『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




「私と勝負しなさいっ!!」

現在、出雲学園の敷地内。
今発言したのは、目の前にいる女性。
返答に窮しているのは、自分。
……一体何故こんなことになってしまったのだろうか……?





第四話 いざ、出雲学園へ(中編改め、伝説の学生会長登場編)





事の発端は、数十分前に遡る。

俺は編入手続きのため、職員室を探していた。
本来なら、そこらに歩いている生徒にでも聞くのだが、生憎今はGW中。
……付近には人っ子一人いなかった。

仕方がないので、校舎に入って直接職員室を探そうとした時、
金色がかった長髪の、スーツを着た女性を見かけた。
あまり教師には見えなかったが、鷹城先生のような例もあるので、とりあえず話しかけてみた。

「済みません。職員室を探しているのですが……」

俺がそう尋ねると、女性は怪訝な顔をしてこちらを向いた。

「貴方……出雲学園の生徒ではありませんね?職員室に何の用かしら?」

俺の服装から判断したのだろう。編入手続きということで、風芽丘の制服を着てきたからな。

「この度出雲学園に編入することになり、その手続きのために職員室を探しているんです」

「あら、そうなんですか。でも、最近物騒ですからね。
 正直、貴方は言うことを100%信用することはできませんね」

確かにそうだろう。最近は学校を対象にした、外部犯による犯罪が多発している。
おいそれと部外者を信用する方が危ない。どうやったら信用してもらえるだろうか?
方法を考えていると、女性の方から提案があった。

「……では、こうしましょう。私が貴方を職員室まで案内してあげます。
 そうすれば、貴方は道が分かり、私は貴方の監視ができる。
 こうすれば、両者にメリットがあると思いません?」

「えっ!?確かに自分にとってはありがたい申し出ですが、貴女はどこかへ行く途中だったのでは?」

「良いですよ、十分かそこらじゃ変わりませんし……
 それに、万が一貴方が不審者だった場合、後悔するのは嫌ですから」

ここまで疑われるのは癪だが、この人は本当に学校のことを考えているのだな。
不審者ではないが、どうせ道も分からないことだし、ここは提案に従おう。

「……わかりました。それではお願いします」

「では、私の後をついてきて下さい」

女性はそう言うと、俺の前を歩き始めた。


しばらく一緒に歩いているうちに、一つの疑問が頭をかすめた。
この女性、恐らく剣の達人だ。間合いや身のこなし、隙の無さがそう告げている。
しかしこの人は刺突、つまり突きに異常に特化した体つきをしているように感じる。

女性は筋肉が付きにくいので、刺突に特化させることが多い。
身近な例で言えば、美由希や美沙斗さんがそうだ。
だが二人は他の動作、つまり払ったり、薙いだりする筋肉も持ち合わせている。

しかし目の前にいる女性には、それがほとんど見当たらない。
これは一体どういうことなのだろうか?

「貴方、何か言いたいことがありそうね?」

……参ったな。見ていることに気付かれるとは思わなかった。
視線の意味にも気付いているのだろうか?

「分かるわよ〜。こ〜んな美女と一緒にいたら、緊張しちゃうわよね〜」

「……えっ?」

視線の意味に気付かれたかと思ったのだが、全く予想しないセリフが返ってきた。
……しかし、ここは話を合わせておいた方が良いだろう。美人であることに違いはないのだし……

「え、えぇ……貴女がとても綺麗なので、つい見とれていました」

とっさに、赤星が以前に言っていたセリフを返した。

「そうでしょ、そうでしょっ!!あぁ、私ったら高校生の娘がいるのに、いまだに美貌が衰えないなんて……
 なんて罪作りな女なのかしら……」

何やら、自分に酔っているようだ。しかし、大分警戒感は薄れたようだ。
さすが、赤星のセリフ。効き目は抜群のようだ。

「(ん、待てよ?……今この人、なんて言った!?)こ、高校生の娘さんがいらっしゃったんですか!?
 とてもそうは見えませんが……」

この女性、どう見ても子持ちには見えない……つまりは、高町母と同じ人種か。

『なんですって〜!』

あぁ、何故かここにはいないはずの、かーさんの声が聞こえる。気のせいだ。幻聴だ。
とにかく今は、目の前の問題(?)に集中しなくては。

「そうよ!そして出雲学園の元学生会長でもあり、フェンシング部の特別コーチでもあるのよ!」

……そうか。この人は、フェンシングの選手だったのか……
確かにフェンシングならば、突きに特化した種目があるというしな。
これで疑問は解けた。

「……っと、ここではないですか?職員室は?」

気が付くと、「職員室」のプレートが付いた部屋の前まで来ていた。

「あっと、いけない。行きすぎるところだったわ。それじゃあ、入りましょう」

女性が先に入り、俺は後に続いた。


手続き自体はスムーズに進行した。多分、六介さんが資料を揃えておいてくれたおかげだろう。

「……以上で、手続きは終了です。あと、塔馬先生から高町君に伝言を預かっています。
 『手続きが終わったら、剣道場まで来てくれ』と、仰っていました」

手続きを担当してくれた教師は、そう告げた。

「分かりました……ところで、剣道場はどこにあるんですか?」

「それは、『私が案内します』……えっ?」

俺の疑問に答えようとした教師の声は、あの女性の声に遮られた。

「倉島さん!?そんな、悪いですよ!!それに倉島さんは、フェンシング部に行く予定なのでは!?」

どうやら、俺を案内してくれた女性は、『倉島』さんというらしい。
しかし、どういうつもりなんだ?俺が不審者ではないことは、証明されたはずなのに。
……それに、何故手続きが終わるまで待っていたんだ?

