『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』
むかしむかし、あるところに、ふたりのきょうだいがいました。
おにいちゃんは、ヒカルくん。いもうとは、ミユキちゃんといいました。
ふたりは、いつもけんかばかりしていましたが、ほんとうは、とってもなかよしでした。
あるひ、ヒカルくんがおうちにかえろうとすると、
ミユキちゃんが、わるいひとたちに、さらわれるところでした。
ヒカルくんは、さらわれてしまったミユキちゃんをたすけるために、
おともだちといっしょに、たびにでるのでした。
第八話 『出雲物語』
・・・なるほど。これが『いずも』か・・・
絵本を読み終わった俺は、本の内容を思い出した。
主人公の『ヒカルくん』が、悪党にさらわれてしまった妹、『ミユキちゃん』を助け出すために、
仲間と共に旅立つというストーリー。途中、『ヒカルくん』と『ミユキちゃん』の友達である、
『ナナミちゃん』・『ナギサちゃん』・『アヤカおねえさん』、そして『アマテラスちゃん』が仲間に加わり、
『ミユキちゃん』をさらった、悪党を倒すという内容だった。
ただの絵本と侮って読んだのが間違いだったのだろう。
この本には、大切なことがたくさん詰まっており、大人が読んでも感動するモノだった。
気が付くと俺は、見事なまでに本の世界に引き込まれていた。
「どうだったかしら?」
本を読み終わった俺に、綾香さんが感想を求めてきた。
「・・・とても、すばらしい本でした。正直、児童向けの絵本と思って読み始めたのですが、
これは大人が読んでも感動する内容だと思います。感動しました」
俺は、正直な感想を述べた。
素晴らしい本だった。その一言に尽きる。
この本の前に、陳腐な表現は一切意味をなさない。
「ありがと〜!恭也ちゃん♪でも、もっと具体的な感想がほしかったんだけど・・・」
「す、済みません。自分は口下手なので、この感動を表す言葉が見つからなかったんです・・・」
自分の口下手が恨めしい。
だが例え口下手ではなくても、この本を表す感動の言葉は出てこないんじゃないのか?
「猛ちゃんはどう思った?」
「う〜ん。そうだなぁ〜、俺もいつも通り『感動したよ!!』としか言えないなぁ〜」
けっして口下手ではない猛も、言葉が見つからないらしい。
「う〜〜〜ん。まあ、琴乃と明日香も同じこと言ってたし、みんなにそう言ってもらえたから、
成功作ってことで、良いか♪」
そう言うと綾香さんは、戸棚から一冊の本を取り出した。
「恭也ちゃん。この本は、その絵本の元になった小説なの。私が昔書いたんだけどね♪
・・・良かったら、もらってくれる?」
「え、良いんですか?大事なモノなのでは?」
昔書いた小説と言うことは、今は絶版になっている可能性が高い。
そんな大事なモノをもらって良いのだろうか?
「良いのよ〜。それに、昔は売れなかったから、在庫がウチに結構あるの。
だから〜、人助けだと思って、もらってくれない?」
「わかりました。では、ありがたく頂戴します」
思わぬところで、もらい物をしてしまった。
これが美由希だったら、狂喜乱舞するところだろうが、生憎自分は本狂いではない。
だが、あの絵本の元になったと言うだけで、俺でも読んでみたくなる。
まるで、魔法にかかった気分だ。
「俺ももらったんだけど、結構ページ数が多いから、全部読み切れてないんだ」
確かに厚めな本だが、猛が言うほどのモノなのだろうか?
だから、あまり売れなかったのか?
