祓うことを生業としている。
そして俺は、退魔師であり友人である那美さんから、『霊力』を使った治療を受けている。
それは、『霊力』によって普通では治せない傷を治すというモノだが、
俺の膝は『霊力』でもすぐには治らないぐらいのモノらしく、完治はしないだろうと言われているのだ。
「君に『気』のことを教えようとしたのは、一般常識を超えたものがあるということを、
教えたかったからじゃ。『気』自体が治療に関わってくるわけではない」
「しかし、俺が『霊力』のことを知っていたから、その必要がなかったと?」
「そうじゃ。普通の人間だったら、この時点で混乱しておるからの」
「(・・・その通りだ。俺は、退魔師の知り合いがいたから大丈夫だったが、普通の人がこれを見たら、
まずパニックになるだろうな)」
俺のまわりには、特殊な人間がそろっている。
・・・もっとも、自分も相当人間離れしているが。
「『気』つまり、君の知っている『霊力』は、元々霊障を祓うことに特化したもの。
じゃから、霊力による治療法では、ある程度が限度なんじゃ」
そう言うと、六介さんは懐から一つの玉のようなモノを取り出した。
「それは・・・勾玉ですか?」
「左様。その中でもこれは、『和玉』と呼ばれるものじゃ」
六介さんが取り出したのは、淡い緑色の勾玉だった。
「この和玉には、人体を癒す作用が込められているんじゃ。後は、これを填め込む武具があれば、
その作用を発動できるのじゃが・・・」
「何か問題でも?」
「今うちには、それを填められる武具がないんじゃよ」
呪法を発動させるには、和玉とそれを填め込める武具が必要。
つまり、和玉だけでは意味がないということなのだろう。
「その武具は、どこにあるんですか?」
自分の治療に関することなのだ。
取りに行ける範囲ならば、俺が取りに行かなければ。
そう思い、六介さんに尋ねてみた。
「それが・・・アメリカなんじゃ。美由紀ちゃんが、それを持っておるんでの」
「そ、それは・・・」
さすがにアメリカまでは、取りに行くことが出来ない。
イギリスなら、フィアッセを頼ればなんとかなるだろうが、アメリカではそうもいかない。
「(う〜む。綾香ちゃんは持ってないし、渚ちゃんは忙しいから会えんじゃろうし・・・
そうじゃ!たしか、七海ちゃんがまだ持ってたハズじゃ!!)」
思案顔で考え込んでいた六介さんだったが、次の瞬間には何かを思い出したようだ。
「そうじゃ、思い出したぞ!七海ちゃんなら、あの武具を持っておった!」
「その方は、どこにいらっしゃるんですか?」
「もちろん、国内じゃよ。連絡自体はすぐにできるから、あとは向こうの都合次第じゃな」
「では、場所を教えてください。俺が取りに伺うので・・・」
「いや、取りに行っても無駄じゃ。武具は、使い手を選ぶんでの。
それに、彼女の武具は弓。君は弓を扱えないじゃろう?」
「・・・そうですね。では、どうしたら良いですか?」
「彼女の都合の良い日にでも、うちに来てもらおう。それが、一番はやいじゃろう」
「良いのですか?ご迷惑をかけているような気がするのですが・・・」
誰かを犠牲に・・・という程ではないが、迷惑をかけているような気がする。
「なに、彼女は出雲学園のOGでの。時々、弓道部のコーチとして呼ばれるんじゃ。
そのときに、ついでに来てもらえるようにすれば良いじゃろう」
「・・・わかりました。では、そのようにして頂けますか?」
「ああ、わかった。そうするとしよう」
正直、どこまで治るかわからないが、今より良くなることは間違いないだろう。
それなら、また一歩『剣士としての先』を見られるようになる。
どこまで行けるかわからないが、まだ限界は先延ばしに出来るようだ。
と、ここまで考えてから、一つの疑問が頭に浮かんだ。
「六介さん。何故、俺に『気』のことや『呪法』のことを教えてくれたんですか?
何もメリットはないと思いますが?」
六介さんに、浮かんだ疑問をぶつけてみた。
「そうじゃのう・・・。理由はいくつかあるんじゃが、
『剣士として完成された恭也君と仕合いたい』というのが、あるの」
「『剣士として完成された俺』と、ですか?」
「そうじゃ。それに今の君は、無意識に膝の治癒に『気』の力を充てている状態。
だから、膝が治れば『気』を使った技だって出来るようになるじゃろう」
「・・・それでも、勝負になるとは思えませんが?」
仮に、さっきの『孤閃』のような技が放てるようになっても、
六介さんは随分先にいるような気がするのだが・・・
「ふむ。ならば、老人の老い先短い娯楽と思ってくれても構わんよ」
「そう言われても・・・」
にわかに信じがたい話だった。
六介さんを信用していないわけではないのだが・・・
「まあ、それは治ったときに証明されるじゃろう」
六介さんの目的はよくわからない。だが、これはチャンスだ。
一生無理だと思っていた、完成された剣士になれるかもしれない。
これに勝るものはない。
「・・・わかりました。俺の膝が治ったら、またお手合わせお願いします」
失われていた俺の未来が、繋がれていこうとしていた。
あとがき
前回からの続きで、六介との問答編でした。
途切れていた過去、そして繋がれた未来。
恭也の進む道は、再び一本の道に戻ろうとしています。
果たして、恭也の膝は完治するのでしょうか?
また、(恭也にとっての)運命の女神はいつ現れるのでしょうか?
間近に迫る、運命の物語の幕開け。
そして、新たなる主演女優が舞い降りる頃です。
それでは今回は 、このあたりで失礼します。
膝の治療法が判明。
美姫 「ふんふん。なるほどね〜」
さてさて、これからどうなるのかな。
美姫 「次に登場する女優は誰かしら」
次回も非常に楽しみ。
美姫 「次回も首を長くさせて待ってますね」
ギ、ギブギブ!