『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』
「塔馬先生、『高町君』を連れてきました!!」
倉島さんは剣道場に入り、六介さんの前まで行くと、そう言った。
「うむ、ご苦労様……しかし渚ちゃんが連れてきたということは……もう、一戦交えた後じゃな?」
「うぅっ!……やっぱり、わかります?」
「当然じゃ。それぐらい見抜けんで、どうする」
「済みませんでした。だから彼が遅れたのは、私の責任なんです……」
六介さんと倉島さんは、どうやら顔見知りらしい。
二人の態度がそう告げている。
「……あの、お二人はお知り合いなんですか?」
俺は浮かび上がった疑問を口にした。
「ああ、渚ちゃんは孫の友達だったんじゃよ。特に上の孫とは仲が良くてのぉ」
六介さんがそういい終える否や、
「冗談じゃありません!美由紀ちゃんとは友達でしたけど、ヒカルはライバルでした!!」
倉島さんが反論した。
「あの、美由紀さんとヒカルさんというのは?」
「儂の孫の名前じゃよ。兄がヒカル、妹が美由紀と言うんじゃ」
「そうすると……猛は六介さんの曾孫だったんですか?」
「いや、曾孫は別におる。猛は、わしが引き取った子供なんじゃ。
それに血のつながりなど無くても、猛は儂の家族じゃ」
……そうだったのか。それにしても懐の広い方だ。
父さんも似たようなことを言ったが、この人が言うと、また違った感想が浮かんでくる。
「……ところで、渚ちゃん。部活の方は良いのかね?」
「いっけない!すっかり忘れてた!それじゃあ、塔馬先生失礼しますっ!!」
倉島さんは、すっかり自分の指導するはずのフェンシング部のことを、忘れていたらしい。
大慌てで走っていった。
第六話 いざ、出雲学園へ(後編)
「……さて、恭也君。編入手続きは、無事に済んだようじゃな?」
倉島さんが去った後、六介さんはおもむろにそう言った。
「はい、おかげ様で……ところで、六介さんは剣道部の顧問だったですか?」
そう、以前は理事長をしていたという話だが、顧問をやっているという話は聞いていなかった。
「本当は名誉顧問なんじゃが、生憎この学校には剣道を教えられる教師がいなくての。
じゃから、こんな老体が借り出されとるんじゃ」
六介さんはそう言いつつも、どこか楽しそうだった。
「……君も少し闘っていくかね?見ているだけでは、つまらんじゃろう」
「……お誘いは嬉しいのですが、遠慮しておきます。俺のは剣道ではないので」……
そう、俺の剣は剣道ではない。剣術なのだ。そして、それは剣道とは全く逆の物だ。
無闇に人前で振るって良い物ではない。
「……そうか。じゃが、闘りたくなったらいつでも言っておくれよ。
猛や剛君くらいの実力になると、相手がなかなかいなくてのう」
「分かりました。もしその時がきたら、よろしくお願いします」
「ああ。ところでこの後はどうする?先に家に帰ってるかね?」
そうだ。すっかり忘れていたが、俺は家の鍵を待っていないんだった。
「そのことなんですが……俺は家の鍵を持っていないのですが、どうしたら良いでしょうか?」
「おお、そうじゃったな。渡すのを忘れていたよ。ほれ、コレがそうじゃ」
六介さんはそう言うと、懐から鍵を取り出し、俺に渡した。
「ありがとうございます。あと、今日の練習は何時までなのですか?
それによっては、もう少し見学していきたいのですが」
「今日の練習は後三十分位じゃ。折角じゃから猛たちと一緒に帰ると良い。
ついでに、この学校のことにを聞きながら帰ったらどうじゃ?」
「では、そうさせて頂きます」
六介さんは、「それではの」というと、指導の方へ戻っていった。
ここ出雲学園は、剣道の世界では強豪らしい。以前赤星がそう言っていた。
なんでも、顧問の指導が良いとか言っていたような気がする。
ということは、つまり六介さんの指導の賜物ということだ。
……なるほど、確かにそうらしい。
風ヶ丘は元の個人の素質が高いのに対し、出雲学園は初心者から育成で全体的なレベルを上げている。
恐らく出雲学園の剣道部は、経験者がほとんどいないのだろう。
それなのに、毎年全国に出てくる選手がいるということは、そこでの指導が素晴らしいことに他ならない。
ざっと部員の練習を見ても、この中には経験者は二人しかいない。
道場中央で練習しているふたりがそうだ。
一人は正確無比な動きで攻撃を捌き、そこから攻めに転ずるタイプ。
もう一人は力や勢いで押す、感情的なタイプ。
一見、前者が後者を上回っているように見受けられる。
しかし、どうも後者は本気を出し切れていないように見える。気のせいだろうか?