「まあ、まあ。とにかく読んでみて♪できれば読み終わったあとに、感想もほしいんだけど・・・」
「それぐらいお安い御用です。タダで頂いたんですから、それぐらいはさせて下さい」
「そう?じゃあ、お願いするわね♪」
あんなに素晴らしい絵本を見せてもらったのだ。
少しぐらい働いたって、返しきれないくらいだしな。
そんなことを思いながら、俺と猛は白鳥家を後にした。
「恭也、覚悟しとけよ〜」
「いきなり、何のことだ?」
塔馬家への帰り道、猛がいきなりそう言った。
「いや、その本なんだけど・・・。実は、結構むずかしい本なんだ。
だから、昔は売れなかったらしいぞ」
「むずかしい本?」
「そう。かなりストーリーが入り組んでいるから、さっきの絵本みたいに、簡単には読めないんだ」
「(そうか。だから猛は、途中までしか読んでいないんだな・・・)
ご忠告感謝する。・・・だがそう言われると、なおのこと読破してみたくなった」
御神の剣士としての血が騒ぐのか。難関にこそ、挑みたくなってしまう。
「(しかし、こんなところにまで、血が騒がなくても良いだろうに・・・)」
自分でも珍しいことだと思う。
だが、この本は読んでおかなければならない。
そんな気までする。
「そっか〜。じゃあ、がんばれよ」
「ああ。それに、感想を聞かせる約束をしてしまったからな。何としてでも、読破するよ」
そんなことを言っていると、もう塔馬家の門が見えてきた。
塔馬家に帰った俺は、自分に割り当てられた部屋で、先ほどの本を読み始めた。
「『出雲物語』。それが、この本のタイトルか・・・」
主人公『塔馬ヒカル』は、出雲学園に通う学生で、乱暴な妹や可愛い後輩、
天然ボケな先生やケンカを挑んでくる同級生と毎日を過ごしていた。
ある日、ヒカルは不思議な夢を見る。
その夢に導かれるように、夢の場所へ行ってみると、
そこは、出雲学園の普段使われていない教室で、地下へと続く道を発見する。
地下の終着点に来たとき、ヒカルはそこでは祭壇を見つける。
それに触れた瞬間、大きな地震が起きて、危うく生き埋めになりそうになる。
何とか脱出するものの、校舎には魔物が巣食っていた。
日常は一瞬にして崩れ、異世界での旅が始まる・・・
ここまでが序章で、ここから先は、異世界での冒険が始まるようだ。
ここまでの感想としては、絵本版とは違い、とても現実感あふれる小説だと思った。
表現方法が巧みな上に、登場人物の設定や描写が、とても現実的に描かれているからだ。
登場人物をそれぞれ見ていくと、
「先輩っ!練習を見に来てくれたんですか?」
「ああ、七海ちゃん。今日もお邪魔させてもらうよ」
『水瀬七海』・・・弓道部に所属する、ヒカルの後輩兼幼馴染。
孤児だった過去があるが、今はそれを感じさせないぐらい明るくなった少女。
「それは、美由紀ちゃんがいけないのよ」
「待ってくれ、綾香さん!美由紀にも何か事情があるのかもしれない!」
『橘綾香』・・・科学の教師兼保健医。
昔はよく塔馬家に出入りしていて、ヒカルや美由紀と遊んであげることが多かった女性。
「ヒカル!勝負よっ!!」
「渚っ!!お前は人を殺す気かっ!!」
『倉島渚』・・・フェンシング部に所属する、ヒカルの同級生兼ケンカ友達。
家が金持ちで、それを誇りにしている。
「私の気持ちに気付いてくれないお兄ちゃんなんて、大っ嫌い!!」
「待てよっ!美由紀!!」
『塔馬美由紀』・・・乱暴な妹。本当はお兄ちゃん子なのだが、素直にそれを出せないこと多い。
やきもち焼きで、ヒカルが他の女子といると機嫌が悪くなる。
これらの登場人物たちは、まるで実在の人物なのではないかというぐらい、設定が現実じみていた。
そして読んでみて思ったのが、『倉島渚』や『橘綾香』のモデルは、
今日会った二人の人物ではないか?ということ。
「(というか、これはあの二人そのものでは?)」
そう、『倉島渚』さんと『白鳥綾香』さんが、この登場人物だとすれば、
六介さんの孫の、『ヒカル』さんと『美由紀』さんも、この登場人物に該当するのではないか?
そして、『出雲学園』という高校。
どう考えたところで、今日行った『出雲学園』がモデルになっている。
これは、綾香さんが身近にいる人たちを、モデルにしただけなのか?
それにしては、見てきたような現実感がある。
「・・・ばかばかしい。こんな現実、あるハズがないだろう・・・」
そう、これは綾香さんの表現力が優れていたから、そう思ってしまうだけだ。
こんな現実があったのなら、とっくに出雲学園は観光名所にでもなっているだろう。
「もうこんな時間か・・・。六介さんとの仕合に備えなければ・・・」
この後は、六介さんとの仕合だ。
こんなことを気にしている場合ではない。
・・・そう思う反面、なぜか『これは現実だ』と、訴えかける自分がいることも事実だった。
あとがき
前回の予告どおり、『いずも』の登場です。
そして、『出雲物語』も揃って姿を現しました。
この『出雲物語』。実は、後々で結構重要な役割が出てきます。
それは、一体どんな場面なんでしょうか?
次回は、六介との仕合の予定です。
第三話以降、話が色々な方向に行ってしまい、ようやく元に戻って来た感じです。
六介の真意も明らかになる予定です。
それでは今回は 、このあたりで失礼します。
出雲物語が今後どんな役割を持つのか。
美姫 「その辺り興味深いわね」
一体、どう関わるのかな。
美姫 「とりあえずは、次回の六介との仕合ね」
こっちもどうなるのか!?
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。