「いえ、剣道部とフェンシング部の練習場は隣接していますから。ついでにどうかと思いまして……」

……なんだ、このプレッシャーは。笑顔なのに、有無を言わせない迫力があるぞ。

「わっ、わかりました!!それではお願いします!!」

教師は、倉島さんの迫力に負けたようだ。
……まあ、一般人に耐えられる重圧ではないからな。

「ご理解頂けて嬉しいですわ。それでは『高町君』、行きましょう」

「(何を考えているかは分からないが、現状では拒否する理由がない)
 ……わかりました。それでは失礼します」

俺は教師に頭を下げてから、倉島さんを追って職員室を出た


「……どういうことです?俺が不審者ではないことは、既に証明されたと思いますが……」

俺は、前を歩く倉島さんに尋ねた。
相手の意図が分からない以上、真意を問い質すしかない。

「そのことなら、もう良いわ。疑って悪かったわね。これは別件よ」

別件?今日ここに来たばかりの俺に、何の用があるというんだ?
俺が疑問に思っていると、彼女は立ち止まりこちらを向いた。

「アンタだったのね!塔馬家に現れた、剣術の達人って……」

!?ありえない。俺が塔馬家に来たのは昨日。
誰が話したのかは分からないが、昨日の今日で分かるはずがない。
それに、どうして俺が剣術を使うことまで知っているんだ!

「なんで分かったのか、知りたそうね?答えは簡単よ。
 昨日の夜、理事長先生じゃなかった、塔馬先生に聞いたのよ」

「……塔馬先生?それは、塔馬六介さんのことですか?それにしても、何故……」

六介さんは、何を思ってこの人に話したんだ?理由が見当たらない。
倉島さんは、俺の疑問には答えずに続けた。

「自慢じゃないけど、私フェンシング界では敵なしなの!
 オリンピックにも出たことあるわ!……でもね、私のライバルになりそうな奴はいなかった……」

「……それがこの話と、どう繋がるんですか……?」

話が見えてこない。そう思った俺は、倉島さんに尋ねたのだが……

「だまって聞いてなさい!!」

何故か一喝されてしまった。

「……かつては、私のライバルになった奴はいたわ。そいつがやっていたのは、居合道。
 私たちは得物に違いはあったけど、互角の闘いをしていたわ」

「はあ、そうなんですか」

もはや相槌を打つくらいしかない。
しかし、さっきから随分口調が変わっているが、こっちが地なのか?

「……でもそいつは、今は会えないところにいるわ。
 私は待ち続けた……再び私のライバルになりそうな奴を……」

なにやら、自分に酔っているようだ……しかしこの流れで行くと……嫌な予感がする。

「今まで色んな奴と闘ってきたけど、私の眼鏡にかなう者はいなかった……アンタで丁度、千人目!!
 塔馬先生推薦の奴なら、少しは歯ごたえがあるでしょう!!」

……不味い。猛烈に逃げ出したい気分に駆られる……それこそ、神速を使ってでも。
確かに、この人は強いだろう。そして、御神の剣士に逃げは無い。
だがそういうのとは別次元で、係わり合いになりたくない人だ……このいったタイプの人間は。

「私と勝負しなさいっ!!」




そして、話は今に至る。
どうするべきだろうか?仮にこの人と闘うとしても、俺の得物はここにはない。
ここの剣道部にも普通の長さの木刀しか無いだろうし、手持ちの鋼糸などで闘うのは不味い。
……ふむ、これは良い口実になるな。

「折角のお誘いですが、お断りします。俺の得物は少々特殊で、ここには無いでしょうし……」

「得物?どんなヤツ?」

「……自分は小太刀の二刀使いなんです。小太刀か、その長さに似た木刀がないことには……
(良し、これなら完璧だ。ようやく、この人から解放される)」

内心で安堵し、立ち去ろうとすると、

「ちょっと待ってなさい、すぐに手配するから」

倉島さんは、そんなことを言い出した。

「……今から手配しても着くのは数日後です。今日は無理ですよ」

「ふっふ〜ん。この倉島渚を甘く見たわね!!倉島財閥の力を持ってすれば、十分で届くわよ!!」

倉島財閥だと!倉島財閥と言えば、今や日本中に勢力を伸ばしつつある、大財閥じゃないか。
よく代表者がテレビに出ていたが……名前は確か……!?

「その顔を見る限り、私のことを少しは知っているみたいね。なら、逃げるだけムダよ」

代表者の名前は、『倉島渚』。やり手で有名なのと同時に、
絶対に敵に回してはならない方でも、とても有名な人だ。

……退路は塞がれた。仮にここで逃げられても、塔馬家まで押しかけられことは間違いない。
それぐらいで済めば良い方で、下手をすると海鳴の方まで手を回すだろう。

「なんて顔してるのよ。べつにとって喰いはしないわよ。
 アンタは、ただ、私と仕合えば良いのよ。それに……」

「それに?」

「アンタは、強い奴がいたら勝負を挑んでみたくない?」

!?……なるほど。たしかに、自分も大差は無いのかもしれないな。

「……分かりました。お受けしましょう」

「OK。じゃあ、フェンシング部の練習場に行くわよ。そこに準備を整えてあるから」

倉島さんはそう言うと、再び前を向いて歩き出した。










あとがき

伝説の学生会長様の登場です。この人のせいで、予定が崩れてきました(泣)
当初では、もっと後に出てくる予定だったのですが、
ストーリーの都合上、登場が前倒しになりました。

この人たちの登場にも、きっと何か意味があります……多分。
次回は渚とのバトルを予定しています。
はたして、どちらに軍配は上がるのでしょうか?

それでは、このあたりで失礼します。





渚の登場。
美姫 「これは、前作のIZUMOを知る人には…」
更に、にやりとするだろうな。
果たして、勝負の行方はいかに。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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