「それでは、今日の練習はここまで!」
どうやら、練習が終わったらしい。
さっきは遠目に見ていたから分からなかったが、どうやらさっきの二人は剛と猛だったようだ。
前者が剛で、後者が猛。剣に性格がよく表れていた。
「恭也さんっ!来てたんですか?」
どうやら、剛がこちらに気付いたようだ。
「本当だ!恭也、編入手続きは終わったのか?」
「ああ……六介さんを尋ねるついでに、見学させてもらっていたんだ」
猛もこちらの会話に入ってくる。
「それで……二人が良ければ、一緒に帰ろうと思ってな」
「ああ、良いぜ。ただ、剛は朝と同じで校門までだけど」
「それで構わない。この学校のことを少しでも聞いておきたいんだ」
そう、俺はこの学校についてほとんど知らない。
剣道が全国レベルだということしか知らないのは、さすがに問題だろう。
「分かった。じゃあ、一緒に帰ろうか。すぐに着替えてくるから、ちょっと待っててくれよ。
剛、着替えに行こうぜ!」
「ああ。それじゃあ恭也さん、一旦失礼します」
二人はそう言うと、更衣室と思しきところへ駆けて行った。
「どうじゃね?二人の剣は?」
気が付くと、後ろには六介さんが立っていた。
「(俺がこんなに簡単に背後を許すとは……やはり只者ではないな……)」
そう思いつつも、質問されたことに答えた。
「そうですね。二人とも、剣道なら全国レベルと言ったところですね。
……ただ、気になったのは、猛は本気を出し切れていないような気がするんですが」
猛の動きは、剛のものと比べると、どこか遠慮しているような感じを受けた。
「やはり、分かるか……そうなんじゃよ。猛は剛君に対して、無意識に手加減しているようなんじゃ」
「無意識にですか?……何か思い当たる節でも?」
俺は意図的に手加減しているのだと思ったが、どうやら違ったらしい。
「猛と剛君は同じ施設で育った、孤児でのう……
その頃から猛にとって剛君は、親友であると同時に、守るべき者でもあったんじゃ。
剛君は繊細なところがあるんでの。恐らくそのせいで、無意識に手加減してしまうのじゃろう」
「(なるほど、そういうことだったのか。しかし、それでは……)
……では、いずれはっきりさせるつもりなんですね?」
「ああ、そのつもりじゃ。二人が親友であり、剣を続けるのであれば、避けては通れない問題じゃからな」
「……そうですね。これを乗り越えれば、二人は人間的にも、剣士としても一回り大きく成長できるでしょうし」
そう……俺がルールありとはいえ、赤星相手にも手を抜かないのは、逆の立場になった時に、
そんなことをされても嬉しくないからだ。
「さて、そろそろあいつらが戻ってくる頃じゃし、儂は一足先に帰っておるの。
今のことは、また改めて本人たちに言うから、言わんでくれ」
「分かりました」
そうして、六介さんは先に帰っていった。
あとがき
剣道場での1シーンでした。
猛と剛の関係。そしてそれは、今後どうなってしまうのでしょうか?
いよいよ、IUZMO2本編の冒頭が見えてきました。
もうすぐ運命の物語の幕が開けます。
と言ったところで何なのですが……
次回は、エクストラシナリオが入る予定です。
さてさて、次回はどうなるのでしょうか?
それでは今回は 、このあたりで失礼します。
今回は剣道部見学のお話〜。
美姫 「パフパフ〜。さて、次回はエクストラシナリオになるみたいだけれど」
エクストラシナリオは知らないので、楽しみだな。
美姫 「うんうん。一体、どんなお話なのかしらね」
次回も非常に楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。